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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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EP 5

戦場遺棄兵器(ミリタリー・スクラップ)の大規模展開!

 冷涼な秋風が吹き抜けるポポロ村の北門前――その平穏な砂利道は、今や張り詰めた硝煙の気配に支配されていた。

 ――ズズズズズズズ……ッ!

 北の街道の地平線を覆い尽くすほどの砂煙とともに、大地を揺るがす重装歩兵百名の軍靴の足音が迫りつつある。

 空中には、神界『ゴッドチューブ』へと残虐ショーの映像をリアルタイム中継する、炎上神ワイズの魔導配信ドローンが何十機も滞空し、不気味な紫色のレンズをギラつかせていた。

 だが、その暴威を前にしながら、赤城鷹人の表情には焦りのかけらもなかった。

 ――カチッ、シュボッ。

 静かな防壁の真下に、硬質で鋭い金属の着火音が鋭く響き渡る。

 親指の腹でヤスリを無造作に弾く。

 取り出したのは、地球の百円均一ショップで調達した、何の変哲もない黄色いプラスチック製の使い捨てライターだ。

 唇にくわえた紙巻きタバコの先端へ橙色の炎を近づけ、深く煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 秋空へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。

 ツンとしたタバコの香りが、血生臭い空気を心地よく塗り替えていく。

「鷹人はん! 敵の私兵部隊、防壁前五百メートルを切ったで! 前衛の連中、全身ミスリル合金の特注甲冑で固めとる! あんな重装歩兵の突撃、ただのバリケードじゃ紙屑みたいに突破されてまうわ!」

 純金算盤『十露盤』を脇に抱えた猫耳商人ニャングルが、耳をピクピクと尖らせて叫ぶ。

 その隣では、自警団長マンミアがパイルバンカー盾『アグニ』のシリンダーをガシャンと撃発位置に構え、四肢の蹄で激しく大地を削っていた。

「鷹人殿! イグニスとフェイトの仇……この『アグニ』で、先頭の装甲ごとミンチにして差し上げます!」

「待て、団長さん。突っ込むのはまだ早い」

 鷹人は携帯灰皿へ灰をトントンと落とすと、億劫そうに首の骨をゴキリと鳴らした。

 左腕の傷だらけの金属製腕時計に目をやる。敵の到達まで、およそ三分。

「相手はカメラの前でイキがってる素人の寄せ集めだ。……生身で突っ込んでこちらの戦力を削る必要はねぇ。自衛隊施設科(工作部隊)の基本を教えてやるよ。――陣地防御の鉄則は『敵を殺傷ゾーン(キルゾーン)へ誘い込み、物理の飽和火力で完封すること』だ」

「物理の……飽和火力……?」

 マンミアが琥珀色の瞳を瞬かせる。

「段取り八分、仕事二分だ。……出し惜しみは無しだぜ」

 鷹人は短くなったタバコを携帯灰皿へねじ込むと、頭の中のユニークスキル【リサイクルマスター】を全開にした。

 現在、所持スクラップPtは【117,070 Pt】という天文学的な数値を誇っている。

 カタログの最深部――地球の冷戦期から現代にかけての「戦場放棄兵器・ミリタリースクラップ」のカテゴリーを一気に検索した。

(地球の紛争地帯や砂漠の補給基地で、軍縮条約や部隊撤退に伴ってスクラップヤードに野ざらしで放置されていた、頑丈無比な鉄の塊たち……油紙で密閉され、火薬もライフリングもピンピンしている、極上のデッドストックだ!)

――――――――――――――――――――

【所持スクラップPt:117,070 Pt】

・カタログ選択:【地球戦場放棄火器・軍用重火器スクラップカテゴリー】

・カタログ選択:【野戦築城資材・指向性散弾地雷・高圧爆薬カテゴリー】

【召喚リスト】

・旧式軍用12.7ミリ口径重機関銃(三脚架付き・高耐久水冷/空冷仕様)4丁(消費:3,000Pt)

・12.7ミリ徹甲焼夷弾(500発メタルリンクベルト缶入り)20箱(消費:2,000Pt)

・携帯式対戦車無反動ロケットランチャー(装填済み・使い捨て型)10基(消費:2,500Pt)

・対人指向性散弾地雷(トリップワイヤー/遠隔信管付き)30組(消費:1,500Pt)

・高密度麻袋土嚢(砂詰め済み)300個&軍用迷彩偽装網一式(消費:500Pt)

合計消費Pt:9,500 Pt ――【召喚実行】

――――――――――――――――――――

 ――ドガァァァァァァンッッッッ!!!!

 北門前の広場が、凄まじい地響きとともに揺動した。

 空間がグニャリと歪み、砂煙を巻き上げながら、深緑色の頑丈な木箱と、無骨な鉄の銃身、そして山積みの土嚢がドカリと大地に落ちてきた!

