7 対峙
フルールはその日の夜、一睡もできなかった。
「……」
「あら、酷いお顔」
目の下に大きなクマを作って現れたフルールを見た侍女たちはクスクスと笑った。
しかし、彼女はそんなこと気にもならなかった。
(旦那様……)
フルールの頭の中は、昨日からルースとその秘書のことでいっぱいだったからだ。
今は何をやっても手が付かなかったし、食事も喉を通りそうにない。
フルールは半年前に見たアリアの姿を思い浮かべた。
平凡で地味な見た目の彼女とは対照的に、華やかでとても綺麗な人だった。
貴族令嬢でも、あれほど美しい人はそうそういないだろう。
フルールは窓に反射した自分を見つめた。
茶色い髪に、真っ黒な瞳。
アリアの見た目とは似ても似つかない。
自分とアリアを比較し、フルールは急に自信を無くしてしまった。
(とにかく、あの話が本当かどうか、自分の目でたしかめる必要があるわ!)
彼女は外出用のワンピースに着替え、家を出て行った。
***
その日の夜。
王都に位置するとある邸宅。
夜遅くに、その邸宅に腕を組みながら入って行く男女の姿があった。
「ルース、今日も疲れたわね」
「ああ、そうだな」
フルールの夫・ルースと秘書のアリアだった。
彼らは人目を気にすることなく、堂々と寄り添って歩いている。
「今日は私の家に泊まっていくんでしょう?」
「そのつもりだ」
アリアは勝ち誇ったように笑った。
彼女はルースの妻ではなかったが、彼との付き合いはもう五年近くになる。
彼の秘書兼愛人として、公私を共にしてきた。
アリアは平民ではあったが、秘書として常に彼に付き添い、彼の仕事をサポートしてきた。
その恩があるからか、ルースは結婚してからも週の半分は彼女の家で過ごしている。
二人はルースがフルールと結婚する前からの関係だった。
平民であるアリアは、どれだけ有能であろうと彼の妻になることはできなかった。
そのことがアリアは悔しくてたまらなかった。
何の役にも立っていない出会ったばかりの女が本妻となり、自分は彼の愛人のまま。
アリアは最初からフルールのことが気に食わなかった。
あんな伯爵家のお荷物が、愛するルースの正妻となったのだ。
しかも彼を脅迫するような形で。
アリアはギュッと拳を握りしめた。
彼女はルースの結婚が強引に決まったとき、彼がどれほど憔悴していたかを覚えていた。
彼をあんな風にしたのはフルールだ。
あの女のせいで、私たちの幸せだった日々は壊れた。
フルールに対する憎しみを募らせながらも、アリアは平然を装ってルースに話しかけた。
「ねぇルース、今度開発する化粧品のことで案があるんだけど……」
「何だ?」
暗闇の中で、ルースはアリアを見下ろした。
「早く中に入りましょう?話の続きはあなたの部屋で……いいでしょう?」
「……そうだな」
アリアはルースの腕を引き、彼との愛の巣に入ろうとした。
そのとき、茂みの中からある人物が二人の前に姿を現した。
「――旦那様、こんなところで何をしていらっしゃるんですか?」
「……な、何故君がここにいるんだ……!」
「…………あなたは」
アリアとルースの前に立ちはだかったのは、ルースの本妻・フルールだった。




