EP 8
用心棒たちの乱闘と、元四天王ダストンの鉄板焼き乱入
「出ろ! 出てこい用心棒どもッ! この会場の虫ケラどもを全員ブッ殺して、裏口から金を運び出すんだぁぁぁッッッ!!!!」
特設エアドームの真紅のステージ上で、ADP代表・円城寺明の絶叫が木霊した。
ツーブロックの髪を振り乱し、懐の黒い通信石を握りしめて喚き散らす姿には、先ほどまでの甘美なカリスマの欠片も残っていない。
――ドォォォォンッ! ギィィィィンッ!
ステージ両脇の搬入口から、鉄格子の扉が蹴破られた。
雪崩れ込んできたのは、黒い革鎧にトゲ付きの肩当てを付けた数十名の荒くれ傭兵たち――帝都の裏路地で集められた違法用心棒集団である。
さらにその後ろからは、涎をダラダラと垂らし、真っ赤に血走った複眼を持つ三頭の大型魔獣『凶暴双頭狼』が、低い唸り声を上げながら床の絨毯を爪で引き裂いて姿を現した。
「おいコラァッ! 一人残らず血祭りに上げてやるぜぇッ!」
「円城寺先生の邪魔をする奴はミンチだぁッ!」
武器を振り回し、正気に返った五百人の若者たちへ襲いかかろうとする用心棒たち。
フロアは一瞬にしてパニックの悲鳴に包まれかけた。
だが――。
――ズシィィィィンッ!
巨大な質量が床を揺らした。
若者たちの前へ、防壁のように割り込んできたのは、赤城鷹人だった。
鷹人は作業ジャケットの内ポケットから、吸いかけの紙巻きタバコの箱を取り出す。
一本を唇にくわえ、取り出したのは地球の百円均一ショップで買った安っぽい黄色いプラスチック製の使い捨てライターだ。
親指の腹で、ヤスリを無造作に弾く。
――カチッ、シュボッ。
硬質な着火音が、怒号渦巻くドーム内に鋭く響き渡った。
揺れる小さな橙色の炎。先端に火を吸い付け、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。
「…………ふぅーーーーっ」
紫煙をゆっくりと吹き出す。
ツンとしたタバコの香りが夜気を引き締め、鷹人の眼光が猛獣のように研ぎ澄まされる。
さらに胸ポケットから大粒の青森県産ニンニクを一片取り出すと、薄皮を剥いてライターの炎を直接あてがった。
――チリチリチリ……ジュワッ。
直火に炙られたニンニクがパチパチと音を立て、香ばしい狐色に焦げていく。
立ち上る、ガツンと鼻腔を殴りつけるような濃厚なスタミナのアロマ。
鷹人はそれを前歯でカリッと噛み砕いた。
――シャクッ。
「……ん。胃袋に芯が入ったぜ」
カッと五臓六腑に火が灯る。
鷹人は頭の中のユニークスキル【リサイクルマスター】を素早く起動した。
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【所持スクラップPt:102,600 Pt】
・カタログ選択:【警察押収品・暴力団抗争没収資材カテゴリー】
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(地球の警察署の証拠品保管庫で、抗争事件の際に押収された新品同様の炭素鋼製・足場用単管パイプ――長さ1.5メートル、肉厚2.4ミリ!)
消費ポイント、わずか10Pt。
――ヒュンッ!
鷹人の右手に、ずっしりとした手応えとともに、鈍い銀光を放つ無骨な鉄パイプが出現した。
左腕の金属製腕時計のバックルを固め、前傾姿勢をとる。
「おい、用心棒の兄ちゃん方。日当いくら貰ってんだか知らねぇが……」
鷹人のドスの利いた静かな低音が響く。
「現場の安全基準を無視して暴れるなら、全員まとめて労災適用外で叩き伏せるぞ」
「ドカタが舐めやがってぇぇッ!」
先頭の大男が、大剣を力任せに上段から振り下ろしてきた。
――カキィィィィンッ!
鷹人は鉄パイプを斜め四十五度に掲げ、相手の太刀筋をミリ単位で受け流した。『五輪書』の「いなす」理合。
火花を散らしながら大剣が空を切り、男の体勢が大きく前のめりに崩れる。
鷹人はその隙を逃さず、金属製腕時計を巻き付けた左手のショートフックを、男の顎先へ正確無比に叩き込んだ!
――ドスッッッッ!
「あがっ!?」
脳震盪を起こし、白目を剥いて前のめりに崩れ落ちる用心棒。
間髪入れず、横から飛びかかってきた双頭狼の牙に対し、鷹人は身を沈めながら鉄パイプを横一文字にフルスイングした。
――バッゴォォォォンッ!
