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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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EP 9

純金100kgの塩漬けシェルター増築と、リーザの悪巧み成敗

 地下要塞の冷涼な空気の中に、硬質で澄んだ金属の着火音が鋭く響き渡る。

 ――カチッ、シュボッ。

 親指の腹でヤスリを無造作に弾く。

 取り出したのは、地球の百円均一ショップで調達した、何の変哲もない黄色いプラスチック製の使い捨てライターだ。

 唇にくわえた紙巻きタバコの先端へ橙色の炎を近づけ、深く煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 地下のコンクリート壁へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。

 ツンとしたタバコの香りが、漂っていたカビと湿った空気の匂いを心地よく上書きしていく。

 赤城鷹人は、村長公邸の地下深くに広がる防空シェルターの最深部で、腕まくりをした作業ジャケットのポケットに両手を突っ込んでいた。

 左腕の傷だらけの金属製腕時計に目をやると、時刻は午後二時十五分。

 その目の前では、猫耳商人のニャングルが、純金算盤『十露盤』を抱きかかえながら、青ざめた顔で胃のあたりを押さえていた。

「アカン……アカンで、鷹人はん……! ウチの胃壁にまた新しいクレーターが穿たれそうや……! 見てみぃ、この金色の山を!」

 ニャングルが震える指先で指し示した防空防壁の奥。

 そこに積まれていたのは、眩いばかりの神聖な輝きを放つ、巨大な直方体の金属塊――『純金百キログラムのインゴット』が、整然と数十本も積み上げられた黄金のピラミッドだった。

 エルフ令嬢ルナ・シンフォニアの元へ、母樹である「世界樹」から毎月お小遣い(年金)としてテレポートで送られてくる現物資産である。

「人口千人のポポロ村の年間総生産(GDP)は約六億七千万円やぞ! そこへ毎月毎月、数億円相当の純金が市場へジャバジャバ流出してみぃ! 金の価値が紙屑同然に大暴落して、パン一個買うのにリヤカーいっぱいの金貨が要るようなハイパーインフレ直行やないかい!!」

「だからこうして、地下シェルターの最深部に極秘で『塩漬け(永久封印)』にしてるんだよね〜」

 タローマン特注の安全靴をコツコツと鳴らしながら歩み寄ってきたのは、月兎族の新村長・キャルルだった。

 胸元の人参刺繍ハンカチで額の汗を拭い、困ったように長い純白の兎耳をパタパタと揺らしている。

「ルナちゃん、悪気はまったくないんだけど……『お金が足りないなら世界樹からいくらでも降らせますわ♡』って言ってくるから、本当に心臓に悪くて……。でも、今までの保管庫がもう限界で、扉が歪んで鍵が閉まらなくなっちゃったの」

「なるほどな。金が多すぎて金庫が悲鳴を上げてるってわけか。贅沢すぎる現場のトラブルだな」

 鷹人は携帯灰皿へタバコの灰を落とし、歪んだ防護扉を安全靴の爪先でコツンと蹴った。

「ヒンジの耐荷重設計が完全に狂ってやがる。金塊の自重で床スラブが沈下して、建具が斜めに噛み込んでるぞ。……よし、この区画をまるごと掘り広げて、地球のメガバンク並みの『超耐圧防盗シェルター』にリノベーションしてやるよ」

「頼むで鷹人はん! 金庫のセキュリティ強化なら、ウチの銀行の特命予算から資材費全額出したるわ!」

「資材なら現場のストックで十分だ。……段取り八分、仕事二分だぜ」

 鷹人は短くなったタバコを携帯灰皿へねじ込むと、頭の中のユニークスキル【リサイクルマスター】を起動した。

 所持スクラップPtは、前回の冷凍物流網開通や始祖竜ロードの整備により【116,970 Pt】という天文学的な数値を誇っている。

 カタログから「地球の銀行解体資材・防盗金庫設備」を一気に検索する。

(地球の大手都市銀行の本店ビル解体でスクラップヤードに引き取られた、超極厚防盗耐火金庫扉……それに、特殊防刃・防爆複合鋼板……フレームもダイヤルロックも、極上の日本規格だ!)

