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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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15/62

EP 15

カオス集合住宅「ポポロ・コーポ」への入居と歓迎会

 山賊団『赤砂の牙』のドナドナを見送り、村に平和が戻った頃、西の空は燃えるような紅蓮の夕焼けに染まり切っていた。

 北門から村のメインストリートを抜け、田畑とホームセンター『タローマン』の看板を背に歩くこと十数分。

 村の外縁部、ポポロ山の雄大な裾野を望む小高い丘の上に、その巨大な建物は建っていた。

「ここが、鷹人さんの新しいお家だよ! 村営アパート『ポポロ・コーポ』へようこそ!」

 キャルル村長が両手を広げ、タローマン特注の安全靴を鳴らして満面の笑みを咲かせた。

 横に立つ赤城鷹人は、作業ジャケットのポケットに両手を突っ込んだまま、目の前の物件をまじまじと見上げた。

 敷地内に建っているのは、木造モルタル造りの堂々たる三階建てアパートが二棟――向かって左が『男子棟(A棟)』、右が『女子棟(B棟)』だ。

 全室1LDK、外壁にはドンガン直伝の耐魔防音魔法がこれでもかと分厚く施工されている。

 中央の共用エントランスには、「男女別共同大浴場&フィンランド式サウナ」「共同食堂」「駐竜場」といった豪勢な木製看板が掲げられていた。

「……おいおい、お嬢ちゃん。木造モルタルとはいえ、基礎の立ち上がりも綺麗だし、共用設備もやたら充実してやがるな。家賃はいくらだって?」

「光熱費・マナ水道代、それに村内マナWi-Fiの使い放題込みで、月額金貨3枚――地球の通貨で言えば【月額3万円】ポッキリだよ!」

「破格すぎるだろ。地球の学生街でも風呂なし四畳半しか借りられねぇぞ」

 鷹人が感嘆の息を漏らすと、横で真鍮のキセルを燻らせていたニャングルが、深いため息とともに肩をすくめた。

「家賃が安いのにはワケがあるんや、鷹人はん。前村長が逃げ出す前、悪友の不動産屋と組んで適当に作ったアパートなんやけどな……入居審査がガバガバすぎたせいで、大陸中から『住む場所を追われたワケありの怪物ども』が吸い寄せられてもうたんや」

 ニャングルが指差した瞬間、アパートの各部屋から、異様な気配が次々と漏れ出してきた。

 ――ズズゥゥゥン……ゴポゴポゴポッ!

 男子棟の一階・101号室の換気扇から、白煙とともに吹き出してきたのは、嗅いだだけで血管が詰まりそうなほど濃厚で凶暴な「超ド級豚骨スープ」の獣脂臭だった。

 続けて隣の102号室からは、ドンガン製の爆音スピーカーから地球の軍艦マーチ風のパチンコ大当たりの電子音が鳴り響き、「うおおお確変突入じゃあぁぁッ!」という自堕落な男の雄叫びが轟く。

 さらに二階の201号室からはカンカンカン! と神聖な火花を散らす鍛冶槌の音が響き、向かいの女子棟からは「きゃーっ! 今週の月人君のファンサやばくない!?」「ビールおかわりぃぃ!」という奇声と缶ビールの破裂音が漏れ聞こえていた。

「……なるほどな。外壁に耐魔防音施工が何重にも施されてる理由がよく分かったぜ」

 鷹人は思わず苦笑いした。

 だが、海外のスラムや紛争地帯の飯場(はんば)で、荒くれ者たちと雑魚寝してきた鷹人にとって、この程度のにぎやかさは「活気のある現場」にしか見えなかった。

「で、俺の部屋はどこなんだ?」

「ここだよ! 共用エントランスのすぐ隣、空室になってた【管理人室】!」

 キャルルが真鍮の鍵を差し込み、カチャリとドアを開けた。

 中は広々とした十畳ほどの板間に、小上がりの畳スペース。キッチンにはドンガン製の頑丈な黒皮鉄板コンロが備え付けられ、窓からはポポロ山の雄大な夕景が一望できた。

「前村長が高飛びしてから管理人が不在だったの。鷹人さんさえ良ければ、ここに住んで村の設備を見守ってほしいんだ。もちろん敷金礼金ゼロ、家具家電付きだよ!」

「上等すぎる現場宿舎(プレハブ)だな。ありがたく使わせてもらうぜ」

 鷹人は安全靴の紐を解いて玄関に揃えると、畳の上に腰を下ろし、首の骨をゴキリと鳴らした。

 胸ポケットから紙巻きタバコを取り出し、唇にくわえる。

 安っぽい黄色いプラスチック製の百円ライターを構え、親指でヤスリを弾いた。

 ――カチッ、シュボッ。

 静かな夕暮れの部屋に、硬質な金属の着火音が響く。

 橙色の小さな炎で火を吸い付け、鷹人は深く煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 茜色の光が差し込む部屋へ、細くたなびく一筋の紫煙。

