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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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12/66

EP 12

山賊本隊の侵攻と、復活する地球の廃車重機

 正午の熱風が吹き抜ける荒野に、五十人を超える山賊の先遣隊が、ことごとく地面に転がって呻き声を上げていた。

 骨折した腕を押さえる者、顎を砕かれて泡を吹く者、失禁して白目を剥く者。死者こそ一人も出していないが、戦力としては完全に壊滅していた。

「リバロン殿、この転がっとるゴミども、さっさと縄で縛って詰所の地下牢へ放り込んどいてぇな。あとでドンガン地下鉱山かマグローザ漁船に売り飛ばして、今回の防衛出動費の補填に充てたるわ」

「承知いたしました、ニャングル殿。すでに身元引受先への事前通知書と、不法侵入に伴う損害賠償請求の仮差押え申請書は起草済みでございます」

 白手袋の手で手帳をパチンと閉じる人狼執事リバロン。

 だが、事務的な処置を進める彼らの耳に、遠く北の地平線から、先ほどとは比べものにならない不吉な重低音が届いた。

 ――ズズズズズズズズズ……ッ!

 大地を揺るがす、低く重い地鳴り。

 空を見上げれば、北の荒野の地平線全体を覆い尽くすほどの、巨大な黒煙と赤茶けた砂煙の壁が立ち上っていた。

「ひ、光学的望遠で敵影を捕捉しました……!」

 フェイトがミスリルの小盾を掲げ、震える声で叫んだ。

「魔導機関を積んだ重装甲車が六両……! 装甲バイクが三十台! 歩兵、魔導兵、騎兵を合わせて……さん、三百人以上……! 『赤砂の牙』の本隊総戦力が、全速力でこちらへ突進してきています……ッ!」

「さ、三百人やとぉぉぉッ!? 装甲車六両付き!?」

 ニャングルの猫耳がビクンと跳ね、純金算盤を取り落としそうになった。

「アカン、アカンアカン! そんなん山賊の規模ちゃう、地方領主の正規軍が全面戦争仕掛けてくるレベルや! こっちの自警団は十数人、いくら防壁を直した言うても、装甲車の魔導砲で集中砲撃されたら一撃で粉微塵に吹き飛ばされてまうわ!」

「私が……私が前線に出て食い止めます! この『アグニ』の盾がある限り、村落への侵入は一歩たりとも許しません! 蹄が砕けようとも……!」

 マンミアが琥珀色の瞳を血走らせ、パイルバンカーを構えて前脚を激しく踏み鳴らした。

 だが、その手首はかすかに震えている。いくら帝国騎士団長クラスの武力を持つとはいえ、三百人の軍勢と六両の魔導装甲車を前に、生身で立ち向かえば生還の望みなどないことは明白だった。

「くそっ、俺様が命に代えても火を吹いてやる! 手取り十四万の怒りで、本隊ごと炭にして――」

「イグニス、だめだよ! 装甲車の装甲はミスリルと鋼鉄の複合板なんだから、生半可な炎じゃ弾かれちゃう! みんな、地下シェルターへ住民を避難させて……!」

 キャルルが必死に叫ぶ。

 誰もが絶望に飲み込まれかけ、パニックの足音が村を包み込もうとしていた。

◆

 その混乱の渦中、一人だけ、全く異なる世界にいるかのような男がいた。

 赤城鷹人である。

 鷹人は無造作に作業ジャケットの胸ポケットへ手を伸ばすと、少し潰れた紙巻きタバコの箱を取り出した。

 唇に一本をくわえ、安っぽい黄色いプラスチック製の百円ライターを構える。

 親指の腹で、ヤスリを無造作に弾いた。

 ――カチッ、シュボッ。

 乾いた硬質な金属の着火音が、悲鳴に揺れる防壁の上に鋭く響き渡る。

 揺らぐ小さな橙色の炎。先端に火を吸い付け、鷹人は肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 青空へと真っ直ぐ立ち上る、一筋の紫煙。

