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Libra  作者: 紫雨
本編
11/13

11 本当の気持ちは誰にもわからない

少し短いですが、最終話まであと2話です。

 翌朝、目を覚ますと智弘(ともひろ)はもう部屋にいなかった。


 ごめんと一言だけ書かれたメモが、机の上にぽつんと残されていた。

 連絡を取ろうとしても、電話もメッセージも反応がないまま2週間が経ってしまった。

 

 どうしてこんなことになったのかわからない。

 あの日、智弘に何があったの?


 大学には行っているのだろうか。陽太(はるた)に聞けばいいのに、それもできないでいる。陽太とはなんだか気まずくて、あれから一度も会っていない。

 何ひとつ問題は解決しないままの私の前に、思わぬ来訪者が現れた。




「…千夏(ちなつ)ちゃん!」

「えっ、奈津美(なつみ)さん…!?」

「よかったあ、どこの大学かわからなくって…、やっと会えた!」


 このあたりの大学を、しらみつぶしに探し回っていたらしい奈津美さんは、私の姿を見つけた瞬間、心底安心したように笑った。


 私たちは近くのカフェに入ることにした。

 窓際の席に座る奈津美さんは、陽の光がキラキラとあたって眩しい。



「あのね、あたし、今度結婚するの。結婚式、良かったらともくんと一緒に来て欲しくって…」


 差し出された招待状には、奈津美さんとその彼氏さんと思われる名前並んでいた。


「…お、おめでとうございます!日程が合えば、是非行かせていただきます」

「ありがとう!」


 にこっと微笑む奈津美さんは、相変わらず可愛らしい。

 一方で私は、上手く笑えてるか自信がなかった。だって―――。


「…あの、智弘には、この話…」

「うん、二週間くらい前にね。千夏ちゃんもって言ったら、確認するって言ったっきり全然返事くれないし!早く招待状渡したくって、直接来ちゃったあ!」

「そう、なんですね…」


 ちょうど、あの日だ。そう、確信できた。

 智弘はきっと、この話を聞いてショックを受けて、…私の元へ来たんだ。


「…ともくんはね、昔はすごくかわいかったの」


 しばらくして運ばれてきた紅茶を飲みながら、奈津美さんは静かに話し始めた。


「奈津姉、奈津姉って、くっついてきてね」

「そう、なんですか…」

「まるで、ほんとの姉弟みたいに、仲良しだったのよ」

「…え!?」

「やっぱり、話してないか。再婚の連れ子同士なんだけど、その前から私たちは、幼馴染だったの」


(幼馴染――?)

 そういうことか、と思った。

 智弘が、私に手を差し伸べた理由。

 ずっと小さい頃からそばにいた幼馴染。想いは募っていくのに、相手にまるでその気はない。

 誰よりも近くにいて大切な存在への不毛な恋。


 しかもそれが義理の姉弟になってしまったなんて――私なんかよりずっと、どれだけ辛い思いをしてきたのだろう。



「あのね、あたし、ともくんのことは、弟になる前からすっごく大事に思ってたの」



 何も言えなくなってしまった私に、奈津美さんが優しく声をかける。



「だからともくんには、絶対幸せになって欲しいの―――」



 それは、姉としてなのか、幼馴染としてなのか、彼女の表情からは読み取れない。

 もしかしたら両方かもしれない。


 一つだけわかったのは、奈津美さんはきっと、智弘の気持ちを知っている。

 知ったうえで、知らないふりをしている。


 それはきっと、智弘を大切に思うがゆえの、ことだ―――。



 モヤ、と、胸で変な音がした。

 智弘は、奈津美さんを待っているのかもしれない。

 でも、奈津美さんが自分の意志で智弘の手を離すなら、その手を私が握りしめたいと、自分勝手な気持ちが渦巻く。

 たとえ彼が――求めていなくても。



「奈津美さん、お願いがあります。携帯を、貸してもらえませんか」


 だまし討ちみたいでずるいと思うかな。

 でも今の私には、この方法しか思いつかないや。


「……智弘のことは、私が、幸せにしたいんです……」

「――ありがとう、千夏ちゃん。」



 そう言って携帯を差し出す奈津美さんは、優しい表情をして笑ってた。


次回、最終話です。

智弘は電話に出てくれるのでしょうか。

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