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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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EP 2

頑固ドワーフ職人たちを驚愕させる「地球のデッドストック合金」

 地下二百メートルの冷え切った空気の中に、硬質で鋭い金属の着火音が響き渡る。

 ――カチッ、シュボッ。

 親指の腹でヤスリを無造作に弾く。

 安っぽい黄色いプラスチック製の百円ライターから灯った橙色の炎を、唇にくわえた紙巻きタバコの先端へ近づけ、深く煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 坑道の淀んだ空気を切り裂くように、真っ直ぐ立ち上る一筋の紫煙。

 ツンとしたタバコの香りが、湿った土埃とカビの臭いを心地よく上書きしていく。

 赤城鷹人が召喚した全長八メートルにおよぶ深緑色の鉄の怪物――『2軸油圧クローラドリル』の前には、いつの間にかドンガン地下帝国から駆けつけたドワーフの鉱山技師や鍛冶親方衆が、数十名も集まり人垣を作っていた。

 背丈は鷹人の胸ほどしかないが、樽のように分厚い胴回りと、鋼のような二の腕。長く編み込まれた顎髭をたくわえた頑固ドワーフたちは、手にした鉱山用ノギスや魔導測定器でクローラドリルを小突きながら、あからさまに鼻を鳴らした。

「おいおい、地上の小娘村長が応援を寄越したって言うから見に来てみりゃあ……なんだい、この珍妙な鉄のガラクタは!」

「魔導回路も刻まれとらん、ただの鉄板の継ぎ接ぎじゃねぇか! こんな重たいだけの鈍重なゴーレムで、天井の地圧が止められるかよ!」

「人間のヒョロガリ作業員が、タバコなんか吹かしながらドワーフの鉱山技術に口を出すなんざ、百年早ぇんだよ!」

 ドワーフたちの辛辣な嘲笑が、反響する坑道を満たす。

 傍らで純金算盤『十露盤』を抱えていたニャングルが、猫耳をペタリと伏せて青ざめた。

「ひ、ひぃぃ……! ドワーフの親方衆、めちゃくちゃ機嫌悪いで! ドンガンの職人は腕とプライドの塊やから、部外者に現場を仕切られるのを一番嫌うんや……! 鷹人はん、大丈夫かいな……!?」

 マンミアもパイルバンカー盾『アグニ』のグリップを固く握りしめ、眉をひそめる。

「鷹人殿……! 彼らは大陸随一の掘削工兵たちです。いくら鷹人殿の技術が神業とはいえ、魔導鉱山学の専門家たちを納得させるのは容易ではありませんぞ……!」

 だが――当の赤城鷹人は、眉毛一本動かさなかった。

 携帯灰皿へタバコの灰をトントンと落とすと、作業ジャケットの袖を腕まくりし、ドワーフの親方衆を平然とした目で見下ろす。

「能書きを垂れるのは、現場を収めてからにしな。……機械に魔力が宿ってなかろうが、ピストンと油圧の理屈が通ってりゃ、鉄は百万馬力の仕事をするんだよ」

 鷹人はクローラドリルのステップへ飛び乗ると、剥き出しの配線から引き出した直結コードを指先でカチリと接触させた。

 重厚なスターターモーターが、大地を抉るような唸りを上げる。

 ――キュルルルッ、キュルルルルッ……!

 直後、シリンダーの奥で高圧噴射されたディーゼル軽油に着火し、猛烈な直列6気筒ターボエンジンが咆哮を上げた!

 ――ズドォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!

 腹の底を直接震わせる、重厚極まりない内燃機関の重低音。

 頭上のマフラーから吹き上がった黒煙と、焼けたオイルの匂いが坑道全体へ満ちていく。

「な……ッ!?」

「魔力炉の光がねぇのに……なんだ、この腹の底に響く凄まじい地鳴りの鼓動はぁッ!?」

 ドワーフたちが腰を抜かしかけて後ずさる。

 鷹人は操縦席で滑らかに油圧レバーを倒した。

 ガガガガッ! と幅広の無限軌道が岩屑を踏み砕き、二本の長大な油圧ブームが天を衝くドラゴンの首のようにグワリと持ち上がる。

 先端に備えられた高圧削岩ドリルの砲身が、ミリ単位の狂いもなく崩落寸前の岩盤の肩口へとピタリと位置決めされた。

「穿孔角、上向き三十五度。……抜くぞ!」

 鷹人がペダルを踏み込んだ瞬間、超高圧の油圧パーカッションが炸裂した!

