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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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EP 7

鍛冶青年ヒエンの怒りと、エンジニア鷹人の金属鑑定

 吹き飛んだ特設テントの木製扉の破片が、砂煙とともに床へ転がり落ちた。

 豪奢な演壇の上で熱弁を振るっていた青スーツの男・鮫島剛が、目を丸くして飛び退く。

 その後ろで粗悪な剣を積み上げていた元土木作業員の男・火原元も、驚愕に顎を外しかけていた。

「な、なんだぁてめぇらはぁッ!? 突然ドアをぶち破りやがって! ルナミス警察を呼ぶぞコラァッ!」

 鮫島が甲高い声を張り上げ、高級そうな青スーツの襟元を正しながら威嚇してくる。

 だが、その背後から踏み込んできた猫耳商人・ニャングルが、純金算盤『十露盤』をシャキリと構え、冷酷無比な嘲笑を浴びせかけた。

「どの口が警察言うとんねん、ルナミス炭鉱から脱走してきた懲役四百年のブタ箱予備軍がぁッ! ウチのゴルド商会の情報網を舐めとったらアカンで! 鮫島剛に火原元、テメエらの指名手配書はとっくに帝国内務省から回線で共有されとるわ!!」

「ギクッ……!?」

 二人の顔から、一瞬で血の気が引いた。

 さらに、巨大盾『アグニ』を背負った自警団長マンミアが、四肢の蹄を轟かせてテントの絨毯を踏み抜く。

「自警団長マンミア、村内における詐欺営業および脱走罪の現行犯として、貴様らを拘束する! おとなしく縛につけ!」

 だが――演壇を取り囲んでいた十数人の村の若者たちが、慌ててマンミアの前に立ちはだかった。

「ま、待ってください団長! 鮫島さんたちは詐欺なんかじゃありません!」

「そうです! 俺たち、自分の目で確かめたんです! この神聖剣の鑑定結果を!」

 若者の一人が、腰の鞘から抜いたばかりの眩い銀光を放つ大剣を掲げ、携帯用の鑑定水晶をかざした。

 空中に浮かび上がる、青白い光文字のホログラム。

――――――――――――――――――――

【神聖ミスリルバスタードソード(真・レジェンド等級)】

・攻撃力:+5,000

・付与効果:魔獣特攻(極大)、刀身不壊、自動会心率100%

――――――――――――――――――――

「見ろよ! 攻撃力プラス五千だぞ! 帝国の騎士団長だってこんな凄い武器持ってない! これさえあれば、俺たちだって一撃でA級冒険者になって、大金を稼げるんだ!」

「邪魔しないでくれ! 俺たちは脱情弱して、人生の勝ち組になるんだぁッ!」

 血走った目で叫ぶ若者たち。

 その盲信ぶりを見て、鮫島は即座に態勢を立て直し、ペテン師特有の脂ぎった笑みを浮かべて演壇から見下ろしてきた。

「ほら、お聞きになりましたか? お客様は皆、納得して自己投資(購入)されているんですよ! 鑑定水晶の数値は絶対です! それを力づくで邪魔するなんて、ポポロ村の自警団は前時代的な既得権益の守旧派ですか? 若い世代の挑戦を潰す老害ですかぁ?」

「既得権益だと……!? ふざけるなぁぁぁッッッ!!!!」

 割れ鐘のような怒号がテントを揺るがした。

 前に飛び出したのは、ポポロ・コーポ201号室の鍛冶青年――ヒエンだった。

 手にした大型の鍛冶槌をギリギリと軋ませ、燃えるような紅蓮の瞳で火原と鮫島を睨みつける。

「鉄を打つってのはなぁ! 使う奴の命を背負うってことなんだよ! 何千回、何万回とハンマーを振り下ろし、火の色を見極め、炭素の気泡を叩き出して、絶対に折れないように魂を込めて鍛え上げるのが鍛冶師だ! お前らが売ってるそのガラクタのせいで……イグニスもトビーも大怪我したんだぞ! 道具への冒涜だ、絶対に許さねぇ!!」

「あぁん!? ガラクタだとぉ!?」

 火原元が演壇を蹴飛ばして前に出てきた。

 元土木作業員の筋骨隆々たる巨躯を揺らし、下卑た顔を歪める。

「若造が偉そうに能書き垂れてんじゃねぇぞ! 俺のユニークスキル【コピー】はなぁ、帝都の宝物庫にあった本物の神聖剣を完全に複製した最高傑作なんだよ! 見ろ、この刃の美しい銀の輝きを! 重さも手触りも本物と寸分違わねぇ! イグニスとかいうトカゲが怪我したのは、あいつが馬鹿力で岩でもブン殴ったからだろ! 俺のコピーに落ち度なんざ1ミリもねぇんだよ!!」

