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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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EP 3

神界配信『ゴッドチューブ』での無自覚ASMR大バズり

「な……な、何だこれはぁぁぁぁぁッッッ!?!?!?」

 元・魔皇国四天王筆頭『氷魔将軍』スアイの絶叫が、ポポロ山中腹の白樺林にこだました。

 かつて数十万の大軍を前にしても眉毛一本動かさなかった冷徹無比な元将軍が、手元の作業用魔導端末を落としそうになりながら、白目を剥いて硬直している。

 端末の液晶画面には、信じがたい文字列が紅蓮の警告アラートとともに点滅していた。

――――――――――――――――――――

【神界生配信:元四天王のポポロ山開拓DIYチャンネル】

・現在の同時接続数:【42,580,000人】(全宇宙・急上昇1位独占中)

・配信コメント流速:毎秒8,000件突破(GOD本社サーバー過負荷警報)

・神界投げ銭(ゴッドスパチャ):総額【3億円】突破(天界記録更新中)

――――――――――――――――――――

「同接四千万……!? スパチャが三億……ッ!? ば、馬鹿な! 私はただ、作業小屋の定点記録用にカメラを回していただけなのだぞ!?」

 スアイが狼狽して長い銀髪を振り乱す横で、赤城鷹人は水車小屋の濡れ縁に腰掛け、だるそうに首の骨をゴキリと鳴らした。

 サウナ上がりの火照った肌に、作業ジャケットをラフに羽織っている。

「おいおい、スアイの旦那。そんなに大声を出すなよ。画面のカウンターがバグったか、向こうの回線業者が通信障害でも起こしたんだろ」

「バグなどという生易しい現象ではない! 見ろ、コメント欄のこの狂気的な速度を!」

 スアイが震える指で突き出した画面には、全宇宙の神々や上位存在たちが書き込むコメントが、まるで光速の滝のように濁流となって流れ落ちていた。

『なんだこの渋すぎる現場の兄ちゃんはぁぁぁぁッ!?』

『チェーンソーの刃を平ヤスリで目立てするシャッシャッって音……脳汁ドバドバ出る(昇天)』

『ピローブロックベアリングをジャッキで噛ませてボルト締めする手際の良さ何!? 職人フェチにはたまらん!!』

『極寒サウナからの水風呂ドボン、そして雪上外気浴……見てるだけでこっちまで精神が完全に“ととのう”んだが!?』

『七輪の肉椎茸と炙りニンニク!! ジュワァァァッて音と煙の飯テロで天界の残業勢が全員爆死したわ!!』

『度数40度の地酒を一気に呷るあの喉仏のエロさよ……十万ポイント投銭(スパチャ)するからもっとタバコ吸ってくれ!!』

『【虹色スパチャ:金貨1,000枚】兄ちゃん! その作業着の袖捲りをもっと近くで見せてくれぇぇぇ!!』

 画面を埋め尽くす極彩色の投げ銭エフェクト。

 天界の退屈を持て余した神々、残業に追われる神格公務員、そしてスローライフを愛する無数の好事家たちが、赤城鷹人が放つ「圧倒的な現場のリアリティ」に魂を撃ち抜かれていたのだ。

◆

 ピリリリリッ! ピリリリリッ!

 その時、スアイの端末から鼓膜を劈くような緊急通信のアラームが鳴り響いた。

 画面に割り込んできたのは、桜色ツインテールを激しく揺らし、頭上の光輪(ヘイロー)をサイケデリックに乱点滅させた少女――月収二億円のメガゴッドチューバー、天使キュララだった!

『スアイ様ぁぁッ! 鷹人さん! 一体ポポロ山で何やらかしたのぉぉぉぉッ!?』

 キュララは普段のあざとい営業スマイルを完全にかなぐり捨て、絶叫していた。

『天界のゴッドチューブ運営本部から緊急ホットラインが入って、私のチャンネルのサーバー帯域まで全部スアイ様の枠に吸い取られてるんだけど〜!? 全宇宙の神界トレンドの1位から10位までが【現場の兄ちゃん】【神の手の目立て】【ととのう】【炙りニンニク】で完全に埋め尽くされてるんだけどぉぉぉッ!!』

「キュララ、落ち着け。私はただ、鷹人殿に道具の修繕を手伝ってもらい、サウナに入って肉椎茸を焼いただけなのだ……!」

『それが一番ヤバいんだよぉぉッ!』

 キュララが魔導画面越しに頭を抱える。

『今の神界リスナーはね、見飽きた勇者と魔王の茶番劇や、わざとらしいお色気配信にうんざりしてるの! そこへ、一切のカメラ意識ゼロで、無言でタバコを吹かし、神業の金属加工をこなして、極寒の雪山で極上のサ飯をガツガツ食う作業着の人間(鷹人さん)が現れたのよ!? 生々しすぎる現場の音響(ASMR)と男臭い生活感の暴力に、全宇宙の女神も男神も脳みそ蕩けさせられてるのぉぉッ!!』

