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君と、これからも

 更新遅れてすみません……。

 か、書こうとはしていたんですよ? ほ、本当ですよ?


 ざっと、砂利を踏みしめる音がする。

 それに耳を澄ませながら、楓はうれしそうに表情をほころばせる。なぜなら、その音を大切な人が奏でていると思うと、自然と頬が緩んでしまうのである。

 境内の砂利道を横切るように車椅子を動かしながら、二人は手水舎へと向かっている。

 車椅子の車輪が砂利に取られて動かしづらそうなのがちょっと車椅子を押してくれている一哉へと申し訳ないものがあるけれど、それを言ったら「大丈夫だよ」と微笑んでくれたことがうれしくてしょうがない。


「かずくん、ありがと」


 そっと、飴玉を転がすように呟きをこぼす。

 その一言、ちょっとした想い伝えるだけでなんだか心が温かくなるのだから、不思議なものだと、楓は表情をほころばせる。


「かずくんは手を洗うときの作法ってわかる?」

「あー、柄杓で水をすくって手を洗うところまでは覚えてるんだけど、どっちの手から洗うのかを忘れたな」

「ふふ、毎年やってるはずなのに忘れちゃうよね」


 と、楓はうれしそうな笑みをこぼしながら、栗色の髪を揺らす。

 手水舎でお婆さんが手を洗っているのを見ていると、穏やかな声で「どうぞ」と微笑みながら柄杓を手渡してくれる。「ありがとうございます」と、お礼を言うとそのお婆さんは笑みを深くして参道の方へと歩いていく。

 その背中を見送りながら、優しい人だな、と楓は笑みを浮かべた。

 柄杓で手を洗おうとすると、柱に洗い方の書いてある札が掛けてあり、そこには『左手から』と書いてある。


「手、洗うのは左手からみたいだよ」

「お? 本当だ」


 一哉も楓と同じ札を見つめながら、それに倣って手を洗い始める。

 そっと手に水を掛けるとその冷たさに手を引っ込めてしまう。ちらりと一哉のことをうかがうと一哉はさっさと済ませようと、こちらのことに気づいた様子はない。それに楓はほっと安堵の息をつきながら、そんなことで恥ずかしがっている自分に苦笑をこぼす。

 そうして左手、右手の順で手に水を掛けて流し、左手に少し水をためてから口をすすぐ。

 最後に柄杓を立てて持ち、取っ手の部分をきれいにする。


「終わったよ」


 一哉に声を掛けながらハンカチを取り出そうとして、ポケットにないことに気づく。

 どうやら忘れてしまったらしい、と濡れた手をふらつかせていると、「ほれ」と一哉が苦笑しながらもハンカチを渡してくれる。


「ありがと」

「どういたしまして。めずらしいこともあるもんだな。こういうときは俺が忘れるのに」

「そうだね」


 と、二人で笑みを交わす。

 ずっと一緒にいれば、たまにはこういうこともある。それだけのこと。

 そうして笑みを交わしながら、それなりに人の並んでいる中央の参道へと移動する。


「思ったより、人いるね」

「だな。俺たちみたいに混むのを避けた人たちだろうな」

「いつもごめんね」

「気にするな。楓と一緒に行けないなら意味ないからな」


 一哉は肩をすくめながら、そんなことを言ってくれる。

 楓が車椅子での生活をするようになってから、いつも助けてくれる。それがうれしくて楓は表情をほころばせる。


「かずくん」


 そっと、独り言のように呟きをこぼすと愛おしさが溢れてくる。


「ん? どうした?」

「あ、えっと……な、何か食べたいものとかないかな?」


 無意識にこぼした呟きだったので、楓は取り繕うように慌てて話題を変えようとする。

 一哉は不思議そうにしていたけれど、楓が必死に隠そうとしているので「食べたいもの、か」とわざとらしく呟きながら、気にしないでいてくれる。そんな気遣いがうれしくて、けど恥ずかしくて頬を染めながら、楓はふるふると頭を振る。


「正月だし……餅かな。海苔を巻いたやつ」

「かずくん、それ好きだよね」

「醤油をつけて食べると美味しいんだよ。あれを食べないと正月って気がしないんだよな」


 そう言いながら、一哉は苦笑する。

 そんな他愛もないことを話していると、すぐに参拝の順番が回ってくる。

 階段の横に作られたスロープを上って、二人でお賽銭箱の前に並ぶ。

 お賽銭を入れて二人で一緒に大きな鈴を揺する。がらがら、と大きな音を立てるように鈴を鳴らしてから、二人で合わせたように頭を下げて柏手二つ。

 ふと、楓は手のひらを合わせてから、お願いすることを決めていなかったことに気づく。


(……えっと、何がいいかな)


 改めて考えてみると、お願いするようなことが何も浮かばない。

 それにちょっとだけ驚きつつ「ああ」とすぐに納得のいく理由を思い浮かべて、楓は頬を緩める。

 ――満足しているのだ。

 一哉と一緒に過ごせているこの日々に。

 こうして一哉と一緒にいることこそ、楓にとって何よりの幸せであり、これ以上を欲しいとは思わないほどに満たされている。だから、何も浮かばないのかもしれない。


(だから、もし願うのなら――)


