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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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27/69

EP 2

元四天王スアイのポポロ山開拓と極寒テントサウナ

 村長公邸の給湯配管と温水ボイラーのオーバーホールを完璧に終え、居候トリオの胃袋を『焦がしニンニクスタミナ丼』で満たしてから、およそ二時間後。

 ポポロ村の街道を、地響きを立てて走る一台の黄色い巨体があった。

 赤城鷹人がユニークスキル【リサイクルマスター】で召喚し、配線直結で息を吹き返させた10トン大型ダンプカー(いすゞ・ギガ)である。

 運転席の鷹人は、窓から吹き込む涼やかな高原の風を浴びながら、滑らかなシフト操作で急勾配の山道を進んでいた。

 荷台に満載されているのは、村の巨大ロードサイド店舗『ホームセンター タローマン』で積み込んだ大量の建築資材だった。

 防腐処理済みの極太ヒノキ丸太、波トタン板、耐火レンガ数百枚、そして特注の薪ストーブ用煙突パイプ。

「……さてと。そろそろ現場のはずだが」

 鷹人はギガを路肩の平坦なスペースに停車させ、エアブレーキの排気音をプシューッ! と響かせた。

 車を降り、作業ジャケットの埃を払う。

 見渡せば、標高千五百メートルを超えるポポロ山の中腹。村落の長閑な田園風景は遥か眼下に霞み、周囲を取り囲んでいるのは、初冬の訪れを告げる白樺の原生林と、透き通るような白銀の残雪だった。

 その白銀の原生林の奥から、けたたましい金属の悲鳴と、苛立たしげな男の舌打ちが木霊してきた。

 ――ギャリギャリギャリッ! ギャギィィィンッ!

 ――キュルルルッ……プスンッ!

「……チッ。また噛み込みか。回転数とソーチェーンの刃角がまったく噛み合っていないな。これでは一本の丸太を落とすだけで半日潰れてしまう……」

 立ち込める白煙の向こう、開墾された広場の中央に、その男はいた。

◆

 身の丈は百八十センチ強。

 氷の結晶を思わせる透き通ったプラチナシルバーの長髪を後ろで無造作に束ね、切れ長の冷徹な瞳は深い群青色を湛えている。

 身にまとっているのは、魔王軍の高官が着る豪奢な軍服ではなく、タローマンのワゴンセールで買ったという無骨なカーキ色のワークベストとネルシャツ、そして木屑まみれのカーゴパンツだった。

 手にした魔導エンジン式チェーンソーを止め、ため息をついている美丈夫。

 アバロン魔皇国において、かつて数十万の大軍を率いて大陸全土を震え上がらせた元・四天王筆頭『氷魔将軍』――スアイ(実年齢:三百歳前後)である。

「カッカッカ! 皆殺しだ!」と叫ぶ旧軍のブラック精神論に嫌気が差し、数年前に「有給全消化の上での依願退職届」を魔王城のデスクへ叩きつけて脱走。現在はポポロ山の雄大な自然に惚れ込み、自力で山林を開墾して『プライベートキャンプ場&極上テントサウナリゾート』をDIYで建設している脱サラ元将軍だった。

「……あんたが、タローマンに資材を発注したスアイの旦那か?」

 鷹人が声をかけると、スアイはピクリと眉を動かし、氷のように鋭い視線を向けた。

「……ほう。タローマンの配達員か。ずいぶんと珍妙な鉄の荷馬車(ダンプ)で上がってきたものだな。……すまないが、木材と耐火レンガはあそこの作業小屋の脇に降ろして――」

 スアイが言いかけた瞬間、鷹人は大股で歩み寄り、スアイの手元にある魔導チェーンソーを無造作に覗き込んだ。

「資材を降ろすのは後だ。……旦那、そのチェーンソー、刃の『目立て』が狂いすぎてて丸太が切れるどころか、キックバックを起こして首を飛ばす寸前だぞ」

「……なに?」

 スアイの群青の瞳がスッと細められた。元四天王の放つ、周囲の気温を一瞬で氷点下まで引き下げるような絶対零度の気迫。

 だが、鷹人は眉ひとつ動かさず、作業ジャケットの内ポケットから紙巻きタバコを取り出して唇にくわえた。

 取り出したのは、地球の百円均一ショップで買った黄色いプラスチック製のライターだ。

 親指の腹でヤスリを弾く。

 ――カチッ、シュボッ。

 静かな雪山に、硬質で澄んだ金属の着火音が鋭く響き渡った。

 小さな橙色の炎。

 先端に火を移し、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 白銀の森へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。