 ――ダダダダダダダダッッ!! ズガガガガガガガッッ!!

 凄まじい打撃音と回転力とともに、超硬チップを備えた削岩ロッドが、まるでチーズに熱した鉄串を突き刺すかのような圧倒的スピードで硬質な岩盤を吸い込まれるように穿っていく。

 わずか三十秒で深さ三メートルの穿孔が完了し、鷹人は間髪を入れずに召喚済みの自穿孔式ロックボルトを装填、高圧特殊樹脂カプセルを一気に圧入した。

 ガチィィィンッ! と強烈な反発音とともに、ボルトが岩盤深部の安定層と一体化してロックされる。

 先ほどまで悲鳴を上げていた天井の亀裂が、ピタリと鳴き止んだ。

「ば、馬鹿なッ!? ドワーフの熟練工が三人がかりで半日かかる深穴穿孔とアンカー固定を……たった一人で、一分足らずで終わらせただと……!?」

 ドワーフ隊長が目玉を飛び出さんばかりに見開いた。

 だが、鷹人は手を止めない。

「驚くのはまだ早いぜ。本番は、あっちの破砕帯(はさいたい)だ」

 鷹人が指差したのは、坑道のさらに奥――地下水が滝のように噴き出し、ドス黒い粘土層が異常な圧力でせり出してきている最悪の崩壊区画だった。

「あ、あそこはダメだ! 断層のズレで何千トンもの側圧が集中してる! 我がドンガンの最高硬度を誇る重装ミスリル鋼板ですら、据えた瞬間に飴細工みてぇにねじ曲げられちまうんだぞ!」

 親方の一人が血相を変えて叫ぶ。

 普通なら、坑道ごと爆破して放棄するレベルの地獄の断層だ。

「地圧に負けるなら、負けねぇ骨組みをブチ込むだけだ」

 鷹人は平然と言い放つと、頭の中のユニークスキル【リサイクルマスター】を限界まで展開した。

 膨大に蓄積されたスクラップPtのカタログから、地球の最先端工業地帯のデッドストックを選択する。

(地球の航空宇宙産業と深海探査艇メーカーが、設計変更と寸法公差コンマ一ミリのオーバーでスクラップヤードに放り投げた『超特殊チタン合金・インコネル超耐圧プレート』……現場の職人からすりゃ、喉から手が出るほどの極上品だ!)

――――――――――――――――――――

【所持スクラップPt:86,400 Pt】

・カタログ選択:【地球航空宇宙・深海潜水工学廃棄資材カテゴリー】

・カタログ選択:【産業用インバーター制御アーク溶接機&特殊溶接棒カテゴリー】

【召喚リスト】

・航空宇宙規格:高純度チタン・バナジウム複合超合金プレート(厚さ60ミリ×幅1.5メートル×長さ3メートル)4枚(消費:3,000Pt)

・深海探査用耐圧インコネル超耐熱耐食ブロック(消費:1,500Pt)

・業務用300A高出力インバーター交直両用TIG/アーク溶接機&高圧アルゴンガスボンベ一式(消費:800Pt)

合計消費Pt:5,300 Pt ――【召喚実行】

――――――――――――――――――――

 ――ズゥゥゥゥゥゥンッッッッ!!!!

 坑道の地面へ、天から叩き落とされたかのような凄まじい質量感とともに、鈍い銀灰色の光条を放つ四枚の巨大な金属プレートと無骨な溶接機が出現した。

「な、なんじゃこの金属は……!?」

 鍛冶親方が吸い寄せられるように駆け寄り、手にしたミスリル製の焼き入れタガネと大槌を振り上げた。

「い、いくら分厚くたって、この断層の地圧に耐えられる金属など……ふんッ!」

 ――キィィィィィィンッッ!!

