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休日の過ごし方

本日二回目の投稿です。

「――……ん。朝だよ、かずくん」


 肩を揺すられて、一哉はうなりながら逃げるように布団をかぶった。

 それに「もうっ」と呆れたように声をこぼしながらも、楓はめげずに一哉を起こそうとする。


「かずくん。起きないと朝ご飯冷めちゃうよ?」

「んー、楓のご飯は冷めても美味しいから……」

「褒めてくれるのはうれしいけど……ほら、一緒に食べようよ」


 ゆさゆさと、何度も肩を揺すられる。

 そのたびに一哉は眠たげにうなるものの、楓は諦めるつもりはないようである。さすがにこのまま寝ているのは無理だと思って、渋々ながら一哉はゆっくりと体を起こした。


「かずくん。おはよう」

「おはよ」


 挨拶を交わすと、楓は朝からとびっきりの笑顔を見せてくれる。

 それがとても可愛らしくて、


(……まぁ、この笑顔が見られただけでも、起きた甲斐はあるよな)


 なんてことを思っていることに、一哉は心の中で苦笑する。

 一哉がそんなことを考えていると、楓は車椅子の向きを変えながら、


「もうすぐご飯できるから、着替えたら手伝ってね」


 と、栗色の髪を揺らして微笑んでくる。

 そうして楓がリビングのほうへ車椅子を動かしていくのを見送ってから、一哉はベッドの外へと這い出してあまりの寒さに身震いする。

 そろそろ暖房を入れるかな、とぼやきながら、一哉は棚から適当に選んだ服に着替えて寝室を後にする。

 洗面所で顔を洗ってからリビングへ行くと、楓が台所で朝食の準備をしていた。


「今日のメニューは?」

「んっと、今日は簡単にフレンチトーストと野菜スープだよ。二枚でいい?」

「ああ、それで頼む。何か手伝うことあるか?」


 んー、と楓は考えるように白い指を頬へと添える。


「それなら、スープをよそってくれる?」

「あいよ」


 台所へと入ると、トーストの焼けるいい匂いがする。

 それに頬を緩めながら、一哉は楽しそうにトーストを焼いている楓へと視線を向ける。楓は栗色の髪を首の後ろでくくって、白いリボンで結んでいる。料理をするときはいつもこの結び方で「これが楽なんだよ」とのこと。

 背中の辺りを尻尾のように揺れる髪が可愛らしくて、一哉は楽しみにしていたりする。

 棚からお椀を二つ取り出すと、そこへ具のたっぷり入ったスープをよそう。


「そっちはあとどのくらいかかりそう?」

「もうできるよ。お皿取ってくれる?」

「ん、ほい」


 すでに手にしていたお皿を渡してくれる一哉に、ありがと、と楓は微笑む。

 焼きたてのフレンチトーストをお皿に盛り付けると、楓は疲れたように息を吐いた。


「お疲れ様。いつもありがとうな」

「ふふ、どういたしまして」


 エプロンを脱ぎながら、楓は照れくさそうに頬をかいた。

 一哉はフレンチトーストとスープをお盆にまとめて載せると、リビングにあるこたつの上に並べていく。そうして朝食の準備を終えると、ちょうど結んでいた髪をほどいた楓が車椅子を進めてリビングへとやってくる。


「……ん」


 と、一哉の前まで移動すると、楓は微笑みながら両手を差し出してくる。

 それに頷きながら、一哉はそっと楓を抱きしめるようにして抱えると、楓も一哉の首に腕を回して「いいよ」とささやく。一哉はゆっくりと揺らさないようにして羽のように軽い楓を抱え上げると、車椅子からリビングのカーペットへと座らせる。


「いつも、ありがと」


 ちょっと照れくさそうに微笑む楓に、気にするな、と一哉は肩をすくめてみせる。

 テレビの電源を入れながら、ソファに背中を預けている楓の隣へと並んで座った。


「それじゃ、いただきます」

「どうぞ。私もいただきます」


 二人で揃って手を合わせながら、フレンチトーストにかぶりつく。

 口の中に広がる卵と砂糖の甘さを塩が程よく中和して、深い味わいとなっている。そのまま一口、また一口と口の中に放り込み、一哉は半分ほどになったトーストをお皿に置くと、スープへと手を伸ばす。

