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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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EP 2

課金勇者ゼロスと、妖刀の野心家ミラースの接近

 静寂に包まれたポポロ村の北門前で、乾いた硬質な金属の着火音が鋭く響き渡る。

 ――カチッ、シュボッ。

 親指の腹でヤスリを無造作に弾く。

 取り出したのは、地球の百円均一ショップで調達した、何の変哲もない黄色いプラスチック製の使い捨てライターだ。

 唇にくわえた紙巻きタバコの先端へ橙色の炎を近づけ、深く煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 青空へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。

 ツンとしたタバコの香りが、朝露を含んだ冷涼な空気を心地よく解きほぐしていく。

 赤城鷹人は、防壁の脇に仮設された木製ベンチに腰を下ろし、左腕の傷だらけの金属製腕時計に目をやった。時刻は午前八時二十分。

「おい、イグニスとフェイトの兄ちゃん、街道の定期巡回に出てからまだ三十分も経ってねぇな」

 鷹人は紫煙をくゆらせながら、北の地平線を見据えていた。

 空はどこまでも高く澄み渡っている。だが、自衛隊施設科(工作部隊)少尉として数々の修羅場を潜り抜けてきた男の野生の嗅覚が、遠く北の山脈の稜線から流れてくる「不自然な鉄と油の臭気」、そして「作為的な殺意」を捉えて離さなかった。

 その時、村長公邸の方向から、タローマン特注の安全靴をパタパタと鳴らしながら駆け寄ってきたのは、新村長・月兎族のキャルルだった。

 胸元の人参刺繍ハンカチをギュッと握りしめ、長い純白の兎耳をピーンと緊張させている。

「鷹人さん! 自警団の長距離哨戒用魔導センサーに、異常な反応が出たの! 北の緩衝地帯を抜けて、フルプレートの私兵軍団――約百名が、ものすごい速度で当村へ向かって直進してきてる!」

「私兵軍団、ねぇ……。三大国の正規軍じゃないのか?」

「うん……! 旗印はどこの国のものでもない『黄金の剣と天秤』。それに、部隊の先頭には、帝都の冒険者ギルドで最近急激に名前を売り出している『課金勇者ゼロス』の反応があるって……!」

 キャルルがタブレット端末を覗き込みながら、青ざめた顔で告げた。

 そこへ、純金算盤『十露盤』を小脇に抱えた猫耳商人のニャングルが、真鍮のキセルをガリッと前歯で噛み鳴らしながら割り込んできた。

「ゼロスやとぉ!? あの成金クズ野郎か! 帝都のギルド本部でも悪名高い男や! なんでも、正体不明の『天界のパトロン』から湯水のように魔導資金を注ぎ込まれ、ステータスを金で極限まで買い叩いて急成長したっていう、典型的な張り子の虎やないかい!」

「パトロン、ねぇ……」

 鷹人は携帯灰皿へタバコの灰を落とし、顎の無精髭を撫でた。

 先ほど感じた作為的な悪意の正体――神界のアルゴリズム特待生、炎上神ワイズの影が、徐々に輪郭を帯びてくる。

「金で買ったステータスか。一番現場で使い物にならねぇタイプだな」

「せやけど、笑い事やないで! ゼロスが引き連れとる私兵部隊の中には、もう一人、本物の化け物が混ざっとるらしいんや!」

 ニャングルが手帳の指名手配書をバチンと開いた。

「アバロン魔皇国から脱走してきた、ネフィリムの剣士――『ミラース』や! あいつは空間ごとあらゆる物質を両断するっていうユニークスキル『ソード』の使い手でな、手にした妖刀『無銘・断絶』は、ミスリルだろうが神聖結界だろうが紙屑みたいに切り裂く凶器や! なんでそんな連中が、こんな僻地のポポロ村に押し寄せてくるんや!?」

「理由は単純だろ」

 鷹人は紫煙をゆっくりと吹き出し、冷徹な目で街道の先を射抜いた。

「こっちの現場の飯と重機が、向こうの机の上の数字(再生数)を邪魔したからだ。……イグニスたちと鉢合わせなきゃいいがな」

 ***

 その頃――ポポロ村から北へ五キロ、白樺の原生林を抜ける砂利の街道。

 ――カラン、コロンッ。

「……よしッ! 表だ! 能力二倍、運気二倍! 今日の俺はツイてるぜ!」

 青銅の記念コインを親指で弾き、キャッチした銀髪の青年フェイトが、得意げにミスリルソードの柄を握り直した。

 その隣では、身の丈二メートルを超える竜人イグニスが、鷹人に放熱フィンを削り出してもらったばかりの愛斧『クリムゾン・スラッシャー』を肩に担ぎ、鼻息荒く歩いている。

「おうフェイト! 今日は調子良さそうじゃねぇか! 街道の巡回なんざサクッと終わらせて、昼飯はタローマン前の屋台で炙りニンニクラーメンを特盛でキメようぜ!」

「いいですね! 鷹人さんの直火ニンニク、一度食ったら忘れられませんからね〜」

 二人がそんな呑気な会話を交わしていた――その瞬間だった。

 ――ズゥゥゥゥゥンッ……!