 火花が散り、甲高い金属音が木霊した。

 だが、プレートの表面には傷一つ、凹み一つ付いていない。それどころか、親方の持っていた特製ミスリルタガネの刃先の方が、まるで陶器のように粉々に砕け散っていた!

「ば、馬鹿なッ!? ワシの自慢のタガネが……刃こぼれどころか粉砕されただと!? 表面に魔導障壁すら張っとらんのに、この異常な引張強度と組織密度は何なんだ!?」

「地球の空をマッハで飛ぶ戦闘機や、水深一万メートルの水圧に耐える深海艇のために練り上げられた、チタン合金とインコネルの複合材だ」

 鷹人はウエスで首筋の汗を拭いながら、事も無げに言った。

「魔力なんて曖昧なもんに頼らねぇ、分子レベルで結晶構造を極限まで噛み合わせた『近代金属工学の結晶』だよ。……いくら地圧が何千トンかかろうが、このフレームを歪ませることはできねぇ」

「ち、ちたん……いんこねる……? 神代のオリハルコンを凌駕しておる……!」

 ドワーフたちが震え上がる中、鷹人はすでに遮光溶接面を頭部にセットし、召喚したインバーター溶接機のトーチを握りしめていた。

「イグニス! マンミア! あのプレートを破砕帯の肩口へ押し当てろ! H形鋼の可縮アーチとガッチリ結合させるぞ!」

「おうよッ! 力比べなら任せとけぇッ!」

「了解であります、鷹人殿!」

 竜人とケンタウロスの圧倒的な怪力により、重量数百キロのチタンプレートが狂いなく岩盤の亀裂へと押し当てられた。

 鷹人は溶接面をパチンと跳ね下げ、トーチの先端を母材へと接触させる。

 ――バチチチチッ! バシュウウウゥゥッ!!

 薄暗い地下坑道に、真昼の太陽をも凌駕する青白い閃光と火花が激しく吹き上がった!

 立ち込めるオゾンと焼けたフラックスの刺激臭。

 ミリ単位の狂いもないトーチさばき。

 溶融プールを完璧にコントロールし、過熱による母材の劣化を防ぎながら、母材同士を分子レベルで融合させていく。

 火花が晴れた後、そこに残されていたのは――。

「な……なんという美しさじゃ……」

 ドワーフの鍛冶親方が、思わず膝をついて息を呑んだ。

 溶接跡(ビード)は、まるで美しい魚の鱗が一分の狂いもなく整然と連なったかのように、銀色の波紋を描いて完璧に均一な幅で冷却硬化していた。

 スラグの混入もアンダーカットも皆無。熱歪みすら計算し尽くされた、まさに「工学と職人技の極致」だった。

「機械仕掛けの精密さ……いや、それ以上だ! 鉄の呼吸を完全に聴き取っておる……! 三百年鉄を叩き続けてきたワシらですら、こんな美しいビードを引くなんざ逆立ちしたってできんぞ……ッ!!」

