↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/62

EP 7

魔王本人の生中継エントリーと、ピラミッド構造の崩壊

「正気に……戻った……!? 私の……私のファミリーたちが……!?」

 特設エアドームの崩れ落ちたステージの上で、円城寺明は純白のスーツの膝をつき、蒼白な顔で震えていた。

 先ほどまで耳を劈く爆音で鳴り響いていたコンボイトラックのV8モンスターディーゼルエンジンの咆哮が、スッと静かなアイドリングの重低音へと落ち着く。

 吹き抜ける冷涼な夜風が、ドーム内に充満していた甘ったるい精神干渉の気配を完全に外へと押し流していた。

 フロアにいた五百人を超える若者たちは、互いの顔を見合わせ、手にした契約書や借用書を呆然と見つめている。

「俺……何をトチ狂ってたんだ? 手取り十四万のくせに、なんで金貨百枚のローンを組もうと……」

「魔王を倒して一億円なんて……そんなの、最初から無理に決まってるじゃないか!」

 解けていくマインドコントロール。

 だが、追い詰められた円城寺は、自慢のホワイトニング義歯をギリギリと軋ませ、床に落ちていたマイクを再びひっ掴んだ。

「だ、騙されるなァッ! 目を覚ますんだ、親愛なるファミリーの諸君ッ!!」

 円城寺は髪を振り乱し、必死の形相でフロアへ向かって叫び散らす。

「この乱暴な作業着の男に惑わされるな! 我がアバロン・ドリーム・プロジェクトの討伐スキームは完璧だ! すでに魔王城の攻略ルートは確立されている! 私を信じて初期費用を払いさえすれば、君たちは確実に一億円の自由と栄光を手に入れられるんだァァッ!!」

 往生際の悪いペテン師の絶叫。

 トラックのルーフの上に立つ赤城鷹人は、作業ジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、冷ややかにその醜態を見下ろしていた。

「おい、白スーツ。……まだそんな薄っぺらいハリボテの看板にしがみつく気かよ」

「うるさい! うるさいぞドカタ野郎! 現場の肉体労働しか知らん無学なゴミが、私の高度なマーケティングを否定するな! 魔王ラスティア様を倒す奇跡のビジネスモデルは実在するんだァッ!!」

「奇跡のビジネスモデルねぇ」

 鷹人はやれやれと首を横に振ると、トラックのルーフからフロアへ軽やかに飛び降りた。

 着地の衝撃を安全靴のクッションで難なく逃がすと、背後の影へ声をかける。

「おい、天使のお嬢ちゃん。……準備はいいか」

「はーい☆ いつでもいけるよ〜、鷹人さんっ!」

 トラックの荷台の影から、淡い桜色のツインテールを揺らす美少女――メガゴッドチューバーの天使キュララがひょっこりと姿を現した。

 頭上の光輪(ヘイロー)を極彩色のネオンのようにピカピカと点滅させ、手にした最新の魔導タブレットをステージ背後の超特大スクリーンへ向け、指先で画面を軽快にスワイプする。

「キュララTV特別緊急生中継、回線ジャック完了〜☆ 神界と下界合わせて同時接続一千万人越えのメガ回線で、ポポロ・コーポの『魔王様の今』をお届けしちゃいまーす♡」

 ピキィィィィンッ!

 円城寺がピラミッド組織図を映し出していたステージ背後の巨大スクリーンが、激しいノイズとともに切り替わった。

 そこにドアップで映し出されたのは――。

 散らかった畳の部屋の中央、古びたコタツの上に足を投げ出し、片手に冷えたイモッカの缶ビール、胸元が大胆にはだけた黒のキャミソール姿で、だらしなく寝転がっている漆黒の長髪の美少女だった。

