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第三十五話 北路逃亡

「遅かったか・・・」武角たけつのは死んだ正妻と娘を見てそう云った。

「武角殿、何故此処に?」

「九郎殿、説明は後だ。すぐ、この場を逃げましょう」

「脱げようと云っても、屋敷は四方八方を敵に囲まれている」

「あなたも須佐の力を持った人間。さあ!」と云うと、九郎の手を引き野外に出た。

「思いっきり踏み込んで、屋根へ。そう、壇ノ浦で見せた跳躍を」

二人は掛け声とともに飛んだ。

5mはあろうかと云う高さを飛んで、屋根に膝間ついた。


「屋根伝いに外へ・・・こちらから。外で仲間が待っています」

「仲間?」

二人は下の騒ぎを聴きながら屋根伝いに逃げた。誰も上など見る者などいない。

屋敷は火の海だ。

わーーー!わーーー!殺せ!生かしおくな!

と、云う罵声があちこちから聞こえる。


裏の林に人影が見えた。

「九郎殿、こちらです」

「お前は吉次!」

「彼は私に10年以上あなたの情報を送ってくれたのです。その情報を元に予測しました」

屋根から塀に飛び乗り、林中に降りた。

「九郎殿!」「九郎殿!」「九郎殿!」

見ると弁慶他、数名の部下が生き残っていた。「無事だったのか」

「半数が死にました・・・・」

弁慶他、皆、血まみれである。

「九郎殿・・・」

「あなたは佐助殿」

「ご無事で何よりです。族長一同、須佐の力を持つあなたを死なせるわけには行きません」

とにかく、その場を離れた。数キロ走って逃げた。

「ここまで来れば大丈夫」


九郎はいたたまれず「・・・・ご配慮はありがたく思いますが。私は生きるわけには行きませぬ・・・多くの部下を無くし、源氏にまで犯罪者とされた私が・・・」

「戻って戦いますか?自決するのですか?それなら源氏はお捨てなさい。須佐として生きれば良い」武角はそう云った。

続けて佐助が述べた。「そうです。出雲に行きましょう。八咫烏に跨って空から」

「・・・そんなことは出来ない」

「九郎殿!我らを見捨てる気ですか?!」

「弁慶?・・・」

「出雲で須佐として永遠の時を生きるのは良い。しかし、死ぬなどとは許せませぬぞ!」

「・・・・」


「わはっは!」金売吉次が高笑いをした。

「ほうら云った通りだ。武角の旦那、佐助さん」

「吉次・・・」

「九郎殿、死ぬに死ねない状況ですな」

「吉次、お前・・・」

「こんな状況はわしにはお見通しだったさ。だからさ・・・」

北へお逃げなさい。

吉次がそう提案した。

「北へ?」

蝦夷地えぞち(北海道)ですよ」

「蝦夷地だと?」

「蝦夷地は未だ、未開の土地。地形さえ知られていない。誰も追ってなど来ませんよ」

「そんな原野で生きろと云うのか?」

「ちゃんと調べてあるんです。これを見てくださいよ」

見ると北路の泊まる宿から蝦夷地の蝦夷えみし(アイヌ)の部落まで書かれた地図があった。

「なんだ?これは?」

「事前に全て了解済みです。皆、あなたの味方です。あなたは源氏には犯罪者扱いされてますがね。民衆には英雄ですぞ」

「民達が?・・・」

「九郎義経が村に来る!てもんで皆、歓迎すると云ってまさア。ただし内密って事にしてね」

「私を匿うと云うのか?この蝦夷の部落は何だ?」

「あなたが住んだ東北蝦夷の仲間ですよ」

「お前、彼らとも繋がっているのか?」

「彼らが取る砂金をたまに買い付けに行ってますから」


「九郎殿!逃げましょう!」

「わかった」歓声が上がった。

「武角の旦那、如何ですか?」

「しょうがないな。吉次の言う通りに」

「そうとわかったら行きましょう!」


「武角殿、佐助殿、かたじけない・・・」

「気にしなくて良いです。あなたはあなたの思った通りに生きなさい」

そう云うと武角と佐助を残して去って行った。

「武角様が思った通りには行きませんでしたね」佐助は笑っていた。


「わはははははははーーーー!!」

黒い煙が立ったと思ったら怪しげな者が現れた。

「武角、久しぶりだのーーーー。おお!佐助も居るではないか」

「貴様!将門の怨霊!九郎殿を殺しに来たのか?!」

2人は刀を背から抜いた。

「待て待て、いくらわしでも須佐を2人も相手には出来ぬわ」

「では、何をしに来た!」

「伝えに来たのだ。もう九郎義経には手を出さぬと」

「なんだと?」

「まるで笑い事だ。源氏が源氏を殺そうなどとはな。奴はすでに源氏とは思っておらぬわ。そんな輩に興味は無いわ」

「だから何を伝えに来た?」

「呪ってやるのさ」

「呪い?誰を?」

「源氏の棟梁さね」

「貴様!」

「おっと、いくらお前らでも呪いは手が出まい。姿がなければ戦えないからな」

「・・・・・・」

「そういうことだ。楽しみに待っていろ。わはははははははーーーー!!」

そう云うと将門は消えた。


「武角様・・・」

「奴の言う通りだな。・・・人世には手を出さない。これが須佐だ。ここらで手を引こう、なあ、佐助」

「はい、九郎殿はどうなるのでしょう?」

「判らぬが、蝦夷地などにいつまでも居るとは思えないな」

「と、云いますと?」

「世界を見ると思うぞ」

「世界を?」

「ひょっとすると異国で名を留めるやも知れぬな」

「異国で・・・」


その後、九郎は吉次の地図の通りの道筋を逃げた。皆に歓迎された。

が、内密と云う触書きだったにも関わらず、民たちは感激のあまり神社まで建立してしまった。

義経神社などと、そのままである。

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