11 本当の気持ちは誰にもわからない
少し短いですが、最終話まであと2話です。
翌朝、目を覚ますと智弘はもう部屋にいなかった。
ごめんと一言だけ書かれたメモが、机の上にぽつんと残されていた。
連絡を取ろうとしても、電話もメッセージも反応がないまま2週間が経ってしまった。
どうしてこんなことになったのかわからない。
あの日、智弘に何があったの?
大学には行っているのだろうか。陽太に聞けばいいのに、それもできないでいる。陽太とはなんだか気まずくて、あれから一度も会っていない。
何ひとつ問題は解決しないままの私の前に、思わぬ来訪者が現れた。
「…千夏ちゃん!」
「えっ、奈津美さん…!?」
「よかったあ、どこの大学かわからなくって…、やっと会えた!」
このあたりの大学を、しらみつぶしに探し回っていたらしい奈津美さんは、私の姿を見つけた瞬間、心底安心したように笑った。
私たちは近くのカフェに入ることにした。
窓際の席に座る奈津美さんは、陽の光がキラキラとあたって眩しい。
「あのね、あたし、今度結婚するの。結婚式、良かったらともくんと一緒に来て欲しくって…」
差し出された招待状には、奈津美さんとその彼氏さんと思われる名前並んでいた。
「…お、おめでとうございます!日程が合えば、是非行かせていただきます」
「ありがとう!」
にこっと微笑む奈津美さんは、相変わらず可愛らしい。
一方で私は、上手く笑えてるか自信がなかった。だって―――。
「…あの、智弘には、この話…」
「うん、二週間くらい前にね。千夏ちゃんもって言ったら、確認するって言ったっきり全然返事くれないし!早く招待状渡したくって、直接来ちゃったあ!」
「そう、なんですね…」
ちょうど、あの日だ。そう、確信できた。
智弘はきっと、この話を聞いてショックを受けて、…私の元へ来たんだ。
「…ともくんはね、昔はすごくかわいかったの」
しばらくして運ばれてきた紅茶を飲みながら、奈津美さんは静かに話し始めた。
「奈津姉、奈津姉って、くっついてきてね」
「そう、なんですか…」
「まるで、ほんとの姉弟みたいに、仲良しだったのよ」
「…え!?」
「やっぱり、話してないか。再婚の連れ子同士なんだけど、その前から私たちは、幼馴染だったの」
(幼馴染――?)
そういうことか、と思った。
智弘が、私に手を差し伸べた理由。
ずっと小さい頃からそばにいた幼馴染。想いは募っていくのに、相手にまるでその気はない。
誰よりも近くにいて大切な存在への不毛な恋。
しかもそれが義理の姉弟になってしまったなんて――私なんかよりずっと、どれだけ辛い思いをしてきたのだろう。
「あのね、あたし、ともくんのことは、弟になる前からすっごく大事に思ってたの」
何も言えなくなってしまった私に、奈津美さんが優しく声をかける。
「だからともくんには、絶対幸せになって欲しいの―――」
それは、姉としてなのか、幼馴染としてなのか、彼女の表情からは読み取れない。
もしかしたら両方かもしれない。
一つだけわかったのは、奈津美さんはきっと、智弘の気持ちを知っている。
知ったうえで、知らないふりをしている。
それはきっと、智弘を大切に思うがゆえの、ことだ―――。
モヤ、と、胸で変な音がした。
智弘は、奈津美さんを待っているのかもしれない。
でも、奈津美さんが自分の意志で智弘の手を離すなら、その手を私が握りしめたいと、自分勝手な気持ちが渦巻く。
たとえ彼が――求めていなくても。
「奈津美さん、お願いがあります。携帯を、貸してもらえませんか」
だまし討ちみたいでずるいと思うかな。
でも今の私には、この方法しか思いつかないや。
「……智弘のことは、私が、幸せにしたいんです……」
「――ありがとう、千夏ちゃん。」
そう言って携帯を差し出す奈津美さんは、優しい表情をして笑ってた。
次回、最終話です。
智弘は電話に出てくれるのでしょうか。




