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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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EP 10

強盗サブスク「暴行しない券」の集金人と対峙

 村の中央にそびえる石造りの時計塔が、重厚な鐘の音を荒野へと響かせた。

 ゴォン……ゴォン……と十二回。

 太陽が天頂へと昇りつめ、大地を真上から灼熱で照りつける「正午」の到来を告げていた。

「……来たで。時間通りや。時計だけはやたら正確なのが、ヤクザの嫌味なところやな」

 新しく打ち直された鋼鉄の北門防壁の上で、ニャングルが真鍮のキセルをガリッと噛み鳴らしながら吐き捨てた。

 隣では、新村長のキャルルが緊張した面持ちで、手縫いの人参刺繍ハンカチを胸元でぎゅっと握りしめている。

 北の街道の彼方から、凄まじい地響きが迫っていた。

 もうもうと立ち上る赤茶けた砂煙の奥から現れたのは、排気煙を撒き散らす十数台の魔導武装バイクと、赤黒い鱗に覆われた巨大な角トカゲ型魔獣の群れ。

 そして――それらを率いる、五十人を超える完全武装のならず者集団だった。

 三大国の緩衝地帯を根城にする凶悪な武装山賊団『赤砂の牙』の徴税執行部隊――その先遣隊である。

「ゲハハハハッ! 正午だぞぉ、ポポロ村の貧乏百姓どもぉッ!」

 先頭を走る魔導バイクのサイドカーから、拡声魔導具を片手に身を乗り出してきたのは、身の丈二メートル半を超える筋骨隆々の巨漢だった。

 顔面を斜めに走る太い火傷痕に、肩にはトゲ付きの重装甲肩当て。手にした巨大なトゲ付き鉄球(モーニングスター)をブンブンと頭上で振り回している。

 『赤砂の牙』の徴収執行隊長、バルバロである。

「朝の羽虫(斥候)をコケにしてくれたらしいなぁ! だが契約は契約だ! 今月の『暴行しない券』の利用料金を耳を揃えて出しやがれ! 金を出せば誰も殴らねぇ、出さねぇなら全員ミンチ! 健全明朗な定期契約(サブスク)の集金日だぁぁッ!」

 ドッと下品な笑い声を上げ、防壁の手前五十メートルに陣取る山賊たち。

 魔導バイクのけたたましい空ぶかし音と、飢えた魔獣の咆哮が荒野にこだました。

◆

 新しくなった頑強な北門の鉄扉が、重々しい音を立てて開いた。

 歩み出てきたのは、村の代表者たちだった。

 先頭に立つのは、純白の兎耳を凛と立てた少女村長キャルル。足元にはミスリル芯の入った頑丈な安全靴を履き、腰には護身用のダブルトンファーを差している。

 その左右を固めるのは、純金算盤を構えた猫耳商人ニャングルと、白手袋の指先で燕尾服の裾を正す人狼執事リバロン。

 さらに背後には、巨大なシールドパイルバンカー『アグニ』を構えたケンタウロス自警団長マンミア、大斧を肩に担いだ竜人イグニス、そして銀貨をポケットに隠しながら両手剣を抜くA級剣士フェイトが控えていた。

 そして――その中心で、くすんだ作業ジャケットのポケットに両手を突っ込み、だるそうにあくびを噛み殺している男がいた。

 赤城鷹人である。

「おや……? ずいぶんと威勢のいいお出迎えじゃねぇか」

 バルバロは魔導バイクから飛び降りると、ドカドカと地響きを立てて前へ進み出た。

 懐から取り出したのは、血痕と油で汚れた分厚い羊皮紙の束――契約書である。

「へっ、ウサギの新村長ちゃんよぉ! 話は聞いてるぜ、前のスケベジジイが未亡人と高飛びしたんだってなぁ! だがウチの『赤砂の牙』は法治主義のビジネス集団だ! 代表者が誰に変わろうが、締結された定額契約は村全体に有効なんだよ!」

