EP 10
炎上神ワイズのアカウント凍結と、勝利のニンニク焼肉祭
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁッ!! 私の……私の完璧なアルゴリズムが、こんな下界の土木作業員ごときに破綻させられるはずがないんですよぉぉッッ!!」
天界・GOD大宇宙管理局のオフィスで、炎上神ワイズがデスクのホログラムキーボードを両手で叩き割りながら絶叫していた。
プラチナブロンドの髪は乱れ、金の細フレーム眼鏡は斜めにずり落ち、足元にはぶち撒けられた冷え切ったカプチーノの染みが広がっている。
巨大モニターに映し出されていたのは、オリハルコンの鎧をサーマルランスで溶断され、赤城鷹人の右ストレート一発で前歯を四本吹き飛ばされて失禁・失神した課金勇者ゼロスの無残な大の字だった。
同接三千万人を超えた配信のコメント欄は、炎上神への罵倒と返金要求で埋め尽くされている。
『おいワイズ! これが神速殲滅ショーかよwwwww』
『ワンパン沈没芸人の育成に何億の神素注ぎ込んでんだよ!』
『詐欺配信通報したわ! アカウントBAN待ったなし!!』
「ええい、コメント欄を遮断しろ! ログを消去して回線を落とせ! 全部ゼロスが勝手に暴走した事故として因果ログを改ざんするのです!!」
ワイズが血走った目で非常停止ボタンへ手を伸ばした――その瞬間だった。
『――あ〜あ、ワイズちゃん、見苦しすぎるんだけど〜☆』
ピリリリリッ! とけたたましい通信ジャックのアラームとともに、全モニターの画面が強制的にパッと切り替わった。
画面いっぱいに映し出されたのは、ピンク色のツインテールを揺らし、頭上の光輪をサイケデリックに点滅させながらあざといピースサインを決める美少女――月収二億円のメガゴッドチューバー、天使キュララだった!
『みんなヤッホ〜☆ キュララTVの緊急生告発スペシャルへようこそ〜! 実はね、ワイズちゃんが裏でやってた「神格クレジットの不正前借り」「無許可のオリハルコン横領」「ゼロスへの裏口ステータス課金」の全ログ、うちの特定班リスナーたちが全部ぶっこ抜いて復元しちゃいましたぁ〜♡』
「な……ッ!? キュララ!? 貴様、なぜ私の暗号化回線を――」
『さらにドン! 過去三ヶ月間にワイズちゃんがマッチポンプで放火・虐殺させた全集落のリストと、裏で買収してたネフィリムの脱走手引き書も、大宇宙管理局の法務部と時空監査部に一斉送信完了してまーす☆ ワイズちゃん、完全にアウト〜♡』
キュララのウインク一発で、画面にズラリと並ぶ動かぬ証拠の数々。
直後、全宇宙の配信画面の中央へ、赤く点滅する巨大なシステム警告ダイアログがドカンと突き刺さった!
――――――――――――――――――――
【GOD大宇宙管理局・法務執行部より通達】
・対象神格:第3種惑星創造神「炎上神ワイズ」
・違反条項:神界法第1条(私欲による虐殺扇動)、第3条(神格資金不正ロンダリング)
・処分:ゴッドチューブ全公式アカウントの【永久凍結(BAN)】、並びに全神格剥奪
――――――――――――――――――――
「あ……あぁ……私の……私のチャンネルが……神格がぁぁぁッ!?」
ワイズが頭を抱えて膝をついたその時――執務室の分厚い防護扉が、轟音とともに真っ二つに両断された!
――バッッッシャアアアアアンッッッッ!!!!
吹き飛んだ扉の砂煙の奥から現れたのは、眼鏡の奥に絶対零度の殺気を宿し、右手に一億ボルトの神聖雷をバチバチと漏らす巨大な聖槍『グラニ』を構えた鉄血の女性――大宇宙管理局・天使族長ヴァルキュリアであった。
「ワイズ。貴様の薄汚い悪行、もはや弁明の余地はありませんね」
「ヴァ、ヴァルキュリア部長……!? ま、待ってください! あれは演出で、ビジネスの先行投資で――」
「問答無用」
ヴァルキュリアの白手袋の手が、ワイズの襟首を鷲掴みにした。
背後から現れたドナドナ班の屈強な黒服レスラーたちが、神格を抜かれてただのモヤシ男となったワイズの手首へ、重力手枷をガチリと嵌め込む。
「貴様の身柄は、深海王国シーランの『超大型怪魚マグローザ一本釣り漁船』へ一括売却されました。時速数百キロの荒波の上で、生身の撒き餌として三百年ほど労働に従事し、その罪を贖いなさい」
「ひ、ヒイィィィィッ!? マグローザ漁船は嫌だぁぁぁッ! 助けてくれぇぇぇぇッッ!!」
無様な絶叫を残し、かつて数字だけで生命を弄んだ炎上神は、生ゴミのように天界のオフィスから引きずり出されていったのだった。
***
一方――地上のポポロ村・北門前。
――ガタゴトッ、ドォォォンッ!
