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第十一話 新しい仲間、新しい旅

「サーシャ、商品名はどうするのですか。」

フィリップが穏やかに尋ねる。

「皆さん、このぬいぐるみ、なんという名前で売り出しますか。」

真っ先に声を上げたのはユーリだった。

「フルル人形。」

ロンダーも続ける。

「フルルマスコット。」

「フルルでぽん。」

あちらこちらから案が飛び交う。

サーシャは腕を組み、小さく首をかしげた。

「なんかピンとくるのがないですね。」


部屋が静かになった、そのときだった。

ローザが胸へそっと手を当て、小さく目を丸くする。

そして、独り言のようにつぶやいた。

「え? ふわふわフルル?」

突然の言葉に、全員の視線がローザへ集まる。

ローザは少し慌てたように微笑んだ。

「あ。すいません。ロリィが突然言い出したものですから……」

その一言が、部屋の空気を変えた。

ユーリがぬいぐるみを見つめながら、ゆっくりうなずく。

「ふわふわフルルか、おれの作ったフルルのイメージそのものだな。」

ロンダーも微笑む。

「フルルの優しさが伝わってきますね。」

フィリップも目を細める。

「心がゆったりとしてきます。」

「いいですね。」

賛成の声が次々と重なる。


サーシャは本物のフルルへ顔を向ける。

「フルル、どう?」

フルルは机の上でぴょんと跳ねる。

「ミューミュー」

ミレイが嬉しそうに笑った。

「素敵だって言っています。」

それを聞いたサーシャは、嬉しそうに大きくうなずく。

「それでは、商品名、ふわふわフルル!」


その瞬間、まだ何も始まっていない小さな会社に、最初の商品が誕生した。

その名前は、これから多くの人々へ届けられていくことになる。


サーシャはローザへ向き直る。

「ローザさん、ありがとう。」

突然のお礼に、ローザは慌てて首を振った。

「あ、いえ、私ではなくロリィが言ったので。」

その言葉を聞き、フィリップは少し不思議そうな表情になる。

「そのロリィというのは娘さんのロリィさんのことですか。」

ロンダーはその問いを受けると、ローザへ視線を向ける。

ローザも優しく微笑み返す。

ロンダーは静かに姿勢を正した。

「私がご説明します。」

穏やかな口調で、ロリィについて話し始める。

その説明を聞きながら、サーシャは心の中で一つの考えにたどり着いていた。

(ローザさんに感じた『なんかすごそう』は、ロリィさんだったのね。叔父様の様子からすると、悪いものではなさそう。)


机の上では、本物のフルルが嬉しそうにぬいぐるみの周りを飛び回っている。

その姿を眺めるだけで、自然と笑みがこぼれる。

「ふわふわフルルを中心に、あと五つほどフルルグッズの同時発売を考えています。」

サーシャの言葉に、一同の表情が引き締まる。

「グッズ開発については、私とミレイさんで行います。」

突然名前を呼ばれたミレイは、自分を指差す。

「え、わたし!」

思わず大きな声が出る。

驚きと戸惑いが、そのまま表情に表れていた。

サーシャはそんな反応を予想していたように、優しく微笑む。


ミレイは何かを思いついたようにローザの方を見た。

「あ、それなら、ローザさん、ローザさんも一緒にやってくれませんか。」

突然名前を呼ばれたローザは、驚いて目を瞬かせた。

その瞬間だった。

ミレイの肩にいたフルルが、元気よく鳴く。

「ミュウミュウ」

ミレイは嬉しそうに笑う。

「フルルも賛成のようです。」

「え、私が、ですか?」

胸へそっと手を当てる。

(ロリィ、どうしたらいい?)

すぐに返ってくる、明るく弾んだ気配。

ローザの表情が、少しずつ柔らかくなる。

「そう、あなたもやりたいのね。」

顔を上げ、皆を見渡す。

「はい、お邪魔にならないようにしますので、よろしくお願いします。」

ミレイの表情がぱっと明るくなる。

「嬉しい。ローザさん、よろしくお願いします。」

ローザも自然と笑顔になる。

「それでは、企画アドバイザーということで。歓迎しますわ。」

サーシャは手元の資料を一枚めくる。


「次に、ミレイさんには広報も担当していただきます。」

「はい、何をすればいいんですか。」

ミレイは素直に尋ねる。

「各都市を回って、フルルグッズ販売キャンペーンを行っていただきます。」

その説明を聞いた瞬間、ミレイの瞳が輝く。

「いろいろなところ回れるんだ。」

その無邪気な喜びに、部屋の何人かが笑みを浮かべる。

しかしサーシャは、くすっと笑いながらも、すぐに経営者の顔へ戻った。

「遊びではありませんよ。」

ミレイは照れくさそうに笑う。

「えへ。」

サーシャも笑みを浮かべたまま続けた。

「お客様と直に接して、生の反応を感じ、ご意見を伺い、商品の改善、開発に役立てるのです。」

今度はミレイも真剣な表情になる。

「はい、すいません。」

その返事を聞き、サーシャは満足そうにうなずいた。


そして、もう一人へ視線を向ける。

「ローザさんも企画アドバイザーとして同行されますか。」

突然の問いに、ローザは一瞬言葉を失う。

「え、はい、あ、いえ。」

迷いがそのまま声になってしまう。

すると、心の中から優しく背中を押すような気配が伝わってくる。

(参加したら。)

