EP 8
帝国最強の魔剣VS工作部隊の重機&特殊合金ワイヤートラップ
ポポロ村の北側防衛ゲート前。
秋晴れの爽やかな青空とは裏腹に、大気は絶対零度の氷結魔力によって完全に凍りついていた。
地面の敷石から無数に生え出た氷の槍が、青白い燐光を放ちながら冷気を撒き散らしている。
「エミリアは、私のものだ。……阻む者は、帝国軍規に基づき、例外なく氷塊と化して粉砕する」
帝国北部方面軍総司令官、『氷血公爵』ヴァルター・フォン・アーデルハイト(二十八歳)の冷涼な宣告。
その白皙の指先が、黒鞘の国宝『氷河魔剣フロスト・バイト』を一閃させた。
――キィィィィィィンッッッッ!
抜刀と同時に放たれたのは、触れるものすべてを分子レベルで凍結粉砕する、落差十メートルの巨大な氷河の斬撃波だった!
直線上の空気がパキパキと音を立てて白い結晶へ変わり、大地を裂きながら赤城鷹人たちへ向けて殺到する!
「ヒエェェェッ! 山が飛んできたぁぁぁッ!!」
防壁の陰で、エミリアが頭を抱えて悲鳴を上げた。
だが、その暴威を前にしても、仁王立ちする現場の兄ちゃん――赤城鷹人の眉毛は一本たりとも動かなかった。
「おいおい。現場でいきなり高圧の冷凍配管を破裂させんじゃねぇよ」
鷹人は作業ジャケットの内ポケットからタバコの箱を取り出し、一本を唇にくわえた。
取り出したのは、地球の百円均一ショップで買った安っぽい黄色いプラスチック製の使い捨てライターだ。
親指の腹で、ヤスリを無造作に弾く。
――カチッ、シュボッ。
絶対零度の冷気を切り裂き、硬質で澄んだ金属の着火音が鋭く響き渡る。
揺れる小さな橙色の炎。先端に火を移し、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。
「…………ふぅーーーーっ」
吐き出された一筋の紫煙。
ツンとしたタバコの香りが大気を引き締める。
続けて鷹人は、胸ポケットから大粒の青森県産ニンニクを一片取り出すと、薄皮を剥ぎ、ライターの炎を直接あてがった。
――チリチリチリ……ジュワッ。
直火に炙られたニンニクの表面がパチパチと音を立て、香ばしい狐色に焦げていく。
立ち上る、ガツンと鼻腔を殴りつけるような濃厚なスタミナのアロマ。
鷹人は火を吹き消すと、それを前歯でカリッと噛み砕いた。
――シャクッ。
「……ん。胃袋に芯が入ったぜ」
カッと五臓六腑に火が灯る。
鷹人は左手首の傷だらけの金属製腕時計をカチリと固め直すと、頭の中のユニークスキル【リサイクルマスター】を起動した!
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【所持スクラップPt:137,555 Pt】
・カタログ選択:【造船所解体資材・超高張力特殊鋼カテゴリー】
・カタログ選択:【プラント解体設備・高圧蒸気ボイラーカテゴリー】
・カタログ選択:【建設重機・ラフテレーンクレーン(25トン吊り)カテゴリー】
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(地球の造船所で巨大タンカーの係留に使われていた、破断荷重数百トンの極太特殊合金ワイヤーロープ!
さらに、化学工場で減価償却を終えた移動式高圧重油スチームボイラー!
そして――4軸8輪駆動、ラフテレーンクレーン車だ!!)
消費ポイント、1,200Pt――【召喚実行】!
――ズドォォォォォォォォンッッッッ!!!!
ゲートの内側の広場に、凄まじい地響きとともに青緑色の巨大な重機とプラント機器群が出現した。
鷹人は作業ジャケットの袖を捲り上げると、自衛隊施設科(工作部隊)仕込みの電光石火の早業で、スチームボイラーの元栓と高圧送気ホースを直結した!
「マンミア! クレーンのウインチフックに、そのミスリル鎖を掛けろ!」
「了解でありますッ!!」
ケンタウロス自警団長マンミアが四肢を踏み鳴らし、右腕の超硬度分銅付きミスリル鎖『メビウス』をクレーンのブーム先端の巨大フックへガチリと結束させた!
「まずは、現場の解氷作業からだ!」
迫り来る氷河の斬撃波に対し、鷹人は高圧スチームボイラーの緊急パージバルブを一気に全開にした!
――ゴオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!
ボイラーの放熱ノズルから吹き荒れたのは、百度を超える超高圧過熱蒸気の巨大な熱風嵐だった!
マイナス五十度の氷結斬撃波と、地球の工業プラントが生み出す莫大な熱エネルギーが真正面から激突する!
――ジュワァァァァァァァァッッッッ!!!!
猛烈な水蒸気が爆発的に立ち上り、周囲一帯が一瞬にして真っ白な霧のカーテンに覆い尽くされた。
公爵の誇る氷河魔剣の一撃が、熱力学第二法則の前に瞬時に気化・相殺されたのだ!
「な……ッ!? 私の『フロスト・バイト』の氷気を、ただの湯気で打ち消しただと……!?」
ヴァルターの氷の青い瞳が、初めて驚愕に見開かれた。
だが、現場監督・赤城鷹人の工作戦術は、防御だけで終わるはずがなかった。
「視界不良は現場の基本だ。……マンミア、ウインチ巻き上げだッ!」
「応ッ!! 『メビウス・ワイヤーネット』、展開でありますッッ!!」
真っ白な蒸気の幕を切り裂いて、クレーン車のブームがギュルルルルッ! と猛烈な速度で旋回した。
フックに繋がれたマンミアのミスリル鎖と、鷹人が地表にトラップとして張り巡らせておいた造船所用の高張力特殊合金ワイヤーが連動!
地面の敷石の下から、網の目のように張り巡らされた鋼鉄のワイヤーネットが、油圧ウインチの二十五トン牽引力によって一気に跳ね上がった!
――バチンッ! ジャラララララララッッッッ!!!!
「…………!?」
音速の摺り足で突進しかけていたヴァルターの四肢と胴体に、絡みつくように極太の特殊合金ワイヤーとミスリル鎖が巻き付いた!
二百馬力を誇る公爵の剛力がワイヤーを軋ませる。
だが、相手は数万トンの巨大タンカーを引き留めるために作られた、地球の工業技術の粋を集めた特殊炭素鋼ワイヤーだ。
さらに、マンミアが下半身の馬力を全開にしてアグニのパイルバンカーを地面へ深々とアンカーとして打ち込み、ワイヤーの端をガッチリと固定した!
ギュギギギギギ……ッ!
どれほど魔剣を振るおうとしても、至近距離で何重にも巻き付けられたワイヤーに肘と手首の可動域を完全にロックされ、刃を引くことすら叶わない!
「くっ……! 何だこの異様な強度の鉄線は……! 魔力を持たぬただの鋼が、なぜ切れぬ……!?」
「引っ張り強度の計算もできねぇなら、現場で剣を振り回すんじゃねぇよ」
白煙の中から、悠然と歩み出てきた赤城鷹人。
金属製腕時計をカチリと鳴らし、身動きの取れなくなったヴァルターの眼前――今度は鷹人の側から、距離三十センチまで無造作に歩み寄った。
「おい、公爵の兄ちゃん。……冷え切った頭は、少しは温まったかい?」
完璧に動きを封じられた帝国最強の魔剣士。
その光景を遠巻きに見ていた猫耳商人ニャングルが、防毒マスク越しに純金算盤『十露盤』を狂ったように打ち鳴らした!
「勝負あったぁぁぁッ!! 重機とワイヤーの土木工学で、帝国北部軍総司令官を完全捕縛やぁぁッ!!」
「す、すごい……! あの無敵の公爵様が、完全にがんじがらめにされてる……!」
エミリアが目を丸くして歓声を上げた。
捕縛されたヴァルターは、屈辱と混乱に青い瞳を揺らしながらも、なおも冷徹な視線をエミリアへと向けようともがいていた。
だが、その強引な力技の前に、彼自身の狂気の「自動追尾機能」は、物理の壁によって完全に沈黙していた。
鷹人は紫煙をくゆらせながら、作業ジャケットのポケットから手を抜いた。
「言葉が通じねぇなら、まずは相手の動きを止めてから交渉のテーブルに着く。……現場の安全管理の基本だ。さて、公爵さんよ。次は、大人同士の『ビジネスの話』をしようじゃねぇか」
武力衝突を制した現場の兄ちゃん赤城鷹人とポポロ村の陣営は、いよいよ悪臭に沈む美都「ムーンキャピタル」そのものを救済・改修するための、前代未聞のインフラ交渉へと舵を切ろうとしていた。
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