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第四話 北条一の姫

伊豆の蛭ヶ小島。其処へ一人の若い娘が向かっていた。

名を北条政子。伊豆北条家の姫である。従者を連れていた。そう、其処のうらぶれた古屋に幽閉されている若者に会うためだ。

「姫様、危険でございます。」

「善い。父上のめいでもある」

「何も姫様が行くことは無いのでは…」

「どういう男か見てみたい」

「源氏など…その世は終わりです」


夜半に影となって出向いている。こやの周りには見張りがいるはずだ。

「待て!何奴だ?女ではないか?」やはり、見張りに見つかった。3人闇の林中から出てきた。

風体からすると身分の高い女だとはすぐにわかった。

「や、やはり!平家の侍じゃないか!殺されるぞ」従者は怯えた。

「貴様、何者だ?!」侍は尋ねた。刀を抜いた。

「北条一の姫」

「ひ、ひええ!!そんな馬鹿正直に!」従者は膝がガクガクして居る。

「な、何だと!何をしに来た?!」

すけ殿に会いに」

侍たちは眼を見遣った。こいつ、馬鹿では無いのか?と思った。

「北条一の姫と聞いては通すわけにはござらぬ。拘束して上の者に報告させていただきますぞ」

「そうはいきませぬ」

「何?!此処で斬り殺しても善いのですぞ」

「ただとは申さぬ。定吉、あれを」

従者の定吉が、抱えていた袋を差し出した。

「開けて」

袋を開けると金銀の物がガラリと。

「うう!」侍達は息を呑んだ。

「そなた達に此れを差し上げよう。その代わり私のことは黙っていなさい」

「し、しかし…」侍達は躊躇して居る。

「会いに行くだけです。それだけを黙認すれば、そなた達は此れを手に入れられますよ」

「う…うう!」

侍達は小声で相談し始めた。

「わ、わかった、許そう」

かたじけない」


此の見張り達は平家ゆかりの現地の下っ端侍だ。金銭の誘惑には勝てない。

「姫様、うまく行きましたな」


2人が暫く歩くと、うらぶれた古屋が見えた。

「あそこだ」古びて居るが手が行き届いて居る。頼朝と云う男がすこしわかったような気がした。

「もし」

「誰方じゃ?」

「北条家の者です」

「北条?」中に居た人がびっくりした声で聞き直した。そして戸を開けた。

「佐殿ですか?」

「いかにも…」いかついが、透き通った顔の男が現れた。

「北条一の姫・政子でございます」


因みに「すけ」とは頼朝の京都時代の役職である。今で云えば警察役人職だ。

頼朝はこの名で皆にそう呼ばれた。

一人の僧が居た。政子を知って居る。

「佐殿、いかにも北条家の姫殿ですぞ」僧はそう云った。現地の寺の僧である。僧だけではない。現地の者達、農民などが生活必需品や食べ物などを与えて居たのである。

「よくも危険を顧みず此処に来られましたな」僧は不思議がった。

「見張りを買収しました」

「ホッホ!」僧は笑った。

僧が茶を入れに行った。


「しかし、北条家が私に何の御用ですか?」

「率直に申し上げます。決起です」

「決起?」

「源氏であるあなたを長として決起していただきたいのです」

「私が?」頼朝は笑った。

「姫殿、見てください。私には何もない。牢獄で暮らして居る様なもの。私にあるのは此のボロ屋と地元の農民達に養ってもらって居る姿しかない。何処にそんな夢物語がありましょう?ただ、読経の毎日」

「あなたは源氏なのですよ!源氏の領地、坂東ばんどうの武士達が居るではないですか!」

「坂東(関東の武士)武士…」

「彼らはあなたを奪回しようと虎視眈々と計画を練っております」

「坂東武士が…」

「北条家も裏であなたを後押ししたいと思います」

「北条家が…」

「坂東武士は平家の取り立てに腹を立てております。しかももう一人、源氏が居るではありませんか」

「九郎のことですか?」

「そうです。親の仇だと云って京都山奥の鞍馬で修行して居ると聞きました」

「聞いて居る。常盤の子だ。以前、吉次と云う闇商人が尋ねて来て話は聞いて居る」

「如何です?坂東武士、北条家、弟…。三つ巴の味方を得るのです」

「うう~む」

頼朝は考えて居た。夢の様な話である。北条家がバックと云うのが気になって居た。信用して善いものか?しかし一番大きな味方である。

「然るに、私は何時か弟と会うことになりますかな?」頼朝は弟九郎を思った。

「東北の藤原が動きそうです。養子にと云う声さえあります」

「九郎が藤原家に?」


僧が述べた。「佐殿、あなたは北条家を心配なされて居ますな。」

「御坊…」

「姫殿は腹を割って此の危険な処に出向いて来てくれて居るし、皆、利害が同じではないですか?」

「平家…」


「お考えください」

政子はそう云って古屋を後にした。


「源氏を継ぎ、平家を打ち破る?…」

頼朝は夜空を見上げた。流れ星が流れた。

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