表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/38

第29話:会議室のドアを蹴り開ける足音(気怠げな乱入者)


「私は……生徒会長を、辞任します」


 深い絶望とともに、白峰莉音が自ら玉座を降りる宣告をした。

 権田教諭が深く頷き、無情にもその辞任を受理しようと口を開いた、まさにその瞬間だった。


 ――ガララララッ!


 厳粛なる第一会議室に、重たいスライドドアが勢いよく、遠慮なく開け放たれる音が響いた。


「いやいや。勝手にバッドエンドに持ち込まないでくれませんかね」


 緊迫した室内の空気など完全に無視した、ひどく気怠げで、間延びした声。

 全員の視線が入り口に集中する。

 そこに立っていたのは、制服のネクタイをだらしなく緩め、首の後ろをボリボリと掻きながら、大きな欠伸を噛み殺している一人の男子生徒だった。


「……あー、面倒くさいことになってんな」


「なっ……!?」

「き、君は……! ここは関係者以外立入禁止だぞ! 入り口の立て札が見えなかったのか!」


 突然の不審者の乱入に、権田教諭が顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。

 だが、俺は「あー、字が読めないもんで」と見え透いた嘘を吐きながら、のろのろとした足取りで会議室の中央へと歩みを進めた。


「な、夏目創……っ!」


 長谷川が椅子を蹴立てて立ち上がり、親の仇でも見るような憎悪に満ちた目で俺を指差した。


「よくもノコノコと姿を現したな! 会長を脅迫し、あのような恐ろしいテロ計画の片棒を担がせようとした張本人が……っ! 貴様の悪事はすべて露見したぞ!」


 周囲の役員たちが、まるで危険人物でも見るかのように怯え、サッと道を空ける。

 俺は長谷川のトンデモ推理を一瞥すらせず、長机の中央――全てを諦め、真っ白な顔をして座り込んでいる、白峰莉音の隣に立った。


「な、夏目さん……」


 白峰が、信じられないものを見るような目で俺を見上げた。

 その大きな瞳には、今にも零れ落ちそうな涙が薄っすらと膜を張っている。


「どうして……っ。来ちゃダメって、あれほど……っ」

「馬鹿野郎」


 俺は、白峰の頭にポンッと軽く手を乗せた。


「自分の担当作家が、たかが『設定の矛盾』ごときで筆を折らされそうになってんのに、黙って見過ごす編集者がどこにいるんだよ」

「っ……」


 俺の言葉に、白峰の瞳からポロリと一筋の涙がこぼれ落ちた。

 彼女は、俺をこれ以上巻き込まないために、一人で全ての罪を被り、生徒会長という誇り高き玉座から降りようとしていたのだ。

 そんな自己犠牲の三流展開を、この俺が許すわけがない。


「……おい夏目! 会長から離れろ! これ以上、会長を貴様の毒牙にかけることは私が許さん!」


 長谷川が唾を飛ばさんばかりの勢いで叫ぶ。俺はようやく彼の方を向き、机の上に置かれていたあの『創作ノート』を無造作に手に取った。


「貴様! 証拠隠滅を図るつもりか!」

「……証拠ねぇ」


 俺はノートのページをパラパラと捲り、権田教諭と長谷川の方へと向き直った。


「アンタら、さっきからこのノートを『学校へのテロ計画書』だって騒いでるが。……ちゃんと中身を最後まで読んだのか?」

「読んだからこそ、こうして緊急会議を開いているのだろうが! 体育館の封鎖、化学薬品による爆発……言い逃れできる内容ではない!」


 権田教諭が机をバンッと叩いて威圧する。

 だが、俺は鼻で小さく笑い、ノートを机の上に放り投げた。


「だから、アンタらは『読解力』が絶望的に足りねえって言ってるんだよ」

「……なんだと?」

「いいか。文章っていうのはな、表面的な単語だけを拾い読みして結論を出すもんじゃない。その裏にある『論理ロジック』を読み解くもんだ。……少しでも頭を使ってこの計画書を読み込めば、こんなものが現実のテロリズムになんてなり得ないことくらい、一瞬でわかるはずだ」


 俺の挑発的な言葉に、会議室の空気が再びピリッと張り詰める。

 長谷川がギリッと歯を食いしばり、権田教諭が不快げに眉をひそめた。


「……屁理屈を。現にここに、具体的な実行手順が書かれているではないか!」

「具体的に見えているだけだ。……いいだろう。権田先生、そして優秀な生徒会の皆様。今から俺が、この計画がいかに『破綻しているか』を、物理的かつ論理的に証明してやる」


 俺は、長机に両手をつき、大人たちを真っ向から見据えた。

 いつもの無気力なバイト高校生の目は、そこにはない。

 あるのは、かつて商業の世界で、緻密なミステリや伏線を幾度となく構築し、論理の矛盾を潰してきた『プロの物書き』としての、冷徹で鋭い眼差しだ。


「これは犯罪計画じゃない。……ただの、構成の破綻した『物語』だ」


 静まり返る会議室。

 俺のその宣言を皮切りに。

 教師陣と生徒会役員を相手取った、容赦のない『名探偵(リアル担当編集)の論破劇』の幕が、高らかに上がった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