EP 6
配線直結トラック突入! エンジン音で掻き消す薄っぺらい演説
「な、何なんだ君はぁッ!? 警備員! つまみ出せと言っているだろうが!!」
特設エアドームの真紅のステージの上で、ツーブロックの白スーツ男・円城寺明がマイクを握りしめ、金切り声を張り上げた。
普段の余裕ぶったカリスマの仮面は剥がれ落ち、自慢のホワイトニング義歯を剥き出しにしてフロアの鷹人を指差す。
その怒号に応じ、ステージ脇の暗がりから、黒いスーツを着込んだ屈強な傭兵たちが十数名、魔導警棒やメリケンサックを構えて飛び出してきた。
いずれも帝都の裏路地で雇われた、荒事専門の用心棒たちだ。
「おいコラ作業着! 円城寺先生のセミナーを邪魔する気かぁッ!」
「身の程を弁えろや、現場のドカタがぁッ!!」
殺気をみなぎらせて殺到する黒服たち。
だが、ステージ下で仁王立ちしていた赤城鷹人は、眉毛ひとつ動かさなかった。
左腕の傷だらけの金属製腕時計に手を添え、無精髭の口元をニヤリと吊り上げる。
「おいおい。口先だけのペテン師を守るために、身体を張って骨折しに来たのか? ……労災も出ねぇのに、ご苦労なこったな」
鷹人は作業ジャケットの内ポケットから、吸いかけの紙巻きタバコの箱を取り出した。
一本を唇にくわえ、取り出したのは地球の百円均一ショップで買った安っぽい黄色いプラスチック製の使い捨てライターだ。
親指の腹で、ヤスリを無造作に弾く。
――カチッ、シュボッ。
殺伐としたドーム内に、硬質で澄んだ金属の着火音が鋭く響き渡った。
揺れる小さな橙色の炎。先端に火を移し、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。
「…………ふぅーーーーっ」
吐き出された一筋の紫煙。
ツンとしたタバコの香りが、ドーム内に充満していた甘ったるい精神干渉の気配をスッと切り裂いていく。
続けて鷹人は、胸ポケットから大粒の青森県産ニンニクを取り出すと、指先で器用に薄皮を剥ぎ、ライターの炎を直接あてがった。
――チリチリチリ……ジュワッ。
直火に炙られたニンニクがパチパチと音を立て、香ばしい狐色に焦げていく。
立ち上る、ガツンと鼻腔を殴りつけるような濃厚なスタミナのアロマ。
鷹人はそれを前歯でカリッと噛み砕いた。
――シャクッ。
「……ん。目が覚めたぜ」
五臓六腑に火が灯り、鷹人の全身の毛穴から、研ぎ澄まされた戦士の気迫が立ち上る。
襲いかかってきた先頭の黒服が、魔導警棒を鷹人の脳天へ振り下ろした――その刹那だった。
――スッ。
『五輪書』に記された「見の目弱く、観の目強く」。
鷹人は脱力した体捌きで警棒の軌道をミリ単位で見切り、踏み込みざまに相手の肘の内側を左手で払った。
体勢が崩れた男の鳩尾へ、金属製腕時計のバックルを固めた左手のショートアッパーが、ゼロ距離から突き刺さる!
――ドスッッッッ!!!!
「ごふっ……!?」
肺の空気をすべて吐き出し、白目を剥いて前のめりに崩れ落ちる黒服。
間髪入れず、左右から刃物を抜いて飛びかかってきた二人に対し、鷹人は柔道仕込みの足払いを流れるように繰り出した。
バチィィン! ドガァンッ!