 ツンとしたタバコの香りが、スアイの冷気と混ざり合い、山林の張り詰めた空気をフッと和らげていく。

「おいおい、元将軍さん。殺気立つなよ。現場で道具を粗末に扱って、怪我をする奴を見るのが一番寝覚めが悪いんだよ」

 鷹人はタバコをくわえたまま、腰のツールホルダーから一本の平ヤスリと丸ヤスリをシャキリと抜いた。

「ちょっと貸してみな。本物の山師の目立てってやつを見せてやるよ」

◆

 鷹人はチェーンソーのガイドバーを木株の万力へガチリと固定した。

 目にも留まらぬ速さで、刃の角度(カッター)とデプスゲージ(切り込み深さ調整爪)の隙間を指先でスキャンする。

「刃の研磨角度が三十度からズレて、刃先が丸坊主になってる。おまけにデプスゲージが高すぎて、刃が木に食い込まずに滑ってやがったんだ。……見てな」

 シュッ、シュッ、シュッ……!

 鷹人の腕が、機械仕掛けのように正確無比なストロークを描く。

 常に水平から三十度、斜め十度の上向き角度をミリ単位で維持しながら、丸ヤスリで一刃ごとに三回ずつ、一定の力で研ぎ上げていく。続けて平ヤスリでデプスをコンマ六ミリ削り落とす。

 飛び散る微細な銀の削り粉。

 わずか三分後、鈍く丸まっていたチェーンソーの全刃が、まるでカミソリの刃のように白く鋭利な輝きを取り戻していた。

「ほらよ、旦那。そこの直径五十センチのヒノキ丸太に当ててみな」

 スアイは半信半疑のままスターターロープを引いた。

 ――ズバババババッッッ!!

 澄み切った排気音とともにソーチェーンが高速回転する。

 ガイドバーを丸太に軽く添えた――瞬間だった。

 ――ズドドドドッ、スパーーーンッッ!!

「な……ッ!?」

 力を込めて押し付ける必要すら全くなかった。

 まるで熱したナイフをバターへ滑り込ませたかのように、チェーンソーは自重だけで極太の丸太を瞬時に吸い込み、わずか五秒で綺麗な輪切りにして切り落としたのだ!

 噴き出したのは、粉状の木屑ではなく、カンナで削ったような大きなリボン状の木片だった。完璧な切れ味の証拠である。

「す……素晴らしい……! 一切の引っかかりがない! 魔力で無理やり押し切るのではなく、純粋な刃先の物理的鋭利さだけで木を断ち切っている……ッ!」

 スアイの群青の瞳が、少年のような輝きを帯びて見開かれた。

「さらに旦那、あっちの水車小屋だ」

 鷹人はタバコの灰を指先で弾き、渓流の脇に建つ木造水車を指差した。

「水車軸の木製受け木が、凍結と水流で偏摩耗してガタついてる。あれじゃあ軸が焼き付いて、今夜の冷え込みで木枠ごと砕け散るぞ」

「う……! 確かに、今朝から異音がしていたのだが、木工の知識だけでは原因が分からず……」

「段取り八分、仕事二分だ。……資材置き場から、ぴったりのパーツを出してやるよ」

 鷹人は頭の中のスキルを展開した。

――――――――――――――――――――

【所持スクラップPt:40,975 Pt】

・カタログ選択:【地球機械工場廃棄品・工業用軸受カテゴリー】

――――――――――――――――――――

(地球の製材所で寸法変更に伴いデッドストックになっていた、旭精工製の高耐久鋳鉄製ピローブロックベアリング二組、高張力ステンレスボルト、耐水性カルシウムグリス一式……消費ポイント、たったの30Pt)

 ――ヒュンッ!

 鷹人の手元に、緑色の頑丈な鋳鉄製ベアリングハウジングが出現した。

 鷹人は水車の主軸をジャッキで軽々と持ち上げると、摩耗した木製受け木を取り外し、地球の高耐久ボールベアリングをピタリと噛ませてボルトで締め上げた。

 ――カチッ、カチッ、ガチィッ!