 バルバロは羊皮紙をバシバシと手のひらで叩きながら、濁った黄色い瞳をギラつかせた。

「今月の契約更新料、基本プランで『金貨百枚(約一千万円)』だ! 今回は特別に、村長交代記念の『初回お試しキャンペーン』として、一家四人以上の世帯は二十パーセントオフの『家族割引』! 十八歳以下の子供がいる家庭はカツアゲを免除する『学割特約』も適用してやる! どうだ、ありがたくて涙が出るだろぉ!」

「どこがありがたいんじゃボケカスゥッ!!」

 ニャングルが耐えかねて前に飛び出し、純金算盤の珠をバチバチと耳障りに弾き鳴らした。

「誰が強盗に月額課金(サブスク)すんねん! しかも前村長が持ち逃げした債務を、そのまま新体制に押し付けるなんぞ商取引の瑕疵担保責任違反や! そもそも金貨百枚の積算根拠を言え! 人件費か!? 魔獣のエサ代か!? どんだけ中抜きしとんねん悪徳ヤクザが!!」

「あぁん!? 積算根拠だとぉ!?」

 バルバロの額に青筋が浮かび、モーニングスターを地面へドスゥン! と叩きつけた。

「根拠は『俺たちの腕力』だ! ここは帝国も王国も魔皇国も口出しできねぇ緩衝地帯だぞ! 契約書第七条第三項! 『利用料金の未納が発生した場合、甲(赤砂の牙)は乙(ポポロ村)の住民全員を奴隷商人に売り飛ばし、全家屋を放火・解体して更地にする権利を有する』! 金がねぇなら、今すぐ全員縄に縛られて出荷されやがれぇッ!」

「ひっ……!」

 バルバロの殺気混じりの怒号に、背後の村人たちが青ざめて息を呑む。

 だが、リバロンは糸目の穏やかな笑みを崩さず、音もなくニャングルの前に滑り出た。

「お言葉ですが、バルバロ執行隊長殿。その契約書の第七条は、帝国私法および国際通商条約における公序良俗に著しく反しており、法的に無効でございます。さらに言えば、貴方方の事業実態はただの『恐喝および威力業務妨害』。当村としては、一切の支払いを拒絶するとともに、これまでの不当利得の全額返還を請求いたしますが?」

