第六話 平清盛
平清盛は、京都六波羅に居た。
六波羅とは、鴨川東岸の五条大路から七条大路一帯の地名で武士政権を樹立して、ここを拠点としていた。
「六波羅様」
平家の棟梁・清盛のことである。
「何だ。入れ」
「実は昨夜、鞍馬から牛若が逃走したと・・・」
「牛若?常盤の子だな」
常盤には子が3人居た。全て男子で今若、乙若は僧侶として強制的に寺に閉じ込めた。当時ゼロ歳だった末の牛若は鞍馬寺に預けられたのである。
平治の乱以降、常盤は人質となり、一時清盛の妾になった。女子を産んだとも云われるがはっきりとはわからない。
「常盤は不思議な女だった」清盛は当時、常磐に言い知れぬ恐れを抱いていた。
そして後、一条長成と一緒になり、一条能成(長寛2年(1163年)生)や女子を産んだ。
「夜半に協力者と共に逃げたと見られます」
「協力者?誰だ?」
「虚無僧数人です」
「蔵馬と関係があるのか?」
「流れの虚無僧です。蝦夷も居たと云う情報もございます」
「追ったのか?」
「はい。逃げたのなら山間を抜けるはずと踏み、配下の者が数名後を追い、見付けました・・・ところが・・・」
「何があった。虚無僧どもなど恐れるに足らず、蝦夷なども同様ではないか」
「その・・・狼の集団が彼らを守るように取り巻いて道案内をしていたのです」
「お。狼だと?なんだ?それは?」
「見ると、自分たちの周りにも見張りの狼が数匹付いていたそうです。一人が目が合うと唸り声を」
「邪魔をすると殺すぞ・・・と云うことか。誠の話なのか?」
「追ったのは指折りの武士たちです。彼らが恐怖を抱いて手も足も出なかったと。よく見ると木の上にも地にも数十匹に囲まれていたそうで、結局、喰い殺されました。1人だけ助かって逃げ帰ってきてその話を聞いたのです。思えばわざと逃したとも思えます」
「この事を伝えろと?」
「六波羅様、なぜ狼たちが牛若を守るのですか?私は寒気がしました」
「何処に向かったと思う?」
「あの道筋なら越後に抜け、北を目指すようでございます。噂では・・・」
「知っている。奥州の藤原秀衡を頼っているはずだ。あいつらは平治の乱の首謀者の一員だ」
「奥州を粉砕しますか?」
「大事になる。それは良くない。牛若などどうでも良い。くれてやれ」
「し、しかし、私が思うに牛若には他にも不思議な話がつきまとっています」
「不思議な話?」
「天狗に剣を教わっていたとか、先ごろも夜半に黒ずくめの男が訪ねて来ていたと?」
「黒ずくめの男?」
「どうやら話を聞いていると伝説の志能備ではないかと?」
「志能備?聖徳太子の情報屋か?」
「御上(天皇)の軍隊ですよ」
「御上の軍隊は我らだぞ!今や御上より強大だ!」
「はは~」
「わかった。もう下がって良い」
清盛は考えていた。
「志能備・・・出雲の須佐か。本当に奴らは現世で生きているのか?もしそうなら敵にはしたくない連中だが・・・なぜ?須佐が牛若を見遣った?なぜ?牛若にそんなもの達が付いている?」
清盛は思った。常盤に感じた違和感と同じものを。
そして「頼朝は?どうなのか?」
頼朝は未だ、伊豆に幽閉中であったが阪東の武士たちは奪回の時を目論んでいた。
話は九郎に戻る。
「九郎殿。奥州です。藤原の土地です」
見ると前方に二人の若い武士が待っていた。
「どなたですか?」
「九郎殿の御一行か?」
「そうだが?」
「我は奥州藤原家武士、佐藤継信でござる」
「同じく、私は弟・佐藤忠信でござる」
「此処より我らが当主秀衡の元へ案内いたします」
「かたじけない」
虚無僧たちとはここで別れた。
佐藤継信、佐藤忠信兄弟。後、義経が鎌倉に出兵した時、義経四天王として生涯を共にする武士たちである。