「あがぁっ!?」
「ひぎゃああっ!?」
空中で交差するように激突し、床の絨毯へ叩きつけられる用心棒たち。
わずか三秒。無駄のない実戦MMAと現場格闘術の前に、突っ込んできた先遣隊がことごとく沈黙した。
「ひ、ひぃぃ……!? 化け物か、こいつは……!」
「生体出力1馬力なんて嘘だろ……ッ!?」
残りの黒服たちが腰を抜かして後ずさる中、ステージ上の円城寺明は、極度の屈辱と恐怖に顔を歪めていた。
震える手でマイクを口元へ押し付け、自身のユニークスキル【熱狂空間】の出力を限界まで引き上げる!
『み、皆さん! 見てください! この乱暴者を! 私たちの聖なる成功のステップを妬み、暴力で破壊しようとする【ド底辺の負け犬】です!!』
キィィィィィンッ!
ハウリングとともに、ドームのスピーカーからドス黒い桃色の精神干渉波が会場全体へ放射された。
『騙されてはいけません! 私たちは選ばれたエリートなんです! 夢を諦めてはいけない! 彼のような邪魔者を排除し、団結して未来を掴むのです! さあ、私の声を聞き、立ち上がりなさい!!』
円城寺の絶叫に、洗脳されかけていたフロアの若者たちの瞳に、再び濁った狂気の光が宿り始めた。
「そ、そうだ……円城寺先生の邪魔をするな……!」
「俺たちの権利収入を奪うな……!」
五百人を超える若者たちが、ゾンビのように鷹人へ向かって詰め寄ろうとする。
「ククク……ハハハハッ! 見たか作業着野郎! これが私のスキルの力だ! 言葉の力、マーケティングの魔力だ! 貴様のような現場の単細胞が、大衆心理の波に勝てるわけが――」
円城寺が勝ち誇って高笑いを上げた――その時だった。
「……おい、白スーツ」
鷹人のドスの利いた声が、静かにドームの空気を裂いた。
「てめぇのそのペラペラの演説がよ……現場の鉄と油の音に、1秒でも勝てると思ってんのか?」
鷹人は左手を天に掲げ、頭の中のスキル【リサイクルマスター】を限界突破出力で解放した!
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【所持スクラップPt:104,100 Pt】
・カタログ選択:【北米鉱山鉄道解体車両・超大型重機カテゴリー】
・カタログ選択:【屋外ロックフェス倒産品・メガPA音響設備カテゴリー】
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(地球のアメリカ・大陸横断ルートで廃車になった、1万2000ccの超巨大重機運搬用コンボイトラック――それに、解体された野外メガスタジアムの特大コンサート用3段積みラインアレイスピーカーアレイ一式だ!)
消費ポイント、1,500Pt――【召喚実行】!
――ズズズズズズズズズッッッッ!!!!
ドームの真裏の荒野に、突如として出現した巨大な鋼鉄の巨獣。
運転席には、事前に鷹人から合図を受けていた相棒――自警団長マンミアが乗り込んでいた!
助手席のニャングルが、純金算盤を構えて叫ぶ!
「マンミア姐さん! 鷹人はんの配線直結スイッチ、全開で捻り倒しぃやぁぁッ!!」
「了解でありますッ! ポポロ村自警団、道路交通法適用外の突入を敢行しますッ!!」
ガチリ、と直結配線がショートし、火花が散った。
その瞬間――。
――グオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!
――ズドォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!
地割れかと見紛うばかりの凄まじい轟音とともに、超大型コンボイトラックのV8モンスターディーゼルエンジンが火を噴いた!
二本の巨大な煙突マフラーから吹き上がる、真っ黒な軽油の排気煙!
ドームの頑丈な防音外壁へ向けて、時速八十キロで鉄の塊が激突した!
――バッキャァァァァァァァンッッッッ!!!!
「ぎゃあああああああッッッ!?!?!?」
木っ端微塵に吹き飛ぶドームの壁面と鉄骨のバリケード!
砂煙と破片を豪快に蹴散らし、フロアの中央へと堂々と頭を突っ込んできたのは、漆黒の極太カンガルーバーを装備した、見上げるような超巨大コンボイトラックだった!
