魔法封じ
踊る妖精や飛び交う火の玉、ひっきりなしに解けそうもない問題をささやく小人に、空中をすべる帆船。もう少しこのまま眠っていようよ、と誘惑する自分と、早く目覚めなくては、とあせる自分。合わせ鏡の中のような迷宮に惑う無数の影・影・影。
「だいたい、なんであんなやり方で、こいつに薬を飲ませなくちゃならなかったんだよ?」
すねてむくれているようなニコーレの声がした。
「あら、しかたがないじゃない。あれが一番安全で確実、手っ取り早いわ」
声はラヴィーニアのものだが、話し方がきびきびしていてさっきとはまるで別人のようだ。
マリオンの意識が、現実の淵に浮き上がる寸前に聞こえた会話は、そんな二人のものだった。まぶたの裏に感じる光から察すると日は高く、彼が気を失ってからあまり時間がたっている風ではない。まだふわふわと頼りなく彼の意識は宙を舞っているが、幻覚の方はようやくおさまったようだ。
『何故、殺されていないんだろう?』
と、彼は安堵より先に、どこか少し納得のいかないものを感じた。もちろん、殺すつもりならラヴィーニアが抱きついた時、彼の心臓に冷たい刃を滑り込ませればそれですむ。あるいは彼女がそんなことをしたくないのなら、彼が眠った後でニコーレがそうすればよい。それをしなかったということは、二人の目的は別にあるということだ。追いはぎ、強盗のたぐいにしては、どうにも手が込みすぎている。
『目的はいったいなんだ?』
彼は右手の指を動かそうとしてみたが、まるでにかわで貼り付けられたようにぴくりとも動かない。意識は目覚めているが、身体のほうの感覚がまだ麻痺しているようだ。
『意識がはっきりしてたら、魔法が使えるかな? ちょっと怪しいか』
マリオンはあっさりあきらめた。危害を加えられないのなら、このまましばらく様子を見るのもいいかもしれない。
「ちゃんと、はめたんでしょうね? ニコ」
彼の頭の上で、ラヴィーニアがいささか疑わしげな声でニコーレに何かを問いただした。
先ほどの頼りなげな美少女は、すっかりしっかり者に変身している。どう聞いても主導権はラヴィーニアのほうにありそうだ。
『さっきまでどこから見てもか弱い美少女だったのに・・・・・・。女の子はこれだから怖いよな』
と、心の中でマリオンはこっそりつぶやき苦笑した。
「もちろん、きっちりはめこんだよ。絶対、大丈夫だって」
「だったらいいけど。ちゃんとはめてないと、彼が目覚めた時に困るのはあなたよ」
『何を?』と問いただしたい欲望にマリオンは駆られた。何をどこへはめ込んだといいたいのか?
身じろぎしたはずもなかったが、ラヴィーニアは観察力がかなり優れているのか、あるいは勘がいいのかもしれない。
「彼、目が覚めたみたいだわ」
彼の覚醒に気づいたラヴィーニアが冷静な口調でそう言うと、ニコーレのほうが慌てた。
「まさか! あの薬でそんなに早く目覚めるもんか」
「そうよね、でも彼は普通の人とは違うみたい。ね? 起きてるんでしょ?」
顔の上に誰かが、かがみ込んだ気配を感じる。マリオンは目を開けようと努力してみたが、まつ毛がかすかに震えただけで、まぶたは持ち上がらない。
「身体がまだ麻痺してるのね。無理しないほうがいいわ」
かがみこんだ影が、ニコーレに言うのとはまるで異なった口調で優しくささやいた。同時にどかっと、わき腹に衝撃を感じる。
