第15話(3)50階層のボス(下)
ジャンヌが弓でボスの顔を攻撃している。
俺も攻撃に戻ろうとした瞬間、八本腕の巨人がまた手を打ち鳴らした。
巨人の周囲に猛烈な熱波が渦巻くのを感じ、俺はとっさに大広間の端まで走った。
だけど、激しい炎と熱風は広いボスの間の隅々までを襲い、全身が焼失しそうな熱をくらい、俺の意識がふきとんだ。
視界が真っ白になって、気が付いた時には、俺は床に倒れていた。体を起こすと、俺の前に盾を構えたシンがいた。
「だいじょうぶ? 回復しといたけど」
シンが俺の傍に移動してくるまで、数秒以上はあったはずだ。その間、俺は完全に気絶していた。
「やべぇ。魔法半減の薬使ったのにこれかよ。意識飛んだ」
さっきの魔法攻撃は回避不可。敏捷特化で敵の攻撃は回避する主義の俺にとっては最悪だ。
幸い、こんなこともあるかもって思って直前に飲んでおいた魔法半減の薬が効いているから一撃では死ななかった。
だけど、気絶の付与まであるなんてな。シンが回復してくれなかったら死んでた。
ちなみに、ドローンは攻撃の影響を受けなかったらしく、ナビはあいかわらずのん気に踊っている。
向こうの方では、騎士のおっさん、ササが倒れていて、ジャンヌがポーションと気付け薬を投げつけていた。
魔法攻撃への耐性は、装備の他は、ステータスの「頑丈」と「精神」に依存している。
この熱風の魔法攻撃は、シンとジャンヌは耐えられるけど、俺とササは無理ってことだ。
でも、これで敵の攻撃の種類はわかった。
戦い方がわかった。
ボスモンスターがまた手を打ち鳴らした。
俺はその腕を見て、声に出さずにつぶやいていた。
(これは、モンスターの群)
俺の予想通り、再び大広間に大量のモンスターが出現した。
これで確信したから、俺はみんなに指示をだした。
「ボスの腕輪の色を見ろ。モンスター大量発生は緑の腕輪。さっきの回避不可魔法攻撃は赤。ツララは黄色。障壁発生は白だ」
あのボスは打ち鳴らす手で攻撃の種類が違う。8本の腕に4種類の腕輪をつけているから、腕輪の色でどの攻撃がくるかわかる。
「なるほど。たいした観察眼だ」
ササはそう唸ったけど、ジャンヌは弓をボスの顔めがけて引きながら俺にむかって叫び返した。
「んなのいーから、とっとと倒そ! 長引くと誰か死ぬよ! 説教仮面、雑魚を散らしたら、敵の顔を攻撃! ギリ、衝撃波届くでしょ」
「待て!」
俺はとめたけど、遅かった。
「え? なんで?」
ジャンヌの弓が敵の目に当たった。とたんに八本腕の巨人は頭を振って手を打ち鳴らす。今回は黄色の腕輪の腕だ。
「つららが来るぞ!」
「げっ! マジで!?」
大量のツララが出現し、降ってきた。
そのひとつが、ササめがけて落ちていった。
ササは頭上から降ってくる巨大ツララに向かって剣を振った。ツララが砕け散った。
ツララは魔法攻撃の一種にみえるけど、ダメージは物理攻撃判定で、物理的に破壊できるらしい。
これなら、ササはだいじょうぶだ。
ジャンヌには、今回も運よくツララは当たらなかった。あいつはいつもやたらと運がいい。
ツララが地面に落ちる激しい音が静まると、俺は言った。
「あのボスは、目に攻撃を当てると手を鳴らすんだ。たぶん、当てた目で攻撃の種類が変わる。障壁がでるやつをシンが当て続ければノーダメージでいける」
だけど、シンは言った。
「うーん。あの小さな的に狙って命中させるのは、僕にはちょっと難しいよ」
やっぱ、この作戦は無理か。普段「光の一撃」を使うことがないシンは遠距離攻撃の練習なんてしていない。これが使えれば超楽だったんだけどな。
ジャンヌが言った。
「あたしは狙えると思う。障壁じゃなくても、雑魚モンスターの群がでるやつ狙えばよくない? どれかわかる?」
「たぶん一番下だ。だけど、なんか気になるな……。シン、足にも弱点がないか探してくれ。目以外になんかある気がする」
目への攻撃が本当に効いているのか、俺には自信がない。
ある程度は効いていそうだけど。
実は本当の弱点が別にあるんじゃないか?
そう考えながら、俺は壁を走り敵を周囲から観察してまわった。
ジャンヌが目を攻撃。敵が手を打ち鳴らし、モンスターが大量出現。ササがモンスター掃除。
計画通りの攻撃が続くなか、俺は敵の観察をつづけた。
何度見ても、弱点っぽいところはない。
だけど、そういえばまだ確認していない場所がある。
俺は、思いっきり勢いをつけて壁を走り、高く高くのぼっていき、十分な高さのところで全力で壁を蹴った。
俺はボスの頭上を越えながら、目をこらした。
「みつけた」
敵の禿げた頭頂部。
そこにこっそり、大きな一つ目があった。
俺は着地すると、もう一度壁をのぼり、今度は敵の頭上で一回転して、垂直に落下しながら、敵の頭頂部にあった大きな一つ目を剣で斬りつけた。
ボスが悲鳴のような声をあげ、八本の腕をまわして激しく暴れた。
俺は振りまわされる敵の腕をかいくぐりながら、地表へ降りて行った。
俺が着地した瞬間。
「僕もみつけた!」
シンの声が聞こえ、そして、シンが槍で、普段は隠れている敵のかかとの下の部分、そこにあった目を突いた。
ボスが悲鳴のような声をあげ、足の裏を手でつかみ、頭をさげた。
ジャンヌが叫んだ。
「なーる。頭のてっぺんにそんなもんがあったのね。説教仮面!」
「まかせろ」
ササが走りこみ、敵の頭頂部の弱点めがけて剣をふりおろした。
ササの衝撃波を弱点にくらい、ボスモンスターは苦し気に忌々し気に激しい唸り声をあげた。
「そのままそこを攻撃しまくって!」
ジャンヌはそう叫んだけど、ササが二発目を繰り出す前に、ボスモンスターはすでに立ち上がっていた。
そして、立ち上がったボスは、今度は8本の腕すべてを、同時に打ち鳴らそうと一斉にふりあげていた。
きっと、8つの手すべてが同時に打ち鳴らされた時には、今までの攻撃とは比べようがない恐ろしい攻撃がくるだろう。
きっと、一撃で俺達が全滅しかねない攻撃が。
だけど、俺はその時、もう一度壁をのぼり空中に飛んでいた。
俺は立ち上がったボスモンスターの頭の上に降り立った。
そして、八本の腕が動く中、その手が打ち鳴らされるまでの間に、俺は双剣で敵の頭頂部の弱点に斬撃を叩きこんでいった。
1発2発3発4発5発6発7発8発……。
やられる前にやる。
八本の腕がゆっくりと動いていく中、俺は全速力で連撃を叩きこみ続けた。
そして、ついに耳をつんざくような恐ろしい断末魔の声が轟いた。
ボスの8つ、いや9つの目から血が涙のように流れていった。
動きをとめた8本の腕が、だらんと力なくぶらさがった。
「やった! 倒した!」
シンの声が聞こえた。ボスモンスターは、たぶん、死んだ。
だけど俺は、念押しに最後の一発を頭頂部に叩きつけた。
ボスは動かない。
倒したボスモンスターが消える時に出る、光の欠片が見えはじめた。
終わった。
俺達の勝ちだ。