 大聖堂で追放され、荒野を歩き、限界集落の危機を重機で粉砕した長かった一日。ようやく自分の「足場」が定まった確かな実感が、紫煙とともに胸を満たしていった。

◆

 その時――ドカドカドカッ! と廊下を揺るがす凄まじい足音が響いた。

「た、鷹人殿ぉぉぉぉッ……!!」

 管理人室の引き戸が勢いよく開け放たれ、顔面を真っ赤に沸騰させたマンミアが飛び込んできた。

 三階の301号室から駆け下りてきたらしく、長い栗色の髪が汗でわずかに首筋に張り付いている。

「団長さん、ノックくらいしな。……で、どうした?」

「き、聞いたのであります! 鷹人殿が、このポポロ・コーポの管理人室に入居されたと……ッ! す、すなわち、私と同じ屋根の下で……毎日顔を合わせ……朝な夕なに挨拶を交わす関係になったということでありましょうか……ッ!?」

 マンミアの前脚の蹄が、床の板間をカツカツと激しく擦り鳴らす。

 琥珀色の瞳は潤み、馬の耳がプロペラのようにパタパタと痙攣していた。

「ああ、そういうことになるな。同じアパートの住人同士、よろしく頼むぜ」

「よ、よろしく……! 夫婦……いや、同棲……!? あわわわわ、大人の階段を一気に十段跳びしてしまったであります……ッ!」

 顔から火を吹きそうになりながら身悶えするケンタウロス美女。

 そこへ、外の広場から「おーい!」と野太い声が上がった。

「鷹人の旦那ぁ! 村長から聞いたぜ! 今日からここに住むんだってな!」

 自警団詰所の裏庭から耐火テントを抱えて走ってきたのは、竜人のイグニスだった。

 その後ろからは、ミスリルソードを腰に差したA級剣士フェイトが、疲れた顔ながらもしっかりとした足取りで歩いてくる。

「旦那の重機さばき、マジで痺れたぜ! 俺様、手取り十四万でコーポの敷金が払えねぇからテント暮らしだけどよ、中庭の駐竜場にテント張って毎日遊びに来ていいか!?」

「調子に乗るなイグニス! 貴様がコーポの敷地内でくしゃみをしたら今度こそ首を刎ねるぞ!」

「団長、物騒なこと言わないでくださいよ〜。……鷹人さん、俺からも礼を言わせてください。おかげで今日はコイントスで自爆せずに、ちゃんと戦えました」

 役場の仕事を片付けた人狼執事リバロンも、優雅に白手袋を鳴らしながら姿を現した。

「皆様、揃われたようですね。……新村長体制の初陣を完勝で飾り、さらには偉大なる技師殿をお迎えできた記念すべき日。これは、盛大な歓迎の宴を催さねばなりませんね」

「宴会か、いいねぇ! でもリバロン、村の食堂はお昼の炊き出しで食材がすっからかんだよ?」

 キャルルが困ったように兎耳を垂らす。

 その言葉を聞いた瞬間、鷹人はニヤリと無精髭の口元を吊り上げた。

「食材の心配なら要らねぇよ。……今日一日、体を張って現場を回してくれた全員に、現場監督(俺)から極上のスタミナ飯を振る舞ってやる」

◆

 中庭のバーベキュースペースに、直径一メートルを超える巨大な鋳鉄の大鍋が据え付けられた。

 鷹人は腕まくりをすると、頭の中のユニークスキル【リサイクルマスター】を起動した。

 所持スクラップPtは、先の山賊壊滅によって【30,325 Pt】という天文学的な数値を誇っている。

――――――――――――――――――――

【所持スクラップPt:30,325 Pt】

・カタログ選択:【流通廃棄品・特上食材・調味料デッドストック】

――――――――――――――――――――

(地球の市場で規格外として弾かれた大玉の寒締め白菜十玉、賞味期限直前で引き取られた極厚の国産豚バラブロック五キロ、鶏ガラと香味野菜を丸ごと煮出した濃厚濃縮スープパック、木綿豆腐に油揚げ、極太の讃岐うどん玉三十玉……一式召喚だ)

 消費ポイント、わずか150Pt。

 ――ヒュンッ!