荷台のフラットベッドには、山のように組み上げられた十数基の巨大スピーカー群が天を衝いてそびえ立っている!
――プシュウウウウウウッッッッ!!
大気を震わせるエアブレーキの排気音が炸裂し、トラックがステージの真横へ急停車した。
巻き上がる凄まじい突風と、焼けたオイルの濃厚な匂い!
「な……な、何だこれはぁぁぁッ!? 車輪がついた巨大な家かぁぁッ!?」
「煙が……排気ガスの煙で、ピンクの霧が全部吹き飛んでいくぞ……!?」
会場の若者たちが目をパチクリとさせ、顔を見合わせる。
コンボイトラックが吐き出した暴力的なまでの直噴ディーゼルの排気ガスと熱波が、ドーム内に充満していた【熱狂空間】の桃色のマナを、物理的に完全に吹き飛ばし、換気口の彼方へと押し流してしまったのだ!
そして――。
鷹人はトラックの運転席のドアステップへ足をかけると、荷台のラインアレイスピーカーのメインアンプの電源スイッチを、親指でガチンと投入した。
――ブゥゥゥゥゥゥゥン……。
超低音の電源ノイズが走る。
鷹人は運転席の車載マイクを引き抜くと、それをコンボイトラックのエンジンルームの真上――轟音を立ててピストンを往復させるV8直噴エンジンのマニホールドの目の前へ、無造作に突き出した!
「おい、白スーツ。……耳の穴かっぽじって、よーく聴きな」
鷹人がアクセルペダルを、安全靴の底で床まで力任せに踏み抜いた!
――ドッガァァァァァァァァァァンッッッッ!!!!
メガスタジアム用の音響設備を通じて、最大出力でドーム内に炸裂した、1万2000ccの巨大内燃機関の咆哮!
――ズドドドドドドドドドッッッッ!!!!
――ドロロロロロロロロロロロッッッッ!!!!
大気が激震し、床の絨毯が跳ね上がり、天井のシャンデリアがガラスの粉を散らして揺れる!
それは、魔導でも魔法でもない。
鉄と油とピストンが限界まで擦れ合い、ガソリンと軽油の爆発によって生み出される、純粋なる「地球の工業力学の重低音」だった。
腹の底を、骨髄を、心臓の鼓動を直接わしづかみにして揺さぶる、圧倒的な現実の質量!
『あ……あばばばばばばばばッ!?』
ステージの上の円城寺明は、手にしたマイクをガタガタと震わせ、耳を押さえて膝をついた。
どれほどスキル【熱狂空間】の美声を張り上げようが、スピーカーから放たれる数万ワットの重低音ディーゼルサウンドの前には、蚊の鳴くような雑音として完全に掻き消されてしまう!
音波の物理法則による、完全なる精神干渉の圧殺!
「う……あ……? 俺……何をしてたんだ……?」
「借金……? 俺、なんで親の形見の指輪まで質に入れて、あんな怪しい契約書にサインしようとしてたんだ……!?」
「魔王を倒して一億円……? そんなの、できるわけないじゃないか……!」
耳を劈く本物の重機サウンドと、冷たい外気の風を浴びて、会場の五百人の若者たちが次々と我に返った。
彼らの瞳から桃色の濁りが綺麗に消え去り、自分たちが犯そうとしていた狂気の借金契約に、サーッと血の気が引いていく。
「正気に……戻った……!?」
円城寺が青ざめて叫ぶ。
トラックのルーフの上で、赤城鷹人は短くなったタバコの灰をトントンと指先で落とすと、見下ろすような眼光で円城寺の眉間を射抜いた。
「言っただろ、白スーツ。……現場で命を張って鉄を回すエンジンの音はな、てめぇの吐き出す耳触りのいいペテンなんぞより、何億倍も人間の魂に響くんだよ」
熱狂のマルチ商法の化けの皮は、現場の轟音の前に、完全に粉々に粉砕されていた。
読んでいただきありがとうございます。
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