――――――――――――――――――――

【所持スクラップPt:116,970 Pt】

・カタログ選択:【都市銀行解体資材・防盗金庫耐火設備カテゴリー】

・カタログ選択:【小型建設機械・バッテリー駆動フォークリフトカテゴリー】

【召喚リスト】

・クマヒラ製・超防盗耐火金庫扉(厚さ500ミリ・重量8トン・防爆耐熱鋼仕様)(消費:3,000Pt)

・防刃防爆・超硬質セラミック複合ライナープレート(20枚一式)(消費:1,500Pt)

・豊田自動織機製・2.5トン電動フォークリフト(バッテリー満充電・要配線整備)(消費:1,200Pt)

・業務用インバーターアーク溶接機&特殊肉盛り溶接棒一式(消費:300Pt)

合計消費Pt:6,000 Pt ――【召喚実行】

――――――――――――――――――――

 ――ドゴォォォォォォンッッッッ!!!!

 地下空洞の床が、凄まじい地響きとともに揺動した。

 空間がグニャリと歪み、鈍い銀光を放つ厚さ五十センチの超巨大な鋼鉄扉と、コンパクトな電動フォークリフト、そして整然と並んだ特殊装甲板が出現した!

「ひゃああああっ!? な、なんという分厚い鉄の塊だ……!」

 キャルルが真紅の瞳を丸くして息を呑む。

「フォークリフトの配線直結完了だ。……マンミア、イグニス! 爪の上に装甲板を載せろ! 壁面にアンカーを打ち込んで一気に溶接するぞ!」

「了解であります、鷹人殿!」

「おうよッ! 任せとけぇッ!」

 鷹人は手袋をはめると、フォークリフトの操縦桿を滑らかに倒した。

 ――ウィィィィィン……ガシャンッ!

 モーターの心地よい駆動音とともに爪が持ち上がり、重量数百キロの特殊プレートがミリ単位の狂いもなく壁面へ押し当てられていく。

 鷹人は溶接面をパチンと跳ね下げ、トーチの先端を母材へと接触させた!

 ――バチチチチッ! バシュウウウゥゥッ!!

 地下シェルターの闇を切り裂く、青白いアーク放電の閃光と火花!

 立ち込めるオゾンと焼けたフラックスの刺激臭。

 自衛隊施設科(工作部隊)仕込みの正確無比な溶接技術によって、八トンの防盗扉とセラミック装甲板が、岩盤深部のアースアンカーと一体化してガチガチに結合されていく。

 所要時間――わずか一時間半。

 ドラゴンのブレスでも、魔導戦車のゼロ距離砲撃でもビクともしない、大陸最強の「塩漬け地下金庫」が完成した。

「ふぅ……。これで金庫の建て付けは完璧だ」

 鷹人は溶接面を跳ね上げ、額の汗を作業ジャケットの袖で無造作に拭った。

 ――ガサゴソ……コトッ。

 その時だった。

 完成したばかりの金庫室の奥、純金インゴットが積まれた影から、何やら怪しげな物音が響いた。

「……ん? おい、誰か奥に入り込んでんのか?」

 鷹人が眉をひそめた瞬間――。

「ふ、ふへへ……! 見つけましたわ! 神聖なる純金の山ですわぁ……♡」

 暗がりから這いずり出てきたのは、見慣れた小豆色のヨレヨレ芋ジャージを身にまとい、足元に便所サンダルを履いた人魚姫――リーザ・シーラン・リヴァイアサンだった!

 その両脇には、スーパー『タローマート』の薄いビニール袋。

 中には、道端で拾ってきたような白くピカピカ光る小石――ルナが錬金術で生成した「三日でただの石に戻る偽金貨」が、ジャラジャラと大量に詰め込まれていた。

 そして手にした紙ナプキンには、歪んだ文字でびっしりと怪しげな計画がメモされている。

『コンデ・フィン・スマン式・3日偽金ロンダリング大作戦!

 ①ルナ様の偽金をこの金庫の本物の純金インゴットとこっそりすり替える。

 ②本物の金をゴルドスマイル銀行でルナPayに全額チャージ!

