第四十二話(最終話) 韃靼へ
古事記より
初代神武天皇が日向の国(高千穂)から大和への東征の折、吉野の山中で道に迷った時、 天神が道案内に使わしたのが「八咫烏」だと謂われる。
中国古代説話では太陽の中に棲む三本足の赤鴉。八咫とは、長さの単位で、巨大なものを表す。三種の神器「八咫鏡」の名の様に尊貴の意味も含んでいる。
「実は道案内をしたのは、此の土地の豪族偉丈夫の武角身命と云う人物だと云います。全身真黒い衣を纏い、高木から髙木へ飛び移って天皇をご先導した。その姿が恰かも、八尺は有る大鴉の様で、そこから天皇は「八咫烏」の称号をお与えになった・・・と」
「全身真黒い衣を纏い・・・武角身命?」
「それが須佐武角です」
「何と?!すると彼は1800年以上生きているのですか?」
「そうです。そして厩戸皇子が使っていた秘密裏の情報員に志能備と呼んでいた者たちがおりました。それは須佐一族です」
「何と?!信じられない。・・・・しかし、それはそれとしてみましょう。長寿だが人ではある。あの能力は一体?」
「それは苗字にあります」
「須佐・・・・」
「武角の上に須佐一族を統括する者がおります」
「あ!!まさか・・・」
「そう、建速須佐之男命。荒ぶる神、仏教と併合されて阿修羅とも呼ばれる神です」
「戦闘能力は須佐之男から受け継いだ?」
「そうです。古記で八岐大蛇と戦った神です」
「そんなものは只の神話ではないですか?」
「日本歴史として編纂されましたが、幾人が信じるか?これから時が流れればもっと信じなくなるでしょう」
縄文文化や出雲大社の大注連縄、諏訪(古名・須波)に残る謎の古代神・御左口神、ソソウ神(蛇神)などは、八岐大蛇かもしれない。この世にも恐ろしいモノを後世忘れないように民衆が畏怖を持って残し、祀ったのではないか?八岐大蛇と似たものが世界中の神話にも残っている。
蛇神の伝説は多い。三輪伝説などもその1つである。
天孫降臨とはなんであったのか?
高天原・天孫族が葦原中国・出雲族がモノに支配され、出雲大社に大注連縄を掲げたことではないのか?
天孫降臨簡略 古事記
高天原に住む天照大御神は、「葦原中国は私の子、正勝吾勝勝速日天忍穂耳命が治めるべき国だ」とし、天降りを命じたが、命は天の浮橋から下界を覗き、「葦原中国は大変騒がしく、手に負えない」と報告した。
高御産巣日神と天照大御神は天の安の河の河原に八百万の神々を集め、どの神を葦原中国に派遣すべきか問うた。「天菩比命を派遣するのが良い」という結論になり、高木神と天照大御神は天菩比命に葦原中国統治者・大国主神の元へ行くよう命じた。しかし、天菩比命は大国主神の家来となり、3年経っても高天原に戻らなかった。
高御産巣日神と天照大御神が八百万の神々に今度はどの神を派遣すべきかと問うと、「天若日子を遣わすべき」と答えた。そこで、天若日子に天之麻迦古弓と天之羽々矢と与えて葦原中国に遣わした。しかし、天若日子は大国主神の娘の下照比売と結婚し、自分が葦原中国の王になろうと企み8年たっても高天原に戻らなかった。これを不審に思った天照大御神と高御産巣日神は八百万の神々と思金神の勧めで雉名鳴女を派遣して使命を果たさない理由を天若日子に尋ねさせた。
鳴女(神鳥)が天若日子の家の前で大きな鳴き声をあげると、天佐具売が「この鳥は鳴き声が不吉なので射殺してしまいなさい」と天若日子をそそのかした。そこで彼は高木神から与えられた天之波士弓と天之加久矢で鳴女の胸を射抜き、その矢は天照大御神と高木神の所まで飛んで行った。高木神は血が付いていたその矢を掴み、天若日子に与えた天羽々矢であると諸神に示して、「もし天若日子に邪心あれば、この矢に当たれ」と矢を下界に投げ返した。矢は朝の寝床に寝ていた天若日子の胸を射抜き、彼は死んでしまった。
つまり2度失敗している。
天照大御神が八百万の神々に今度はどの神を派遣すべきかと問うと、「伊建御雷之男神を遣わすべき」と答えた。建御雷神に天鳥船神を副えて葦原中国に遣わした。
建御雷神と天鳥船神は、出雲国の伊那佐之小浜に降り至って、十掬剣を抜いて逆さまに立て、その切先にあぐらをかいて座り、大国主神に「この国は我が御子が治めるべきであると天照大御神は仰せられた。それをどう思うか」と訊ねた。
大国主神が息子・八重事代主神に問うと「恐れ多いことです。言葉通りこの国を差し上げましょう」と答えた。
大国主神のもう一人の息子・建御名方神は千引石を手の先で持ち上げながらやって来て、「ここでひそひそ話すのは誰だ!それならば力競べをしようではないか」と建御雷神の手を掴んだ。
建御雷神は手をつららに変えて、さらに剣に変化させた。逆に建御雷神が建御名方神の手を掴むと、若い葦を摘むように両腕を握りつぶして放り投げた。たまらず建御名方神は逃げ出した。建御雷神は建御名方神を追いかけ、科野国・州羽の海(諏訪湖)まで追い詰めて殺そうとした。すると、建御名方神は「恐れ入りました。どうか殺さないでください。この土地以外のほかの場所には行きません。この葦原中国を譲ります」と云い、建御雷神に降参した。
建御雷神は出雲に戻り、大国主神に再度訊ねた。大国主神は「二人の息子が天津神に従うのなら、私もこの国を天津神に差し上げます」と述べた。
建御名方神は両腕をもぎ取られたのである。
両腕の無い人は何に見えるか?蛇である。
大国主神は建速須佐之男命の子孫である。皮肉であり八岐大蛇の復習とも取れないか?
