第四十一話 オキクルミ
蝦夷の村に九郎一行は案内された。
「大きな部落だ。1つの都を形成している。内地は知らんのだろうな」
この時代、蝦夷地(北海道)の地理はいい加減だ。大地があることは知っていたが内地人には全くの未開の地であった。九郎が此処に逃げてきた理由もそこである。「追っ手は来ない・・・」と読んでいたのだ。しかも九郎は蝦夷にツテがあった。
「ごゆっくりしなされ」
なんと!内地語で挨拶する者が居た。
「どこでその言葉を?」
「私は東北蝦夷と交易をしております。蝦夷の食べ物や砂金です。彼らも砂金を藤原に売っていましたが、何せ採取できる量が少なくて、で、我らの砂金も足していたのです。そして内地であちこち共に売りに行ったこともありますのです。そうこうするうちに言葉は覚えました。なに、商売するには大変役立ちまして・・・」
「では京の都の情報や鎌倉のことも?」
「知っております。あなた様のことも知っております。情報は全て長老に報告いたします」
「長老・・・」
「モノシリ様とも呼ばれております。部落長でもあり、巫者(霊的存在と直接的に交わる能力を持つ、呪術・宗教的職能者)でもあります。ご案内いたしますよ」
九郎は一行の代表として長老と会うことになった。
その家に向かった。
長老には5人の側近が居て、身の回りの世話をしているそうだ。中にはまだ幼い子も居た。
「九郎様、彼らは将来の巫者候補たちです」
「そうですか」
「長老はそう先は長くはありません。ご高齢です。床に伏せっておられる」
「具合が悪いのに良いのですか?」
「あなたに会うことを楽しみにしていましたから」
「お邪魔いたします」
「おお、来なすったか」
床に伏せってはいたが、上半身を起こしていた。
「源九郎義経と申します」
「源の?」クックックと笑った。九郎は「?」と思った。
「須佐九郎義経殿ではないのですか?」
「須佐をご存知か?!」
「会ったことはありませんが、知っております。我らのカムイ(神)とは異なるカムイの使者ですな。あなたはその一端を継承しているお方だ」
九郎は背から刀を出した。
「おお!」長老の目が輝いた。
「須佐の劔・・・ヒヒイロカネで精製された劔・・・」
「ヒヒイロカネ?」
「古代の金属・・・」
「その比重は金よりも軽く、金剛石よりも硬く、絶対に錆びないと云う。驚異的な熱伝導性を持ち、太陽のように赤い金属とも、輝く金属とも云われる。そして表面が揺らめいて見える。まさにその通りだ!」
三種の神器もヒヒイロカネで作られているとされる。
「私はこの刀から力を授かっているのです」
「何処で手にしたのですか?」
「須佐の武角から頂いたのです」
「須佐武角!!!!」
「ご存知なのですか?」
「部落長、須佐の大将ですぞ。よくぞ渡したものだ。いや、何かあなたに感じたのでしょう。須佐の血を・・・でなければ」
「先祖の血ですか?私は源氏です」
「母方ではないですか?」
「わかりません・・・ですが、私はこの刀から須佐の力を授かるだけです。私は何の取り柄もない」
「須佐の本当の力を身に付けるには、部落で修行が必要です。しかし、一般の民では劔から力さえ感じない。あなたは部落へ・・・出雲に行くべきです」
「私には私を信じている部下たちが居ます。皆、追われる身。・・・出来ません」
「あなたが追われていることは知っています。なるほど・・・武角殿も、もうわかっているのかもしれませんね。なら此処に滞在しなさい。あなたに蝦夷の名を与えましょう」
「蝦夷の名?」
「そう、オキクルミ・・・と」
「オキクルミ・・・」
オキクルミは「アイヌラックル」の別名である。アイヌ伝承の英雄神で、アイヌ民族の祖とされる地上で初めて誕生した神。アイヌ語で「人間みたいな神」と云う意味である。
「神?!そんな大それた名を!」九郎は断った。
「あなたは須佐を知らないからです」
「彼らは何者ですか?」
「超人的な能力を持っているのは身を以て知っているはずですね。そう、彼らは神と人間の間の者です」
「神と人間の間の者?」
「そして自然神の遣いでもあります」
長老は須佐の本当の正体を述べ始めた。




