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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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EP 4

炎魔将軍グレンの極秘視察! インフラ修繕魔将との意気投合

 地下二百メートル、ドンガン密輸坑道の奥底から押し寄せてきたのは、肌をチリチリと焦がすような超高密度の熱波だった。

 坑道の分厚い岩盤がミシミシと共鳴し、先ほどまで静まり返っていた闇の向こうから、一定のリズムを刻む重厚な軍靴の足音が近づいてくる。

 ――ズシン、ズシン、ズシン……!

 ドワーフの鉱夫たちがツルハシを落とし、慌てふためいて防壁の陰へと隠れた。

 猫耳商人のニャングルに至っては、純金算盤『十露盤』を胸に抱きしめ、毛並みを限界まで逆立てて悲鳴を上げる。

「ひ、ひえぇぇぇッ! 本物や……! アバロン魔皇国四天王筆頭、炎魔将軍グレン閣下が本当に単身で乗り込んできよった! あの御仁は魔王軍の軍事予算と総務監査を一手に握る、大陸で一番話が通じない鉄血のリアリストやぞ! 密輸坑道が見つかったら、違法脱税の現行犯で全員まとめて灰にされるぅぅッ!」

「落ち着きなさい、ニャングル殿! いざとなれば、この新調された『アグニ』で食い止めます!」

 マンミアがパイルバンカーのシリンダーをガチリとロックし、前脚を踏ん張って立ち塞がる。

 だが、赤城鷹人だけは作業ジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、だるそうに首を回した。

「おいおい、朝っぱらから大騒ぎすんなっての。……殺気配って歩いてるようには見えねぇぞ」

 赤熱した陽炎の向こうから、ついにその偉容が姿を現した。

 燃え盛る篝火のような鮮烈な赤髪を短く刈り込んだ、身の丈二メートル近い堂々たる偉丈夫。

 背中には、並の戦士なら持ち上げることすら不可能な巨大刀身――四天王の証たる大剣『焔獄刃』を背負っている。

 しかし――その身なりは、およそ一軍を率いる将軍のそれとはかけ離れていた。

 豪奢な鎧兜はどこにもなく、着ているのは腕まくりされた機能的なシャツに、黒い事務用アームカバー。鼻の頭には銀縁の老眼鏡がちょこんと乗り、指先には長年の事務作業で培われた分厚い「電卓ダコ」が刻まれている。

 手にした黒革のバインダーには、びっしりと数字が書き込まれた羊皮紙が挟まれていた。

「……ふむ。連絡では破砕帯の落盤による全線不通と聞いていたのだが、何だこの強固な支保工は」

 グレンは威嚇するマンミアや怯えるドワーフたちを一瞥もせず、老眼鏡を指先でクイと押し上げると、鷹人が施工したばかりの坑道の天井を食い入るように見つめた。

 そして、手袋を外した素手でチタン・インコネル複合プレートをペタペタと触り、ノギスを取り出してボルトのピッチを測り始めた。

「……信じられん。偏荷重の集中する破砕帯に対し、剛性支持ではなく可縮アーチと超耐圧プレートを組み合わせ、地圧のベクトルを側壁下部へ逃がしている。さらに、自穿孔ロックボルトの打設角度は正確無比な三十五度。熱処理された溶接ビードにはスラグの巻き込みが一切なく、分子レベルで母材と一体化している……。工期短縮と安全率の最大化を極限まで両立させた、非の打ちどころのない設計だ。……一体どこの宮廷工匠が図面を引いた?」

「図面なんざ頭の中だよ。現場の岩肌を見りゃあ、鉄をどう組めばいいかくらい自然と分かる」

 静かな低音が響いた。

 グレンがハッと顔を上げると、そこには作業着姿でタバコをくわえた青年――赤城鷹人が立っていた。

 暗がりの中で、硬質で澄んだ金属の着火音が鋭く木霊する。

 ――カチッ、シュボッ。

 親指の腹でヤスリを無造作に弾く。

 安っぽい黄色いプラスチック製の百円ライターから灯った橙色の炎で、タバコの先端に火を移した。

 深く煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

「…………ふぅーーーーっ」

 立ち上る一筋の紫煙。

 ツンとしたタバコの香りが、グレンの纏う熱気と混ざり合い、張り詰めていた空気をスーッと解きほぐしていく。

「……貴様が、ポポロ村の専属エンジニアか」

「赤城鷹人だ。元自衛隊の工作部隊員で、しがない現場作業員だよ。……魔皇国の総務部長さんが、わざわざこんな埃っぽい現場の裏口まで何の用だ?」

 グレンは老眼鏡を外し、深いため息とともに肩の力を抜いた。

 背中の大剣を床へドカリと下ろすと、疲労の滲む顔で頭を抱える。

「……視察だよ、現場視察。魔王城の上層部どもが『ドンガンからの耐魔装甲の納品が遅れている、今すぐ軍勢を率いて武力接収してこい』などと無茶苦茶をほざくのでな。現場の状況も確認せずに兵を動かすなど、経費と兵站の無駄遣いも甚だしい。私が直接足を運んでみれば、案の定、地質構造の劣化による純粋な土木トラブルではないか」