 現れたのは、地球の戦場で一世紀にわたり君臨し続けた「重機関銃の王」。

 鈍い油光りを放つ頑強な削り出しレシーバー、極太の銃身、そして指一本ほどの太さがある巨大な真鍮製弾薬ベルト。

「な……なんやこの鉄の筒はぁぁッ!? 魔力炉がついてへんのに、とんでもない死の匂いがプンプンしとるで……!」

 ニャングルが目を丸くして飛び退く。

「地球の泥水の中で、あらゆる装甲車を蜂の巣にしてきた歴戦の古兵(ふるつわもの)だよ」

 鷹人は作業ジャケットの袖を捲り上げると、迷いのない手つきで土嚢をピラミッド状に組み上げ、重機関銃の三脚架をガッチリと据え付けた。

 給弾カバーをガチャン! と跳ね上げ、油紙を破った徹甲弾のリンクベルトを噛ませると、チャージングハンドルを力強く手前へ引く!

 ガチンッ、ジャキィィッ!

 薬室に初弾が装填され、鋼鉄の機関部が完璧にロックされた。

「おい、トメゾウ! 源蔵! 村の男衆、手ェ貸せ!」

 鷹人のドスの利いた鋭い現場号令が飛ぶ。

「街道の左右の窪みに、この平たい緑色の箱(指向性地雷)を地面スレスレで斜め前へ向けて埋めろ! ワイヤーは草むらに偽装だ! キャルル、自警団の連中にこの筒(ロケットランチャー)を配れ! 安全ピンを抜いて肩に担ぎ、敵の盾の真ん中を狙って引き金を引くだけだ!」

「は、はいっ!」

「おうよ鷹人! 畑仕事より力が入るぜ!」

 百戦錬磨の農民たちと自警団の手により、わずか二分で北門前の街道一帯に、地球の歩兵陣地とポポロ村の防衛網が融合した「完璧なるキルゾーン」が構築された。

 畑のあぜ道には、ドンガン製の魔導中型戦車が砲身を低く構え、屋根の上からは割烹着のおばちゃんたちが九九式魔導バズーカを構えて並んでいる。

 そこへ――。

「ギャハハハハッ! 見ろよミラース、門の前で百姓どもが土嚢なんか積んで震えてやがるぜぇぇッ!」

 街道の砂煙を突き破り、ついに課金勇者ゼロス率いる私兵軍団が姿を現した!

 先頭を走るのは、ミスリルと鋼鉄の重厚な全身鎧をまとい、大盾を構えた屈強な私兵たち。

 その背後で、黄金の大剣を掲げたゼロスが、上空の配信ドローンへ向けて下品なドヤ顔を晒している。

「おい全宇宙のリスナーども! いよいよテロ集落の突入解体ショーだ! あんな土の山、俺の私兵部隊の突撃一発で粉微塵にしてやるぜ! 突撃ぃぃぃッ! 全員ミンチにしろぉッ!!」

「「「うおおおおおおおおッッッッ!!!!」」」

 百名の重装歩兵が一斉に抜刀し、地響きを立てて突進してくる。

 距離、百五十メートル。

 土嚢の後ろに陣取った赤城鷹人は、眉ひとつ動かさず、冷徹な目で敵の先頭集団が「キルゾーンの境界線」を越えるのを見据えていた。

「おい、金ピカのボクちゃん」

 鷹人のドスの利いた声が、静かに落ちる。

「他人の現場に勝手に土足で踏み込んできた不法侵入者はな――」

 敵の先頭の足が、草むらに張られた細いピアノ線を踏み抜いた。

「――まとめて更地に解体撤去するのが、現場のルールだぜ」

 カチリ。信管が作動した。

 次の瞬間――。

 ――ドォォォォォォォォンッッッッ!!!!

 街道の左右が、同時に爆発した!

 指向性散弾地雷から解き放たれたのは、数万個に及ぶ高硬度タングステン鋼球の超音速扇状弾幕!

「ぎゃああああっ!?」

「な、なんだこの鉄の嵐はぁぁッ!?」

 先頭を走っていた三十名を超える重装歩兵が、まるで巨大な見えない鉄の箒で薙ぎ払われたかのように、一瞬で吹き飛んだ!

 自慢のミスリル盾は無数の鉛玉で蜂の巣にされ、脚部を撃ち砕かれた兵士たちが砂利の上に転がって絶叫する。

「な……ッ!? 地雷だと!? 魔力の気配が一切なかったぞ!?」

 ゼロスが血相を変えて目を剥いた。

 だが――本当の地獄は、ここからだった。

「撃て」

 鷹人が引き金を押し込んだ。

 土嚢の隙間から、世界を切り裂くような破滅の咆哮が炸裂した!

 ――ダダダダダダダダッッ!! ズガガガガガガガッッ!!

 大地を真下から突き上げる猛烈な衝撃波。

 12.7ミリ重機関銃の極太銃口から放たれたのは、音速の三倍で飛翔する鉛と火薬の鉄槌!

 毎分五百発の猛烈なサイクルで撃ち出された徹甲焼夷弾が、曳光弾の赤い光条の帯となって、密集していた私兵軍団へ一直線に突き刺さる!