 コタツの上には、地球のアイドル「朝倉月人」の限定うちわとペンライト、そして半分食べかけのシープピッグの骨付き肉が転がっている。

 アバロン魔皇国の絶対君主――魔王ラスティア(自称:永遠の17歳)の、完全なるオフモードの姿であった。

『あ〜、もしもーし? 聞こえてるキュララ? 今ね、月人君の福岡ドーム遠征のセトリ予想プレイリスト作ってて忙しいんだけどぉ〜』

 プシュッ! と画面越しに缶ビールのプルタブを引き抜き、喉を鳴らして豪快に呷る魔王。

『……ぷはぁぁぁっ! ん? 何これ、セミナー会場の中継? あ、円城寺クンじゃん! やっほ〜☆』

 ドーム内が、水を打ったように静まり返った。

 若者たちが目を限界まで見開き、口をあんぐりと開けてスクリーンを凝視する。

「ま……魔王……!? 本物の魔王ラスティア様だ……!?」

「なんで……なんでボロアパートのこたつで缶ビール飲んでるんだ……!?」

「な、な……ッ!? バ、バカなッ! 通信を切れ! 今すぐ魔導スクリーンを消せェェッ!!」

 円城寺の顔面から、サーッと血の気が引いていく。

 だが、キュララは魔導タブレットを掲げてケラケラと笑い飛ばした。

「消せるわけないじゃん〜☆ 私のチャンネルの最高幹部権限でロックかけてるんだから! ほらほら魔王様、みんなにあの『神話のビジネス』の種明かし、お願いしま〜す♡」

 スクリーンの中のラスティアは、画面に映る青ざめた円城寺を見て、ケロッとした顔で人差し指を立てた。

『え? 種明かしも何も、言った通りのビジネスよ? 円城寺クンが「魔王討伐ギルド」とか言って騙したアンタたちから巻き上げた参加費のうち、30パーセントが私の推し活口座に振り込まれてるのよ〜♡ 先月だけで金貨3,000枚! おかげで月人君の福岡ドーム全通チケットも、最前列VIPプレミアム席も全部買えちゃった! みんな、私のオタ活のために貢いでくれて本当にありがとね〜☆』

「な……ッ!?」

「俺たちの参加費が……魔王の追っかけ資金になってただとぉぉぉッ!?」

 会場の若者たちから、怒りと戦慄のどよめきが爆発した。

 だが、ラスティアの暴露は止まらない。

『あ、そうそう! アンタたちが「第1期討伐隊」として城の前に乗り込んできた時のプロレスね! 私が指パッチンで重力魔法撃って、全員地面にズボッて埋めたやつ! あれも円城寺クンとの事前の台本通りだから! 怪我しないように威力を0.1%まで絞って埋めてあげたのに、後ろで円城寺クンが「惜しかった! あと一歩でした! 追加参加費5万円で次は勝てます!」って集金しててさ〜、私、玉座の裏で腹抱えて大爆笑しちゃったわよ〜www』

「ぎゃああああああああッッッッ!!!!」

 円城寺が頭を抱えて絶叫した。

 もはや取り繕う余地など微塵もない。

 自分たちが命を賭け、借金をしてまで参加しようとしていた「神聖なる魔王討伐」の正体が、ただの「魔王とマルチ主催者による八百長集金茶番劇」であったという、あまりにも残酷で滑稽な真実。

「ほな、トドメの現実(数字)を見せたるわ!」

 ダンプカーの脇から、仕立ての良いミスリル和装スーツを翻して進み出てきたのは、猫耳商人ニャングルだった。

 純金算盤『十露盤』をチャキリと構え、懐から引き抜いた極厚の台帳をフロアへ向けてバサリと掲げる。

「ウチのゴルド商会の情報網と、リバロン殿の法務監査で、この『ADP』の裏口座と資金フローを全部洗い出したで! おい若者ども、よーく算盤の弾き方を勉強しぃや!」

 パチパチパチパチッ!

