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冬の日、心を寄せて

 い、一週間ごとで更新するつもりではあったんですよ?

たんたん、と。

規則正しく包丁で音を奏でながら、楓は鼻歌を口ずさむ。

その音程が外れていることに彼女は気づかず、とても楽しそうに料理をしている。


「かずくん、まだかな」


と、楓は時計を見つめて呟きをこぼした。

そしてさっきから同じことを繰り返していることに気づいて、困ったように苦笑する。いつもならまだ一哉が帰ってくるには早いのだが、一哉から『今日は早く帰れそうだよ』と連絡を受けたせいで、ずっと待ち遠しく思っているのである。


(……まだ、だよね)


切り終わった具材を鍋に入れながら、楓は小さくため息をこぼす。

そうして他の準備をしていると、玄関の方から鍵を回す音がして楓は表情を明るくする。


「かずくん、おかえりなさいっ」

「ただいま、楓」


弾んだ声で『おかえり』と言うと、一哉は微笑んで『ただいま』と返してくれる。

それだけで心が温かくなって、胸が幸せでいっぱいになるのだから不思議だと、楓は表情をほころばせる。


「今日の夕飯は?」

「んー、冬に食べたいもの、かな?」


と、一哉が夕飯のメニューを訊いてくるので、楓は悪戯心を覗かせる。

それは待たされたことへのささやかな仕返しのつもりなのだけれど、子どもっぽい理由に楓は恥ずかしくなって頬を染める。一哉が着替えるために寝室へと向かうのを見送りながら、頬に両手を当てて恥ずかしさを振り払うように首を振った。

そうしていると、一哉が着替えを終えてリビングへと戻ってきたので、


「何かわかった?」


と、楓は首をかしげて訊いてみる。

一哉は悩むようにこめかみを指で押さえながら唸った。


「おでんと悩んだけど……鍋かな」

「ふふ、当たりだよ」


自分のことをわかってもらえているような気がして、楓は表情をほころばせる。

指で小さな丸を作ってみせると一哉は微笑んでくれた。


「お鍋ができるまでは大丈夫だから、ゆっくりしてて?」


無理はしないで、と楓は微笑む。

それに一哉は困ったような表情をするも、ありがとう、と表情をほころばせるとリビングのこたつへと吸い寄せられるように向かった。

ふふ、とそんな子どもっぽい一哉に微笑みをこぼすと、楓は料理を再開する。

具を食べやすい大きさに切ってから、なるべく見栄えが良くなるように鍋の中に入れては具を切るという作業を繰り返す。


「こんなもの、かな」


と、下ごしらえを終えると楓は呟きながらそっと息を吐きだした。

久しぶりに作ったから思ったよりも下ごしらえに時間を取られちゃったな、と楓はため息とともに肩を落としたものの、あとは鍋を火に掛けるだけなので、それほど大変なことでもない。でも、そうなるとしばらくやることが無くなる。

やることを探して視線をさまよわせるけれど、そこにはすでに完成した料理たち。

それに楓は苦笑を浮かべながら、車椅子を動かしてリビングのほうへと顔を覗かせる。一哉に構ってもらおうと思っての行動だったけれど、一哉はソファに背中を預けるようにして寄りかかり、そっと瞼を閉じていた。


「……かずくん、寝てる?」


そっと音を立てないように一哉のもとへ近づくと、静かな寝息が聞こえてくる。

それにふっとうれしそうに表情をほころばせて「疲れてたんですね」と、楓は穏やかな声をこぼした。一哉の隣へと車椅子を移動させると、愛おしそうに彼の頭を撫でる。その横顔はとても幸せそうで、寝ているかずくんも可愛いです、と頬が緩んでしまっている。