 ツンとしたタバコの香りが夜風ならぬ荒野の熱風に乗り、騒ぎ立てていた自警団の面々の視線が、自然と鷹人の横顔へと引き寄せられた。

「おいおい、みんなして朝っぱらから頭に血を昇らせるなよ。現場で一番やっちゃいけねぇのはな、想定外のトラブルに慌てて無駄に走り回ることだ」

 鷹人は紫煙の向こうから、平然とした目で北の黒煙を見据えた。

「鷹人殿……! し、しかし敵は魔導装甲車六両に三百の大軍勢であります! いくら貴殿の鉄パイプ格闘術が神業とはいえ、鉄の装甲車に生身で挑むのは無謀です……!」

「生身で喧嘩するなんて一言も言ってねぇよ。相手が装甲車(クルマ)で来るなら、こっちだって現場の車輌をぶつけるのが筋ってもんだろ」

「クルマって……そんなもん、この村のどこにあるんや! ドンガン製の戦車は隠田のカモフラージュで動かすのに丸一日かかるんやぞ!」

「ねぇなら、今から搬入すりゃいいだけだ」

 鷹人は短くなったタバコを携帯灰皿へねじ込んで蓋を閉めると、作業着の袖を腕まくりした。

 左腕の傷だらけの金属製腕時計で時刻を確認する。敵の到着まで、およそ十五分。

「段取り八分、仕事二分。……機械の息の根を止めてる現場ほど、直し甲斐があるってもんだ」

 鷹人は深く息を吸い込み、頭の中のユニークスキル【リサイクルマスター】を起動した。

――――――――――――――――――――

【所持スクラップPt:17,125 Pt】

・カタログ選択:【建設現場廃車・戦場放棄建機・大型重機カテゴリー】

――――――――――――――――――――

 インフラ工事と先遣隊の制圧で貯まりに貯まった、莫大な善行ポイント。

 カタログに並ぶのは、地球で役目を終え、ヤードの隅や紛争地帯に野ざらしで放置されていた「鉄の巨人」たちだった。

(地球の道路公団やゼネコンが、減価償却を終えてスクラップヤードに放り投げた廃車体……だが、フレームも油圧シリンダーも、一級品の日本規格だ)

【召喚リスト】

・コマツ製・20トン級大型油圧ショベル(PC200型・要修理・エンジン不動・油圧配管亀裂)(消費:3,500Pt)

・いすゞ製・10トン大型ダンプカー(ギガ・要修理・配線断線・バッテリー上がり)(消費:2,800Pt)

・解体現場廃棄品:超高強度・耐摩耗特殊鋼板(厚さ50ミリ)4枚(消費:300Pt)

・重機整備用デッドストック:大型ジャンプスターター&高圧油圧ホース一式&極圧作動油200Lドラム缶(消費:200Pt)

――――――――――――――――――――

合計消費Pt:6,800 Pt ――【召喚実行】

 ――ドゴォォォォォォォンッッッ!!!!

 村の北門前広場が、かつてない凄まじい地響きとともに揺動した。

 空間がグニャリと歪み、砂煙を巻き上げながら、二つの巨大な鉄の塊がドカリと大地に落ちてきた。

 一つは、全長十メートルを超える、黄色い塗装が剥げかけた巨大な鋼鉄の怪物――20トン級大型油圧ショベル。巨大な排土板と、岩山すら砕く巨大な鋼鉄のバケットを備えている。

