6 残酷な真実
朝になり、フルールはルースのベッドの上で目を覚ました。
「……」
隣を見ると、彼はすでにいなかった。
昨日は彼の胸に抱かれて眠りにつき、とても幸せで温かい夜だった。
フルールはルースが眠っていたであろう場所に手を置いた。
まだ温かいと感じるのは気のせいだろうか。
(私が起きるまで、待っていてくれたらよかったのにな……)
そうは思ったものの、多忙を極めるルースに迷惑をかけるわけにはいかない。
彼は誰からも相手にされない自分をもらってくれたうえに、妻として尊重してくれた。
それだけで、フルールは十分だと自分に言い聞かせた。
「旦那様は忙しい方だもの、仕方が無いわ」
フルールはベッドから起き上がり、着替えを始めた。
昨日は久しぶりにルースと夫婦の営みをしたせいか、体が動かしづらかった。
フルールの着替えを手伝ってくれる侍女はいない。
彼女は結婚してから毎日のように一人ですべてをこなしていた。
伯爵夫人にもなれば侍女がいるのが当然だと聞いた。
しかし、実家でも彼女には侍女なんてつけられていなかった。
そのせいか、フルールはあまりそのことを気にしていなかった。
彼女はルースを愛していた、この世界の誰よりも。
他のものは何も必要ない、ただ彼の傍にいられるだけでよかった。
***
そうしているうちに、ルースとの結婚から半年が経過した。
彼は以前と変わらず、週に三日ほどフルールのいる本邸へ帰るという生活を続けていた。
もはやそのような暮らしが当たり前になっていたせいか、フルールは彼の帰宅が遅いことすら次第に気に留めないようになっていた。
(今日は旦那様はお帰りになられないから……そろそろ寝よう)
フルールはルースが帰る日はたとえ深夜になろうとも、必ず起きて彼を出迎えていた。
しかし、事前に彼が帰らないと伝えている日は別だった。
来ないことがわかっている人をいつまでも待ち続けているわけにはいかない。
夜の十一時を過ぎたあたりでフルールはベッドに入った。
(そうだ、寝る前にお手洗いに行こう)
彼女は一度ベッドから出て、部屋の扉へ向かった。
ドアノブに手をかけたそのとき、外から侍女の声が聞こえた。
「――旦那様は本当にお仕事が忙しいのかしら?」
「……!」
彼女の身体は石のように固まった。
(まずいわね……彼女たちが去ってからにしないと……)
侍女たちはフルールと出会うたびに、何かと彼女に嫌味を言ったり、嫌がらせをしたりしていた。
伯爵邸で受けたものと比べたら大したことはなかったが、それでも面倒事になるのは避けたかった。
フルールは侍女たちが立ち去るまで部屋の中で待つことにした。
扉の前に立った彼女は”旦那様”という言葉が聞こえた気がして、そっと聞き耳を立てた。
「そんなわけないじゃない。きっと今日もあの秘書の家で過ごしているんでしょ。――あの人は旦那様の愛人だから」
「な……!」
侍女が何気なく発した一言に、フルールはショックを受けた。
(あ……愛人……!?あの秘書が……!?)
結婚してから数日後にキースから直々に紹介されたあのアリアという秘書。
彼女はキースに対して異常なほど距離感が近かった。
「それにしても、旦那様はどうして奥様と結婚したのかしら?旦那様の美貌ならもっと良い女を妻にできたでしょうに」
「あのアリアって女、平民で旦那様とは結婚できないみたいね。だからお飾りの妻が欲しかったんでしょう。相手は誰だってよかったんじゃない?」
「あーそういうこと……」
フルールは扉越しに身体を震わせていた。
理解が追いつかなかった。
屋敷にいる使用人たちはみんなルースが秘書を愛人として囲っていることを知っていたわけで。
知らずにいたのは、彼女だけだったのだ。
「――奥様も可哀相な人だわ……」
その言葉を最後に、侍女たちは部屋の前から立ち去って行った。
フルールは、彼女たちがいなくなっても扉の前から一歩も動けずにいた。
(愛人……?あんなに優しい旦那様に……?)
一人になったフルールの脳裏に、ルースの優しい笑顔が浮かんだ。