 具のたっぷり入ったこの野菜スープは楓お手製のレシピで作っているもので、家庭の味になりつつある。

 味が染みるまでじっくりと煮た野菜たちと、味の染み出た濃厚なスープ。

 体の芯までしみるような温かさも相まって、一哉の好きな料理の上位をいつも独占するものの一つである。


「どう、かな?」


 と、楓は心配するように声を掛けてくる。

 いつも料理を食べているとき、楓には味を訊いてくる癖がある。一哉はどれも美味しいから心配しなくていいと思っているのだが、作った本人はそうもいかないらしい。だから一哉もそんな楓に応えるために、素直に味の感想を口にするようにしている。


「ん、美味しいよ」

「ふふ、よかった。まだおかわりもあるからね?」


 安心したように笑みを浮かべると、楓もトーストにかぶりついた。

 ちょっとずつ口に入れては頬を緩めていることから、楓も満足の味らしい。

 そうして朝食を堪能しつつ、ゆったりとしたひとときを過ごす。もとからあまり食べない楓が先にトーストを食べ終えて、一哉に甘えるように寄りかかって幸せそうに表情をほころばせる。


「かずくん」

「ん? なんだ?」

「ふふ、なんでもないです」


 と、楓は微笑むばかり。

 猫のようにすり寄ってくる楓に苦笑しつつも、悪い気はしないので一哉も何かを言うことはない。


「ごちそうさま」

「……ん。お粗末さま、です」


 ふふ、と楓はくすぐったそうに笑みを浮かべた。

 ちょっとだけ寝惚けているようで、その声はいつにも増してほんわりとしている。


「かずくん、今日はどうする?」

「そうだな。せっかくの休みだし……どこか出かけるか?」

「んっと、それなら今日はお家でのんびりしよ?」


 と、上目遣いで可愛らしく首をかしげられては断われるはずもない。

 無性に楓を抱きしめたくなるのを誤魔化すように、そっと楓の頭を撫でる。「……んぅ」と可愛らしい声をこぼしながら、楓は微笑んでくれる。


「んじゃ、のんびりするためにさっさと片づけを済ませないとな」


 と、食器をまとめて脳内でやるべきことをリストアップする。

 ちょっと名残惜しそうにしながらも楓は一哉からそっと離れると、そのまま後ろにあるソファに寄りかかって、よろしくね、と微笑んでくる。

 それに笑みを返すと、一哉は台所に移動して慣れた手つきで二人分のお皿を洗っていく。

 洗ったお皿を水切りへと並べながら、ふとリビングのほうへと視線を向けると、クッションを抱えながらうたた寝をしている楓がいて、何とも微笑ましい。

 お皿を洗い終えて濡れた手を拭いてから、一哉はさっさと自らをこなすことにする。

 一哉のやることは主に楓の手伝い的なことが大半を占める。それは歩けず、車椅子での生活をしている楓には難しいことを請け負っていくうちに、それが役目として定着したものばかり。