「ふん! こんな奴に優しくしてやる必要なんかねぇよ」
どうやらニコーレがマリオンの横腹に蹴りを入れたようだが、幸いなことに麻痺しているせいで痛みは鈍くしか感じられない。
「やめなさいよ。それって卑怯だわ」
ふん! とニコーレが鼻で笑った。
「どうせ麻痺してんだろ。痛くも痒くもないさ」
「あとで仕返し喰らっても、知らないから。彼、手強いわよ?」
「へっ! 魔法を使えない魔術師なんざ怖くないね」
マリオンのまつ毛が再びぴくりと震えた。 何故、知っているのだ? 何故、彼らは僕が魔術師だと知っているのか? 身にまとう魔法の気配でわかるとしても、それは相手に魔術的能力があった場合に限られる。二人は、魔術師ではなかった。荷物の中にもそれらしいものは、持っていない。あったとしても一般人にひと目で知られるような形ではない。そもそも彼は、魔術に魔道具や秘薬などほとんど使わないのだ。
そして、もっと問題なことは、魔法が使えない魔術師と言う言葉だった。魔法が使えないとは、どういうことなのか? 彼らはいったい何をどこにはめ込んだのか? もしかしたらそれは魔法封じの何かなのか? 自分の魔法がそんなに簡単に封じられるとは思えないが、自信ありげな二人の口調が気にかかる。
マリオンの眉がかすかによせられた。魔法が使えないのは、彼にとって精神的にかなりの痛手だった。確かめたい焦りの気持ちと裏腹に、身体の感覚はなかなか元に戻らない。
「この人、砂竜にあなたが向かっていったとき、ちゃんと見てたわ。何かあったらすぐに助けに行こうとしてたのよ?」
ラヴィーニアがそんなマリオンの焦りも知らず、ニコーレに言い聞かせるように彼の弁護をしている。
「そのわりにゃ、助けには来なかったよな」
「行かせないように、あたしがしっかり抱きついていたからでしょ。彼、突き放せなくて困ってたもの」
再び衝撃が、今度はご丁寧に反対側のわき腹に入れられた。さっきよりだいぶ感覚が戻ってきたのか、あるいは蹴りが強かったのか、さっきよりも痛みを感じた。指に力を入れてみると、少し動くようになってきているようだ。ニコーレの蹴りのおかげかもしれない--礼を言う気は、さらさらないがーー。
だが、感覚が戻るにつれて彼は、額と左目に何か違和感のようなものを感じ始めていた。
「もう! 乱暴なことは止めてっていってるでしょ! 蹴らないでよ」
ニコーレの鋭い舌打ちの音が聞こえる。
「女みたいな顔して色男ぶりやがって! まったく気に食わねぇ野郎だ」
「・・・・・・・」
マリオンの唇がかすかに開かれた。
「何か言ったわ。なぁに?」
すかさず、ラヴィーニアがかがみ込んで、彼の口元に耳を近づけた。
「お前なんか、砂竜がお似合いだ、ですって」
きれぎれにつぶやかれた伝言を伝えて、くすくす笑うラヴィーニアを睨んでニコーレが再びマリオンのわき腹に蹴りを入れようとしたとき、
「おやめ! ニコ! その子は大事な客人なんだよ」
今まで聞いたことのないほど野太く力強い女の声が、あたりに響き渡った。
「お母様! わざわざここまで出向いていらしたの?」
ラヴィーニアが驚いたような声をあげた。どうやらその声の主は、ラヴィーニアの母親のようだ。あの乱暴者ニコーレが鶴の一声で蹴るのをやめ、おとなしくなったのが気配でわかった。では、あの「お母様に言いつける」はまんざら嘘でもなかったわけだ。あれはどこまでが芝居だったのだろう?