 バギィィィィンッ! ドガガガガッ!

「ひぎゃあああっ!?」

「盾が……盾ごと身体が引き裂かれるぅぅッ!!」

 ファンタジーの魔法障壁など、近代地球の重工業が産み落とした純粋なる運動エネルギーの前には、ただの障子紙に過ぎなかった。

 厚さ二十ミリのミスリル鋼板をやすやすと貫通した大口径徹甲弾は、私兵たちの鎧をミンチの缶詰のように粉砕し、人体を易々と四肢ごと宙へと跳ね飛ばす!

 さらに、村の防壁の上から自警団のロケットランチャーが一斉に火を吹いた!

 ――シュバァァァッ! ズドォォォォォンッッッッ!!!!

 成形炸薬弾頭(HEAT)のメタルジェットが敵の中列に直撃し、灼熱の金属噴流が鎧をドロドロに溶かしながら爆風で私兵たちを十数メートル後方へ吹き飛ばす!

「ひ、ヒイィィィィッ!? バケモノだぁぁッ!」

「魔法じゃない! こんなの、ただの歩く虐殺機械だぁぁッ!!」

 わずか一分。

 百名いた私兵軍団は、一歩も村の敷地に足を踏み入れることすらできず、八割が地面に転がって血と泥にまみれ、失禁しながら這いつくばって命乞いをしていた。

 威勢の良かった軍勢は、完全に崩壊したのだ。

 硝煙と鉄の焦げる臭いが立ち込める中、静寂が戦場を包み込んだ。

 上空の配信ドローンが捉えていたコメント欄は、もはや文字の形を保てないほどの狂乱状態に陥っていた。

『は???? 何が起きた????』

『ゼロスの私兵部隊が……一瞬で消し飛んだぞ!?』

『あの鉄の筒から出てる赤い光何!? ミスリル鎧が粉々になってんだけど!?』

『作業着の兄ちゃん、無表情で機関銃撃ちまくっててマジでヤバすぎる……!』

 その混乱の渦中、赤城鷹人は重機関銃のレシーバーを冷ますように軽くポンと叩くと、土嚢の陰から悠然と立ち上がった。

 作業ジャケットの胸ポケットから紙巻きタバコを取り出し、唇にくわえる。

 ――カチッ、シュボッ。

 澄んだ硬質な着火音とともに、揺らぐ橙色の小さな炎。

 親指の腹でヤスリを弾く。

 先端に火を吸い付け、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 群青色の空へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。

 続けて鷹人は、胸ポケットから大粒の青森県産ニンニクを一片取り出すと、手際よく薄皮を剥ぎ、ライターの直火をじっくりとあてがった。

 ――チリチリチリ……ジュワッ。

 パチパチと音を立てて香ばしい狐色の焼き目がついていく。

 滲み出る濃厚な植物油のエキス。

 直後、戦場の硝煙と血生臭さを一瞬で上書きするほどの、猛烈に甘く香ばしい焦がしニンニクのアロマが空間全体へ爆散した!

 鷹人は火を吹き消すと、軽く焦げ目のついた熱々のニンニクを前歯でカリッと噛み砕いた。

 ――シャクッ。

「……ん。胃袋に火が入ったぜ。血が巡る」

 五臓六腑がカッと熱くなり、動体視力と神経伝達が戦闘態勢の極限へと跳ね上がる。

 鷹人は紫煙をゆっくりと吹き出しながら、立ちすくむ私兵の残骸の奥――たった二人だけ無傷で残っていた敵を見据えた。

 泡を吹いて顎をガタガタと震わせている課金勇者ゼロスと、その横で静かに妖刀『無銘・断絶』の柄に手をかけたまま、氷のように冷たい眼光を放つネフィリムの剣士ミラース。

「ば、化け物……! 生体出力1馬力の人間が、なんでこんな軍隊を一個潰すような重火器を……!?」

 ゼロスが引きつった顔で叫ぶ。

 だが、ミラースは一歩前へ踏み出すと、妖刀の鯉口をカチリと切った。

 紫黒の妖気が、大気中の光そのものを歪ませていく。

「……なるほど。鉛の弾丸による質量攻撃か。だが、形ある物質である限り、私の『ソード』の前には等しく無力だ」

 ミラースの冷徹な声が、荒野の空気を切り裂く。

「どれほど弾幕を張ろうと、空間ごと両断してしまえば届かない。……次はお前の番だ、作業着の男」

 鷹人はタバコの灰を指先で弾き、無精髭の口元をニヤリと吊り上げた。

「空間を斬る、ねぇ……。物質が斬れるなら、形のない『現場のエネルギー』はどうやって斬るつもりだ?」

 背後から、黒漆の燕尾服をまとった人狼執事リバロンが、白手袋の手で名刺をシャキリと挟みながら音もなく進み出てくる。

 あらゆる物質を両断する絶対切断の妖刀と、現場の物理法則を知り尽くした技術屋の知恵。

 ポポロ村の境界線で、次なる極限の刃が交錯しようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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