「須佐は八岐大蛇などの異空間からやって来るモノ(古代、魔物や妖怪はモノと呼ばれていた)を壊滅するために建速須佐之男命の部隊として組まれたものではないか?」
「モノ?」
「それが彼らの本業です。人世には関与しないのが基本ですが、時代の権力者はたまに、邪魔者として須佐に戦さを仕掛ける者が出てくる。それがために口碑(言い伝え)として残ったのです」
「異空間とは何ですか?」
「この宇宙には空間(次元)というものがあります。釈迦は宇宙の真理を解いたとされたもの。空間宇宙。我らの世界もその1つ。知られているのは天国、地獄。地獄は八熱地獄と云い、八つの空間に別れていると云う。それこそ幾多の空間が存在すると云われております。須佐の出雲部落も異空間の中にある。それを動かしているのは古代文献に登場する法力者・役小角だと云います。時間がゆっくり流れていると云う。須佐の長寿の一端であります。そしてモノはその1つのモノの棲む異空間からやって来て現世に悪い影響を与える・・・破壊者です」
最近の物理学研究では次元は50は存在すると云われている。
「破壊とは?」
「妖力を用いた残虐な殺略、自然破壊、誘拐(神隠し)、人喰い、奴隷化などです。人では対抗できない。何もできず恐れ慄き、神として祀るも者たちまでいる。そんなことをしても彼らには通じない。それに対抗できるのは法力を用いる須佐と須佐之男なのです」
「私はその力の一端を授かったと云うことですか?」
「そうです。八咫烏は太陽の使者。そして自然の中の鳥です。彼らの武器は全てが自然の力を利用する。稲妻、火炎、風、地鳴り、嵐、そして妖怪、妖虫・・・稲妻、火炎、風、地鳴り、嵐は自然の中にあります。わかりますか?九郎殿?その中で技を磨けと云っている。自ら覚醒せよ!と」
「・・・・・・・」
「そして彼らは現世では天子・天皇に従います」
「そ、そんな・・・私は安徳天皇を殺し、3種の神器を奪った・・・なぜ?なぜ、私を殺さない?!なぜ?平家の味方をしなかった?」
「それは・・・私にもわかりません。思うに源氏と平氏は現世の天皇の軍隊、武士軍団であるから敵味方とは取らないはず。しかし、九郎殿には須佐の血、そして天皇は平氏の手の中。歴史がどう動くか?運命に任せたのではないでしょうか?あなたはあなたのすべき事をした」
「う、うう、しかし、結局私は兄に命を狙われる身になった・・・」
「この世は理不尽なことばかり。須佐は自然神の遣いでもあると申したでしょう?あるがままを見て動くのが須佐なのだと思います」
「あるがままに・・・」
九郎はこの言葉を噛みしめた。
暫く部落に滞在して疲れを癒した九郎一行は此処を出る決心をした。
村人たちが皆、止めた。が決心は変わらなかった。
長老が聞いた。「どちらに行かれるつもりです?」
「さらに北を目指そうと思います。海を越え異国の地へ」
「な、なんと!それがあなたの道ですか?」
「はい、あるがままに」
「あるがままに・・・北の冬は想像以上の寒さですぞ。あの山を越えなされ。イヨマンテと云う我らの神が棲む山です。神南備です。あそこを超えていけば、あなたはまた1つ覚醒しますぞ。そして向こうに着いたら温かいうちに南に行きなされ」
「わかりました」
九郎一行は出発した。
「長老、九郎殿たちは生き延びられますかね?」
「須佐の力を持った源氏武士・・・生き延びるとも」
九郎一行は北端に着くと漁船を借り、大陸へと渡った。空には一羽の鴉が飛んでいた。
「大きな鴉だな?こんな北にも鴉がいるのだな」
その鴉は蝦夷の地に舞い降りると少女に化けた。そして船出する一行を見つめていた。
そして対岸に着くと九郎一行は徒歩で移動した。
「見ろ!この大平原を!ここが韃靼だ」
傍で弁慶が呟いた。「九郎殿、わしたちは不安です」
「何を云うか!弁慶。気を大きく持て」
九郎は背から須佐の刀を抜き。天に差し伸べた。
刀が波打ち、天から雷が起こり、剣先に落ちた。
グババババーー-ーン!
「うわあああ」弁慶たちは飛び跳ねた。
「九郎殿!無事か?!」
九郎は刀を掲げたまま何ともなかった。
「なんと云うことだ!雷を探れるのか?!」
そして雄々しく叫んだ。
「我は須佐なり!」
「おおーーーーー!!!」
九郎一行は大平原の腹の中へと吸い込まれて行った。
「遮那王丸」完
後ほど長い「あとがき」を書きます。