 ③石に戻るまでの最初の24時間以内に、帝都のデパートで高級寿司と衣装を買い占めて完全勝利!』

「…………」

 静寂が、地下金庫を満たした。

「あ」

 リーザがピタリと動きを止め、紙ナプキンを握りしめたまま、間抜けな顔で鷹人たちを見上げた。

「り、リーザちゃん……?」

 キャルル村長が一歩前へ踏み出す。

 その透き通るような真紅の瞳から、スーッと完全に光(ハイライト)が消え失せていた。

「キャ、キャルル様……? こ、これはその……経済の勉強をしておりまして……!」

「へぇ〜……。偽金を本物の純金とすり替えて、ウチの幼馴染の銀行でマネーロンダリングしようとしてたんだ……? ふふっ、そっかぁ……」

 キャルルは満面の笑顔を浮かべたまま、腰のホルダーから愛用のダブルトンファーをカチリと引き抜いた。

「……グダグダ言うと、顎砕いちゃおっかな〜〜〜♡」

「ヒィィィィッ!? 瞳が! 瞳の奥が完全に狂戦士(バーサーカー)ですわぁぁッ!?」

 さらに背後の暗闇から、寸分の狂いもない黒漆の燕尾服をまとった人狼執事リバロンが、音もなく滑り出してきた。

 白手袋の指先には、鋼鉄をも両断する生体闘気を帯びた薄い名刺が一枚、ピタリと挟まれている。

「おやおや、リーザ様。当ポポロ村の財政秩序に対する明白な破壊工作、並びにゴルド商会に対する信用毀損未遂の現行犯でございますねぇ。……シーラン国の女王陛下へ、即時送還の追伸をお送りいたしましょうか?」

「いやぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」

 絶叫とともに、リーザは持っていたビニール袋を放り出し、見事なフォームで地面を膝で滑走した!

 ――ズザザザザザザザッッッッ!!!!

 光速スライディング土下座!

 キャルルとリバロンの足元へ頭を擦り付け、滝のような涙と鼻水を流しながら絶叫する。

「ごめんなさいぃぃぃッ! 出来心なんですの! タローマートの半額シールのお刺身じゃなくて、回らないお寿司が食べたかっただけなんですのぉぉッ! 深海に送還されるのだけは勘弁してくださいましぃぃーーッッッ!!」

 ニャングルがやれやれと首を横に振り、真鍮のキセルをガリッと噛んだ。

「まったく……この寄生魚は、隙あらば悪知恵ばかり働きよる。キャルル、リバロン殿、こいつの処分はどうすんのや」

「うん! 死刑……じゃなくて、奉仕活動だね!」

 キャルルが笑顔でトンファーを収めた。

「ポポロ村の外周道路全域、十キロメートルの雑草むしり! もちろん完全無給! 根っこまで手作業で綺麗に抜くまで、村長邸への立ち入りは禁止だよ!」

「さらに、本日の昼食の配給パンの耳は、規定の半分へと削減いたします」

 リバロンが冷酷無比な笑顔で手帳にペンを走らせる。

「ガビーン……! じゅ、十キロの草むしり……! パンの耳半分……! 私の華奢なお肌がボロボロになってしまいますのぉぉ……!」

 リーザは床に突っ伏してミミズのようにのたうち回った。

 そんな騒動を眺めながら、赤城鷹人はやれやれと苦笑いし、作業ジャケットの胸ポケットへ手を伸ばした。

 取り出したのは、大粒の青森県産ニンニク。

 手際よく薄皮を剥ぎ取ると、あの黄色い百円ライターを取り出し、親指でヤスリを弾いた。

 ――カチッ、シュボッ。

 揺らぐ小さな橙色の炎。

 剥きたての生ニンニクの先端へ、直火をじっくりとあてがう。

 ――チリチリチリ……ジュワッ。

 パチパチと音を立てて香ばしい狐色の焼き目がついていく。

 滲み出る濃厚な植物油のエキス。

 直後、冷え切った地下金庫の空気を一瞬で塗り替えるほどの、猛烈に甘く香ばしい焦がしニンニクのアロマが空間全体へ爆散した!