地中から浮上してきたドンガン製の重装甲護送トレインへ、前歯を砕かれて失禁した課金勇者ゼロス、両肩と腱を刻まれた脱走剣士ミラース、そして捕縛された私兵百名が、次々と家畜のように荷台へ積み込まれていた。
「毎度おおきに! ドンガンの親方、頑丈な穴掘り要員が百二人まとめて納品や! 地下二千メートルの最深部で、ツルハシが折れるまで一生石炭掘らせてやってぇな!」
猫耳商人のニャングルが純金算盤『十露盤』をパチパチと弾き、満面の笑みで金庫を受け取る。
人狼執事リバロンも、糸目の完璧なビジネススマイルで手帳をパチンと閉じた。
「ゼロス殿の私財差し押さえ、並びに神聖大剣の売却益を合算いたしまして……今回の防衛出動費および村落慰謝料として【金貨5,000枚(約5億円)】の満額回収が完了いたしました。……どうぞ、安全運転でお連れください」
「ぎゃあああああっ! 炭鉱は嫌だぁぁぁッ!」
ゼロスたちの断末魔とともに護送車の扉が閉ざされ、大地を揺らしながら地底深くへと去っていった。
そこへ――北門の奥から、元気な足音と車椅子の軋む音が響いてきた。
「鷹人の旦那ぁぁーーッ!!」
胸に分厚い包帯を巻き、車椅子に乗せられた竜人イグニスが、大粒の涙をボロボロと零しながら手を振っていた。
車椅子を押しているのは、肩口を三角巾で吊ったフェイトと、タローマン特注の安全靴を鳴らす新村長キャルルだ。
「イグニス! フェイト君! もう起き上がっちゃダメだよ!」
キャルルが叱るが、イグニスは止まらない。
「寝てられるかってんだ! 旦那が……旦那が俺様たちのために、一人であの金ピカ野郎をワンパンで粉砕してくれたって聞いたぜ! うぅ……手取り十四万のトカゲのために、ここまでやってくれるなんて……! 一生、旦那についていくぜぇぇッ!」
「フェイトも無事だったみたいだな」
迎えた赤城鷹人は、作業ジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、苦笑いして二人の頭を小突いた。
「傷口のステープラーが外れるから暴れるなよ。……現場で仲間がやられて、黙って指くわえてる現場監督がどこの世界にいるってんだ」
「鷹人殿……!」
傍らのマンミアが、パイルバンカー盾『アグニ』を抱え、琥珀色の瞳を熱く潤ませて前脚をもじもじと擦り鳴らした。
「あ、あまりにも……あまりにも男らしくて、頼もしくて……! 私の胸の奥が、またしても激しくトゥンクしてしまったであります……ッ!」
「はいはい、姐さんの発情はそこまでや!」
ニャングルがツッコミを入れ、広場にワッと笑いが巻き起こる。
鷹人は短くなったタバコを携帯灰皿へねじ込むと、作業ジャケットの袖を力強く腕まくりした。
「さてと……。怪我人も無事に生き残った、外道どもも綺麗に片付いた。……現場のトラブルを完工させた後は、職人の命の洗濯だ! 資材置き場から、最高の一台と極上の肉を引っ張り出してやるよ!」
「「「うおおおおおおおおッッッッ!!!!」」」
鷹人は頭の中のユニークスキル【リサイクルマスター】を起動した。
所持スクラップPtは、先のゼロス粉砕と防衛成功によって【129,860 Pt】という天文学的な数値を誇っている。
カタログから「極上肉類デッドストック・野外厨房機器」を一気に選択した。
(地球の老舗炭火焼肉店が惜しまれつつ閉店した際に残された本物の珪藻土七輪十基、紀州備長炭……それに、食肉加工場で規格外として弾かれた新鮮極まりない牛シマチョウ、マルチョウ、厚切り牛ハラミ、特上カルビ……合計三十キロ一式召喚だ!)
――――――――――――――――――――
【所持スクラップPt:129,860 Pt】
・カタログ選択:【居酒屋倒産品・本物の珪藻土切り出し七輪&紀州備長炭カテゴリー】
・カタログ選択:【食肉解体場デッドストック・極上ホルモン&特上和牛カテゴリー】
【召喚リスト】
・石川県能登産:本焼き珪藻土切り出し七輪10基&極厚鋳鉄焼き網一式(消費:300Pt)
・和歌山県産:最高級紀州備長炭50キロ(消費:200Pt)
・新鮮急速冷凍:牛シマチョウ、マルチョウ、厚切りハラミ、特選カルビ計30キロ(消費:400Pt)
・地球の特選熟成味噌、濃口本醸造醤油、純正ごま油、粗挽き唐辛子一式(消費:100Pt)
合計消費Pt:1,000 Pt ――【召喚実行】
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――ヒュンッ!