 もう一つは、無骨な角張ったフロントマスクを持つ、全長九メートルの巨大な10トン深あおり大型ダンプトラック。

「ひ、ぎゃああああっ!? な、なんやこの超巨大ゴーレムはぁぁぁッ!?」

 ニャングルが腰を抜かし、尻餅をついて絶叫した。

 イグニスも目を白黒させ、持っていた大斧を取り落としそうになる。

「で、デケェ……! 俺様の身の丈の何倍あんだよ!? 竜の巨獣クラスじゃねぇか!」

「し、しかし鷹人殿……! この鉄塊、まったく魔力の気配がいたしません! それに……あちこち油が漏れ、傷だらけで……まるで死んでいるかのようであります!」

 マンミアの鋭い指摘通り、召喚された二台の重機は、地球で「廃車」として打ち捨てられた残骸だった。

 ショベルの油圧ホースからは黒い作動油が滴り落ち、キャビンの中は配線が引きちぎられ、ダンプのエンジンルームからは埃と錆の臭いが漂っている。

「ああ、死んでるぜ。地球の人間が『もう動かねぇ』って見捨てたスクラップだからな」

 鷹人は安全靴の爪先でショベルの無限軌道(キャタピラ)をコツンと蹴り、愛おしそうに鋼鉄の装甲を撫でた。

「だがな……骨格(フレーム)が生きてりゃ、機械は何度だって息を吹き返す。――現場の職人が、息を吹き込んでやるんだよ」

◆

「おい、団長さん! イグニス! 手ェ貸せ!」

 鷹人のドスの利いた鋭い現場号令が飛んだ。

「は、はいっ!」

「おうよ!」

「マンミアはあのドラム缶をショベルのステップの上へ担ぎ上げろ! イグニス、あの50ミリの極厚鋼板を二枚、ショベルの排土板とダンプのフロントグリルへ押し当てて手で押さえてろ! ビタ一文動かすなよ!」

「了解であります!」

「任せとけぇッ! 力比べなら誰にも負けねぇ!」

 二人の圧倒的な怪力により、重量数百キロの資材が瞬時に配置されていく。

 その間に、鷹人は手袋をはめ、工具箱を引っ提げてショベルのキャブの奥へ潜り込んだ。

 ――カチッ、カチッ、ジャキッ!

 目にも留まらぬ早業で、ちぎれた配線を電工ペンチで剥き、キボシ端子を圧着。

 イグニッションスイッチのバイパス回路を組み、配線を直接結線する。

 続けてエンジンフードを跳ね上げ、亀裂の入った油圧ホースを大型レンチで一気に緩めて取り外すと、召喚した新品の高圧耐油ホースをねじ込み、エア抜きバルブを全開にして作動油を一気に充填した!

「次、ダンプだ!」

 飛び降りた鷹人はダンプの巨大なボンネットへ飛び移り、大型ジャンプスターターの極太ケーブルをバッテリーターミナルへガチリと噛ませた。

 さらに、昨晩使ったインバーター溶接機を担ぎ出し、イグニスが押さえている厚さ50ミリの超硬質特殊鋼板を、ショベルの排土板とダンプの前面へ向けて一気にアーク溶接していく!

 ――バチチチチッ! バシュウウウゥゥッ!!

 白熱する閃光と火花が、真昼の大地に青白い火柱を上げる!

 自衛隊施設科(工作部隊)少尉として、砲火の下で陣地を築き、破壊された車輌をその場で応急修理して友軍を救い出してきた男の、神業の突貫整備。

 一切の迷いがない。ミリ単位の誤差も許さない。

 所要時間――わずか八分。

「す、すごい……! あんなにボロボロだった鉄の塊が、見るみるうちに繋ぎ合わされていく……!」

 キャルルが両手を口元に当てて息を呑む。

 ニャングルもまた、算盤を握ったままカタカタと震えていた。

「配線直結に油圧ラインのバイパス手術……あいつ、機械の構造を完全に頭の中に叩き込んどる……! 魔導工学の碩学ですら数日かかるオーバーホールを、たった一人で、タバコ吸いながら数分で終わらせよった……!!」

「ふぅ……よし、心臓の準備はできたぜ」

 鷹人は溶接面を跳ね上げ、煤で汚れた額を腕で拭った。

 20トン油圧ショベルの運転席のドアをガラリと開け、シートへと飛び乗る。

 キーシリンダーのないステアリングコラムの下から引き出した、直結配線の赤と黒のコード。

 その銅線を、鷹人は指先でカチリと接触させた。

 ――キュルルルッ、キュルルルルルッ……!

 重厚なスターターモーターが唸りを上げる。

 圧縮されたシリンダーの奥で、ディーゼル軽油が超高圧で噴射され、熱気を孕んだ空気に着火する――。

 次の瞬間。

 ――ズドォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!

 大地を真下から突き上げるような、猛烈な直列6気筒ターボディーゼルエンジンの咆哮が炸裂した!

 頭上のストレートマフラーから、モクモクと立ち上る黒煙と、焼けたオイルの匂い!