「待ちきれなくてね。様子を見に来たのさ。どぅれ? 坊やの顔でも拝ませてもらおうかえ?」
野太い、よく響く声が、どしどしという足音とともに近づいて来た。
「また、坊やか。いいかげんにしてくれよ」
顔をしかめて不満げにつぶやいた声が、まだ弱々しいながら口から流れ出て、それが聞こえたらしい。足を止めた女が不審そうな声をあげた。
「おや? もう、お目覚めか? ちゃんと薬を飲ませたわけではなかったのかえ? ラヴィ」
語尾にわずかだが、咎めるような口調が混じっている。
「いいえ、ちゃんと飲ませたわ。でも、あまり効かなかったみたいなの」
ラヴィーニアが小さな声で言い訳した。マリオンは、ゆっくりとまぶたを開こうとした。
やはり、左目に違和感を感じる。額と左目の上に、何か冷たい金属のようなものが張り付いているようだ。それは左の目をきっちりと覆い隠しており、まぶたを開こうとしても持ち上がらないほどぴったりと顔に吸い付いていた。
「それは頼もしいねぇ。やはり普通の子とは違うんだね。ニコ! 坊やの身体を起こしておやり」
「・・・・・・はい」
幾分、不満そうな返事をしてニコーレがマリオンの頭のほうへ回りこんだ。 肩に手をかけ抱き起こそうとするのへ、
「触るな!」
と、不快そうな声をあげ、マリオンは自力で身体を起こそうと身を捩った。
少し感覚は戻っているが、まだ身体のすべての機能が回復したわけではない。身を起こそうとすることによって痺れが体中の神経に不快な痛みをもたらした。心ならずも呻きながら、マリオンはゆっくりと自力で上半身を起こし、左足の膝を立てた形で座り込んだ。だが、力の入らない身体を後ろについた片手では支えきれなくて、立てた膝に少し前かがみに寄りかかるようにして起き直った。それから腕を上げて額と左目に触ってみると、滑らかな金属の感触が指先に伝わってきた。左目の部分には、アラベスクのような模様が施されているようだ。左の目はその金属で視界を覆われてしまっているが、右目には何の支障もない。
視線を上に上げると、目の前に体格のいい大女が立ちはだかり、興味深げに見守っているのが目に入った。
「あんたには、面白い見ものだったようだな」
彼の声はすっかり掠れているが、口調は強気だった。
「いいねぇ。気の強い坊やは大好きだよ」
大女は真っ赤に塗られた分厚く大きな口を、横に広げてにぃっと笑って見せた。
彼女は、マリオンとほとんど変わらぬであろう背丈で、彼よりよほどがっしりした体型をしている。着ている物は簡素だが、色鮮やかな丈の長い赤の上着とスカートによく履きこまれた頑丈そうなブーツ。顔の造作が元々派手な上に、さらにどぎつい化粧を施している。
しかも、その背には、華やかな色合いが組み合わされたベルトで吊るされた大きな剣が背負われていて、いかにも女丈夫といった風情であった。
「あんたが黒幕か」
マリオンが上目づかいにぎろりと睨むと、彼女は割れ鐘のように濁った大声で笑った。
「あたしの命令か、という意味ならそうさ。どうだえ? あたしの娘は頭も度胸もいいだろう?」
「ああ、たいした玉だよ、あんたの娘は。手馴れたもんだ。さぞかしいい女悪党になれるだろうさ」
彼は口元をゆがめて軽蔑したように低い声で笑った。
「お黙りっ!」
いきなりの平手打ちが、マリオンの右の頬に炸裂した。女とはいえ、太く逞しい筋肉質の腕で力任せに殴られ、マリオンの力の入らない軽い身体は、そのまま横へ何フィートか吹っ飛んだ。腹ばいの状態で口の端をぬぐうと、口の中が切れたようで、手袋の甲に血のしみが付いた。また打たれた頬にも、女のはめていたごつい指輪で切られて傷がつき、こちらも血が出ているようだ。痛みを堪え、やっとのことで体を起こす。
「いいかい? 何を言ってもいいけどね、うちの娘を悪く言うことだけは許さないよ」
くくくっ、とうつむいたままのマリオンの口から、再び笑い声が漏れた。