「うおっ……!? な、何だこの芳醇な香りは……!?」

「胃袋を直接ワイヤーで引っ張られたような、たまらん匂いだぞ……!」

 泣き喚いていたリーザの鼻腔が、ピクピクと大きく広がった。

 鷹人は火を吹き消すと、軽く焦げ目のついた熱々のニンニクを前歯でカリッと噛み砕いた。

 ――シャクッ。

「……ん。胃袋に火が入ったぜ。血が巡る」

 五臓六腑がカッと熱くなり、指先まで心地よい活力が満ちていく。

 鷹人はもう一片のニンニクを手早く直火で炙ると、道具箱から取り出したアルミホイルを開いた。

 中に入っていたのは、今朝ダンプの荷台で握っておいた、米麦草の巨大な塩おにぎりだ。

 鷹人は炙りニンニクを包丁の腹でバチン! と押し潰し、醤油を垂らしておにぎりのてっぺんに豪快に塗りつけた。

「ほらよ、リーザ。現場のペナルティを受ける前に、一本腹に入れときな」

 鷹人が差し出した熱々のおにぎりを、リーザは涙目で受け取った。

「た、鷹人の旦那様……! 私のような悪党に、情けの差し入れを……!?」

「泥水啜る覚悟があるなら、コソ泥なんざしねぇで、額に汗して堂々と稼ぎな。……草むしりも立派な現場の仕事だぜ」

「いただきますぅーーッ!!」

 リーザはおにぎりに勢いよくかぶりついた!

 ――ハフッ、ハフッ、ジュワッッッッ!!!!

「――っっっ!?!?!?」

 リーザのエメラルドグリーンの瞳がボッと見開かれた!

 直火で炙られたニンニクの強烈なパンチと、焦がし醤油の香ばしさ! それがふっくら炊き上がった米麦草の素朴な甘みと融合し、飢え切っていた胃袋をガツンと満たしていく!

「う……う、うんめぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!! なんですかこれぇぇッ!? ただのおにぎりなのに、身体の芯からマグマのような力が湧いてきますのぉぉッ!!」

 リーザは涙を流しながらおにぎりを一瞬で平らげると、立ち上がってビシッと敬礼した。

「私、やりますわ! 十キロどころか二十キロでも草をむしり倒して、立派に更生してみせますのぉぉッ!!」

 便所サンダルをパタパタと鳴らしながら、リーザは猛烈な勢いで地上へとダッシュしていった。

 その光景を見届けた瞬間、鷹人の頭の中に澄み切った軽快な電子音が鳴り響いた。

 ――ピロリロリンッ♪

『大規模善行を検知しました』

『事象:村落最重要資産(純金インゴット群)の防盗・耐震金庫シェルター増築による経済崩壊危機の完全阻止』

『事象:村内不穏分子(人魚姫リーザ)の金融犯罪未然防止および適正労働教育の執行』

『判定:極めて高度な防護工学技術と人道指導による、地域秩序の完全防衛』

『スクラップPt +6,500Pt を獲得しました』

(よしよし、消費分を差し引いても所持ポイントは【117,470 Pt】か。手堅く大台を更新できたな)

 鷹人は胸の中でニヤリと笑うと、新しいタバコを取り出して唇にくわえた。

 ――カチッ、シュボッ。

 親指でヤスリを弾き、揺らぐ橙色の炎で火を灯す。

 紫煙をゆっくりと地下の空気へ吐き出す鷹人。

「言葉が通じなくても、拳と美味いメシ、あとはエンジン音があれば世界中どこでも生きていける。……さて、ニャングル」

「なんや、鷹人はん?」

「地下のインフラも金庫も整った。シーランからの冷凍マグローザも山ほど届いてる。……そろそろ、村中巻き込んだ『デカい現場の打ち上げ』といこうじゃねぇか」

 鷹人の不敵な笑みに、ニャングルの猫耳がピクリと跳ね上がり、満面の笑みが広がった。

「へへっ、待ってましたや! ポポロ村名物・超特大回転寿司の開店準備、さっそく取り掛かるでぇぇッ!!」

 限界集落の地下に築かれた鉄壁の金庫と、懲りない居候たちの騒動を乗り越え、ポポロ村の経済圏は、いよいよ未曾有の「食と宴の祝祭」へと向かって動き出すのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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