「「「ひゃあぁぁぁっ!?」」」

 ニャングルとキャルルが耳を塞いで飛び上がり、自警団の面々が気圧されて息を呑む。

 魔力など微塵も宿っていない。

 だが、純粋な内燃機関の爆発が生み出す、二百度の鉄と油が擦れ合う「機械の命の鼓動」が、百メートル四方の大気全体をビリビリと共鳴させていた。

「グオォォォォン……! ズズズズズ……!」

 鷹人が油圧レバーを滑らかに倒すと、20トンの巨体を支える極太の油圧シリンダーがギチリと軋み、巨大なアームがまるで天を衝くドラゴンの首のようにグワリと持ち上がった!

 巨大な鋼鉄バケットが、陽光を浴びて鈍い銀光を放つ。

 さらに鷹人は運転席から身を乗り出し、ダンプのキャビンへ向けて叫んだ。

「おい、トカゲの兄ちゃん! ダンプの運転席に乗れ!」

「え!? お、俺様がか!?」

「アクセルとブレーキを踏んでハンドルを回すだけだ! お前のその頑丈な身体なら、ダンプの振動なんざ屁でもねぇだろ! 俺のショベルの後ろについて、バリケードごと敵の陣形を押し潰せ!」

「が、合点承知だぁぁッ! よく分からねぇが、このデカい鉄の馬を走らせりゃいいんだな!」

 イグニスが歓喜の雄叫びを上げ、10トンダンプの運転席へ飛び乗った。

 直結されたダンプのV8エンジンもまた、地響きを立てて轟音を響かせ始める。

◆

 その時――。

「止まれぇぇッ! ポポロ村のゴミどもぉぉッ!」

 荒野の砂煙を切り裂いて、ついに『赤砂の牙』の本隊が姿を現した。

 先頭を走るのは、分厚い魔導装甲板で全身を覆い、屋根に対物魔導カノン砲を搭載した六両の巨大な装甲戦闘車。

 その周囲を、魔導ライフルを構えた三百人を超える完全武装の山賊騎兵と歩兵が、蟻のように埋め尽くしている。

 装甲車のハッチから身を乗り出してきたのは、全身に刺青を彫り込んだ、禿頭の凶悪な男――『赤砂の牙』の総頭領、ガドルフだった。

「よくもウチの徴税部隊をコケにしてくれたなぁ! 皆殺しだ! 装甲車の魔導砲で村の防壁ごと消し炭にして、住民全員をミンチの挽肉に変えてやれぇぇッ!」

 六両の魔導装甲車の砲身が、一斉に北門へ向けて照準を合わせた。

 砲口に集まる、禍々しい赤黒いマナの光球。

 だが――防壁の門が左右へ開き、中から姿を現した光景を目にした瞬間、三百人の山賊たちの動きがピタリと凍りついた。

「……あ? な、なんだあのバケモノは……!?」

「黄色い……鉄の竜……!? いや、あんな魔導兵器、帝国軍にもねぇぞ!?」

 砂煙の奥から現れたのは、黒煙を吐き出しながらキャタピラで大地を踏み砕く、20トン級大型油圧ショベル。

 その運転席には、腕まくりをした作業ジャケット姿の男――赤城鷹人が、不敵な笑みを浮かべて座っていた。

 ショベルの排土板には、厚さ50ミリの超硬質特殊鋼板がガッチリと溶接されている。

 その横には、パイルバンカー盾『アグニ』を構えたケンタウロス自警団長マンミアが、凛々しい闘気を纏って並走していた。

「言葉が通じなくても、拳と美味いメシ、あとはエンジン音があれば世界中どこでも生きていける」

 鷹人はレバーを前へ倒し、直列6気筒のアクセルを踏み込んだ!

 ガガガガガガガッッ!!

「おい、山賊ども! 他人の現場に勝手に乗り込んできた違法建築物はな――」

 巨大な鋼鉄のアームが振り上げられ、バケットが頭上で咆哮するように旋回する。

「――残らず更地に解体撤去するのが、現場のルールだぜ!!」

読んでいただきありがとうございます。

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