「よく言うよ。あんなことをやらせといて。盗人猛々しいってやつだろうが、そいつは」
そこまで言うと、今度は女の太い指がマリオンの襟をつかんで顎をぐいっと持ち上げた。
「可愛い顔をして、口の減らない子だね。気の強いのと、無礼なのは違うんだよ? そんなにお仕置きをして欲しいのかえ? 客人だからって容赦はしないよ」
「僕が無礼だって? いったいどっちが無礼なんだ?! ふざけたことを言うな」
マリオンが、弱々しい声ながら負けじと言い返す。
「やめて! お母様!」
その時、間に割って入ったラヴィーニアが母親の手を振り払った。
「この人にしてみたら、あたしは盗人や追いはぎと同様だわ。乱暴なことをしないで」
ラヴィーニアの華奢な手で振り払ったにもかかわらず、母親はまるで力いっぱい叩かれたかのようにいささか慌ててその腕を引っ込めた。
「あたしのこと、助けてくれたのよ? あたしはお芝居だったけど、この人は本気で心配してくれたわ。ひどいことしないでちょうだい!」
女は、一所懸命言いつのるラヴィーニアに、顔をしかめながらも面白がっているようなまなざしを投げかけた。後ろではニコーレが、これ以上はないほど渋い顔をしている。
「そうでなくても、彼にこんなものをはめてしまってるのよ? お願いすることがあるでしょ? 聞いてくれなかったらどうするの? そちらのほうが大事なことよ」
女は、眉を上げて、それから重々しくうなずいた。
「ああ、確かにそうだ。わかったよ、ラヴィ。とりあえずは我が家にお迎えしなくてはいけないね。ニコ、この先に馬車を止めておいた。男たちも何人か置いていくよ。彼を丁重にわが砦へつれておいで」
そこでいったん息をついでマリオンに目をやり、猫なで声を出した。
「坊や、悪かったね。娘のことになると頭に血が上るのさ。機嫌を直しておくれでないかい。これからは乱暴なことはしないからね」
「乱暴なことよりも、坊やと呼ぶのをやめてくれ。気分が悪い」
ふてくされた様子のマリオンに、女はにやりと笑って見せた。
「そりゃ、悪かった。あたしゃグロリア・キング。グロリアと呼んどくれ」
「……僕はアルヴィンだ」
名乗らなければ、この女はずっと坊やと呼び続けるに違いない。しかたなく、マリオンは偽名のほうを名乗った。
「アルヴィン、ね。じゃあ、アルヴィン、あとでまたゆっくりと御目文字するよ」
それからグロリアは、くるりとマリオンに背を向け街道のほうへ歩き出したが、途中でふっと足を止めた。
「ニコ! 丁重に、という意味、ちゃんとわかっているかえ?」
仏頂面でマリオンのほうをしきりに睨みつけていたところへ、いきなり声をかけられたニコーレが、慌てふためいた。
「は、はい? あ、あの」
「丁重におもてなしするんだ。蹴りなんぞ入れたら承知しないよ」
やろうとしていたことを見抜かれたニコーレは、うなだれて小さい声で「はい」とだけ返事をした。やがてグロリアは、大きな図体の割には身軽に岩をつたい、街道のほうへ姿を消した。見送っていたラヴィーニアがひとつ小さくため息をついて、それからマリオンのそばへ駆け戻ってきた。
「ごめんなさい。痛かったでしょ? 顔に傷がついちゃったわね。薬塗るわ」
ラヴィーニアが上着のポケットからなにやらビンのようなものを取り出し、上半身だけをやっと起こしたマリオンの横にひざをついて座った。
「へっ!その程度の傷じゃ、女顔なのはどうにもならねぇよな」
ニコーレが憎まれ口を叩くと、マリオンが頬に薬を塗ろうとしていたラヴィーニアの手を振り払いながら、彼に向かって意地悪くにやりと笑って見せた。
「ニコーレ、『丁重に』の意味、わからないんだろ? 教えてやろうか?」
「やかましい!黙ってろ」
ニコーレが歯をむき出して威嚇するようにこぶしを振り回した。両者から火花の散りそうな強い視線が放たれ、今にも殴り合いが始まりそうだ。
「ニコーレ、やめてちょうだい。いがみ合わないでよ。あなたも」
と、ラヴィーニアはマリオンの方を向いた。
