EP 3
炎上配信スタート! 理不尽な宣戦布告とイグニスの負傷
静かな秋空を引き裂くように、天界『ゴッドチューブ』の配信開始アラートが、全宇宙のモニターへ一斉に鳴り響いた。
――ピロリロリロリロリロリンッッッ♪
白樺の原生林が広がる北の街道上空に、不可視の魔導配信ドローンが何十機もホバリングを開始する。
画面には、炎上神ワイズの息がかかった特設バナーと、煽情的な極太の赤文字が躍り出た。
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【緊急生中継】悪徳テロ要塞ポポロ村の公開処刑! 勇者ゼロスの神速殲滅ショー!
・配信主:勇者ゼロス公式(特別協賛:第3種惑星創造神ワイズ)
・現在の同時接続数:【12,850,000人】(急上昇中)
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配信画面の向こう、天界のオフィスでプラチナブロンドの髪を撫で付けた炎上神ワイズが、冷酷な笑みを浮かべてカプチーノを啜る。
ドローンカメラが捉えているのは、地面に広がる生々しい鮮血と、無残に倒れ伏す二つの影だった。
「ケハハハハッ! 全宇宙のリスナーども、刮目しなァッ!!」
身の丈を超える黄金の神聖大剣を肩に担ぎ、カメラ目線で下品にイキり散らしているのは、課金勇者ゼロスだ。
その足元には、胸板の硬質な竜鱗を深々と両断され、血の海に沈む竜人イグニスが転がっていた。
傍らには、能力半減で脱力したまま肩口を斬り裂かれ、意識を失ったA級冒険者フェイトがピクピクと痙攣している。
「こいつらはポポロ村とかいう、魔族や凶悪犯罪者を匿って肥え太る悪徳テロ組織の尖兵だ! 俺たち正義の使徒が、神々の名の下に成敗してやったぜぇ! ほら見ろよ、このトカゲの無様なツラをよぉッ!」
ドッ! とゼロスの黄金のブーツが、倒れ伏すイグニスの腹を容赦なく蹴り上げた。
ゴホッ! とイグニスの口から血反吐が砂利の上に飛び散る。
「が……ハッ……! う……嘘を……つくな……! 俺たちは……ただ……手取り十四万で……村を守って……」
「あぁん? 負け犬がゴチャゴチャ喚いてんじゃねぇよ!」
ゼロスは大剣の腹でイグニスの頭を力任せに踏みにじり、滞空するカメラへ向けて勝ち誇った笑みを浮かべた。
「さあリスナーども、虹色スパチャをガンガン投げろッ! この虫ケラどもを血祭りにあげたら、次はいよいよ本陣だ! あのポポロ村の防壁ごと、住人全員をミンチにして焼き払ってやるぜぇぇッ!!」
画面のコメント欄が、熱狂と困惑の濁流となって光速で流れていく。
『うわ、血がすげぇ……マジでやってんのかこれ』
『ポポロ村って、あのASMRで美味そうにニンニク飯食ってた兄ちゃんの村だろ!?』
『悪徳テロ要塞って本当なのか? ただの長閑な農村に見えたが……』
『ゼロス様カッケー! 虹色スパチャ金貨100枚投銭!!』
その狂乱の横で、漆黒の着流しをまとった銀髪の剣士ミラースが、妖刀『無銘・断絶』の刀身を親指で弾いた。
――チィィィン……。
「茶番はそこまでだ、ゼロス。前座の肉塊に用はない。……本隊を進軍させろ。私のスキル『ソード』で、あの村の防壁もろとも、空間ごと切り刻んでくれる」
「へっ、分かってるよミラース! おい、私兵部隊、進軍だぁッ! 村の境界へ突撃ィィッ!!」
百名を超える豪奢な白銀のフルプレート私兵集団が、抜刀して雄叫びを上げながら街道を雪崩れ込んでいく。
血の海に取り残されたイグニスは、霞む視界の中で、泥にまみれた右手を必死に前へと伸ばした。
指先が触れたのは、鷹人が放熱フィンを削り出してくれたばかりの、傷だらけの大斧『クリムゾン・スラッシャー』の柄だった。
「旦那……逃げ……て……くれ……ッ!」
***
――ドガァァァァァァンッッッッ!!!!
ポポロ村の北門前防壁に、凄まじい衝撃波と閃光が炸裂した。
頑丈なドンガン製の外郭防壁がミシミシと軋み、見張り台の警報魔導ベルが狂ったようにけたたましく鳴り響く。
――ウゥゥゥゥゥンッ! ウゥゥゥゥゥンッ!