 例としては洗濯物を干すことや掃除、お皿運びなども彼の仕事である。

 料理などは楓が断固としてやりたいというものだから任せてはいるものの、たまに一哉が作ったりもしている。

 あとは適当にそのとき手の空いているほうがやる、という流れにはなっている。

 大半は過保護な一哉がやってしまうのだが。

 手際よく自分の仕事をこなして一哉がリビングに戻ってくると、楓がうれしそうに出迎えてくれる。


「かずくん、お疲れさま」


 ほんわりと、柔らかな笑み。

 とても大切に想ってくれていることが伝わってきて、自然と心が温かくなる。


「ああ、これでのんびりできるな。何したいことはあるか?」

「んー、映画とかも見たいけど、今日は本当にゆっくりしたいかな」


 一緒に、と楓は頬を染めて微笑んでくる。

 それが可愛らしくて、一哉はそっと優しい笑みを浮かべた。


「あいよ。それじゃ、だらだら過ごそうか」

「うん」


 楓はうれしそうに頷くと、自分の隣を叩いて座るように促してくる。

 それに微笑むと一哉はソファに寄りかかっている楓の隣へと、そっと腰を下ろした。


「ふふ、なんだかこうしてのんびりするのも久しぶりだね」

「あー、そうだな。なんだかんだとここ最近は色々あったからなぁ」


 仕事でのあれこれを思い出して苦笑する。

 お疲れさま、と楓が頭を撫でてくれるのを受け入れると、心が安らぐのを感じる。けど、撫でてもらっていると気恥ずかしさもあって、誰も見てないとわかっていても、恥ずかしいものは恥ずかしい。

そっと、恥ずかしさから意識を逸らすように一哉はテレビの画面を見つめる。

 流れているのは休日によく見かけるような旅番組。今回は『秋の景色』特集をしているらしく、画面には美しい朱色に染まっていく木々と、清水のように透き通った群青の空が映されている。

 その景色に隣から「……きれい」と楓が呟きをこぼして、「そうだな」と相槌を打つ。

 そんな穏やかな空気の中で楓は一哉にそっと身を任せながら、ときおりちょっとしたことを話してうれしそうに微笑む。

 こうして特に何をするでもなくゆっくりとするのも、たまにはいい。

 ただ二人で一緒にいること。それは楓にとってはかけがえのない大切なひととき。普段はわがままを言わない楓がわがままを言う、数少ないことの一つでもある。

 ときおり紡がれる、ちょっとした会話。

 それが心地よくて、自然と穏やかな気持ちになれる。


「えいっ」


 と、楓がそんな掛け声とともに一哉の膝へと寝ころんでくる。

 一哉はそれに驚いたような仕草を見せるも何かを言うことはなく、ただそっと楓の頭を撫でる。

 撫でられてうれしそうにしている楓は、日向で気持ちよさそうに眠る猫のようで、微笑ましい。


「かずくん」


 そっと、ささやくような声にどきりとする。

 穏やかな瞳で一哉のことをじっと見つめる楓の表情は、幸せそうにほころんでいた。


「どうした?」


 一哉も穏やかな声で答える。

 楓はそっと白くふっくらとした手を一哉の頬に添えると、ふふ、うれしそうに笑みをこぼす。


「大好き、だよ?」


 と、幸せを口にするように微笑んでくれる。

 こうして一緒にいられるだけで、心からうれしいのだと。

 そんな想いの込められた一言に、心が温かくなる。溢れそうになる幸せに、一哉も自然と表情をほころばせる。


「これまでも、これからも。ずっとずぅっと、大好きだよ」


 楓は頬を染めて、甘い微笑みを浮かべてくれる。

 その可憐さに。その美しさに。

 一哉はもう何度目になるかもわからないけれど、楓に惚れ直してしまう。


「これからもずっと、一緒にいてね?」

「ああ、もちろん」

「……あと、もうちょっとだけ、撫でてほし、いな……」


 すぅ、と楓は静かな寝息を立て始める。

 気持ちよさそうに眠る楓を起きないように優しい手つきで頭を撫でながら、一哉はそっと穏やかな笑みを浮かべた。


「いつも、ありがとうな」


 天使のような可愛らしい寝顔を見つめながら、ささやくように口にする。

 車椅子での生活を強いられているというのに、楓はいつも一哉のことを支えてくれる。明るく振舞ってくれてはいるけれど、疲れないはずがない。

 だから、休日くらいはゆっくりと安心して休んでいてもらいたい。


「おやすみ、楓」

 

 と、一哉は優しく微笑んで、こうしていられる幸せなひとときに身を任せた。


 サブタイトルをどうするかで悩みつつの投稿なので、変更の可能性あり。

 さて、いかがでしたでしょうか?

 まだ一話目なのでのんびりとした構成で書いています。これからちょっとずつ書いては投稿していくつもりなので、そちらも読んでいただけると幸いです。

 あと、感想&評価待ってます!w



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