「ふぅ……よし、接合完了だ」

 鷹人は溶接面を跳ね上げ、額の煤をジャケットの袖で無造作に拭った。

 チタン複合プレートとH形鋼のアーチがガッチリと地圧を受け止め、先ほどまで噴き出していた地下水と粘土層のせり出しが、ピタリと完璧に封じ込められていた。

 静寂が、地下坑道を包み込む。

「…………す、すげぇ……」

「本当に……たったの三十分で、あの悪夢の破砕帯を塞ぎちまいやがった……!」

 先ほどまで侮りの色を隠さなかったドワーフたちが、誰一人として口を開くことができない。

 ただ呆然と、立ち並ぶ鋼鉄とチタンの支保工を見上げるばかりだった。

「さてと……一区切りついたな」

 鷹人は手袋を外すと、作業ジャケットの胸ポケットへ手を伸ばした。

 取り出したのは、大粒の青森県産ニンニク。

 手際よく薄皮を剥ぎ取ると、あの黄色い百円ライターを取り出し、親指でヤスリを弾く。

 ――カチッ、シュボッ。

 揺らぐ橙色の小さな炎。

 鷹人は剥きたての生ニンニクの先端へ、直火をじっくりとあてがった。

 ――チリチリチリ……ジュワッ。

 直火に炙られたニンニクの表面がパチパチと音を立て、香ばしい狐色に焦げていく。

 滲み出る濃厚な植物油のエキス。

 直後、冷涼な地下坑道の空気を一瞬で塗り替えるほどの、猛烈に香ばしく甘い焦がしニンニクのアロマが空間全体へ爆散した!

「ほらよ、親方衆。現場仕事の上がりの景気づけだ。カリッと齧ってみな」

 鷹人は火を吹き消すと、軽く焦げ目のついた熱々のニンニクを、呆然としていたドワーフ隊長へ放り投げた。自分も一片、前歯でカリッと噛み砕く。

 ――シャクッ。

「……ん。胃袋に火が入ったぜ。血が巡る」

 ドワーフ隊長はおずおずと受け取ったニンニクを見つめ、意を決して口の中へ放り込んだ。

「――っっっ!?!?!?」

 ドワーフ隊長の顎髭がボッと逆立った!

 直火で炙られたニンニクの暴力的な香ばしさと、溢れ出す濃厚な果実のような甘み。それが疲労困憊の五臓六腑をガツンと殴りつけ、体の芯からマグマのような活力を呼び覚ましていく!

「う……う、うんめぇぇぇぇぇッッッッ!!!! なんだこのパンチ力はぁぁッ!? 熱い……腹の底から、力が湧き上がってきやがるぞぉぉッ!!」

 他のドワーフたちも鷹人から分け与えられた炙りニンニクを奪い合うように齧り、感涙の雄叫びを上げた。

「美味ぇ! 酒もねぇのに、全身の血が滾ってくる!」

「生き返った! これならあと三日は不眠不休でツルハシが振れるぞ!」

 狂喜乱舞するドワーフたちの中、ドワーフ隊長がヘルメットを脱ぎ捨て、地面に両手をついて深々と頭を下げた。

「見事だ……! 道具の扱い、鉄の知識、溶接の腕、そしてこの現場の活力の注ぎ込み方……! タカタ……いや、鷹人の頭(かしら)ぁッ!! ワシらの無礼を許してくだせぇ! この現場、オラたちドワーフ工兵全員、アンタの指示に従いやすッ!!」

「頭はやめろ、親方。俺はただの現場作業員だ」

 鷹人は苦笑いしながらタバコを携帯灰皿へ戻し、新しい一本をくわえた。

 その瞬間、頭の中に澄み切った軽快な電子音が鳴り響いた。

 ――ピロリロリンッ♪

『超特大善行を検知しました』

『事象:ドンガン密輸坑道の最難関破砕帯の完全克服および落盤危機の回避』

『事象:地下帝国ドワーフ工兵隊との技術統合による作業安全基準の飛躍的向上』

『判定:一切の私欲なき、純粋なる現場技術によるインフラ救済』

『スクラップPt +12,000Pt を獲得しました』

(よしよし、消費分を差し引いても所持ポイントは【93,100 Pt】か。順調に貯まり直してきたな)

 鷹人は胸の中で小さく笑うと、再び百円ライターを取り出し、親指でヤスリを弾いた。

 ――カチッ、シュボッ。

 紫煙をゆっくりと吹き出し、立ち並ぶドワーフたちを見回す。

「言葉が通じなくても、拳と美味いメシ、あとはエンジン音があれば世界中どこでも生きていける。……だろ?」

「応よッッ!!」

 地底深くに響き渡る、ドワーフたちの腹からの歓声。

 頑固な職人たちの心を完全に掌握した現場の兄ちゃん・赤城鷹人による、地下ハイウェイ開通への突貫工事は、ここからさらに加速していくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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