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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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EP 6

ニャングルと村のおばちゃん軍団の「前線スタミナ弁当」

 国境駐留基地での『満月被害相殺プロトコル』と即席牛すきうどんの炊き出しを終え、ポポロ村の広場へ戻ってきた一行を迎えたのは、高く澄み渡った高原の秋空だった。

 10トンダンプ(いすゞ・ギガ)の巨大な直列6気筒ディーゼルエンジンが、低く心地よいアイドリング音をゴロゴロと響かせながら停車する。

 助手席から身軽に飛び降りた猫耳商人ニャングルは、地面に着地するなり、首から下げた純金算盤『十露盤』を狂ったような速度で弾き始めた。

 バチバチバチィッ! カチャカチャカチャッ!

「ふふ……ふへへへっ! 見えた、見えたでぇ! 巨大な金の鉱脈が、ウチの脳内の算盤の上にドカンとそびえ立っとるわ!」

「ニャングル、また怖い顔して笑ってるよ……」

 運転席から降りてきたキャルル村長が、タローマン特注の安全靴を鳴らしながら苦笑いを浮かべた。

 胸元の人参刺繍ハンカチで額の汗を拭い、長い兎耳をパタパタと揺らしている。

「何が怖い顔や、キャルル! ビジネスや、超特大の地域振興プロジェクトやで! ええか、よう思い出してみぃ。今朝の国境警備基地の兵士どものツラを!」

 ニャングルは真鍮のキセルをガリッと前歯で噛み鳴らし、ギラギラと黄金色に輝く瞳で村の中央広場を見渡した。

「昨夜はお前のマッハ1の音速ヤキ入れで心身ともにボロボロにされ、今朝は満月治癒で病気も古傷も完治して胃袋だけが全開になった! そんな極限状態の飢えた屈強な男どもに、鷹人はんの作った熱々の牛すきうどんを出したらどうなった!? 親の仇みたいに泣きながら貪り食うて、奪い合うように鍋を空にしよったやろがい!」

「う、うん……みんな美味しそうに食べてくれたけど……」

「そこや! そこが最大の商機(チャンス)なんや!」

 ニャングルは身振りを交えて熱弁を振るった。

「国境の三叉路には、ルナミス帝国、レオンハート王国、アバロン魔皇国の三軍合わせて数千人の兵士が常駐しとる。普段のあいつらの軍隊食はなんや? 歯が折れそうなカチカチの干し肉と、冷え切ったパサパサの太陽芋や! そんな奴らの前に、出来立てホカホカで、脂ギトギトで、ニンニクがガツンと効いたスタミナ満点のドカ盛り弁当を毎日届けてみぃ! 銀貨1枚(約千円)なんぞ、全軍喜んで毎日ルナPayで即時決済しよるわ!!」

「前線の兵士に……スタミナ弁当の宅配……!?」

 傍らで荷台から資材を降ろしていたマンミアが、パイルバンカー『アグニ』を抱えたまま琥珀色の瞳を見開いた。

「せや! 名付けて【ポポロ名物・ドカ盛り肉椎茸スタミナ弁当宅配ビジネス】や! 村の隠田で余っとる米麦草と、規格外の肉椎茸、それに月見大根を安値で買い叩いて……やなくて適正価格で仕入れ、村の屈強なおばちゃん連中を雇って1日3,000個の弁当を量産するんや!!」