「あはは……! リバロンの言う通りだよ!」

 キャルルもまた、可憐な笑みを浮かべながら一歩前に出た。

 だが、その真紅の瞳からはフッとハイライトが消え失せ、両手のダブルトンファーをカチリと回転させる。

「これ以上グダグダ言うなら……顎、砕いちゃおっかな〜? もちろん、粉々にした後は私の魔法で全回復させてあげるから、痛いのと治るのを好きなだけおかわりできるよ♡」

「ヒィッ……!? な、なんだあのウサギの目……狂ってやがる……!」

 山賊の部下たちが後ずさる。

 さらに、マンミアがアグニのパイルバンカーをガシャンと構え、蹄を激しく踏み鳴らした。

「これ以上村落の敷地内に足を踏み入れるなら、自警団の総力を挙げて貴様らを迎撃する! 恋人いない歴二十五年の怨嗟……貴様らの頭蓋で晴らしてくれるわぁぁッ!」

「団長、私闘の理由に私怨を混ぜないでくださぁい!」

 フェイトが胃を押さえながらツッコミを入れ、イグニスが巨大戦斧を両手で構えて咆哮する。

「おうおう! 俺様の大斧のサビになりてぇ奴から前に出な! 手取り十四万の怒りを思い知らせてやるぜぇぇッ!」

◆

「ハッ! 小娘村長に猫耳の帳簿係、不憫なケンタウロスにトカゲの居候かよ! 揃いも揃って掃き溜めのポンコツどもが調子に乗りやがって!」

 バルバロは嘲笑い、モーニングスターを天高く掲げた。

「野郎ども、契約執行だ! 抵抗する奴からミンチにして、村の女どもは全員アジトの酒盛り要員に連れて行けぇぇッ!」

「「「オオオオオオッッ!!」」」

 五十人の山賊たちが抜刀し、殺気を剥き出しにして雪崩れ込んでくる。

 キャルルたちが迎撃の態勢を取ろうと身構えた――その瞬間だった。

 ――スッ。

 両陣営の衝突点、そのど真ん中へ、気の抜けた足取りで一人歩み出た男がいた。

 油と煤でくすんだ無骨なワークジャケット。

 泥を踏み固める安全靴。

 赤城鷹人である。

「た、鷹人さん……!? 危ないよ、下がって!」

 キャルルが焦った声を上げるが、鷹人は聞こえていないかのように、ジャケットの内ポケットへ無造作に手を差し入れた。

 取り出したのは、少し潰れた紙巻きタバコの箱。

 一本を唇にくわえ、安っぽい黄色いプラスチック製の百円ライターを構える。

 親指の腹で、ヤスリを無造作に弾く。

 ――カチッ、シュボッ。

 殺気渦巻く戦場に、場違いなほど硬質で澄んだ金属の着火音が響き渡った。

 揺れる小さな橙色の炎。

 タバコの先端に火を吸い付け、鷹人は深く、肺の奥深くまで煙を吸い込んだ。

「…………ふぅーーーーっ」

 吐き出された青白い一筋の紫煙が、正午の強い日差しを遮るようにゆらりと棚引く。

 ツンとしたタバコの香りが風に乗り、迫り来ていた山賊たちの足が一瞬、ピタリと止まった。

「……あぁん? なんだてめぇは。作業着の兄ちゃんが、タバコ吸いながら何の用だ?」

 バルバロが忌々しそうに眉をひそめ、鷹人を見下ろした。

 斥候の男が横から耳打ちする。

「か、頭! あいつです! 昨日の街道で俺たちの部隊を素手でボコボコにした、生体出力1馬力のゴミ拾い野郎ですよ!」

「はぁ!? 1馬力だと!? ガキの使い魔以下のカスじゃねぇか! おいゴミ拾い、死にてぇなら一番乗りでミンチにしてやろうか!」

 バルバロがトゲ付き鉄球を突きつけて脅しをかける。

 だが、鷹人は眉ひとつ動かさなかった。

 指先でタバコの灰をトントンと落とすと、紫煙の向こうから、静かに、だが底知れぬ冷徹さを湛えた瞳でバルバロを見据えた。

「おい、トゲ頭」

 鷹人のドスの利いた低音は、荒野の熱風を切り裂いてバルバロの鼓膜へ真っ直ぐ突き刺さった。

「朝から長々と、下らねぇ定額サブスクの規約説明ご苦労なこった。……だがな、俺は説教じみた長話も、小難しい理屈を並べ立てるヤクザも、昔から大っ嫌いなんだよ」

「な……んだとぉ!?」

「図面通りに汗水垂らして働いたこともねぇようなクズが、他人の現場に乗り込んできて甘い汁だけ吸おうとする……。そういう寄生虫どもを、俺の故郷(現場)じゃあ何て呼ぶか知ってるか?」

 鷹人は短くなったタバコを携帯灰皿へねじ込むと、カチリと蓋を閉めた。

「――『ただの散らかった産業廃棄物(ゴミ)』だ」

「て、てめぇ……! 殺せ! 八つ裂きにしろぉぉッ!」

 激怒したバルバロが怒鳴り散らし、山賊たちが一斉に抜刀して突撃を再開した。

 だが、鷹人は逃げる素振りすら見せない。

 左腕に巻かれた、無骨で傷だらけの金属製腕時計に手を伸ばす。

 カチリ、とバックルを外すと、分厚いステンレス製のコマを、器用に左手の拳へとグルグルに巻き付けた。

 そして――意識を集中させ、頭の中のインターフェースを展開する。

――――――――――――――――――――

【所持スクラップPt:13,625 Pt】

・カタログ選択:【警察押収品・凶器没収資材カテゴリー】

――――――――――――――――――――

(ヤクザの事務所ガサ入れで警察に押収された、新品同然の超高強度炭素鋼鉄パイプ、それに特注の金属バット――消費ポイント、たったの20Ptだな)

 安全靴の紐をキュッと締め直し、鷹人は不敵に口元を吊り上げた。

「現場のゴミ掃除に、小難しい段取りなんざ要らねぇ。……力づくで片付けるのが、一番手っ取り早ぇんだよ」

 異世界の現場作業員・赤城鷹人が、五十人の山賊集団を前に、静かに戦闘の歩調を踏み出した。

読んでいただきありがとうございます。

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