◆

「……へぇ。寸分違わねぇ、ねぇ」

 怒号と罵声が飛び交うテントのど真ん中へ、気の抜けた、だが異様に通るドスの利いた低音が響いた。

 歩み出てきたのは、くすんだワークジャケットのポケットに両手を突っ込んだ男――赤城鷹人だった。

 鷹人は無造作にジャケットの内ポケットへ手を伸ばすと、少し潰れた紙巻きタバコの箱を取り出した。

 一本を唇にくわえ、安っぽい黄色いプラスチック製の百円ライターを構える。

 親指の腹で、ヤスリを無造作に弾いた。

 ――カチッ、シュボッ。

 静かなテント内に、硬質で澄んだ金属の着火音が鋭く木霊した。

 揺れる小さな橙色の炎。先端に火を吸い付け、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込む。

「…………ふぅーーーーっ」

 青空ならぬテントの天幕へ向けて、真っ直ぐ立ち上る一筋の紫煙。

 ツンとしたタバコの香りが、テント内に漂っていた高慢な熱気をスーッと冷却していく。

「……あ? なんだてめぇは。作業着の兄ちゃんが、タバコ吸いながら何の用だ」

 火原が小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 だが、鷹人は火原を一瞥もせず、胸ポケットから大粒の青森県産ニンニクを一片取り出した。

 指先で器用に薄皮を剥ぎ、再び百円ライターの炎を直接あてがう。

 ――チリチリチリ……ジュワッ。

 直火に炙られたニンニクがパチパチと音を立て、表面を香ばしい狐色に染めていく。

 立ち上る、暴力的なまでの濃厚なスタミナのアロマ。

 鷹人は火を消すと、それを前歯でカリッと噛み砕いた。

 ――シャクッ。

「……ん。血が巡ってきたぜ」

 胃の腑がカッと熱くなり、五感が極限まで研ぎ澄まされる。

 鷹人は演壇の脇に積み上げられていた「神聖ミスリルバスタードソード」の山から、無造作に一振りを引き抜いた。

「おい! 勝手に触るな! 金貨二十枚の高級品だぞ!」

「二十枚? ……クズ鉄屋に持っていっても、十円玉一枚にもならねぇよ、こんなゴミ」

 鷹人は手袋を外した素手の指先で、刀身をペタペタと触り、デコピンの要領で爪先を弾いた。

 ――ペチッ。

 響いたのは、鋼の澄んだ金属音ではなく、泥を固めた焼き物を叩いたような、鈍く濁った不快な音だった。

「……おい、土木上がりの兄ちゃん」

 鷹人は冷徹な眼光を、火原の眉間へと真っ直ぐ突き刺した。

「お前、工業高校の教科書に載ってる『鉄—炭素系平衡状態図(Fe-C状態図)』を見たことあるか?」

「は……? じょ、じょうたいず……? 何の呪文だよそれ」

 火原が目を白黒させる。

 鷹人はやれやれと首を横に振り、指先で刀身の腹をなぞった。

「鉄ってのはな、炭素の含有量がゼロコンマ数パーセント変わるだけで、硬度も粘りも全くの別物になる生き物なんだよ。炭素が少なすぎりゃナマクラの針金になり、多すぎりゃガラスみてぇに脆い銑鉄(せんてつ)になる。……さらに、八百度以上に加熱して結晶構造をオーステナイトに変え、それを水や油で急冷してマルテンサイト変態を起こすことで、初めて『刃物の硬さ』が生まれる。その後に焼き戻しをして内部の応力を抜いてやらなきゃ、硬すぎて自分から割れちまうんだ」

 流れるような金属工学の基礎理論。

 工業高校で旋盤とフライス盤を回し、自衛隊の施設科(工作部隊)少尉として現場のあらゆる金属疲労と向き合ってきた男の、本物の鑑識眼だった。

「だが……お前が作ったこのナマクラは、どうだ?」

 鷹人は刀身の鎬(しのぎ)を光に透かし、若者たちに見えるように掲げた。

「スキルで『外見の形』だけを強引に真似たせいで、内部の分子配列がグチャグチャのスパゲッティ状態だ。鍛造で気泡を叩き出してもいなけりゃ、熱処理の履歴もゼロ。炭素はダマになって偏析し、内部はス(空洞)だらけの軽石みてぇなスポンジ構造になってやがる。……要するに、ただの不純物だらけの生鉄に、銀色のメッキとペンキをぶっかけただけの【脆性破壊の塊】だ」

「な……ッ!?」

「シャルピー衝撃試験にかけるまでもねぇ。靭性(粘り)はゼロ。引っ張り強度も、地球の安物のトタン板以下だ。硬いものにぶつかった瞬間、亀裂が音速で走って全体が粉々に弾け飛ぶのは、物理の法則として当たり前の結果なんだよ」

「う、うぐ……ッ! で、デタラメ抜かすな! 俺のコピーがそんなデタラメなわけが――」

 火原の顔面が、図星を突かれて滝のような冷や汗で濡れていく。

 火原自身、金属の組織配列など理解できるはずもなく、ただ「それっぽい剣の形」を魔力で引き伸ばしていただけだったからだ。

◆

「ヒエン」

「おうっ!」

 鷹人の合図に、ヒエンが背負っていた自作の鋼鉄剣を抜き、作業台の上にドン! と据えた。

 ポポロ村の炉で、ヒエンが三日三晩かけて鍛え上げた、装飾のない無骨な実用剣だ。

 その隣に、鷹人が火原の「攻撃力+5,000の神聖剣」を並べて置く。

「若者たち、よく見とけ。……机の上のデタラメな数字と、現場で汗水垂らして鍛え上げた本物の鉄の違いをな」

 ヒエンが両手で愛用の大型鍛冶槌(ハンマー)を構えた。

 そして――一切の魔力も闘気も込めず、純粋な腕力だけで、台の上の二振りの刀身へ向けて真上からハンマーを叩き落とした!