 ニャングルの号令一下、わずか三十分でポポロ村の集会所に、エプロンと三角巾を身につけた屈強なおばちゃん連中――約五十名が一斉に集結した。

「おいニャングル! 時給いくら出すんだい!?」

「銀貨3枚(時給3,000円)! もちろん完全歩合ボーナス付きや! 朝の仕込みから昼の盛り付けまで、腕自慢のお母ちゃん方の力を貸してほしいんや!」

「時給三千円!? 乗ったよ! 畑仕事より全然いいじゃないかい!」

「任せときな! 大鍋で炒め物作らせたら、ポポロ村の母ちゃん連中に敵う奴はいないよ!」

 わぁっと歓声が上がり、おばちゃん軍団の気勢が上がった。

 だが――集会所の粗末な調理場に足を踏み入れた瞬間、現場の熱気は急速に冷え込んだ。

「……ちょいとお待ちよ、ニャングル。一日三千個って、この家庭用の薪コンロ三基と平鍋二枚でどうやって作るんだい?」

「米麦草を炊くだけで一日が終わっちまうよ! それに、そんな大量の弁当をどうやって前線まで温かいまま運ぶ気だい?」

「う……! そ、それは……」

 ニャングルの猫耳がピクリと垂れ下がった。

 商売の絵図は完璧でも、それを支える「生産設備(ハードウェア)」が、限界集落のインフラではあまりにも貧弱すぎたのだ。

 集会所に漂い始めた不穏な空気。

 その時、入り口の引き戸をガラリと開けて、作業着のポケットに両手を突っ込んだ男が悠然と入ってきた。

 赤城鷹人である。

 鷹人は無精髭の顎を撫でながら、手狭な厨房と山積みの食材を一瞥した。

 胸ポケットから紙巻きタバコの箱を取り出し、一本を唇にくわえる。

 取り出したのは、地球の百円均一ショップで調達した、安っぽい黄色いプラスチック製の使い捨てライターだ。

 親指の腹で、ヤスリを無造作に弾いた。

 ――カチッ、シュボッ。

 静かな調理場に、硬質で澄んだ金属の着火音が鋭く響き渡る。

 揺れる小さな橙色の炎。先端に火を移し、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 天井へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。

 ツンとしたタバコの香りが、漂っていた焦燥感をスーッと解きほぐしていく。

「おいおい、ニャングル。現場のキャパシティ(生産能力)を計算しねぇで仕事を取ってくるのは、三流の営業がやることだぜ」

「た、鷹人はん……! せやかて、このビッグウェーブを逃したら村の大黒字がぁ……!」

「焦るなよ。段取り八分、仕事二分だ。……機械がねぇなら、据え付けりゃいいだけだろ」

 鷹人はタバコを携帯灰皿へねじ込むと、作業ジャケットの袖を腕まくりした。

 意識を研ぎ澄まし、頭の中のユニークスキル【リサイクルマスター】を起動する。

――――――――――――――――――――

【所持スクラップPt:92,600 Pt】

・カタログ選択:【大型給食センター倒産品・食品工場解体設備カテゴリー】

・カタログ選択:【業務用厨房機器・高断熱物流機材カテゴリー】

――――――――――――――――――――

(地球の大手仕出し弁当工場がライン更新でスクラップヤードに放り投げた、極上のステンレス製食品プラント機器……どれも減価償却が終わっただけで、フレームもバーナーも一級品だ!)

【召喚リスト】

・業務用プロパン仕様・立体自動炊飯器(1回で150食炊飯×3基・連続稼働型)(消費:800Pt)

・ステンレス製・200リットル超大型ガス回転蒸気釜(テフロンコーティング仕様)2基(消費:600Pt)

・ベルトコンベア式・食品盛り付けライン(全長8メートル・可変速モーター付き)(消費:400Pt)

・高断熱ポリエチレン製・超大型デリバリー保温コンテナボックス(300食収容)10個(消費:200Pt)

――――――――――――――――――――

合計消費Pt:2,000 Pt ――【召喚実行】

 ――ドゴォォォォンッッッッ!!!!

 集会所の裏庭に、凄まじい地響きとともに銀色に輝く巨大なプラント設備が出現した。

 おばちゃん軍団が「ひゃああああっ!?」と飛び上がり、キャルルが真紅の瞳を丸くして息を呑む。

「な、なんやこのピカピカした鉄の巨塔はぁぁッ!?」

「地球の給食センターで使われてた、一発で何千人前もの飯を炊き上げる自動炊飯器と、炒め物用の回転釜だ」

 鷹人は工具箱からパイプレンチとシールテープを取り出すと、ドンガン製の高圧マナ配管とプロパンガスボンベへ、目にも留まらぬ速さで配管を直結していった。

 カチッ、カチッ、ジャキッ!

 自衛隊施設科(工作部隊)仕込みの突貫設備工事。わずか十分で、すべてのガス管、給水管、排気ダクトが完璧に接続された。

 鷹人が元栓を開き、立体炊飯器の点火スイッチを押す。

 ――ボォォォォォッッ!

 青白い高火力バーナーが一斉に点火し、巨大な釜がゴオォッと頼もしい唸りを上げ始めた。

「よし、火が回ったぜ。……おばちゃんたち、段取りを教えるぞ! 第一班は米研ぎと炊飯器へのセット! 第二班は肉椎茸と豚バラのカット! 第三班はコンベアの前で盛り付けだ!」

「「「お、おうよッ!!」」」

 的確な現場指示に、百戦錬磨の主婦たちが一瞬でプロの作業員へと切り替わった。

 ここからが、現場監督・赤城鷹人の真骨頂だった。

「まずは、弁当の命――ベースのアロマ作りだ」

 鷹人は大玉の青森県産ニンニクを三房手に取ると、薄皮を素早く剥ぎ取り、あの黄色い百円ライターを取り出した。

 親指の腹でヤスリを弾く。

 ――カチッ、シュボッ。

 澄んだ着火音。

 小さな橙色の炎を、剥きたての生ニンニクの先端へ直接あてがった。

 ――チリチリチリ……ジュワッ。

 直火に炙られたニンニクがパチパチと音を立て、香ばしい狐色に焦げていく。

 滲み出る濃厚な植物油のエキス。

 その瞬間――。

 ボワッッッッ!!!!

