第八話 東北蝦夷
「殿、九郎殿は刀をさる人物から授かったそうです」佐藤継信が述べた。
「ほう、誰にだ?」
九郎は応えた。「須佐武角と云うお方です」
「何?!須佐だと!!」
「殿、何者ですか?九郎殿は不思議な刀を授かっております」
「九郎殿、見せてもらえるか?」
「はい」
九郎は背から抜き出した。
「ど、どういう絡繰だ?」
その刀は自ら光り輝き、畝り、波打ちだっていた。
「まるで生きているようだ・・・これは鉄では無いな。伝説のヒイイロカネか?」
「ヒイイロカネ?何ですか?それは殿?」
ヒイイロカネ・・・製鐵が渡来する以前にあったとされる、古代の金属である。伝説のアトランティスにあったオリハルコンと同等の物ではないか?と筆者は思っている。
「ヒイイロカネに何か術がかかっている・・・」
「殿、そんなものを扱う須佐とは何者ですか?!」
「話に聞いただけだ。わしも半信半疑なんだが・・・九郎殿はご存知なのか?」
「知りません、ある晩やってきていただいたのです。是非、知りたいです」
秀衡は知っていることを述べた。
須佐武角は古事記に記されている八咫烏であり、古代からの天皇の軍隊。とは云っても源平とは敵が異なる。
「異なるとは?」
「相手はこの世の闇に存在する魔だ」
「魔?!物の怪ですか?」
「物の怪とも違う。多分、彼らにも正体は良く判らんはずだ。とにかくこの世のモノではない」
「殿、ちょっと待ってください。八咫烏の話は神武天皇の話。1500年も前の伝説ではないですか?」
「その八咫烏だと云う」
九郎も佐藤兄弟も開いた口が塞がらない。
「その刀は須佐一族しか持たないし、扱えないとされている。神剣だ。草薙の剣が元だと云うぞ」
「草薙の剣!須佐之男命が八岐大蛇を退治した時、尻尾から出たとされる剣?!」
「そ、そんな化け物が何故?私に刀を授けたのか?」九郎は混乱していた。
「分からぬ・・・」
九郎たちは退室した。
秀衡は考えていた。「須佐一族とは本当に存在していたのか・・・しかし何故?須佐は九郎に剣を渡した?彼は厳然たる源氏の末裔・・・もしかしたら母方の血か?」
それからの九郎は平泉で毎日、平穏な日々の中、武芸に励んでいた。
「九郎殿は飲み込みが早い。さすが源氏だ」皆がそう云った。乗馬も弓も剣も勉学など、みるみる成長していった。
「私は元々天狗に剣を教わったんだ」
周りは「何を云っているんだか」と笑っていた。
そんなある日、九郎は鹿狩りに山に入った。佐藤兄弟が共をした。
「九郎殿、稽古とは違いますぞ」
「わかっているさ。今夜は鹿鍋だぞ」
「ハハッは」
「居た!」鹿が草を食べている。70mほど離れている。
九郎は弓を構えた。
「九郎殿、少し距離がありますぞ。もう少し近くに・・・」
「大丈夫だ」
鹿がこちらに気づいた。「云ったこっちゃない」
鹿はしかし、身じろぎもせず、こちらを見ている。
「バカな鹿だ。打ってくれと云うようなものじゃないか」
ゆっくりとこちらに向かってきた。
「な、なんだ?」
九郎はハッと思って弓を下げた。
「九郎殿!どうしたのです?」
「目が・・・」
「目?」
「親しみを込めた目だ・・・あ、あれでは殺せぬ・・・・」
鹿は10mほどまできて足を止めた。
じ〜っと彼らを見て去っていった。
「何だ?あの鹿は?九郎殿を見つめていた・・・・」
ふと気づくと後方に数人の見知らぬ男が馬に乗ってこちらを見ていた。
「継信、誰だ?あれは」
「蝦夷(アイヌ)ですよ」
アイヌと云えば北海道と思われがちだが、東北アイヌも存在する。
「友好的な連中です。砂金などを彼らから藤原が買い付けたりしています」
佐藤兄弟が話をした。
「蝦夷の方々、少し山で狩をさせてもらう」
「藤原の方なら構いませんよ。しかし・・・」と、蝦夷は云った。
「しかしとは?何か気に触ることが?」
「そこのお若い武士殿。あなた、鹿に何をした?」
「私か?何をって?」
「野生の鹿はとても臆病です。なのに何故?武器を持つあなたに寄って来た?」
「私にもわかりませぬな」
蝦夷たちは、こそこそと何やら相談している。
「良ければ私どもの村に来なさらんか?長老に合わせたい」
「蝦夷の村に?」
「い、いけませぬ!九郎頭。彼らは異人も同じです。我々とは生活も文化も全く違う野蛮人ですぞ」
野蛮人か。面白いな。九郎はそう思った。
「行きましょう」
「く、九郎殿!」
「継信、忠信付いて参れ」
「まいったな・・・」
好奇心旺盛な若者である。しかし、このことが、後、武将として九郎を大きく成長させる。