 大気を切り裂くような、禍々しく不快な重圧が街道全体を包み込んだ。

 前方の森の奥から、土煙を巻き上げながら現れたのは、全身を純白と黄金の豪奢なプレートメイルで包んだ百名を超える完全武装の私兵集団。

 そして――その中心を、金髪をオールバックに撫で付けた青年が、嘲笑を浮かべながら闊歩していた。

 身の丈を超える巨大な神聖大剣を軽々と片手に提げ、全身からは湯水のような神素のオーラが立ち上っている。

 炎上神ワイズの操り人形――『課金勇者ゼロス』である。

 さらにその傍らには、漆黒の着流しをまとい、腰に紫黒の妖気を放つ長大な日本刀を差した銀髪の美丈夫――ネフィリムの剣士ミラースが、退屈そうに歩を合わせていた。

 頭上には、天界『ゴッドチューブ』へとリアルタイム中継を繋ぐ、無数の不可視の魔導配信ドローンが不気味に滞空している。

「ハハッ! 見ろよミラース、街道の真ん中にトカゲとモブ剣士が一匹ずつ転がってるぜ!」

 ゼロスが下品な笑い声を上げ、大剣の切っ先をイグニスたちへ向けた。

「おい、ポポロ村のゴミども! 俺の名は勇者ゼロス! 神界の啓示を受け、貴様ら悪徳魔族と内通するテロ要塞を滅ぼしに来てやった正義の執行者だ! ……安心しろよ、お前らが無様に首を刎ねられる瞬間は、全宇宙の神々へ最高のエンタメとして生配信されてるからなぁッ!」

「な、なんだぁてめぇはぁッ!?」

 イグニスが赤熱する瞳で大斧を構え、前に踏み出す。

「ポポロ村をテロ要塞だと!? 適当なホラ吹いてんじゃねぇぞ金ピカ野郎! 村には手取り十四万で必死に生きてる俺様や、優しいキャルル村長、それに世界一の腕を持つ鷹人の旦那がいるんだ! 一歩たりとも通さねぇぞ!」

「……フン。羽虫が囀るな」

 冷淡な声とともに、黒い着流しの剣士ミラースが、音もなく前に進み出た。

 その細い指先が、妖刀『無銘・断絶』の鯉口をカチリと切る。

「ゼロス、前座の掃除は私がやろう。……空間ごと、切り刻んでやる」

「おいフェイト! 油断すんな、こいつら本気で殺しに来てやがるぞ!」

「わ、分かってます! コイントス……もう一発当たれぇぇッ!」

 フェイトが再びコインを天高く弾いた――その刹那だった。

 ――チャリン。

 落ちてきたコインの裏面が、無情にも泥の上に転がった。

「げっ……ウラ!? な、能力半減……全身に脱力感が……!?」

「アホかフェイトォォッ! こんな時に寝込んでんじゃねぇぇッ!!」

 イグニスが絶叫し、全身の竜闘気を爆発させた!

 鷹人に施された放熱フィンが紅蓮の熱気を効率よく循環させ、大斧の刃先に超高熱の火炎が渦を巻く!

「どけぇぇぇいッ! 『紅蓮竜王破』ッッッ!!!!」

 渾身の力で振り下ろされた、巨大な火炎の大斧。

 だが――ミラースは眉毛一本動かさなかった。

 腰の妖刀が、閃光のように抜刀される。

 ユニークスキル『ソード』――発動。

 ――スパーーーンッッッ!!!!

 激突の金属音すら存在しなかった。

 ミラースの刃が触れた瞬間、イグニスが放った巨大な火炎ブレスの奔流が、そして大斧から放たれた衝撃波そのものが、大気ごと、空間ごと、紙のように真っ二つに両断されたのだ!

「な……ッ!? 炎が……空間ごと斬られた……!?」

「終わりだ、トカゲ」

 ミラースの残光が、イグニスの懐へと滑り込む。

 不可視の真空刃が、イグニスの頑強な竜鱗の胸板を、そして背後のフェイトの肩口を、容赦なく深々と切り裂いた!

 ――ザシュウウウッッッッ!!!!

「ぐあああああっ!?」

「ぎゃあああッッ!?」

 鮮血が白樺の木々へと派手に飛び散り、二つの巨躯が街道の砂利の上へと無残に吹き飛ばされた。

 イグニスの胸からはドクドクと血が溢れ出し、大斧が手から滑り落ちて地面へ突き刺さる。

「ケハハハハッ! 見たかよ全宇宙のリスナーどもぉッ!」

 ゼロスが大剣を天に掲げ、滞空する配信ドローンへ向けて下品なドヤ顔を晒した。

「これが正義の鉄槌だ! 悪党どもが虫ケラみたいに血を流して転がってるぜぇ! さあ、スパチャを投げろ! 次はポポロ村の防壁ごと、あの村の連中を全員ミンチにしてやるぜぇぇッ!!」

 倒れ伏すイグニスは、霞む視界の中で、泥にまみれた手で地面を必死に掻きむしった。

「く……そっ……! 旦那……逃げ……て……」

 ドス黒い悪意と暴力の軍勢が、血の跡を残しながら、ポポロ村の境界線へと確実に迫りつつあった――。

読んでいただきありがとうございます。

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