 厨房の空気を一瞬で灼熱のスタミナ空間へと変えるほどの、猛烈に甘く香ばしい焦がしニンニクのアロマが爆散した!

「ひゃあぁ……! いつ嗅いでも、たまらん匂いだねぇ!」

「胃袋がひっくり返りそうだよ!」

 鷹人は包丁の腹で炙りニンニクをドカンと叩き潰すと、200リットルの巨大回転蒸気釜へ純正ラードとともにぶち込んだ!

 さらに、村の特産である肉厚の『肉椎茸』をドサドサと投入!

 続けて、地球の規格外豚バラ肉スライス五十キロを一気に投下する!

 ――ジュワアアアアアアアアッッッッッッ!!!!

 耳を劈く猛烈な炒め音!

 立ち上る真っ白な湯気と、肉椎茸から染み出る濃厚なキノコのエキス、そして豚の脂の爆ぜる音!

 鷹人が大櫂(かい)を豪快に操り、回転釜を煽る。

 仕上げに回し入れたのは、地球の特選醸造醤油、みりん、そして赤唐辛子をブレンドした特製焦がしダレだ。

 ――ジョワッッッッッッ!!!!

 焦がし醤油と炙りニンニク、そして肉椎茸の旨味が三位一体となって、天井まで吹き上がる竜巻のような湯気となった!

「炊き上がったよぉぉッ!」

 立体炊飯器の扉が開き、ふっくらと艶やかに輝く炊きたての米麦草ライスが湯気を吹き出す。

「流せ流せ! コンベア起動だ!」

 カタカタカタカタ……ッ!

 ベルトコンベアが動き出し、並べられた弁当箱に、おばちゃん軍団の神業の連携で山盛りの白飯、千切りキャベツ、そして飴色に照り輝く極上の肉椎茸と豚バラ炒めがドカドカと盛り付けられていく!

 仕上げに半熟味玉と福神漬けを添え、パチンと蓋を閉める。

 1分間に五十個。

 圧巻のスピードで、出来立てアツアツの『ドカ盛り肉椎茸スタミナ弁当』が次々と高断熱保温コンテナへと吸い込まれていった!

 正午きっかり――。

 国境の三大国合同警備駐留基地の荒野に、地響きを立てて突進してくる車列があった。

 先頭を走るのは、赤城鷹人がハンドルを握る10トンダンプ(いすゞ・ギガ)。

 荷台には、湯気を逃がさない巨大な保温コンテナが満載されている。

 その両脇を、時速八十キロで爆走する村の走竜(ジオ・リザード)部隊と、俊足のロードランナー獣人たちが固めていた。

 ――プシューーーッッ!

 ダンプがエアブレーキの快音とともに基地の広場へ滑り込む。

 荷台のあおりがバタンと開かれた瞬間、助手席のニャングルが拡声器を片手に仁王立ちした。

「毎度おおきに! 国境警備の兵士の旦那がた、お疲れ様ですやん! 昨夜のうちのウサギ村長の無礼のお詫びと、日頃の国防への感謝を込めまして――ポポロ村名物【ドカ盛り肉椎茸スタミナ弁当】、炊きたてアツアツのやつを緊急宅配に上がりましたでぇぇッ!!」

 パカッ、と保温コンテナの蓋が開け放たれた。

 その瞬間――。

 ボワァァァァァァッッッッ!!!!

 乾燥した荒野の熱風を一瞬で上書きする、暴力的な焦がしニンニクと豚脂、そして肉椎茸の甘辛醤油ダレの香気が、基地全域を濃密な煙幕となって包み込んだ!