「へぇ……。大将自ら現場のケツを拭きに来たってわけか。話の分かる役職者で助かるぜ」

 鷹人が苦笑いすると、グレンは堰を切ったように愚痴をこぼし始めた。

「全くだ! うちの女帝(ラスティア)ときたら、地球のアイドルに現を抜かして『遠征費が足りないから防壁改修予算を回して♡』などとぬかしおる! かつて世界神から『勇者の村を焼き払って復讐劇を演出せよ』と命じられた時もそうだ。現地に行ってみれば、村の石橋は崩落寸前、民は痩せ細って生きるのが精一杯。そんな貧困集落を焼いて何の軍事的・経済的合理性があるというのだ! 私は激怒して大剣で石を切り出し、橋を完璧に修繕し、用水路を掘り直して帰還してやったわ! 現場のインフラを軽視する奴に、組織を統べる資格など断じてない!」

「違ぇねぇ」

 鷹人はニヤリと笑い、強く頷いた。

「机の上の数字と権力欲しか頭にねぇ上層部は、どこの世界も同じだな。現場のボルト一本、橋の継ぎ目一つの重要性を知らねぇ奴に限って、無謀な突貫工事や戦争を命じたがる。……だが、どんな高尚な理想も、足元のインフラが崩れたら一瞬で紙屑だ。サン=テグジュペリの『人間の土地』にもある通り、大地に刻まれた現場の真実だけが、人間を真っ当に生かすんだよ」

「――ッ! 貴様……その若さで、そこまで現場の本質を理解しているのか……!」

 グレンの赤い双眸が、職人特有の熱い光を帯びて見開かれた。

 二人の間に、種族も世界も超えた「現場の技術屋同士」の強烈なシンパシーが走る。

「おい、親方! そろそろ暖気が終わっただろ」

 鷹人が振り返って合図を出すと、ドワーフ隊長がクローラドリルの操縦席でスロットルレバーを煽った。

 ――ズドォォォォォォォンッッッッ!!!!

 坑道全体を揺るがす、直列6気筒ターボディーゼルエンジンの重厚な咆哮!

 純粋な内燃機関の爆発が生み出す、腹の底を直撃する規則正しい重低音と、焼けたオイルの匂い。

 グレンはその振動を全身に浴び、鳥肌を立てて息を呑んだ。

「おお……! 魔力炉の不安定な波動とは違う、純粋な物理の爆発が生み出す命の鼓動……! 素晴らしいトルクだ……!」

「言葉が通じなくても、拳と美味いメシ、あとはエンジン音があれば世界中どこでも生きていける。……俺の現場の信条だ」

 鷹人は灰皿へタバコをねじ込むと、作業ジャケットの袖を捲り上げた。

「腹が減っちゃあ、いい議論もできねぇ。総務部長さん、ちょうど現場の上がりの時間だ。ドワーフの炉端を借りて、一杯やっていかねぇか?」

「……受けて立とう。現場を語るに、酒と飯以上の肴はあるまい!」

 ***

 ドワーフの前線鍛冶場に据え付けられた、巨大な黒皮鉄板。

 鷹人は頭の中のユニークスキル【リサイクルマスター】を起動した。

(地球の食肉市場で規格外として弾かれた極厚の国産豚バラ肉ブロック、それにポポロ特産の肉厚な肉椎茸……消費ポイント、わずか50Pt)

――――――――――――――――――――

【所持スクラップPt:95,800 Pt】

・カタログ選択:【流通廃棄食材・規格外特上肉カテゴリー】

【召喚リスト】

・国産極厚豚バラ肉スライス(厚さ10ミリ)3キロ(消費:30Pt)

・地球の特選濃口本醸造醤油&本みりん一升瓶(消費:20Pt)

合計消費Pt:50 Pt ――【召喚実行】

――――――――――――――――――――

 ――ヒュンッ!

 作業台の上に、見事なサシの入った極厚豚バラ肉の山が出現した。

 続けて鷹人は、胸ポケットから大玉の青森県産ニンニクを三房取り出すと、薄皮を素早く剥ぎ取った。

 あの黄色い百円ライターを取り出し、親指でヤスリを弾く。

 ――カチッ、シュボッ。

 揺らぐ小さな橙色の炎。

 剥きたての生ニンニクの先端へ、直火を直接あてがった。

 ――チリチリチリ……ジュワッ。

 直火に炙られたニンニクの表面がパチパチと音を立て、香ばしい狐色の焼き目がついていく。

 滲み出る濃厚な植物油のエキス。

 直後、鍛冶場の煤煙を一瞬で吹き飛ばすほどの、猛烈に甘く香ばしい焦がしニンニクのアロマが空間全体へ爆散した!

