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第三話 供となる者

遠く離れた山頂の神殿跡。

エウロスの《視界共有》によって、創生の里の様子が三人の前へ映し出されている。

草原で楽しそうに笑うミレイ。

その隣で優しく見守るフローラ。

三人は自然と頬を緩めていた。

「花の一族に任せたのは正解だったぞ。」

サティロスも満足そうにうなずいた。

「御子様も楽しそうですのう。」

ナイアスが目を細める。

「ええ。花たちも、あれほど嬉しそうに踊るのは久しぶりです。」

オレイアスは胸をなで下ろす。

サティロスがぽつりと呟いた。

「ところで、御子様は、どのような力をお持ちなのだ。例えばスキルとか。」

その一言で、三人とも聖なる地のエウロスへ視線を向けた。

三百年前のユライアは、目覚めたその日から人々を圧倒するほどの力を備えていた。

「何か素晴らしいスキルをお持ちなのでしょうのう。」

ナイアスが期待を込めて言う。

「できれば、私どもにも教えていただけませんでしょうか。」

オレイアスも静かに尋ねた。

少しだけ間があった。

「スキル、『なし』です。」


三人は顔を見合わせた。

「……!」

「なし! さすが御子、初めて聞く名のスキルだぞ。」

サティロスが力強く頷く。

「きっと、とてつもない力を持つスキルなのでしょうのう。」

ナイアスも何度もうなずく。

「それは、どのようなスキルなのですか。」

オレイアスが身を乗り出した。

エウロスは小さく首を横へ振る。

「『なし』は、スキル名ではありません。」

三人は怪訝そうな表情になる。

「何のスキルも持っていない、という意味です。」

誰もすぐには言葉を発せない。

映し出されるミレイは、何も知らず花たちと笑っている。

「……スキルがない? その上あのひ弱な体……終わったぞ。」

「終わったのう」

サティロスもナイアスも、がっくりと首を垂れた。

オレイアスは複雑そうな表情で映像を見つめた。

「エウロス様、供となる者を、一体でよいので付けて差し上げることはできませんでしょうか。一人で旅をしていただくのでは、あまりにも心配です。」

「そうだ! オレイアスよく言ったぞ」

「一人では危険すぎるぞ。」

サティロスが勢いよく身を乗り出す。

「せめて御子の身を守れる者でもおればのう。」

オレイアスもすぐさま続けた。

「皆同じ思いです。エウロス様、お願いできないでしょうか。」

オレイアスの横で、二人も強くうなずく。

「全くもう。」

エウロスは小さくため息をついた。

「本当に、皆さんは小姑ですか。」

「……ですが、私たちの星の未来を考えれば、その案は悪くありません。」

「では、一体だけ、供を持てるようにしてあげましょう。」

三人の表情が一気に明るくなった。

「ただし、誰を供にするかは、ミレイさん自身が決めます。私たちが関わるのはここまでです。」

「後は、ご自分で判断し、行動していただきます。」

その意味を誰よりもよく知る三人は、静かにうなずいた。


草原では、ミレイとフローラが並んで歩いていた。

花たちが足元で揺れ、小鳥が枝から枝へ飛び移る。

「ミレイさん、楽しんでいますか。」

「あ、エウロスさん。」

ミレイは振り返り、嬉しそうに手を振った。

「うん、とっても楽しい。」

「ここはすごく素敵な場所ですね。」

「だからといって、いつまでもここにいられるわけではありませんよ。」

「うん、分かっています。明日、出発します。」

「よろしい。」

少し間を置いて、穏やかに続けた。

「さて、あなたも、知らない世界で一人では心細いでしょう。」

「そこで、あなたに供を一人付けてさしあげることにしました。」

「供?」

不思議そうにエウロスを見た。

「供にしたい生き物の前で、供にしたいと強く念じなさい。そうするとその生き物を供にできます。」

「人間以外であれば、魔物でも他のどのような生き物でも構いません。」

今度は驚いたようにエウロスを見つめた。

「何でも?」

「はい。ただし、単なる供です。供になった後、どのような関係を築くかは、あなた次第です。」

「仲違いでもすると、いなくなってしまいますよ。気を付けてください。」

「うん。分かった。それなら、私、フローラさんがいい。」

目を輝かせ、隣に立つフローラを見る。

「え! わたしですか。」

突然名前を呼ばれたフローラは、少し目を丸くした。

「フローラさん、お願い。」

今日一日、一緒に過ごした。

優しく話しかけてくれた。

花たちと遊ばせてくれた。

転んだときには、すぐに治してくれた。

今のミレイにとって、一番安心できる相手だった。

フローラの顔にも嬉しさが浮かんだ。

「ありがとうございます。喜んでお受けします、とお答えしたいのですが……。」

ほんの少し視線を伏せ、静かに首を横へ振る。

「ミレイ様に、今必要なのは私ではありません。」

「え?」

フローラは穏やかな笑みを崩さずに、ミレイの顔をしっかりと見据えた。

「私は回復や補助は得意ですが、ミレイ様をお守りすることはできません。」

「ミレイ様が求めるべきは、ミレイ様を守り、敵を撃破する力を持つ者です。」


その言葉を聞いた神殿跡の三人は大きくうなずいた。

「うん、よく言ったぞ。」

サティロスが満足そうに腕を組む。

「賢明な判断ですのう。」

ナイアスはサティロスの肩を、そうだ、そうだ、とでもいうように何度も叩いた。

「私たち草原の民は、攻撃には向いておりませんから。」

オレイアスも静かに娘の言葉を受け止める。

その表情には、母親としての安堵と、一族の長としての誇らしさが入り混じっていた。

一方のミレイは、まだ少し納得できない様子でフローラを見つめている。

「守ること……。」

小さく呟いた。

「ミレイ様、何か強い魔物でも思い浮かびませんか。」

フローラが優しく問いかける。

「強い……。」

ミレイは腕を組み、目を閉じてじっと考える。

「太いツノ。」

両手を頭の横へ持っていき、大きなツノを作る。

「にらみ殺すような殺気を放つ目。」

ぐっと目に力を入れて睨んでみせる。

「ガキッと生えた長い牙。」

今度は口を大きく開け、両手で牙の長さを表した。

両手を口の前へ持っていく。

「メラメラと炎を吐き出す大きな口。」

フローラは顔をしかめる。

「恐獣のドラゴーラですね。」

「恐獣? ドラゴーラ?」

「はい。魔物よりも獰猛(どうもう)な種族です。」

フローラは静かに説明を続ける。

「ドラゴーラの住む場所は、魔境の奥にある炎の山脈と言われています。」

「人が行けるような場所ではありません。」

「そっかぁ……、残念。」

「じゃあ、旅でもしながら探そう。」


一瞬曇った顔は、もう明るくなっていた。

これからは、日・火・金 の18:00に掲載します。

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