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第五話 フルルカンパニー、誕生!

「『この子が人気者になると困る』って、あなたさっき言ったわよね。」

「はい。」

「どうして?人気者になったらいいじゃない。」

「困るんです。」

強い口調になる。

「どうして?」

サーシャが首をかしげる。

「フルルは珍しい生き物だから、悪い人に狙われるかもしれません。」

「じゃあ、いつもそこに隠しておくの。」

「そうするしかないので。」

「それじゃあ、かわいそうじゃない。」

「仕方ないじゃないですか。フルルが捕まったり、売られちゃったりしたらどうするんですか。」


「私なら、フルルと一緒に町を堂々と歩けるわ。」


得意そうな笑みを浮かべる。

「え?」

ミレイは目を丸くした。

「どうするんですか?」

「話を聞く気になった?」

「もう、仕方ありませんから。」

その返事に、サーシャは満足そうにうなずいた。

「フルルグッズを売り出すの。」

「フルル……グッズ?」

サーシャは待っていましたと言わんばかりに説明を始める。

「最初は、フルルのぬいぐるみ。」

「ぬいぐるみ?」

「そう。」

「フルルは未発見生物でしょう?」

「しかも、超かわいい。」

指を一本立てる。

「それだけじゃないわ。」

二本目。

「どこか愛嬌がある。」

三本目。

「抱き心地もいい。」

四本目。

「さわり心地も最高。」

そして、両手を広げた。

「誰からでも愛される要素を、こんなに持っているのよ。」

思わずフィリップも笑ってしまう。

ミレイが首をかしげる。

「それと、一緒に歩けることと、どう関係があるんですか?」

「あなたまだ分からないの。」

ミレイはちょっとムカッとする。

サーシャはにやりと笑った。

「ぬいぐるみが大ヒットすることは間違いないわ。私が保証する。」

「それと、一緒に歩けるとどう関係が?」

「そうなると、町はどうなると思う?」

「どうなるって……?」

ミレイは想像してみるが何も思い浮かばない。

サーシャは両手を大きく広げた。


「町中にフルルがあふれるの。」


その一言で、フィリップが大きくうなずいた。

「なるほど。」

思わず感心したようにつぶやく。

「エッ、エッ、どういうことですか。」

ミレイは思わず身を乗り出した。

「想像してみて。」

「町中、フルルのぬいぐるみを抱いた人たちが歩いている。」

「お店にもフルル。」

「家にもフルル。」

「広場にもフルル。」

「そんな中を、本物のフルルと歩くあなた。」


ミレイは、一瞬ぽかんとしていた。

「あっ、そうか……そうか!」

「なるほど!あはははは。」

思わず笑ってしまった。

「ね、いいでしょ。」

「はい、これなら、フルルと一緒に歩けます。」

胸元の中から、

「ミュウ!」

嬉しそうな声が聞こえてくる。


「じゃあ、契約しましょう。」

「えっ、契約? 契約って?」

ミレイは、首をかしげる。

「あなたはフルルグッズ、流行らせることができるの。」

「できません。」

「だったら契約しましょう。」

「だから、契約って?」

「なに、契約したくないの?」

「契約料をあげたいから、そんなことを言っているの。」


フィリップが苦笑する。

「どうも君はせっかちで困るなあ。」

サーシャは小さく肩をすくめた。

「ミレイさんは、『契約』という言葉そのものをご存じないんだよ。」

「みんなが自分と同じだと思ってはいけません。」

「……はい、叔父様。」

「契約というのは、この場合、私だけがフルルのグッズを作って売ることができるっていう約束をしてもらうこと、かな。」

「叔父様、これでいい?」

「厳密に言うと違うかな。でもミレイさんにはそのほうがわかりやすいでしょう。」

「私はそのお礼として、約束料と使用料をあなたに払うの。」

「わかったかしら。」

「ん~、なんとなく。」

「サーシャさんにお任せすればフルルと一緒に町を歩けるようになるんですね。」

「まかせて。」

