↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/29

第三話 双子とフルル

「私の子供を紹介するわ。」

アテーラが微笑みながら立ち上がる。

「わあ、楽しみ。」

食堂を出て階段を上がる。

一階の賑わいが少しずつ遠ざかり、二階には穏やかな静けさが流れていた。

廊下の突き当たりにある扉を開ける。

「ここよ。」


窓際には陽射しがやさしく差し込み、白い花柄のカーテンが風に揺れている。

ベッドが二台並び、動物の絵が描かれた小さな机や椅子が置かれていた。

椅子に二人の女の子が並んで座っていた。


「ミレイさんよ。」

二人は同時に立ち上がる。

「ミレイです。よろしくお願いします。」

「姉のティナよ。」

「妹のミナです。」

栗色の三つ編みに、緑色のオーバーオールと黄色いシャツ。

白いスニーカーまでまったく同じで、まるで鏡を見ているようだった。

「ご覧の通り双子ちゃんよ。五歳。」

「ミレイは何歳?」

「ん~、わからない。」

「覚えていないかあ。」

アテーラは少し考え、

「見たところ……十歳ぐらいかな。」


そう言った瞬間だった。

ティナとミナが顔を見合わせる。

「せーの!」

二人は突然ミレイの周りをくるくると回り始めた。

左右から入れ替わり、また入れ替わる。

目が回りそうな速さだった。

やがてぴたりと止まる。

「私は誰でしょう?」

「どっちが誰だかわからないわよね。」

ミレイは二人を見比べた。


しばらくじっと見つめ、迷うことなく指を差す。

「あなたがティナさんで。」

もう一人へ視線を向ける。

「あなたがミナさん。」

二人の口が同時に開いた。

「えっ!」

「なんで分かったの?」

アテーラまで驚いている。

「母親の私でも間違えることがあるのに。」

ミレイは少し困ったように笑った。

「なんとなく。」

「なんとなく?」

ティナとミナは顔を見合わせる。

納得できない。そんな表情だった。


「おんなじ格好なんて私は嫌だって言ったのに。」

ミナが頬をふくらませる。

「お姉ちゃんがこれがいいって。」

「いいの、いいの。」

ティナは胸を張る。

「面白いから。」

アテーラが吹き出し、ミレイもつられて笑った。


しばらく話していると、ミレイがそっと肩へ手を伸ばした。

「もう……フルルを出してもいい?」

「この子たちならいいわよ。」

ミレイの肩のあたりがふわりと揺れる。

若草色の綿毛が現れ、その奥から大きな瞳が、おそるおそる顔をのぞかせた。

「キャーーー!!」

「かわいいーーー!!」

部屋中に歓声が響く。

ティナもミナも飛び跳ねながら駆け寄ってくる。


「そんな興奮しないの。」

アテーラが苦笑する。

「ねえねえねえ!」

「これ何?」

「名前は?」

質問が一度に飛んでくる。

ミレイは少し照れくさそうに笑った。

「私の一番の友だち、フルル。」

「触ってもいい?」

ミレイは肩の上のフルルを見る。

「フルル、いい?」

「ミュウ」

「いいって。」

「えっ!」

「話せる!」

二人は目を丸くする。


ティナは恐る恐る両手を差し出した。

フルルはぴょこんと飛び乗る。

「あっ……」

驚くほど軽い。

綿菓子を両手に乗せたようだった。

「わあ……」

ふわふわ。

ほわほわ。

指先がふわふわの綿毛へ沈み込む。

柔らかくて、温かい。

ティナの頬が自然と緩んだ。

ミナも隣からそっと撫でる。

「気持ちいい……」

フルルは嬉しそうに、体中の綿毛を小刻みに揺らした。

「ミュウ」

ミレイは、フルルを囲む二人を見ながら微笑んでいた。


ティナがそっと両手を開く。

「もう一回飛んでみて。」

「ミュウ」

フルルは嬉しそうに綿毛を揺らすと、ふわりと手のひらから飛び降りた。

風船のように、ゆっくりと床へ舞い降りる。

「わあ……」

ティナもミナも、その動きから目を離せなかった。

床へ降り立ったフルルは、短い手足を器用に体の中へ引っ込める。

すると、

ころん。

丸い綿毛の玉になった。

「えっ?」

コロコロコロ。

そのまま床を転がり始める。

「あっ、転がった!」

「かわいい!」

二人が笑いながら追いかける。

フルルはテーブルの近くまで転がると、ぴょんと跳び上がった。

綿毛をふわりと広げながら宙へ浮かび、そのままテーブルの上へ着地する。


そこには昼食が並んでいた。

パン。チーズ。豆とベーコンの煮込み。そして、オレンジ。

フルルはオレンジの前まで歩いていく。

「ミュミュ」

「あっ、そうか、さっき私だけ食べたんだよね。」

「フルルもお腹すいているよね。食べたいものがあるの。」

「ミューミュー」

短い足でオレンジの前をちょこちょこと歩く。


ミレイはアテーラへ向き直った。

「オレンジ、もらってもいいですか。」

「いいよ、いいよ。」

アテーラが笑う。

「ね、お母さん。」

ティナが振り向く。

「どうぞ、食べて。」

「皮、むいてあげるね。」

ミナが器用に皮をむき、小さく房を分ける。

「はい、どうぞ。」

フルルは両手でオレンジを抱える。

そのまま大きな瞳の下へ持っていくと――

ほわほわの綿毛が、オレンジを包み込んだ。

ゆっくり。

溶けるように。

オレンジは綿毛の中へ吸い込まれ、跡形もなく消えていく。


「えぇーっ!」

ティナもミナも思わず声を上げた。

フルルは幸せそうに目を細める。

大きな瞳がとろーんと緩み、綿毛がふるふると揺れた。

「かわいい……」

ミナが思わずつぶやく。

「見てるだけで幸せになる。」

ティナも何度もうなずく。

ミレイも笑っていた。

アテーラは三人の様子を見ながら、優しく声を掛ける。

「あなた方もそんなに見ていないで食べちゃいなさい。」

「はあーい。」

元気な返事が重なる。


部屋の中に、穏やかな笑い声が広がった。

夕暮れが近づき、部屋へ差し込む光も柔らかくなっていた。

その頃、一階では夕食の支度が始まっていた。


その日の夜。

祭りの賑わいもようやく静まり、和み亭にも穏やかな時間が戻っていた。

一階では片付けを終えた店員たちが帰り支度をし、二階では子供たちの寝息だけが静かに響いている。

アテーラとキャンターは、自室で向かい合って座っていた。

ランプの灯が二人の横顔を柔らかく照らしていた。

キャンターが口を開く。

「あの子をどうするつもりだ。」

アテーラはしばらく黙って炎を見つめていた。

「最初はね。」

「祭りが終わったら役所にでも任せようと思っていたんだけど。」

キャンターは何も言わず、続きを待った。

「さっき、あの子には悪いんだけど、ちょっと押して転ばせてみたのよ。」

「そしたら、擦りむいた。」

「つまり昼間のことは偶然だったということか。」

「いや、あの様子でそれはないだろう。」

「私もそう思う。あれは偶然じゃない。」

「もっと何か特別な何かだと思う。」

二人の間に、しばらく沈黙が落ちた。

キャンターはゆっくり息を吐いた。

「それに、特技なしだからな。」

「初めて聞いた。」

「あと、あのフルル。」

「あんな生き物、見たことない。」

「私もない。しばらく、うちで様子を見ようと思うの。」

「いいかしら。」

キャンターは迷うことなく頷いた。

「親戚の子ということにでもしておこう。」

「ありがとう。」

次回からは毎日18:00公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。