 渓流の激流を受け、水車が再び回転を始める。

 ――トコトコトコトコ……ッ。

 先ほどまでの激しいキシキシという異音は完全に消え去り、水車は滑らかな回転音を立てて、清らかなポポロ山の天然水を勢いよく小屋の中へと汲み上げ始めた。

「信じられん……。魔法の補助なしに、物理的な摩擦をここまで極限までゼロに近づけるとは……ッ!」

 スアイは水車の回転を見つめ、深々と鷹人に向かって頭を下げた。

「貴殿の工学技術、見事というほかはない。私はスアイ……魔王軍を辞め、この山で生きるただのDIY好きの隠居だ。……赤城鷹人殿、と呼べばよいか?」

「鷹人でいいぜ、スアイの旦那。現場の手伝いなんざ、職人同士の当たり前の助け合いだ」

◆

「鷹人殿。もし時間に余裕があるなら……我が自慢の施設を体験していかれないか?」

 スアイが誇らしげに案内したのは、渓流のほとりに設営された、極厚の耐寒性ロシア製軍用キャンバス生地で作られた大型ドームテントだった。

 煙突からはパチパチと心地よい白樺の薪の煙が立ち上り、中からは猛烈な熱気が漏れ出している。

「ポポロ山開拓の結晶――極寒テントサウナだ」

「サウナか! いいねぇ、現場の疲れを抜くには最高のアクティビティだ」

 二人は作業着を脱ぎ捨て、腰にタオル一枚を巻いてテントサウナの中へと入った。

 ――ジュワァァァァァァッッッッ!!!!

 テントの中央には、赤々と燃え盛る特注の薪ストーブ。

 その上に山盛りに積まれているのは、ポポロ山の火口付近で採取された高純度マナ鉱石のサウナストーンだ。

 スアイが木製のアロマ柄杓で、白樺の葉を煮出した清らかな雪解け水をストーンの上へ豪快に振りかける!

 立ち上る、暴力的な熱波(ロウリュ)と、森林の爽やかな香り!

 室温は百二十度。だが、スアイが巧みにコントロールする微弱な氷魔力と蒸気の対流により、肌を刺す痛みが一切なく、柔らかく濃密な熱気が毛穴の奥深くまで浸透してくる。

「……ふぅーーーーっ」

 鷹人の全身の毛穴から、玉のような汗が一気に噴き出した。

 日々の重機操作や溶接作業で凝り固まっていた僧帽筋と腰の筋肉が、熱によってトロトロに解きほぐされていく。

「……効くな、旦那。神話級の熱気だぜ」

「フッ……我が氷魔の力で、熱波の密度を均一に循環させているのだ。……十分経ったな。出るぞ、鷹人殿」

 テントのジッパーを開け、二人は一気に氷点下の外気へと飛び出した!

 吹き抜けるのは、マイナス五度の極寒の山風。

 だが、二人の皮膚からはもうもうと蒸気が立ち上り、寒さなど微塵も感じない。

 そして――。

「「せーのっ!」」

 ザッパァァァァァンッッッッ!!!!

 二人はそのまま、渓流の雪解け水が流れ込む、水温三度の天然プールへと豪快にダイブした!

 全身の血管がキュッと収縮し、心臓が力強くドクン! と跳ね上がる。

 極限の冷却。わずか三十秒で水から上がると、二人は雪の上に並べられた木製のリクライニングチェア(インフィニティチェア)へ深く身を沈めた。

 ――スーッ……。

 頭の奥が、フワリと浮き上がるような感覚。

 収縮していた全身の血管が一気に解放され、温かい血液がドッと指先まで駆け巡る。

 白樺の木々が揺れる音、小鳥のさえずり、どこまでも青く澄み渡った異世界の空――。

 すべての雑音が消え去り、世界と肉体が完全に一つに溶け合っていく。

「…………ととのったぁぁぁ……」

 鷹人の口から、魂の底から絞り出されたような吐息が漏れた。

 隣のスアイもまた、目を閉じて至福の笑みを浮かべている。

「フッ……最高だろう。権力闘争や世界征服などという下らん虚飾を捨て、この山で流す汗と自然の冷気こそが、生命の真の至福だ」

◆

 サウナから上がった後、水車小屋の前の薪ストーブに火が入れられた。

 着替えた鷹人は、作業ジャケットの胸ポケットから大玉の青森県産ニンニクを取り出すと、スアイが開墾の合間に裏山で収穫してきたという、肉厚で巨大な山の幸――特大の『肉椎茸』を網の上へ並べた。