中庭のバーベキュースペースに、ドサリと並ぶ十基の七輪と、霜降りの脂が白く美しく輝く山盛りの極上肉の山が出現した!
ここからが、現場監督・赤城鷹人の真骨頂だった。
鷹人は大玉の青森県産ニンニクを丸ごと五房取り出すと、薄皮を素早く剥ぎ取り、あの安っぽい黄色い百円ライターを取り出した。
親指の腹でヤスリを無造作に弾く。
――カチッ、シュボッ。
澄んだ硬質な着火音とともに、揺らぐ橙色の炎。
剥きたての生ニンニクの先端へ、直火を直接あてがった。
――チリチリチリ……ジュワッ。
パチパチと音を立てて香ばしい狐色の焼き目がついていく。
滲み出る濃厚な植物油のエキス。
直後、夕暮れの冷涼な高原の空気を一瞬で灼熱のスタミナ空間へと塗り替えるほどの、猛烈に甘く香ばしい焦がしニンニクのアロマが空間全体へ爆散した!
「くぅぅぅ……! たまらん! この匂いだけで白飯五杯いけるでぇッ!」
ニャングルが鼻をヒクつかせて叫ぶ。
鷹人は炙りニンニクをすり鉢で豪快に叩き潰すと、熟成味噌、醤油、みりん、ごま油、そして粗挽き唐辛子と一気に練り合わせ、特製『直火炙り焦がしニンニク味噌ダレ』を仕込んだ。
そこへ、一口大にカットしたシマチョウと厚切りハラミをドカンと投入し、素手で丹念に揉み込んでいく。
「よし、炭が熾きたぞ! 肉を乗せろ!」
真っ赤に熱された網の上へ、タレをたっぷり纏ったホルモンが一気に投下された!
――ジューーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!
夜の帳が下りるポポロ村の空へ、猛烈な脂の爆ぜる音と真っ白な煙が立ち上る!
網の上で、シマチョウの脂がプクプクと花のように反り返り、黄金色の焦げ目がカリッとついていく。
「「「乾杯ッッッ!!!!」」」
全員が度数四十度の地酒イモッカを満たした木製ジョッキを天高く掲げた。
七輪を囲むのは、キャルル、ニャングル、マンミア、リバロン、包帯姿のイグニスとフェイト。
さらに、匂いを嗅ぎつけてアパートから降りてきた竜王デューク、狼王フェンリル、黄金リーゼントのリキ兄貴、不死鳥の母フレアとヒエン、そして満面の笑みでタダ肉に群がる人魚姫リーザまでが肩を並べている!
「う……う、うんめぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!」
焼きたてのシマチョウを口に放り込んだイグニスが、感涙の絶叫を上げた。
「皮がパリッとしてんのに、噛んだ瞬間に甘い脂がジュワッと弾け飛ぶ! 炙りニンニク味噌が傷口の痛みまで吹き飛ばしてくれるぜぇぇッ!」
「美味い……! あまりにも力強い愛の味であります……ッ! 私の処女の胃袋が、完全に満たされていく……♡」
マンミアがハフハフとハラミを頬張り、長い馬尾を扇風機のように回す。
「……フン。備長炭の熾し方、肉の隠し包丁、そしてこのタレの調合……見事だ、鷹人」
竜王デュークが極太の葉巻を置き、マイ鉄箸でカルビを味わって目を細めた。
中庭は煙モクモクの熱気に包まれ、笑い声と肉の香ばしい匂いが夜空を埋め尽くしていく。
数字や再生数のために他人の命を弄んだ神と勇者は消え去り、ここには現場で汗を流し、血を分けた本物の仲間たちの温もりだけがあった。
その喧騒から少し離れ、赤城鷹人はガレージ前の木箱に腰を下ろした。
胸ポケットから紙巻きタバコを取り出し、唇にくわえる。
――カチッ、シュボッ。
親指でヤスリを弾く。
夜風の中に揺らぐ、小さな橙色の炎。
先端に火を移し、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。
「…………ふぅーーーーっ」
星空へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。
タバコのツンとした香りと、七輪の肉の匂いが心地よく混ざり合う。
ふと左腕の傷だらけの金属製腕時計に目を落とし、鷹人はニッと笑った。
「言葉が通じなくても、拳と美味いメシ、あとはエンジン音があれば世界中どこでも生きていける」
腹を割って美味い飯を食える現場がある限り、どんな理不尽な神の企みだろうと、恐れるものなど何一つない。
短くなったタバコの火を携帯灰皿へねじ込み、鷹人は仲間たちの輪へと歩き出した。
ポポロ村の夜は更け、現場の兄ちゃんの波乱万丈な日々は、次なる嵐――『第8章:深淵の組長デュアダロスと聖獣機神の修羅場』へと続いていくのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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