 きっと楓の想いを聴いてくれた神様がいたのなら、微笑んでくれただろう。

 それほどにまで、きれいな想いなのだから。

 すっと想いを込めるように礼をしてから、楓はすっきりとした表情で微笑む。


「もう大丈夫か?」


 その声に振り返ると、優しく微笑んでくれている一哉がいる。

 ただそれだけのことなのに、とてもうれしく感じてしまう。


「うん。大丈夫だよ」


 と、楓は表情をほころばせる。

 一哉はそれに驚いたような表情を見せるも、すぐに微笑んで一つ頷くと車椅子を動かして参拝者の列から抜ける。


「かずくんは何をお願いしたの?」


 穏やかな気持ちで、一哉に訊いてみる。

 すると、ちょっと恥ずかしそうに頬をかきながらも、


「『今年も、楓と幸せでいられますように』かな」


 と、教えてくれる。

 楓と一緒にいることを想ってくれる、そんなお願いごとに楓は表情をほころばせる。


「そ、そういう楓は何をお願いしたんだ?」

「んっと、秘密だよ」


 ふふ、と楓は笑みをこぼしながら、はぐらかすことにした。恥ずかしいから、と心の中ではにかみながら。それに一哉は「なら、しょうがないな」と苦笑して肩をすくめながら、無理に聞こうとはしないでいてくれる。こういうところが本当に、好きなのだ。


「ねぇ、おみくじ引こうよ」


 一哉の服の裾を引きながら、楓はおみくじの箱を指した。

 それに一哉は困ったように苦笑しながら、「そうだな」と頷いてくれる。そんな仕草の一つ一つがおかしくて、つい笑みがこぼれる。


「かずくん、本当に運がないもんね」

「だな。今年こそ大吉をってな」


 毎年どうしてそこまでと訊きたくなるほどに、一哉は運がない。

 かなりの割合で凶を引いて、ひどいときには大凶などを引くことだってある。それでも一哉は後ろ向きになることはなく、まぁいっか、と笑っているのだ。不思議に思ってその理由を訊いたことがあるけれど、楓はその答えを思い出すだけで頬が緩んでしまう。


『――ん? どうして笑っていられるのか? はは、簡単なことだよ』

『――だって、こうして楓と一緒にいられるだろ? きっとさ、俺は楓と出会ったときにすべての運を使い切ったんだろうな。だからこうして幸せでいられるし、幸先が悪いとか言われても、笑ってられる。それだけだよ』


 思い出すと頬が熱くなるのを感じる。

 そんなことを幸せそうな表情で言われてしまったら、うれしすぎるではないか。それを聞いたときはしばらくうれしすぎて頬が緩みっぱなしだった。

 ふっと、楓は表情をほころばせながら、そっと左手の指輪を撫でる。


「それなら、今年はどうかな」


 明るい声を出しながら、おみくじの箱の前に立つ。

 そして百円玉を入れてから、楓はおみくじの入った箱へと手を入れる。

 楓はそっと指先をさまよわせて、これかな、とおみくじを箱から取り出した。続くように一哉もおみくじをかき回してから箱から取り出して、二人で一緒に開けることにする。


「それじゃ、いいか?」

「うん」


 一哉が笑みを浮かべながら訊いてくるので、楓も微笑みを返す。


「「せーの」」


 ぱっと、お互いのおみくじを開ける。

 そこに書かれていたのは――楓のおみくじには『大吉』。一哉のおみくじには『凶』と。二人は顔を見合わせると、揃って笑みをこぼした。


「ははっ、やっぱ、こうなるんだな」

「ふふ、でもすごいことだよ? こんなに凶を引くのも」

「だな。内容は……いつも通り、微妙だな」


 苦笑をこぼしながら、一哉がおみくじを見せてくれる。

 どれも後ろ向きなことしか書いていないけれど、悪くなりすぎることはないという何とも言えないことが書いてある。


「毎年のように、待ち人が来ないとか失せ物が出ないと書いてあると悲しくなるな」

「かずくん、大丈夫だよ」


 ふわり、と楓は優しく微笑みを浮かべる。

 それに一哉は驚いたような表情を見せ、不思議そうに首をかしげる。


「――もしも、かずくんの待っている人が来ないなら、私が傍にいて一緒に待つ。失くしたものが見つからないなら、私が見つける。かずくんが不幸になるなら、私が幸せにするから。だから、大丈夫だよ」


 かずくんと一緒にいるよ、と。

 二人で一緒にいられるのならそれが幸せだと、そう伝えたくて楓は一哉へと微笑む。それに一哉は驚いたような表情を見せるけれど、すぐにうれしそうに表情をほころばせて「そうだな」と安心したような声をこぼす。


「それなら、気にすることないな」

「ん、大丈夫」


 想いが伝わったことに楓も表情をほころばせ、そっと一哉の手を握る。

 一哉も楓の小さな手を握り返しながら、二人はちょっと照れたような笑みを交わす。その笑みはとても幸せそうで、ずっと見守っていたくなるようなものだった。




* * *



(だから、もし願うのなら――)


 ふっと、楓は愛おしげに表情をほころばせる。



(――これからも、かずくんと笑っていられますように)


 どうでしたでしょうか?

 今回はちょっと遅れて初詣のお話です。正直、徹夜して書きあげたものを修正もほどほどに投稿したので、修正する可能性が大です。

 最後に、評価&感想待ってます!w(感想をくださった方、ありがとうございます!)

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