両手を腰に当て、胸を張る。

「それならぜひお願いします。」

「じゃあ、あと、金額やパーセントについては……」

一瞬、考え込む。


「あなただと分からないわよね。どう、叔父様にお願いしては。」

「はい。フィリップさん、お願いしてもいいですか。」

「任せておいてください。」

フィリップは嬉しそうに微笑んだ。

「あとは契約書ね。」

ミレイの疑問を察していたフィリップは、一枚の紙を取り出した。

「契約書というのは、約束した内容を、お互いが忘れないように書き残しておく書類です。」

「後になって、『そんな約束はしていません』ということにならないためでもあります。」


ミレイは紙を見つめたまま、小さく首を振った。

「契約書、作らなくていいです。」

サーシャが目を丸くした。

「どうして?」

「なに言ってるの。あなた、契約書がなかったら、だまされたり、とんでもないことになったりすることがあるのよ。」

「サーシャさん、私をだますんですか。」

「そんなわけないじゃない。」

「サーシャさん、いい人だってフルルも言っているし、ちょっと怖いけど。」

「契約書って、相手を信じていませんよって言っているみたいで嫌な感じがする。」

「そういうことじゃないの。お互いを守るためなの。」

「嫌です。」

「ダメ、絶対に契約書は作ります。」

お互い、一歩も引かなかった。

フィリップは優しいまなざしで、二人のやり取りを眺めていた。

(どうやら、どちらも譲りそうにありませんね。)

フィリップが、ふと思いついたかのように顔を上げる。


「ああ、そうだ!」


二人が同時に振り向く。

「二人で会社を作ったらどうですか。」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「エッ!!」

サーシャは思わず立ち上がった。

「会社??」

ミレイが目をぱちぱちさせる。

「フルルカンパニー、フルルグッズ制作・販売会社。」

「二人は共同経営者。」


部屋が静まり返る。


「叔父様……」

サーシャの瞳が、みるみる輝いていく。

「それ、最高じゃない!」

思わず机へ身を乗り出した。

「会社経営ができるのね!」

「フルルグッズなら成功間違いなし!」

「燃えてきた!」

両手を握りしめる。

「さあ、儲けるわよ!」

その勢いに押されながら、ミレイだけがきょとんとしていた。

「ミレイさん、頼まれていた仕事が決まりましたよ。働く場所はフルルカンパニー。」

「えっと……」

「私……働けるんですか?」


その一言に、フィリップとサーシャは顔を見合わせる。

そして同時に笑い出した。

(私、何か変なこと言ったのかな。)

そんなミレイの様子に気づいたフィリップが、穏やかな口調で言った。

「もちろんです。」

「本当ですか?」

「はい。」

フィリップはゆっくりとうなずいた。

サーシャが待ちきれないというように言葉を引き継ぐ。


「私たち二人で作る会社『フルルカンパニー』。」


「共同経営者ね。」

「共同……経営者?」

ミレイは言葉を一つずつ確かめるように繰り返した。

「私……働けるんですね。」

その一言に、サーシャは満面の笑みを浮かべた。

「もちろん! 今日からよろしくね。」

そう言って右手を差し出す。

ミレイは少し戸惑いながらも、その手を握った。

「よろしくお願いします。」


小さな手と小さな手が重なる。

その握手は、一つの会社の始まりだった。


「フルルカンパニーか。いい名前。」

「叔父様、ありがとう。」

サーシャは嬉しそうに笑う。

「どういたしまして。」

フィリップも満足そうに微笑む。

「フルルグッズを作って、世界中へ広めるの。きっと忙しくなるわよ。」

「はい。」

ミレイも笑顔でうなずいた。

けれど、その笑顔は期待というより、『働けることがうれしい』、そんな素直な喜びに満ちていた。

ここの下にあると思うのですが、

★をポチッしていただけると嬉しいです。

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