「敵襲ぅぅッ! 北の街道から、百名を超える重装歩兵部隊が防壁へ殺到してきていますっ!」
見張り台の自警団員が悲鳴を上げた。
広場には、すでに戦闘態勢を整えたポポロ村の面々が集結していた。
ケンタウロス自警団長マンミアが、鷹人に完璧なオーバーホールを施されたパイルバンカー盾『アグニ』をガシャンと構え、四肢を踏み鳴らす。
その隣では、新村長キャルルがオーバーサイズのパーカーのポケットから愛用のダブルトンファーを抜き、真紅の瞳をスッと鋭く細めていた。
「キャルル、配信画面見ぃ! あいつら、天界のゴッドチューブで『ポポロ村はテロ組織やから公開処刑する』とかいうデタラメなヤラセ中継を垂れ流しとるわ!!」
猫耳商人ニャングルが、タブレット端末の画面を叩きつけんばかりの勢いで叫ぶ。
その画面の片隅に映し出されていた光景を見た瞬間――広場の空気が、一瞬で絶対零度の静寂へと凍りついた。
画面の端で、血まみれになってピクピクと痙攣しているイグニスと、倒れ伏すフェイトの姿。
「イグニス……!? フェイト君……!?」
キャルルが息を呑み、顔から血の気がサーッと引いていく。
「な……なんという傷だ……! イグニスの胸の竜鱗が、肉ごと両断されている……!?」
マンミアの琥珀色の瞳が怒りに見開かれ、蹄が激しく砂利を削った。
「ひ、ひぃぃ……! 胸をパックリやられとるやないかい! 今すぐ助け出さんと、失血死で死んでまうで!!」
自警団の面々が騒然となり、パニックの足音が広場を包み込もうとした――その刹那だった。
――カチッ、シュボッ。
静寂をピシリと切り裂く、乾いた硬質な金属の着火音。
親指の腹で、ヤスリを無造作に弾く。
取り出したのは、地球の百円均一ショップで調達した、あの安っぽい黄色いプラスチック製の百円ライター。
唇にくわえた紙巻きタバコの先端へ小さな橙色の炎を近づけ、深く、肺の奥底まで煙を吸い込んだ。
「…………ふぅーーーーっ」
秋晴れの青空へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。
そこに立っていたのは、煤と油でくすんだ無骨な作業ジャケットを着た男――赤城鷹人だった。
左腕には、鈍く光る傷だらけの金属製腕時計。
足元には、数々の泥を踏み固めてきたすり減った安全靴。
だが――その横顔からは、普段の気の良い現場監督の飄々とした笑みが、完全に消え失せていた。
切れ長の瞳の奥に宿っていたのは、海外の地下格闘技場や紛争地帯の飯場で、仲間の命を踏みにじられた時にだけ点火する、底知れぬ静かなる「絶対の殺気」だった。
「おい、青二才どもが……」
鷹人のドスの利いた静かな低音が、防壁の上に響き渡る。
タバコの煙の向こうから、北門の扉をガンガンと叩き壊そうとしている私兵軍団と、空中に浮かぶ配信カメラのレンズを、冷徹な猛獣の眼光で真っ直ぐに射抜いた。
「他人の现场に土足で踏み込んできて……カメラの前でガキを殴り倒してイキがるのが、てめぇらの言う『正義のショウ』ってわけか」
鷹人は携帯灰皿へタバコの吸い殻をねじ込むと、右手の指の関節をポキリと鳴らした。
「キャルル、マンミア。担架と救急キットを持って北門を開けろ。……イグニスとフェイトを回収する」
「で、でも鷹人さん! 門を開けたら、敵の私兵部隊が一気に雪崩れ込んできちゃうよ!?」
「雪崩れ込んできたら、現場のルールで更地に解体撤去するだけだ」
鷹人は作業ジャケットの内ポケットから、大粒の青森県産ニンニクを一片取り出した。
手際よく薄皮を剥ぎ、黄色い百円ライターの火を直接あてがう。
――チリチリチリ……ジュワッ。
小さな炎に炙られたニンニクがパチパチと音を立て、香ばしい狐色に焦げていく。
滲み出る濃厚な植物油のエキス。
直後、戦場の硝煙と血生臭さを一瞬で塗り替えるほどの、猛烈に甘く香ばしい焦がしニンニクのアロマが空間全体へ爆散した!
鷹人は火を吹き消すと、軽く焦げ目のついた熱々のニンニクを前歯でカリッと噛み砕いた。
――シャクッ。
「……ん。胃袋に火が入ったぜ。血が巡る」
五臓六腑がカッと熱くなり、動体視力、筋緊張、空間把握能力が、戦闘態勢の極限へと跳ね上がる。
鷹人は左腕の金属製腕時計のバックルをカチリと外し、分厚いステンレスのコマを左手の拳へグルグルに巻き付けた。
「仲間をオモチャにして再生数稼ぎのダシに使うような外道にはな……説教なんざ一言も要らねぇ。物理で骨ごと叩き折って、現場のケジメを教えてやるよ」
静かに燃え盛る現場作業員の怒り。
ポポロ村の境界線を舞台に、命を背負う本物の技術者と、数字に踊る偽りの勇者たちの全面戦争が、幕を開けようとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
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