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第三十四話 遺児・千歳丸

藤原秀衡ふじわらひでひらが平泉で待っていた。

文治3年(1187年)2月10日、頼朝と対立して追われた九郎義経を、頼朝との関係が悪化する事を覚悟で受け容れた。


「九郎、災難だな・・・女、子供まで連れて・・・」

「秀衡殿・・・・」

「安心せい。鎌倉に対抗してみせる。泰衡やすひらを交えて話をしよう」

正妻の郷御前と4歳の女子を預け、弁慶たちも部屋を与えられ休息をした。「久し振りに安泰な気持ちだ」

史書には4歳の女子とあるが、実は九郎には男子も居たと云う。

この時期、九郎は安らかな日々を送った。

しかし、裏では秀衡と頼朝の水面下の攻防が交わされていた。


9月4日、義経が秀衡の下に居る事を確信した頼朝は「秀衡が前伊予守(義経)を扶持して、反逆を企てている」と訴えた。秀衡は「異心がない」と弁明したが、この時頼朝は雑色(律令制下の令外官)を陸奥国に派遣しており、「すでに反逆の用意があるようだ」と報告され、朝廷にも奥州の現状を言上した。


九郎は軍議に出向いた。

秀衡が口を開いた。「九郎、お前を将軍にする」

「え?」

「お前のせいでもないぞ。関東以西を制覇した頼朝の勢力が奥州に及ぶ日が近々来るはずだ。奥州藤原は九郎義経将軍で鎌倉に対抗しようと考えている」


しかし、義経が平泉入りしてから9ヶ月後の文治3年(1187年)10月29日、秀衡は死去してしまう。

秀衡には6人の息子がいたが、後継者は次男・泰衡だった。

「秀衡が死によったわ!」頼朝は平泉への攻撃を模索する。


秀衡は兄弟各々異心無きよう、国衡・泰衡・義経の三人に起請文を書かせた。「義経を主君として給仕し、三人一味の結束をもって、頼朝の攻撃に備えよ」と遺言して没した。頼朝からの襲撃を危惧しながらの死であった。

「九郎、お前のことは以前から気に食わなかった。が、父上の遺言だ。まっとうしようぞ」


頼朝は秀衡の死を受けて後を継いだ泰衡に、義経を捕縛するよう朝廷を通じて強く圧力をかけた。この要請には頼朝の計略があったのだ。「奥州に攻め込めば泰衡たちと九郎は秀衡の遺言通り、一体となって共闘する怖れがある。泰衡に九郎を追討させることで2人の間に楔を打ち、険悪な関係を発生させ、奥州を弱体化させてやろう・・・」

「亡母のため五重の塔を造営する」「重厄のため殺生を禁断する」を理由に年内の軍事行動はしないことを表明した。つまり頼朝自身が九郎を追討出来ない理由としたのである。


この頃、源平合戦を共に戦った源範頼みなもとののりよりが頼朝に嘆願している。

「兄者、九郎は確かに独り善がりな戦いをしていましたが、兄者を裏切るようなことはしないと思われます。どうか気を納めて追討などはおやめください」

「やかましいわ!奴は後白河に付き、腰越で反旗を促したのだぞ!」

「どうか。どうか!」

「お前の話など聞けん!」


一方、義経は文治4年(1188年)2月に出羽国に出没し、鎌倉と合戦をしている。京都に戻る意志を持ち、再起を図っていたと思われる。度重なる追討要請により泰衡との齟齬が激しくなったために、京都へ帰京しようとしていたのではないか?


そんな時、部下の1人の常陸坊海尊ひたちぼうかいそん(生没年未詳。園城寺または比叡山の僧だとされる)が1つの提案を九郎に施した。

「九郎殿、子息の千歳丸様を仙台の中村氏に預けてはと思います」

「千歳丸を?」

「はい、もしもの時の事にてございます。千歳丸様は九郎殿のたった1人のお世継ぎ。藤原家の名の下に預ければ断らないはず」

「・・・・・・・」

「如何でございますか?」

「わかった。そうしてくれ。誰が同行する?」

「私めが行きます」

「わかった」

後日、常陸坊海尊は千歳丸を連れ、僧に化けて平泉を出た。

仙台中村氏、のちの伊達氏である。


その後、泰衡殿は再三の鎌倉の圧力に屈して、4月30日、500騎の兵をもって10数騎の九郎一派を藤原基成の衣川館に襲撃した(衣川の戦い)。

「九郎殿!泰衡が裏切りました!襲ってきます」

「泰衡殿が・・・屈したか・・・」

わあああああ〜〜〜〜〜ーーーー!!!

義経の郎党たちは防戦したが、ことごとく討たれた。館を平泉の兵に囲まれた九郎は、一切戦うことをせず持仏堂に籠った。「15の時から共に過ごした泰衡殿と戦う気はない・・・」死を覚悟した。

まず正妻の郷御前と4歳の女子を殺害した。自害しようと喉に短刀を突きつけた時・・・

ガッ!

その手を押さえつけられた。

「誰だ?手を離せ!」

その人物は・・・

「あなたは!た、武角たけつの殿!」

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