 ――ドォォォォォンッッッッ!!!!

 火花が散り、甲高い破壊音がテント中に炸裂した。

 若者たちが息を呑み、煙の晴れた作業台の上を凝視する。

「あ……あぁ……!?」

 そこに転がっていたのは――。

 ヒエンの打った無骨な剣は、ハンマーの直撃を受けても刃こぼれ一つなく、鈍い鋼の光を堂々と放っていた。

 一方で、火原が複製した「攻撃力+5,000」の神聖ミスリルソードは――まるで踏み潰されたガラス細工のように、数十個の破片となって粉々に四散し、無残なクズ鉄の残骸を晒していた!

「こ、粉々だ……!?」

「嘘だろ……! ハンマーの一撃で、神聖剣が砕け散った……!?」

 若者たちの顔から、サーッと血の気が引いていく。

 自分たちが金貨二十枚もの大金を払い、命を預けようとしていた「神器」の正体が、ただの脆い粗大ゴミであったという動かしがたい現実。

「て、てめぇら……! 俺たちを騙したのかぁぁッ!!」

「俺の金貨二十枚を返せ! 親父から借りた金なんだぞ!!」

「イグニスさんたちを怪我させやがって! 人殺しぃッ!!」

 若者たちの盲信は、一瞬にして猛烈な怒りと殺意へと反転した。

 テントの中が、詐欺師たちを吊るし上げようとする怒号で埋め尽くされる。

◆

「チッ……! 田舎の情弱百姓どもが、調子に乗りやがってぇぇッ!」

 追い詰められた鮫島剛が、舌打ちとともに演壇から飛び降りた。

 もはや優雅なITコンサルの仮面は完全に剥ぎ取られ、その瞳には凶暴で醜悪な光がギラギラと渦巻いている。

「バレちまったなら仕方ねぇなぁ! おい火原、さっさとズラかるぞ! 邪魔する奴は全員ブッ殺して突破だぁッ!」

「逃がすかぁッ!」

 マンミアがパイルバンカー『アグニ』を構え、突進しようとした――その瞬間だった。

「ハッ! 俺を止められると思ってんのかよ! 見ろ、俺の真の力をぉぉッ!!」

 鮫島が胸ポケットから取り出した最高級の鑑定水晶を、自らの胸元へと突きつけた。

 ユニークスキル【ステータス偽装(フェイク・メタデータ)】――その最大出力を、自らの生体情報へ向けて全開で解き放つ!

 ――ピキィィィィンッッ!!

 鮫島の頭上に、眩い黄金の巨大ホログラムが展開された。

――――――――――――――――――――

【鮫島(さめじま) 剛(ごう)】

・職業:超絶金剛覇王

・防御力:99,999(測定限界突破・絶対無敵)

・耐性:物理無効、魔法完全反射、精神攻撃完全遮断、即死無効

――――――――――――――――――――

「ギャハハハハッ! 見たかぁぁッ! 俺の防御力はカンストの【99,999】だぁぁッ!! ドラゴンのブレスだろうが魔導砲だろうが、俺のかすり傷一つつけられねぇ! 触れただけでお前らの骨が粉々になるぞ! 殴れるもんなら殴ってみやがれぇぇッ!!」

 勝ち誇り、両手を広げてイキり散らす鮫島。

 自警団の若者たちやヒエンが、圧倒的な「数値の暴力」に気圧されて息を呑む。

 だが――。

 スタ、スタ、と迷いのない足音を響かせ、その「防御力九万」の男の前へ歩み寄った男がいた。

 赤城鷹人である。

 鷹人はくわえたタバコの灰をトントンと指先で落とすと、左手首に巻かれた無骨で傷だらけの金属製腕時計に手を伸ばした。

 カチリ、とバックルを外す。

 分厚いステンレス製のコマが連なる金属ベルトを、器用に左手の拳へとグルグルに巻き付けた。

 簡易ナックルダスター(メリケンサック)の完成だ。

「あぁん? なんだ作業着、テメエのその1馬力の貧弱なパンチで、俺の防御力99999を殴る気かぁ? 拳が砕け散って泣き面晒すのはテメエの――」

「おい、青スーツ」

 鷹人は紫煙の向こうから、冷徹な猛獣の眼光で鮫島の顎の先端を射抜いた。

「頭の上の文字がどう並んでようがな……人間の頭蓋骨の構造と、顎を撃ち抜かれた時の脳の揺れ方は、世界中どこへ行っても変わらねぇんだよ」

 鷹人の左拳に、実戦MMAと『五輪書』の神速の拍子が宿った。

読んでいただきありがとうございます。

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