↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/30

第四話 かわいいお供

創生の里では、穏やかな風が草原を吹き抜けていた。

花の香りを運ぶ風に乗って、どこからともなく甘い香りが漂ってくる。

ミレイが小さく鼻を動かした。

「……あ。」

お腹が鳴る。

「ふふ。」

フローラがくすりと笑った。

「そろそろ、お腹がすいた頃ではありませんか。」

「うん。」

ちょっと照れながらうなずく。

「あそこの森や草原には、いろいろ果実が実っています。」

「木の実やイチゴ、メロンもありますよ。」

「わあ! うれしい! 行こう!」

ミレイの目が一気に輝いた。

軽やかな足取りで歩き始める。

フローラも、その後をゆっくりと追った。

花たちが嬉しそうに揺れ、草が道を開けるように左右へ分かれる。

森へ続く小道には、木漏れ日がやさしく降り注いでいた。

頭上では木々の葉がやわらかく揺れていた。

ミレイは立ち止まり、辺りを見回した。

「フローラさん。」

「はい。」

「春に咲くお花も、夏や秋に咲くお花も、それに春の生き物や夏や秋の生き物も、みんな一緒にいるんですね。」

「そうですね。」

フローラは微笑みながらうなずく。

「この地では、一年中すべての生き物が生活しています。冬眠もしません。」

「そして、ご覧のとおり、皆さん、お話をすることができるのですよ。」

ミレイは目を輝かせた。

「あっ、あのお花。」

少し離れた場所を指さす。

「ウツボカズラ。虫を食べる植物ですよね。」

「人間世界では、そうですね。」

(記憶がないということでしたが……)