「サウナの上がりのサウナ飯(サ飯)だ。……景気づけにいくぞ」

 剥きたての生ニンニクの先端へ、あの安っぽい黄色い百円ライターの直火をあてがう。

 親指の腹でヤスリを弾く。

 ――カチッ、シュボッ。

 硬質な着火音。

 小さな橙色の炎で炙られたニンニクが、パチパチと音を立てて香ばしい狐色に焦げていく。

 ――チリチリチリ……ジュワッ。

 直後、冷涼な山の空気を一瞬で塗り替えるほどの、猛烈に甘く香ばしい焦がしニンニクのアロマが空間全体へ爆散した!

 鷹人は熱々の炙りニンニクを肉椎茸の傘の裏へスッと擦り付け、地球の特選濃口醤油をタラリと垂らした。

 ――ジュワァァァァッッッッ!!!!

 炭火の熱で焦げた醤油とニンニク、そして肉椎茸の濃厚なキノコのエキスが混ざり合い、網の上でグツグツと泡立つ!

「ほらよ旦那、熱いうちに齧りな!」

 鷹人はアツアツの肉椎茸をスアイへ差し出し、自分も一切れ口の中へ放り込んだ。

 ――シャクッ、ジュワッッッッ!!!!

「――っっっ!?!?!?」

 スアイの群青の瞳が激震した!

 噛み締めた瞬間、アワビのようにコリコリとした弾力のある傘から、まるで極上の牛肉ステーキのような濃厚な肉汁が溢れ出し、直火で炙られたニンニク醤油の暴力的なパンチと融合して喉奥を突き抜ける!

「う……美味い……ッ! サウナで汗を流し切った身体に、このニンニクの刺激とキノコの滋養が……細胞の一つひとつへ染み渡っていくようだ……ッ!」

「だろ? サウナ上がりのニンニクと醤油は、世界中どこへ行っても現場の男の完全食だ」

 鷹人は度数四十度の村の地酒『イモッカ』を竹筒からグビッと呷り、プハァッ! と豪快に息を吐いた。

 胃の腑がカッと熱くなり、全身に新しい活力がみなぎってくる。

 その瞬間――ピロリン♪ と鷹人の脳裏に澄んだ電子音が響き渡った。

『善行を検知しました』

『事象:ポポロ山開拓インフラ(水車動力機構および林業機材)の完全補強』

『事象:元四天王スアイの安全労働環境の確立および精神的慰労』

『判定:極めて高度な工学技術に基づく、純粋な地域開拓支援』

『スクラップPt +2,000Pt を獲得しました』

(よし、これで所持ポイントは42,975Ptか。いい仕事だったぜ)

 鷹人は胸の中で小さく笑った。

 ふと見ると、水車小屋の軒先の三脚の上に、最新型の魔導配信カメラが静かにレンズを向けていた。

 赤いパイロットランプがピカピカと点滅している。

「ん? 旦那、あのカメラは?」

「ああ、あれか。……居候のキュララに勧められてな。神界の配信プラットフォーム『ゴッドチューブ』に、私のDIY開拓の記録用として垂れ流し生配信を繋ぎっぱなしにしていたのだ。まあ、普段は同接数十人程度の過疎枠だがな」

 スアイは笑いながら、作業用の魔導端末の画面を何気なくタップした。

 だが――。

「…………ぬ?」

 スアイの手が、ピタリと止まった。

 画面に表示されていたのは、普段の「同接:32人」などという数字では断じてなかった。

――――――――――――――――――――

【神界生配信:元四天王のポポロ山開拓DIYチャンネル】

・現在の同時接続数:【42,580,000人】(急上昇ランキング1位独占)

・配信コメント流速:毎秒八千件オーバー(処理落ち警報発令中)

・投げ銭(ゴッドスパチャ):総額【3億円】突破(天界記録更新中)

――――――――――――――――――――

「な……な、何だこれはぁぁぁぁぁッッッ!?!?!?」

 元氷魔将軍の絶叫が、静かなポポロ山の白銀の空へと木霊した。

 タバコをくわえ、重機と水車を直してサウナで汗を流し、炙りニンニクを齧る現場の兄ちゃん――赤城鷹人の姿が、全宇宙の神々を熱狂させる「大バズり」の導火線に火をつけた瞬間だった。

読んでいただきありがとうございます。

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