 ニャングルの指先が算盤の珠を超高速で弾き、金色の火花が散る。

「このビジネスはな、典型的な【ポンジ・スキーム(ネズミ講)】や! 『仲間を三人誘えば紹介ボーナス』言うとるが、会員がネズミ算式に増えていったらどうなる? 1代で3人、2代で9人、10代で5万9千人……20代を超えたら、マンルシア大陸の全人口(約1億人)をあっさり突破して破綻するんや! 最初から数学的に破綻しとるシステムなんじゃボケェッ!!」

 ニャングルはキセルをペッ! と床に叩きつけ、ステージの上の円城寺を指差した。

「集まった金貨3,000枚(約3億円)のうち、魔王への裏金が3割! 残りの7割は、犯罪組織『ナンバーズ』のスリー(ギリルク)の地下資金洗浄ルートを通じて、円城寺の隠し口座へ送金されとった! 『魔王城攻略部隊の装備開発費』や『懸賞金の積立』なんて、1ミリもプールされとらんわ! 全部、このツーブロック野郎が夜逃げするための逃走資金や!!」

 ざまぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!

 会場全体に、怒りの大津波が吹き荒れた。

 若者たちが契約書をビリビリに破り捨て、ステージへ向かって殺気配の罵声を叩きつける。

「てめぇ……! 俺たちのなけなしの金を、魔王の追っかけと自分の逃走資金に使ってただと!?」

「親父の形見まで質に入れて借金したんだぞ! ふざけるなぁぁッ!!」

「金を返せ! このペテン師野郎ぉぉッ!!」

 怒号、罵声、そしてフロアを埋め尽くす怒りの地鳴り。

 ピラミッドの頂点に君臨していたカリスマの虚像は、完全に瓦解し、ただの薄汚い詐欺師の残骸へと成り果てていた。

 その狂乱のフロアの中央で、赤城鷹人は静かに作業ジャケットの内ポケットへ手を伸ばした。

 取り出したのは、少し潰れた紙巻きタバコの箱。

 一本を唇にくわえ、安っぽい黄色いプラスチック製の百円ライターを構える。

 親指の腹で、ヤスリを無造作に弾いた。

 ――カチッ、シュボッ。

 張り詰めたドーム内に、硬質で澄んだ金属の着火音が鋭く響き渡る。

 揺れる小さな橙色の炎。先端に火を吸い付け、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 青白い天井へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。

 ツンとしたタバコの香りが、会場に充満していた怒りと焦燥をスッと切り裂いていく。

 続けて鷹人は、胸ポケットから大粒の青森県産ニンニクを一片取り出すと、薄皮を剥いてライターの炎を直接あてがった。

 ――チリチリチリ……ジュワッ。

 直火に炙られたニンニクの表面がパチパチと音を立て、香ばしい狐色に焦げていく。

 立ち上る、ガツンと鼻腔を殴りつけるような濃厚なスタミナのアロマ。

 鷹人は火を吹き消すと、それを前歯でカリッと噛み砕いた。

 ――シャクッ。

「……ん。現場のケジメの時間だな」

 鷹人は紫煙の向こうから、冷徹な猛獣の眼光でステージ上の円城寺を見据えた。

「おい、白スーツ。……看板も崩れて、中身も全部バレたな。大人しく全員分の金を吐き出して、現場の掃除を済ませな」

「ひ、ヒィィィィィッ……!! ク、クソがぁぁぁッ!!」

 完全に追い詰められた円城寺明は、自慢のツーブロックを振り乱し、懐から黒い魔導通信石を狂乱の形相で引きずり出した!

「おのれ……おのれぇぇッ! 私のドリームを、私の完全無欠の王国をぶち壊しおってぇぇッ!! 出ろ! 出てこい用心棒どもッ! この会場の虫ケラどもを全員ブッ殺して、裏口から金を運び出すんだぁぁぁッッッ!!!!」

 ステージの袖から、重武装の用心棒たちと、檻から解き放たれた凶暴な戦闘魔獣の群れが、咆哮とともに雪崩れ込んできた!

 窮地に陥った詐欺師の、最後の暴力の足掻き。

 だが、赤城鷹人はニヤリと無精髭の口元を吊り上げ、金属製腕時計のバックルをカチリと外した。

「言葉が通じねぇなら、あとは拳と鉄パイプで語り合うだけだ。……現場の荒療治、受けてもらうぜ」

 ポポロ村の現場の兄ちゃんと、悪徳マルチの私兵軍団による大乱闘の幕が上がろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。