フローラは不思議そうにミレイを見た。

「この地では、爽やかなよい香りを出して、みんなの心を和ませてくれます。」

ウツボカズラは、照れたように葉を小さく揺らした。

「こんにちは。」

ミレイが手を振る。

『こんにちは。』

澄んだ声が返ってきた。

ミレイは思わず笑顔になる。

「本当に素敵で、不思議な場所なんだ。」


そのとき、一匹の蝶が二人の前を横切った。

羽ばたくたびに、小さな虹色の光が後ろへ細く伸びていく。

「わあ……。」

ミレイは足を止めた。

「この蝶々、飛んだあと、虹ができる。」

「綺麗。」

しばらく見上げていたミレイは、思わずつぶやく。

「こんなのが友達だといいなあ。」

「ミレイさん、いけません!」

突然、エウロスがミレイの前に降り立った。

ミレイは思わず跳び退いた。

「だめです! だめです!」

いつも穏やかなエウロスとは思えない慌てぶりだった。

「この子がいい、と強く思ったら、供として認定されてしまうことがあります。」

「やり直しはできません。」

「くれぐれも慎重になさってください。」

ミレイは目をぱちぱちさせる。

「びっくりしたぁ。」

胸へ手を当て、小さく息を吐く。

「とっても綺麗で、いいなあと思っただけなんです。」

「そうなんですね。それでもいけません。」

「あなたの命運を左右する供なのです。くれぐれも慎重に。」

「うん、分かった。慎重に、慎重に。」

エウロスはホッとしながら姿を消した。

その様子を見ていたフローラが、口元を押さえて小さく笑う。

「エウロス様が、珍しく慌てていらっしゃいましたね。」

「うん。すごく慌ててた。私も驚いた。」

二人は顔を見合わせ、笑った。


しばらく歩くと、草むらの向こうを、何かが動いた。

ぴょこん。

丸く、ふわふわした桃色のものが顔を出す。

……と思ったら、すぐに草の中へ隠れた。

「ん?」

ミレイは立ち止まる。

また、

ぴょこん。

今度は少し違う場所から現れる。

「フローラさん。」

「あれは何ですか?」

フローラも目を凝らす。

「なんでしょう?」

二人でしばらく見ていると、

ぴょこん。

ぴょこん。

隠れては現れ、現れては隠れる。

「こちらの様子を見ているようですね。」

「なんか面白そう。」

ミレイは少しずつ近づいていく。

「ここには怖い生き物はいないんですよね。」

「はい。」

「この地には、ミレイ様を傷つけるような者はおりません。」

その言葉を聞いて安心したミレイは、そっと草をかき分けた。

そこには、丸い桃色のふわふわが、小さく体を丸めていた。

ミレイは両手でそっと抱き上げる。

「軽い。」

思わず声が弾む。

「ふわふわして気持ちいいー。」

ふわふわは安心したように、ミレイの手のひらの上で小さく揺れている。

すると、そのふわふわの丸い体の横から、もう一回り小さなふわふわが、ぴょんと飛び出した。

「え?」

飛び出したふわふわから、まん丸の可愛い目がのぞいていた。

どうやら、それが顔らしい。

下からは綿毛のような短い足。

横からは小さな手が、ちょこんと伸びる。

くりっとした大きな目で、きょとんとミレイを見つめていた。

しばらく見つめ合う。


次の瞬間、ミレイの口から叫び声が飛び出した。

「かわいいーーー!」

「かわいいーーー! かわいいーーー!」

「だめです!!! ミレイさんー!」

フローラが悲鳴のような声を上げた。

ふわふわの体が、ふわりと淡い桃色の光に包まれる。

ミレイの胸元に柔らかな光が灯った。

二つの光は細い糸のようにつながり、ゆっくりと互いを引き寄せていく。


そのときだった。

空を覆う双子星。

厚い雲の奥に、赤い光が一つ灯った。

最初は小さな火種ほどだった光が、渦を描くように大きく広がっていく。

渦の中心は深い紅。

その周囲を黄金色の光が幾重にも包み込む。

やがて双子星全体が、一瞬だけ淡く輝いた。

そして、何事もなかったかのように厚い雲だけが双子星を覆っていた。


エウロスは黙って双子星を見上げていた。

神殿跡でも、三人が同じ空を見つめている。

「エウロス様。あの魔物……魔物でもなさそうだが、あれは何だぞ。」

サティロスが大声で言う。

「わしは見たことがないですのう。」

ナイアスも首を傾ける。

「私も初めてです。」

オレイアスも首をかしげながら言う。

エウロスは、ふわふわの生き物をじっと見つめていた。

「私も知りません。初めて見ました。魔獣ではなさそうですが……。」

「エウロス様がご存じないぞ!」

「あの生き物はどのような能力を持っているのですかのう。」

「御子様のお役に立つものであればいいのですが。」

三人の期待のまなざしがエウロスに注がれた。

「では、見てみましょうか。どれどれ、スキルは……。」

エウロスの瞳の奥に淡い光が宿る。

一瞬、動きが止まった。

もう一度、ふわふわの生き物を見る。

三人が一斉に身を乗り出した。


「……カワイイ?」


エウロスの叫びが神殿跡にこだまする。

「カワイイ? これがスキルだと! カワイイ!? カワイイ、だと……」

サティロスがぽつりと漏らす。

「そんなスキル……」

「見たことも、聞いたこともないぞ。」

ナイアスも困ったように頭を掻いた。

「力もなく……。」

「可愛いなどという、役に立ちそうもないスキルしか持っておらんようですのう。」

オレイアスも映像を見つめたまま、小さく息をつく。

「可愛いだけが取り柄の、弱小な生き物の突然変異体……。」

「そのように見えます。」

映像の中では、その小さな生き物が、ミレイの両手の上で嬉しそうにふわふわ揺れている。

抱き上げてもらえたことが嬉しいのか、くるくると体を回している。

とても、カワイイ生き物だった。

「今度こそ終わったぞ。」

「本当に、終わったのう。」

二人は、ガクッと座り込んだ。

「私まで、そのように思えてきてしまいました。」

オレイアスまで力なくうなずく。

エウロスは静かに息をつく。

「……もう、どうしようもありません。」

「ご本人の選択です。」


一方、ミレイはそんなやり取りなど知る由もない。

手のひらの小さな生き物を見つめ、頬をほころばせていた。

「ねえ。」

「あなた、とってもかわいいわね。」

小さな生き物は、大きな瞳を細めるようにして鳴いた。

「ミュウ」

小さく鳴いた。

その鳴き声に、ミレイは思わず笑顔になる。

「うふっ。かわいい。」

その一言に応えるように、小さな体が嬉しそうに揺れた。


その様子を、フローラがなんとも言えない顔で見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。