 調理台の上に、霜降りの極上豚バラ肉の山と、みずみずしい冬野菜のダンボールがドサリと出現した。

 さらに鷹人は、昼間に収穫して毒気とゴシップ癖を綺麗に叩き落とした、ポポロ村名物の怪奇ニンニク『ガーリッ君』をカゴいっぱいに取り出した。

「うわぁぁぁっ! お肉が山盛り! お野菜もピカピカだよ!」

「ごくり……! 昼に食べたあのガーリッ君を、こんなに贅沢に使うのか……!?」

 イグニスとマンミアが目を丸くして喉を鳴らす。

「現場の男を支えるのは、いつだってニンニクと豚肉の脂だ。……まずは、ベースのアロマを作るぞ」

 鷹人は大粒のガーリッ君を一掴み手に取ると、安っぽい黄色い百円ライターを取り出した。

 親指でヤスリを弾く。

 ――カチッ、シュボッ。

 揺らぐ小さな橙色の炎を、剥きたてのガーリッ君の表面へ直接当てがった。

 ――チリチリチリ……ジュワッ。

 直火に炙られたガーリッ君の表面が、パチパチと音を立てて香ばしい狐色に焦げていく。

 滲み出る濃厚な植物性エキス。

 直後、夕暮れの冷気を一瞬で吹き飛ばすほどの、猛烈に甘く芳醇な焦がしニンニクのアロマが中庭全体に爆散した!

「くぅぅぅ……! たまらん! この匂いだけで白飯三杯いけるでぇッ!」

「ニャングル、算盤を置いて鍋の薪をくべてくれ! 火力を最大にするぞ!」

 熱された大鍋に、地球の純正ラードを引き、炙りニンニクと生姜を投入。

 そこへ、五ミリ厚にスライスした山盛りの豚バラ肉を一気にぶちまける!

 ――ジュウウウウウウウウッッッッ!!!!

 夜の帳が下りるポポロ村の空へ、真っ白な湯気と豚脂の爆ぜる音が立ち上った。

 肉の表面が香ばしく色づいたところで、鶏ガラ濃縮スープと清らかなポポロ山の天然水を惜しみなく注ぎ込む。

 さらに、ざく切りの白菜、長ネギ、豆腐、油揚げを山のように投入し、仕上げに地球の特選醸造醤油と味噌、粗挽き黒コショウで味を調える。

 グツグツグツグツ……ッ!

 黄金色に透き通るスープの中で、極厚の豚バラ肉とトロトロに煮崩れた白菜、そしてホクホクになったガーリッ君が、暴力的なスタミナの香気を放ちながら躍動していた。

 現場仕込みの究極完全版――『特製・野戦スタミナニンニク鍋』の完成だった。

「よし、煮え上がったぜ! 全員、どんぶり持って並びな!」

「「「うおおおおおおおッッ!!!!」」」

◆

 中庭の木製ベンチに、村の仲間たちが肩を並べて腰掛けていた。

 各自の木鉢には、溢れんばかりの熱々のスープ、脂の乗った豚バラ肉、そしてスープを吸って黄金色に輝くガーリッ君がどっさりと盛られている。

「ポポロ村の新時代と、最高の技師・赤城鷹人殿の入居を祝して――」

 リバロンが音頭を取り、全員がエールを満たした木製ジョッキを天高く掲げた。

「「「乾杯(カンパーイ)ッッッ!!!!」」」

 ゴクゴクと喉を鳴らしてエールを呷り、一斉に熱々の鍋へと箸やフォークを伸ばす。

「あむっ……! ――っっっ!? な、なんじゃこりゃあぁぁぁッ!?」

 最初に叫んだのは、算盤を放り出したニャングルだった。

 豚バラ肉とスープを一口啜った瞬間、全身の毛並みがバチバチと逆立ち、猫耳が狂ったようにピクピクと跳ねる。

「スープのコクが尋常やない! 豚の脂の甘みと、鶏ガラの濃厚な旨味が、この炙りニンニクのパンチで極限まで引き締められとる! 白菜が甘い! 肉がとろける! こんな美味い鍋、帝都の三ツ星料亭でも食えへんぞ!!」