硬質な骨砕音が響き、頭部を強打された巨狼が真横へと吹き飛ぶ!
「ポポロ村自警団、治安維持行動を開始であります!」
その背後から、四肢の蹄を轟かせて突進してきたのは自警団長マンミアだった。
左腕の大型シールド『アグニ』で二頭目の双頭狼の突進を正面からガチリと受け止めると、右腕から超硬度分銅付きのミスリル鎖『メビウス』を唸りを上げて解き放った!
ジャララララララッ!
「『メビウス・バインド』ッッ!!」
目にも留まらぬ速さで四人の用心棒の胴体を一網打尽に巻き取ると、マンミアはケンタウロスの超絶馬力で一気に引き絞り、まとめて宙へと投げ飛ばした!
ドガガガガッ!
「ぎゃああああっ!?」
阿鼻叫喚の悲鳴を上げて折り重なる用心棒たち。
だが、残りの傭兵部隊二十名以上が、背水の陣で一斉に抜刀し、包囲網を狭めてきた。
「数で押せ! 女とドカタを囲んでブッ刺せぇぇッ!」
その時だった。
――ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ!
ドームの地面全体が、まるで局所的な直下型地震に見舞われたかのように激しく揺れ動いた。
搬入口の暗がりから、猛烈なニンニクと牛骨の湯気とともに、地響きを立てて爆走してくる巨大な影があった。
「どすこい、どすこい、どすこいドスゥゥゥッッッ!!!!」
超絶のスピードで摺り足を繰り出し、突進してきたのは――。
身の丈二メートル半を超える巨漢。
筋骨隆々たる褐色の肉体に、力士の締め込み風の頑丈な前掛けを締め、頭には大銀杏を結った異形の偉丈夫。
アバロン魔皇国の元四天王、雷魔将軍と土魔将軍が無理やり合体させられた合体魔将にして、現在は帝都の大衆力士居酒屋『土雷亭』の店主――ダストンであった!
しかも、その両腕に構えていたのは、鉄の盾でも大槌でもない。
店で使っている、厚さ三十ミリ・畳二枚分はある特大の『業務用極厚黒皮鉄板(鉄板焼きプレート)』だった!
「な、なんだあの巨大な相撲取りはぁぁッ!?」
用心棒たちが目を剥く。
「邪魔ドス! 仕込みの時間に騒ぐなドスゥゥッ!!」
――ドッガァァァァァァァンッッッッ!!!!
ダストンが構えた巨大鉄板が、突進してきた用心棒五人をまとめて真正面から張り倒した!
土魔法の超重量と、雷魔法の瞬間推進力が融合した、文字通りの人間ブルドーザー。
跳ね飛ばされた傭兵たちが天井近くまで舞い上がり、床へボタボタと落ちていく。
「ふぅ……! 間に合ったドス! 鷹人の兄貴、加勢するドスよ!」
ダストンが巨大な鉄板を床にドカンと突き立て、豪快に白い歯を見せた。
「おう、ダストンの旦那! いい鉄板を持ってきたじゃねぇか!」
鷹人はニヤリと笑い、鉄パイプを肩に担ぎ直した。
「帝都からポポロ村のタローマンへ極厚鉄板の買い出しに来たら、キュララの配信で騒ぎを知ったドス! 悪徳マルチなんぞ、この鉄板でペチャンコに圧殺ドス!」
「逃がすな! 一気に現場を清掃するぞ!」
鷹人、マンミア、そしてダストンの三連星が爆発した。
鷹人が低空の足払いで敵の脚を払い、崩れた眉間へ鉄パイプの打撃を叩き込む。
マンミアのミスリル鎖が死角からの攻撃をすべて巻き取って壁へ叩きつける。
そしてダストンが「どすこいドス!」と巨大鉄板で突っ張り乱打を浴びせ、残る用心棒たちを綺麗にドームの壁際へとスタックしていった。
バキッ! ドカッ! ドゴォォォン!
わずか一分。
凶暴双頭狼はダストンの鉄板に頭を挟まれて気絶し、数十名の用心棒部隊は一人残らず床に転がって白目を剥いていた。
「ひ……ヒィィィィィィッ……!!」
ステージの上で、円城寺明は完全に腰を抜かしていた。
手にした通信石は粉々に砕け、逃げ道は完全に塞がれている。
目の前には、息一つ乱さず、煤けた作業ジャケットの袖で額の汗を拭いながら、鉄パイプを引きずってゆっくりと階段を上がってくる男――赤城鷹人の姿があった。
「言葉が通じねぇなら、あとは拳と鉄パイプで語り合うだけだ」
鷹人の安全靴が、ステージの絨毯をギシリと踏みしめた。
詐欺師・円城寺明の完全なる破滅の瞬間が、目前に迫っていた。
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