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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第12話:お洗濯日和と、森の救急箱

 辺境の森に、吸い込まれるような青空が広がった。

 湿り気を帯びた木々の匂いも、今日ばかりは柔らかな陽光に包まれ、絶好の家事日和を告げている。


「よし、今日は絶好のお洗濯日和ね! みんな、拠点中の布ものを全部洗っちゃいましょう!」


 セナの明るい号令に、真っ先に反応したのはレイくんとハルくんだ。


「わあ、お洗濯! ママ、僕もお手伝いする!」

「キュイッ!」


 少年の姿をしたハルくんも、セナのスカートの裾を掴んで嬉しそうに飛び跳ねる。セナはそんな二人の頭を愛おしそうに撫で、目を細めた。


「ええ、お願いね。……でもハルくん、お水で風邪を引かないように気をつけて。レイくんも、足元が滑るからママのそばを離れないこと。約束よ?」


 セナは、前世の事務職時代に培った「段取り」を、今はお母さんの知恵として発揮していた。洗い場から干し場までを最短距離で結び、重い桶を運ぶ回数を最小限に抑える。この『動線管理』のおかげで、子供たちと触れ合う時間を一秒でも長く確保しているのだ。


「メルディさん、そのシーツの端を持ってもらえるかしら? ロレッタさんは、レイくんたちと一緒に泡立てをお願いね」

「了解しました、セナ殿。……衛生管理の徹底は、感染症予防の基本です。喜んで」

「はわわ〜、セナさんの石鹸、すっごくいい匂いですねぇ! レイくん、ハルくん、見てください、泡の山ですよ〜!」


 眼鏡をクイと押し上げて真剣に布を広げるメルディさんと、泡にまみれて子供たちとはしゃぐロレッタさん。二人の看護師も、今やセナの温かな家庭に欠かせない一員だった。


 セナは、自作した大きな木桶に、自家製の石鹸をたっぷりと泡立てた。

 ふわりと立ち上る清潔な香りが、広場を包み込む。


「さあ、みんなで踏み洗いよ! イチ、ニ、イチ、ニ!」

「わぁ、ママ、ふわふわして気持ちいいよ!」

「キュイ、キュイーッ!」


 レイくんとハルくんが裸足になって、桶の中のシーツを元気よく踏みつけ始めた。

 真っ白な泡が小さな足の間から溢れ出し、それを見るセナの瞳は、どんな宝石よりも優しく潤っている。


「ふふ、上手ね二人とも。……ハルくん、そのままゆっくりね。レイくん、ハルくんの手を引いてあげて。……そう、偉いわ。二人とも最高のアシスタントよ」


 セナは二人の様子を片時も離さず見守りながら、手際よく汚れを落としていく。

 洗い終わったシーツを、みんなで力を合わせて絞り、森の風が通るラインに干していく。


「ハルくん、仕上げをお願いできるかしら? ほんの少しだけ、お日様みたいな温かい風を当ててくれる?」

「キュイッ!」


 ハルくんが小さく息を吹きかけると、湿ったシーツがふわりと膨らみ、瞬く間に乾いていく。

 真っ白な帆のように揺れる洗濯物の間を、レイくんとハルくんがロレッタさんと一緒に追いかけっこをして駆け抜ける。


「……壮観ですね。セナ殿の配置計画のおかげで、これだけの洗濯が定時前に終わるとは」

「メルディさん、難しいことはいいんですぅ。……ほら、お日様の匂いに包まれて、みんなとっても幸せそうです〜!」


 ロレッタさんの言葉通り、セナの胸はいっぱいの幸福感で満たされていた。

 だが、そんな平穏な午後のこと。

 洗濯物の影で遊んでいたレイくんが、小さな叫び声を上げた。


「ママ! メルディさん、ロレッタさん! 大変、誰か倒れてる!」


 セナは即座にレイくんとハルくんの元へ駆け寄り、二人を自分の背後に庇った。

 茂みの陰にいたのは、銀色の毛並みを持つ小さな「野ウサギの魔獣」だった。その足には深い切り傷があり、ぐったりと横たわっている。


「……ハルくん、レイくん。ママの後ろにいてね。……メルディさん、ロレッタさん、お願いします!」


「了解しました。……ロレッタ、保定を。……レイくん、ハルくん、心配いりません。私たちがすぐに治してあげますからね」


 メルディさんの冷静な指示と、ロレッタさんの慈愛に満ちたケアが始まった。

 セナは、不安そうに自分を見上げる二人の子供をしっかりと抱き寄せながら、看護師たちの鮮やかな手際をサポートした。


「……よし、止血完了です。セナ殿、清潔な布を」

「はい、ここにあるわ。……レイくん、ハルくん。見て。あの子、もうすぐ元気になるわよ」


 お母さんの腕の中で、子供たちは真剣な瞳で命が救われる瞬間を見守った。

 やがて、包帯を巻かれた野ウサギがゆっくりと目を開け、セナたちに感謝を示すように鼻をひくつかせると、森の奥へと消えていった。


「……良かった。みんな、頑張ったわね」


 セナは頑張ったレイくんとハルくん、そしてメルディさんとロレッタさんのために、とっておきのご褒美を用意することにした。

 夕方の爽やかな風が吹く中、彼女が用意したのは、届いたばかりの小麦粉と塩、そして森のハーブを練り込んだ「特製フォカッチャ」だ。


 石窯でこんがりと焼き上げられたパンを、五人でテーブルを囲んで頬張る。


「おいしい……! ママ、僕、これ大好き!」

「キュイ、キュイッ!」


 レイくんとハルくんの口の周りについたパンの粉を、セナは愛おしそうに拭ってあげた。


「メルディさん、ロレッタさんも、本当にお疲れ様。……こうして、みんなで美味しいものを食べて、今日あったことを話し合える。……それが、私にとって一番の宝物だわ」


「……ええ。セナ殿。この穏やかな時間は、何物にも代えがたいですね」

「私、この家族が大好きですぅ〜!」


 太陽が森の向こうへと沈み、乾いたばかりの清潔なシーツの香りが拠点を包み込む。

 セナは、自分の両脇で幸せそうに寝息を立て始めたレイくんとハルくんの髪を撫でながら、明日もまた、この「当たり前の幸せ」を守り抜くことを、静かに、強く心に誓うのだった。


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