「おいしい……! おいしいよ鷹人さん! 体中がポカポカして、疲れた身体の芯に元気が満ちてくる……!」

 キャルルが真紅の瞳に涙を浮かべながら、夢中でハフハフと白菜を頬張っている。

 イグニスに至っては、どんぶりを両手で抱え、顔面を突っ込むような勢いで豚肉をバキュームしていた。

「うめぇぇぇぇッ! なんだこの肉の柔らかさは! ガーリッ君が口の中でジュワッと溶けて、まるで焼き芋みたいに甘ぇ! 手取り十四万の悔しさも、アパートを燃やしたトラウマも、全部このスープの海に溶けて消えていくぜぇぇッ!」

「フェイト、お前も食え! こんな美味いもん食わねぇで男が務まるか!」

「は、はいっ! ……うまっ!? 五臓六腑に染み渡る……! コイントスの吐き気が完全に消えました……明日、ちゃんと自警団の任務に出ます……!」

 そして――鷹人のすぐ隣に陣取ったマンミアはというと。

「はふっ、はふっ……んんぅ……っ♡」

 褐色の頬を真っ赤に染め、とろけるような至福の表情で鍋を啜っていた。

 琥珀色の瞳は完全にハートマークを描き、長い馬尾がブンブンと扇風機のように回っている。

「美味い……あまりにも美味であります……! 力強く、情熱的で、それでいて細やかな気配りに満ちた味……! これが……これが鷹人殿の愛の味……! 胃袋を……私の処女の胃袋を、完全に掴まれてしまったであります……ッ!」

「いや、処女の胃袋って何やねん姐さん。意味不明な日本語を作るな」

 ニャングルの鋭いツッコミが飛び、中庭にドッと爆笑が巻き起こる。

 誰一人として、明日への不安に怯える者はいなかった。

 前村長の高飛びも、山賊の脅威も、財政赤字の恐怖も――美味い飯と、確かな仲間の熱気の前には、すべて吹き飛んでいた。

 そんな中庭の喧騒を、アパートの一階の窓から、鋭い双眸がじっと見つめていた。

 101号室のカーテンの隙間から、葉巻をくわえた筋骨隆々の巨躯の男――頑固ラーメン屋台の神話竜、竜王デュークが、鍋から漂う炙りニンニクの香気にピクリと眉を動かす。

 女子棟のベランダからも、缶ビールを片手に持ったジャージ姿の影が、身を乗り出して「なにあの鍋、超美味そうなんだけど……」と悔しそうに呟いていた。

◆

 宴が終わり、心地よい満腹感に包まれた仲間たちが、それぞれの部屋やテントへと引き上げていった。

 片付けを終えた鷹人は、管理人室の濡れ縁に腰を下ろし、夜のポポロ村の静けさに身を委ねていた。

 見上げれば、群青色の夜空に散らばる無数の星々と、青白く輝く巨大な異世界の月。

 遠くから吹き抜ける夜風が、新しく直した用水路の清らかな水音と、防壁の鉄骨の微かな軋みを運んでくる。

「ふぅ……」

 鷹人は胸ポケットからタバコを取り出し、安っぽい黄色い百円ライターで火を灯した。

 ――カチッ、シュボッ。

 静かな夜気に響く、硬質な着火音。

 紫煙をゆっくりと夜空へ吐き出す。

「言葉が通じなくても、拳と美味いメシ、あとはエンジン音があれば世界中どこでも生きていける」

 左腕の金属製腕時計に目を落とし、鷹人は小さく笑った。

 ハズレスキルと蔑まれ、放り出された異世界。

 だが、この手には確かな技術があり、直すべき現場があり、腹を割って飯を食える最高の仲間たちができた。

「悪くねぇ現場だ。……明日からも、気合い入れて回してやるよ」

 短くなったタバコの火を携帯灰皿へねじ込み、鷹人は立ち上がった。

 異世界の現場作業員・赤城鷹人の、汗と油とニンニクに塗れた波乱万丈の日々は――まだ、始まったばかりだ。

読んでいただきありがとうございます。

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