 事実、その瞬間にも天界の各所では、前代未聞の天変地異が巻き起こっていた。

 ――天界・GOD本社、第3種惑星創造神の執務私室。

 小豆色の芋ジャージを着て、コタツでみかんを剥いていた世界神ルチアナが、缶ビールを床にぶち撒けて叫んでいた。

「ちょっとぉぉぉッ! 何よこの数字はぁぁぁッ!? 私が何万年もかけて仕込んだ『魔王vs勇者の宿命の対決編』の月間PVを、ただの現場作業員がチェーンソー研いでニンニク齧ってるだけのゲリラ配信が、わずか二時間でゴボウ抜きしていったんだけどぉぉぉッ!? 私の世界神としての威厳はどうなるのよぉぉぉッ!!」

 ――同じく天界、星区統括リーダーのオフィス。

 後光と見紛うばかりの完全無毛スキンヘッドを光らせた哀愁の中間管理職神・オリンが、両手いっぱいの胃腸薬「ガスター・オメガ」をポリポリと噛み砕きながら、モニターの前で号泣していた。

「す、素晴らしい……! 暴行も虐殺もヤラセもない、純粋な労働の汗と美味い飯の癒やしコンテンツ……! これなら……これならGOD本社のコンプライアンス審査も満点通過できる! 今年の星区評価は黒字だ! 銀河神への昇格試験が受けられるぞぉぉぉッ!! ありがとう、現場の兄ちゃん! ありがとう、赤城鷹人ぉぉぉッ!!」

 ――そして、未踏ダンジョン最深部の特級隔離結界。

 高級スーツに身を包んだ邪神デュアダロスが、机の上のトカレフ拳銃を放り出し、画面の七輪を指差して吠えていた。

「おいハゲ(オリン)! 見とるかコレを! あの七輪で炙っとる肉椎茸とニンニク醤油の照り状、見事すぎるじゃろうがボケ! おい、今すぐあの作業着の兄ちゃんをこの組事務所へ連れてこい! 俺の目の前でニンニクチーズを炙らせんかいコラァァッ!!」

◆

 画面の向こうで全宇宙が狂乱の渦に叩き落とされているというのに、当の赤城鷹人は、どこ吹く風といった様子だった。

「……おいおい。カメラの向こうのギャラリーがどれだけ騒ごうが、現場作業員(おれ)のやるこたぁ変わらねぇよ」

 鷹人は作業ジャケットの内ポケットへ無造作に手を差し入れた。

 取り出したのは、少し潰れた紙巻きタバコの箱。

 一本を唇にくわえ、安っぽい黄色いプラスチック製の百円ライターを構える。

 親指の腹で、ヤスリを無造作に弾いた。

 ――カチッ、シュボッ。

 澄み切った雪山の空気に、硬質で澄んだ金属の着火音が鋭く響き渡る。

 揺れる小さな橙色の炎。先端に火を移し、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 青空へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。

 その着火音と、紫煙を吐き出す鷹人の横顔が、水車小屋の配信カメラに超高解像度でドアップで映し出された。

『キタァァァァァッ!! 100円ライターの着火音ASMR!!』

『耳元で鳴らされた瞬間、背筋に電流走ったわ……!』

『余計なトークを一切しないこのハードボイルドな佇まい、マジで痺れる!!』

『【虹色スパチャ:金貨5,000枚】兄ちゃん! 一生そのタバコ吸い続けてくれ!!』

 さらに画面を埋め尽くす投げ銭の嵐。

 鷹人は灰皿代わりに携帯灰皿へ灰をトントンと落とすと、立ち上がって安全靴の紐をキュッと締め直した。

「スアイの旦那。日暮れ前に、持ち込んだヒノキ丸太の墨付けと、ダンプの日常点検を済ませちまうぞ。現場を散らかしたまま帰るわけにはいかねぇからな」

「あ、ああ……! そうだな、手伝おう!」

 鷹人は10トンダンプ(いすゞ・ギガ)の巨大なボンネットの前へ回ると、手慣れた手つきでキャブチルトのレバーを引き、運転席を前へと持ち上げた。

 剥き出しになった巨大なV8ディーゼルエンジン。

 オイルゲージを引き抜き、ウエスで拭って油量を確認。冷却水のリザーバータンクを叩き、ファンベルトの張りを指先でグッと押し込んで確かめる。

 カチャリ、カン、コツン。

 無駄のない、研ぎ澄まされたプロの点検動作。

 そして――キャブを戻し、運転席の直結スタータースイッチを捻った。

 ――キュルルルッ、ズドォォォォォォォォォンッッッッ!!!!