「な……な、何だこの匂いはぁぁぁッ!?」

「ニンニク……!? 肉……!? 醤油の焦げた香り……!?」

 兵舎から、ルナミス帝国の重装歩兵、レオンハート王国の獣人兵、アバロン魔皇国の魔闘士たちが、我先にと雪崩を打って飛び出してきた。

 昨晩キャルルに殴られて全回復させられ、胃袋がカラカラに空っぽになっていた彼らの鼻腔に、直火炙りニンニクのアロマがダイレクトに突き刺さる。

「ぎ、銀貨1枚(千円)ポッキリ! ルナPayならポイント5倍や! 早い者勝ちやでぇぇッ!!」

「俺にくれぇぇッ!」

「金貨を出す! 十個まとめて売ってくれぇぇッ!」

「並ぶな、俺が先だぁぁッ!」

 前哨戦の睨み合いなど完全に消し飛び、三国の兵士たちが入り乱れて弁当の前に殺到した!

 受け取った兵士が、震える手で割り箸を割り、肉椎茸と豚バラを口いっぱいに掻っ込む!

 ――ハフッ、ハフッ、ジュワッッッッ!!!!

「――!!!!????!!!!」

 一口噛み締めた瞬間、兵士たちの全身に電流が走った!

 肉厚の肉椎茸から溢れ出す、ステーキ以上の濃厚な旨味エキス。カリカリに炒められた豚バラの脂。

 そして何より、直火で炙られたニンニクの強烈なパンチが、タレの染みた白飯の甘みと融合し、五臓六腑を熱く焦がしていく!

「う……う、うんめぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!! なんだこれぇぇぇッ!? 干し肉と芋の毎日だった俺たちの喉を、脂とニンニクの津波が洗い流していくぞぉぉッ!!」

「米が温かい! 肉椎茸が信じられないくらいジューシーだ!」

「ポポロ村バンザイ! キャルル村長バンザイだぁぁぁッ!!」

 荒野の真ん中で、数千人の兵士たちが涙を流しながら弁当を貪り食っている。

 三千個の弁当は、わずか二十分で米粒一つ残さず完売した。

 チャリン、チャリン、チャリンッ!

 ニャングルの携帯魔導端末から、ルナPayの決済完了音がけたたましいマシンガンのように鳴り響き続けていた。

「ひ、ひぃぃ……! 売上高、一撃で金貨300枚(約300万円)突破や! おばちゃんたちの日給と原材料費を引いても、純利益で金貨200枚の大黒字やでぇぇッ!!」

 ニャングルは算盤を抱きしめて涙ぐみ、キセルを咥えて天を仰いだ。

 その狂騒の中、ダンプのステップに腰掛けた赤城鷹人の脳天へ、澄んだ電子音が心地よく鳴り響いた。

『善行を検知しました』

『事象:国境警備兵数千名に対する高品質完全給食の提供および栄養改善』

『事象:限界集落ポポロ村の雇用創出(主婦層の高賃金労働)および農業資源の完全循環』

『判定:極めて高度な生産管理工学と物流技術に基づく、平和的地域経済の確立』

『スクラップPt +3,500Pt を獲得しました』

(よし、消費分を引いても所持ポイントは94,100Ptまで戻ったな)

 鷹人は胸の中で小さく笑った。

 村が潤い、前線の男たちが腹を満たし、自分のポイントも増える。これ以上気持ちのいい現場仕事はない。

 鷹人は作業ジャケットの内ポケットからタバコを取り出し、黄色い百円ライターで火を灯した。

 親指でヤスリを弾く。

 ――カチッ、シュボッ。

 澄み切った青空の下、揺らぐ橙色の炎。

 紫煙をゆっくりと吹き出す鷹人。

「言葉が通じなくても、拳と美味いメシ、あとはエンジン音があれば世界中どこでも生きていける」

 現場で汗を流し、美味い飯を食った奴同士は、そう簡単に殺し合いなんか始めやしない。

 それが、赤城鷹人が世界中の飯場で学んできた絶対の真理だった。

 だが――その平和な熱気に包まれた街道の遥か彼方から、豪奢な黒塗りの馬車と、重装騎兵の車列が、土煙を上げてポポロ村の方角へと向かっていた。

 馬車の扉に刻まれているのは、三大国の国章が組み合わさった冷酷な紋章――『三大国合同徴税査察部』の証だった。

「ポポロ村とかいう僻地の農村が、毎月莫大な外貨を稼ぎ出していると聞く……。隠田、密輸、脱税の温床に違いない。……徹底的に締め上げて、村の資産を骨まで巻き上げてやるぞ」

 冷笑を浮かべる傲慢な役人たちの視線が、ポポロ村の境界線へと向けられていた。

 現場の兄ちゃん・赤城鷹人とポポロ村の平穏に、新たな「国家権力」の嵐が迫っていた。

読んでいただきありがとうございます。

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