ロリィの言葉だった。

ローザは小さく微笑む。

しかし、すぐにその笑みは少し寂しそうなものへ変わる。

「ありがとうございます。でも、主人の怪我が治るまでは。今回は遠慮しておきます。」

「そうですか。では、次の機会に。」


サーシャが机の端に置かれた小さなインターホンへ手を伸ばした。

軽く息を整え、落ち着いた声で告げる。

「来てください。」

「は~い。」

廊下の向こうから、明るく弾むような声が響く。


次の瞬間、隣室の扉が勢いよく開いた。

朝の日差しを背に、三人の少女が姿を現す。

部屋の空気がぱっと華やいだ。


三人とも若い。

瞳には期待と自信が満ちている。

誰もが自然と彼女たちへ目を向けた。

その中で最初に口を開いたのは、やはりユーリだった。

「うほっ、かわいい、おれ好み。」

間髪入れず、サーシャの鋭い視線が飛ぶ。

「ユーリさん!」

サーシャがひとにらみ。

「すいません。」

そのやり取りに部屋が笑いに包まれる。


サーシャは三人へ優しく微笑む。

「自己紹介して。」

三人は顔を見合わせ、小さくうなずき合う。


一歩前へ出たのは、栗色のショートボブを揺らす少女だった。

明るい笑顔が、その場を照らす。

「リーダーのエミリアです。キャンペーン、頑張ります!」

その元気な声だけで、周囲まで元気になりそうだった。

栗色のショートボブ。

琥珀色《こはくいろ》の瞳。

太陽のような笑顔。

まさにリーダーという言葉がよく似合う少女だった。

続いて、一歩控えるように前へ出た少女が静かに頭を下げる。


「作戦担当のリリアナです。売り上げ目標達成、任せてください。」

落ち着いた口調。

無駄のない立ち居振る舞い。

三つ編みにまとめられた銀色の長い髪が静かに揺れる。

深い緑色の瞳には知性が宿っていた。

最後に、ふわりと笑顔を浮かべた少女が前へ出る。


「渉外《しょうがい》担当のソフィアです。ミレイさんにキュン。よろしくお願いします!」

語尾まで弾むような声だった。

蜂蜜色のウェーブがかった髪。

大きな水色の瞳。

誰とでもすぐ打ち解けられそうな、親しみやすさがあふれている。


ミレイは三人を見つめながら、思わず微笑んだ。

三人とも、キラキラ輝いてすごく素敵だ。

三人は顔を見合わせ、息を合わせた。

「エミリアのE。」

「リリアナのR。」

「ソフィアのS。」

そして三人同時に胸の前で、かわいらしいフルルポーズを作る。

「三人揃ってERSです。」


息はぴったりだった。

その完成度に、思わず拍手が沸き起こった。

「フルルカンパニー所属の公式ブランドアンバサダー兼アイドルユニット。」

三人は誇らしげに背筋を伸ばす。

「販促キャンペーンに同行してもらいます。」

「というよりも、この子たちを中心に、活動してもらいます。」

その一言に、三人の表情が一段と引き締まる。

自分たちの活動がキャンペーンの成功の鍵となることが分かっているからだ。

しかし次の瞬間には、三人とも笑顔へ戻る。

「よろしくお願いしま~す。」

声がきれいに重なり、部屋いっぱいへ広がった。

その明るさに、自然と皆の表情も和らぐ。

パチパチパチ――。

誰よりも大きく拍手を送っていたのは、やはりユーリだった。

満面の笑みで手を叩きながら、

「いいじゃねえか。」

その様子を見て、アテーラもフィリップも思わず笑みを浮かべる。


こうして、フルルカンパニー最初の仲間たちが揃った。

フルルの優しさを、一人でも多くの人へ届けること。

その第一歩が、静かに、そして確かに踏み出された。


戦略会議を終えたころには、窓の外は茜色《あかねいろ》に染まり始めていた。

商会から和み亭へ戻る道すがらも、今日決まったことがそれぞれの胸に残っている。

新しい会社、新しい仲間、そして、新しい旅。

期待と不安が入り混じりながらも、誰の足取りも自然と軽くなっていた。

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