 山林全体を揺るがすような、重厚極まりない直噴ディーゼルエンジンの咆哮!

 マフラーから微かに吹き出す軽油の排気煙と、焼けたオイルの匂い!

 純粋な内燃機関の爆発が生み出す、腹の底を直接揺さぶる重低音の振動が、配信マイクを通じて全宇宙の神々の耳腔を直撃した!

『うおおおおおおおおッッッッ!!!!』

『なんだこの腹に来る重低音はぁぁぁッ!?』

『魔導エンジンとは格が違う! 鉄と油が擦れ合う本物の機械の鼓動だ!!』

『最高すぎる……作業用BGMとして永久ループ決定だわ……!』

 拍手喝采と歓喜の弾幕が、もはや文字の形を保てないほどの光の帯となって画面を埋め尽くしていく。

◆

 その時だった。

 ――ピロリロリロリロリロリロリンッッッ♪

 鷹人の脳天へ、これまで聴いたこともないような、天界の全鐘楼が一斉に鳴り響いたかのような壮絶な電子ファンファーレが炸裂した!

『超特大・次元超越善行を検知しました』

『事象:全宇宙規模の精神的疲弊に対する、極上のASMR環境音および野戦飯テロによる大規模癒やしの供給』

『事象:神界ゴッドチューブにおける【同時接続四千万人突破】および健全コンテンツの樹立』

『判定:一切の作為なき、ただ誠実に現場を回したことによる未曾有の利他社会貢献』

『スクラップPt +50,000Pt を獲得しました』

(……は? ご、五万……!?)

 鷹人は思わずタバコを取り落としそうになった。

 ステータス画面を開くと、所持ポイントは一気に【92,975 Pt】という天文学的な数値へ跳ね上がっていた。

 重機どころか、地球の巨大工場プラントや、戦車、果ては巨大シールドマシンまで視野に入る領域である。

「おいおい……タバコ吸ってダンプのオイル点検しただけで五万ポイントかよ。天界の連中、どんだけ現場の空気に飢えてんだ」

 鷹人が苦笑いしながらタバコを携帯灰皿へ押し込んだ、その時だった。

 ――ズズズズズズズ……ッ!

 遥か東の地平線、ポポロ山の向こう側の空が、急速に不吉な暗雲を帯び始めた。

 見上げれば、青空の端から顔を覗かせ始めたのは――異常なほど大きく、妖しい真紅の光条を帯びた、完全なる「満月」の輪郭だった。

 山林を渡る風が、ピリピリとした強烈な静電気と、張り詰めた緊張感を運んでくる。

「……ぬ?」

 スアイが端末から顔を上げ、冷徹な群青の瞳を細めた。

「まずいな……今夜は、月齢が極限に達する『大満月』の夜か」

「満月? それがどうしたんだ、旦那」

「鷹人殿、知らんのか。……ポポロ村の村長、月兎族のキャルル殿は、満月の夜になると体内の月のマナが臨界突破し――理性の一切をかなぐり捨てた『音速の暴走特急』と化すのだ」

「……は?」

「毎月、満月の夜が来るたび、あの生真面目な村長殿はダブルトンファーを握り締め、三大国の国境駐留所へ笑顔でカチコミをかけに出陣する。……『殴打して瀕死にする ➔ 満月の光で全回復させる ➔ 再び殴打する』という、悪夢の熱血ヤキ入れ指導を行うために、な」

 スアイが真顔で語るその言葉に、鷹人は思わず額を押さえた。

「殴って治してまた殴る……? どんな無限地獄の現場指導だよ」

 空を見上げれば、東の空の満月が、妖しくギラギラと輝きを増していく。

 村の方角から、微かに「アハハハハッ! 月が綺麗! 命が燃えてるぅぅぅッ!!」という、可憐だが背筋が凍るような絶叫が風に乗って響いてきた。

 鷹人はニヤリと無精髭の口元を吊り上げ、ダンプカーのステップへ足をかけた。

「言葉が通じなくても、拳と美味いメシ、あとはエンジン音があれば世界中どこでも生きていける」

 だが――今夜のポポロ村には、どうやら言葉も拳も通じない「マッハ1のウサギ」が解き放たれようとしていた。

 赤城鷹人の現場仕事は、神界配信の狂騒から、村長大暴走の修羅場へと一気に舵を切った。

読んでいただきありがとうございます。

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