「まだ身体が本当じゃないんだし、これ以上ニコーレを挑発しないで。あなたはあたしたちの手の中にいるのよ。魔法も使えないようにしてあるわ。用が済んだらちゃんと返してあげるけど、今は無理よ」
マリオンのいつもより暗く沈んだ緑の右目が、ラヴィーニアを睨んだ。
「でもきっと、じきにその眼帯ははずしてあげる。本当よ。お願い、信じて」
「何を信じろって? 僕もそこまでお人よしじゃないさ」
マリオンの強い瞳に射すくめられ、ラヴィーニアがひっそりと青い目を伏せた。
「ええ、そうね。ごめんなさい。でも今度は本当なの。信じてくれなくてもいいわ、今にわかるから」
「ラヴィ! こんな奴に謝る必要なんざねぇよ。一発、しめときゃいいんだ」
腰をかがめて、ニコーレがマリオンの上着の襟首をつかみ目の高さまで持ち上げると、
「やれるもんならやってみなよ。大人しくやられちゃいないからな」
マリオンもニコーレの腕を精一杯の力を込めてつかみ返した。
「アルヴィンに何かしたら、本当にお母様に言いつけるわ。さっきあなたがどさくさにまぎれてあたしにしようとしたことも含めて全部ね。いいわね? ニコ」
ラヴィーニアが冷たく宣言し、ニコーレが力なくマリオンの襟首を放すと、争いはいともあっさりと決着した。舌打ちとともにニコーレが立ち上がり、再びラヴィーニアがマリオンの頬に薬を塗ろうと手を伸ばした。
「ほっといてくれ」
彼にしては珍しく、いささか乱暴にその手を振り払い、マリオンはゆっくりと立ち上がろうとした。
「逃げるつもりか? ま、無理だぜ」
ニコーレが眉を上げて、口元に笑いを浮かべる。逃げるそぶりを見せたら、それを理由にどうにかしてやろうというのだろう。マリオンはそれに対しにこりともせず、目も上げなかった。ひたすら呻き声をあげないよう、動くたびに体中を駆け巡る痺れと痛みに耐えている。気を失ったまま、運ばれたほうがだいぶ楽だったな、という考えが頭の端っこにちらりと浮かんだ。
「逃げるつもりは、ない。おまえに手を貸されるのが嫌なだけだ」
「ほーう? んじゃ、貸さねぇよ。せいぜいがんばんな」
ニコーレがその痛みをわかっているかのように、にやにや笑いを浮かべて腕を組み、のんびりと岩にもたれかかった。
「ニコ! 腕ぐらい貸してあげなさいよ。ね? アルヴィンひとりじゃ無理だから」
ラヴィーニアがスカートをしっかり握り締めて言うが、
「ほっとけ」
「ほっといてくれ」
二人に同時に拒否されてしまった。
「さっきだって、こいつを下まで運ぶのが大変だったんだぜ。今は意識があるんだから、自分でやらせりゃいいのさ」
「そりゃ、ありがとうよ。世話になったな、ニコーレ」
身体の中を無数の針で突付きまわされるような痛みが続いていて、額には冷たい汗がにじんでいるが、マリオンの口元には薄く笑みが浮かべられている。ラヴィーニアは二人を見やり、ため息をついた。
「あたしが手を貸すわ、それならいいでしょ? アルヴィン」
「いらない」
「やめとけ」
再び二人が同時に声をあげ、ラヴィーニアは呆れたような顔をした。
「なんで、そんなに気があってるの? なんで気が合うのに仲が悪いの」
信じられないわ、と少し怒ったような小さな声でつぶやいた。
「気が合ってるわけじゃねぇぞ」
不満げに口元を尖らせてニコーレが言い、
「仲が悪い、という次元の問題でもない」
顔をしかめたマリオンが補足した。
「何よ、ちゃんと合ってるじゃないの。もう、勝手にしなさい。お母様に来るのが遅いと言われるのはあたしじゃないわ」
先行くからね!とふくれたラヴィーニアがくるっと二人に背を向け、ニコーレが肩をすくめた。
「ま、確かにこいつのこの調子じゃ、日が暮れても街道にすら着きゃしねぇよな」
その時、マリオンの口から低く魔法の呪文が紡ぎだされ、それを聞き取ったニコーレが目をむき、ラヴィーニアが驚いて振り向いた。
「だめっ! 無茶だわ。ニコ、止めて、アルヴィンを止めてっ!」