いつもは撫でてもらっているので、こうして撫でる機会は少ないのである。


「いつもありがとう」


そっと、いたわるように。

愛おしそうに一哉のことを撫でながら、耳元へと口を寄せて、


「大好き、だよ」


と、楓は頬を染めながらささやいた。

楓は取り繕うように頬をかきながら、一哉が起きていないことを確認すると、ふふ、とうれしそうな笑みをこぼす。

そうしてしばらく幸せそうに一哉の寝顔を見つめながら、楓は頬を緩めていた。

ずっと眺めていたいな、と楓が思っていると、一哉は何かに気づいたようにうっすらと瞼を持ち上げて、幸せそうに微笑んでいる楓へとその眠たげに細められた瞳を向ける。


「……楓?」

「ん、そうだよ」


と、首をかしげる一哉にそっと微笑みを返す。

それに一哉も頬を緩めると、のそりと起き上がって眠気を払うように頭を振った。


「あー、寝てたか? ごめんな」

「ふふ、大丈夫。まだ寝ててもいいよ?」

「いや、楓の料理を食べたいから起きるよ」


一哉はそう微笑むと、お返しだというように楓の頭を撫でる。

それに楓はくすぐったそうにして表情をほころばせると、気持ちよさそうに目を細める。しばらく一哉に撫でられるのを堪能してから、一哉と食べる準備をするために台所へと向かうことにした。

一哉が棚からお皿を用意しているうちに、楓は味見をする。

ちょっとだけ小皿へとすくった鍋の汁を口に含んで、ん、と楓は満足げに頷いた。


「かずくん」


と、ちょうど振り返った一哉の口元に、手にしたお皿を差し出す。


「味見、する?」

「もらうよ」


と、一哉はお皿に口をつけて、美味しいよと頷いてくれる。

ありがと、と微笑みながらも、ちらちらと楓の意識は手にしたお皿へと向いている。そして何を思ったのか、頬を真っ赤に染めては何かを振り払うように頭を横に振った。

決して、間接キスなどと初々しいことを思って恥ずかしがるなんてことはいない。

たとえ逸らしても横目でお皿のことを見ていたとしても、そんなことは決してないのだ。


「お、お鍋、よろしく」


楓は動揺を隠すように平静を装って一哉へと声を掛ける。


「おう」


一哉はそっけなく答えながらも、必死に笑いを堪えているのがわかる。

それでも笑うことなく鍋をリビングのこたつへと運んで行ってくれるのに複雑な気持ちになる。そしてさらに頬が熱くなるのを感じながら、それを意識しないようにエプロンを脱いで、首の後ろで結んでいた紐をほどいた。

火の始末を終えてリビングへと車椅子を動かすと、ちょうどお皿を並べ終わったらしい。

ん、と楓が甘えるように両手を伸ばすと、しょうがないな、と微笑みながら一哉はいつものように楓のことを抱きかかえて、そっと車椅子からこたつのほうへと座らせてくれる。そうして一哉は楓の対面に座って、こたつで温まる。