「うおぉ……! 何だこの芳醇な香りは……!? 生の刺激臭が消え、果実のような甘みが凝縮されている……!」

 グレンが喉を大きく上下させる。

 鷹人は包丁の腹で炙りニンニクをドカン! と叩き潰すと、カンカンに熱された鉄板の上へ純正ラードとともに投入した。

 ――ジュウウウウウウウウッッッッ!!!!

 そこへ、厚さ十ミリの極厚豚バラ肉と、手のひらほどもある巨大な『肉椎茸』を一気にぶち撒ける!

 跳ね上がる脂の飛沫、立ち上る白い蒸気。

 仕上げに、地球の特選濃口醤油と本みりんを鍋肌へ回し入れた!

 ――ジョワッッッッッッ!!!!

 焦がし醤油と炙りニンニク、豚の甘美な脂と肉椎茸のエキスが融合した、究極の湯気が天井へ向けて噴き上がる。

「ほらよ、グレンの旦那! 冷めねぇうちに鉄板から直でかっ喰らいな!」

「いただきますッ!」

 グレンは鉄箸を伸ばし、飴色に照り輝く豚バラ肉と肉椎茸を一切れずつ掴み、口の中へ放り込んだ。

 ――ハフッ、ハフッ、ジュワッッッッ!!!!

「――!!!!????!!!!」

 グレンの全身が激震した!

 赤髪がボッと音を立てて逆立ち、背中の筋肉が隆起する。

 カリッと香ばしい豚バラの皮目から溢れ出す濃厚な肉汁、アワビのようにコリコリとした肉椎茸の深い旨味、そして何より――直火で炙られたニンニクの暴力的なパンチと焦がし醤油のキレが、徹夜続きで擦り切れていた五臓六腑をガツンとぶん殴ってくる!

「う……う、うんめぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!! なんだこれはぁぁッ!? 胃袋に直撃する、圧倒的な生命力……! 余計な飾り気配りの一切ない、これぞ現場を支える真の男飯ではないかぁぁッ!!」

「こいつで流し込みな!」

 鷹人が差し出したのは、竹筒になみなみと注がれたポポロ村の度数四十度の地酒『イモッカ』。

 グレンは竹筒を両手で受け取ると、喉を鳴らして一気に煽った。

 ――グビッ、グビッ、プハァァッッ!!

「くぅぅぅ……ッ! 染み渡る! 日頃の予算折衝の胃痛も、魔王城の理不尽な書類仕事も、全てが綺麗さっぱり吹き飛んでいくようだ……ッ!!」

「だろ? 現場で汗流して美味い飯を食えば、大抵のわだかまりなんざ消し飛ぶんだよ」

 鷹人もイモッカを煽り、炙りニンニクを前歯でカリッと噛み砕いた。

 ――シャクッ。

「……ん。いい現場だ。血が巡るぜ」

 ドワーフたちも、マンミアもイグニスも、鉄板を囲んで熱々の肉を貪り食い、歓喜の笑声を上げる。

 ニャングルがキセルを咥えながら、ホッと胸を撫で下ろした。

「ふぅ……一時はどうなるか思うたけど、鷹人はんはほんまに猛獣使いの天才やで……」

 その時、頭の中に澄み切った軽快なファンファーレが鳴り響いた。

 ――ピロリロリンッ♪

『特大規模善行を検知しました』

『事象:アバロン魔皇国首脳(炎魔将軍グレン)との技術的・軍事的外交折衝の平和的妥結』

『事象:国境地下インフラの安全性確立および国家間武力衝突の完全回避』

『判定:極めて高度な現場工学と野戦炊事による、平和的相互理解の促進』

『スクラップPt +8,000Pt を獲得しました』

(よしよし、これで所持ポイントは【103,750 Pt】か。ついに大台の十万ポイントを突破したな)

 鷹人が胸の中でニヤリと笑っていると、満腹になって上機嫌のグレンが、バインダーにサインを叩き込んで立ち上がった。

「鷹人殿! ドンガン密輸坑道の補強工事、我が魔皇国総務部としても全面承認とする! 耐魔装甲の納期延長も私が決済しておこう! ……また現場の風が恋しくなったら、酒とニンニクを呑みに来てもよいか?」

「いつでも来な。鉄板と七輪を温めて待ってるぜ」

 二人は固い握手を交わした。

 魔王軍の剛腕魔将すら、筋を通せば最高の現場仲間となる。

 だが――坑道に平和が戻ったのも束の間、ポポロ村の地上から、けたたましい走竜の足音とともに、リバロンからの緊急伝令が飛び込んできた。

「鷹人殿! 至急、地上へお戻りください! 深海王国シーランより、絶対君主『女王リヴァイアサン』からの公式親書が届きました! ……居候のリーザ殿に、即時本国召還の命令が下った模様です!」

「なに……? あの芋ジャージの貧乏人魚がか?」

 鷹人は紫煙をゆっくりと吹き出し、鋭い眼光を地上の空へと向けた。

 地下の次は、海。

 現場の兄ちゃん・赤城鷹人の仕事は、深海の巨大国家をも巻き込む新たな大波乱へと突き進んでいた。

読んでいただきありがとうございます。

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