「やっぱり、こたつはいいなぁ」

「ふふ、冬になるとなおさら、だよね」


と、二人で頬を緩めながら温まることにする。

しばらくそうしていると、一哉が待ちきれないというように鍋を見つめていることに気づいて、楓は困ったように笑みをこぼす。


「かずくん、食べる?」

「はは、そうしてもいいか?」

「ん、いいよ」


食いしん坊な一哉に、楓はうれしそうな笑みを浮かべて鍋の蓋を開けた。

白い湯気とともに鍋の中が見えるようになる。

そこには一見しただけでもたくさんの具材。定番の白菜やネギ、豆腐屋シイタケなど。それにしらたきや肉団子など色々なものを入れた楓のお手製の寄せ鍋である。


「おぉ、美味しそうだなぁ」

「ふふ、冬と言ったらお鍋だよね」


子どものようにはしゃぐ一哉に、そっと微笑んでいる楓。

いつもとはちょっとだけ違う関係に、つい頬が緩んでしまう。


「それじゃ、いただきます」

「どうぞ」


手を合わせてから一哉はさっそく食べ始める。

しっかりと味の染みた白菜やしらたき、肉汁の詰まった肉団子などを一哉は夢中になって、美味しそうに食べてくれる。

自分の分をよそってから、そんな一哉を楓はうれしそうに見つめる。

こうして作った料理を美味しそうに食べてもらえることがうれしくて、ついつい頬が緩んでしまうのだ。


「どうかな?」

「美味しいよ。特にこの白菜。味が染みてていつ食べても美味しい」


と、好きな人から言ってもらえるのだから、頬が緩んでしまうのもしょうがない。

楓もよそっていた鍋の具たちをちょっとずつ食べては、美味しそうに頬に手を当てる。


「今日は会社で何かあったの?」


食べる合間に、楓は一哉に声を掛ける。


「ん? 今日は何も……あ、そういや、来月から新人の子が来るって言ってたな」

「かずくんが上司になるの?」


それも見てみたいな、と微笑む。


「そうなるな。まぁ、手のかからない新人だといいんだがな」

「ふふ、もし手のかかる子でも、かずくんなら安心だよ」


どんな子でもしっかりと面倒を見るのがかずくんのいいところ。

と、楓が微笑みながら言うと、一哉は照れくさそうに頬をかいた。


「そういう楓のほうこそ、何かあったか?」

「んー、私は何もなかったかな? あ、でも、今日は紅茶が美味しく淹れられたんだよ」


大きなことはなかったけど、小さなことならあったよ、と楓はうれしそうに頬を緩める。

紅茶が美味しく淹れられたこと。夕焼け空がきれいだったこと。テレビでやっていた番組でかわいい猫がたくさんいたこと。

そんな他愛もないことだけど、一哉はしっかりとこちらの話に耳を傾けてくれる。

それがうれしくてついつい話しすぎちゃうのが困ったところだけど、一哉は楽しそうに話す楓が好きだからと言って、気にしていなかったりする。

それからは今日あったことを二人でゆったりと話しながら、笑いあう。

そうしているうちにたくさんあった鍋の具も無くなって、楓たちはほっと一息をついて穏やかな空気に身を任せる。

気づくとお鍋が片づけられていて、代わりに蜜柑のたくさん入った籠がこたつに置かれている。こたつと言ったら誰もが想像する、理想のこたつ。


「ねぇ、かずくん」

「んー、なんだ?」


と、一哉は穏やかな声で答えてくれる。

それに楓は頬を緩める。


「と、隣に行ってもいい?」


そう訊くと、一哉は呆れたように苦笑する。

それはいつも同じことを訊くから、それに対しての呆れだろう。


「ああ。いいよ」


一哉は穏やかに微笑んで、もちろんと答えてくれる。

ありがと、とうれしくて声が弾んだ。一哉の胸に飛び込みたい気持ちに反して、思うように動かせない足がもどかしい。一哉がそれを気遣って身を寄せてくれたのがうれしくて、楓はうれしそうにはにかむ。

一哉の隣に並ぶと、身も心も預けるようにそっと一哉の肩へと寄りかかった。

一緒にいる、という実感とともに伝わる温かさに、とても安心する。


「こうしてると、冬って感じがするね」

「そうだなぁ」


交わされる言葉は少ない。

けれど、ゆったりと流れるひとときに、二人はとても幸せそうで。


「蜜柑、食べる?」

「もらおうかな」


そっと、皮を剥いた蜜柑を口元に差し出すと、一哉は微笑んでくれる。

ある冬の日。

そこには今日も、とても温かそうに心を寄せ合う二人がいた。


 さて、どうでしたでしょうか?

 今回は本格的に寒くなってきたこの頃を思って、テーマを『冬の日』としました。この全体のお話としてはできるだけ現実の季節に合わせたイベントなどを、ほんわりと過ごす二人の日々を書いて行こうと思っていますので、温かく見守っていただければ幸いです。

 最後に、『感想&評価、待ってますよー!』とw


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