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第三十二話 常盤の物語(後)

「・・・・・・・」

武角たけつのさま、如何でしょう?」舞は聞いた。

「ただの口碑こうひ(言い伝え)だ。証拠が無い・・・・第一、常盤には清盛に助命された母がいただろう?辻褄が合わない」

「しかし、この常の父親は須佐であった可能性が高くはないですか?」

「確かに、聞いた技は須佐のものだな。舞も知っての通り、須佐から抜けた者は数名いる」

「はい、抜けた後は世に隠れなければなりません。農民になるか、流浪人になるか?名を伏せなければなりません」

「そして世間で技を見せた場合・・・?」武角は問いた。

「耳に入れば刺客を送り・・・抹殺します」

「須佐の秘密を守るためだ。皆、知っている。その男がすぐさま部落から去ったのも刺客を恐れたから、もしくは娘を守りたかったからとも取れる」

「いかがですか?」

「常盤に聞くしかないな。舞、お前も同行しろ」

「承知」



常盤は平治の乱の後、夫・源義朝は打ち首となった。23歳で未亡人となり、3人の子供たちを連れて雪中を逃亡し、其の後、都の母が捕らえられたことを知り、主人であった九条院の御前に赴き、清盛の元に出頭した。常盤は母と子供たちの助命を懇願した。清盛は常盤の美貌に心を動かされ、全員助命した。

後、清盛は常盤を愛妾にした。しかし、清盛の庇護は長くは続かなかった。其の後、一条大蔵卿・藤原長成ながなりの妻となり、一子能成よしなりを生むが、此の事が、義経の運命を変えた。


長成は藤原基成もとなりの従兄弟で、基成は若い頃、平泉で暮らした。解任後も中央とのパイプ役を務めた。しかも娘を基衡もとひらの息子・秀衡(ふじわら の ひでひら(ひでひら)に嫁がせた。義経の鞍馬寺での庇護も基成が行った。義経と奥州藤原氏との縁は、此の義父(長成)の縁故だったのではないかと思う。


九郎義経一行は平泉へと北に進んだ。

頼朝は逃走経路と見込んだ土地の源氏ゆかりの武士に伝令を出した。九郎義経一行の詳細を描き知らした書を渡した。「変装しているものと思われる。確信を得たならその場で皆殺しにせよ。多大な褒美を遣わす」

源氏の武士たちが山中から街道筋と至る所で待ち伏せし、探し回っていた。

「九郎義経の風体が判らずとも共の弁慶は一目でわかる。屈強な大男だそうだ」


「平泉に行かせるな。面倒なことになる」

藤原秀衡の力は頼朝さえ恐れていたのである。平泉に逃げ込まれては手が出せない。


京でその話を聞いた常盤は居ても立っても居られない。「私の子、牛若が・・・・」

侍女の千種を伴って義経を追い掛けた。

「常盤さま、九郎殿はまともな辻は通りません。見つけられますか?」

「見つけられぬども、源氏の武士たちを説得させましょうぞ」

「それは・・・無理です」


「弁慶、此処は何処ら辺だ?」九郎が山中で問いた。

「越前辺りかと思われます」

ガサガサ。

「貴様ら何ものだ?」突然、草むらから屈強な武士が10名ほど現れた。

九郎たちは虚無僧の格好である。

「我らは修行の身でござります」

武士達は疑っている。そう、1人大男が居るからだ。

「こやつ・・・例の弁慶ではないか?・・・顔を見せよ」

「み、見ろ!」

その顔立ちは皆、武士以外の何物でもない。特に弁慶は顔に数カ所刀傷があった。

「貴様ら!源氏の謀反者だな!応援を呼びに行け!」

彼らもバカでは無い。平家を滅ぼした九郎義経軍である。大人数でなければ倒せぬ。

「行かせるか!」佐藤忠信さとうただのぶがすぐさま追いかけて背に隠した刀を出し、打ち取った。

斬り合いが始まった。

キャリーん、ズバ!うぎゃああ。

「何だ?何かあっちでうめき声が聞こえたぞ」

「他の連中は思いの外、近くに大勢いるらしい。皆、逃げろ!」九郎がそう云うと全員でその場を逃げ出した。

「待てーーーー!!」

「どうしたあーーー!」

「義経を見つけたぞ!そっちだ!そっちに逃げたぞ」

「囲め!行く手を遮れ!」


ふと麓に陣を構えているのが見えた。

「九郎殿、まずいです。数千は居りますぞ」

「我らは15ほど・・・逃げきれんな・・・これまでか・・・」


常盤も旅を続けていた。

「常盤様、お疲れではないですか?」

「千種、気遣いは良い。私の頭の中は牛若に会うことしか考えていないのです」

美濃不破ふわの関(現岐阜県関ヶ原町)の辺りに来た時だった。

「おい、女」

数名の郎党だ。

「何者?!」

「何を無礼なことを!私を誰だと思っている?!」

「金持ちそうだな」

「京の貴族ぞ!」

「だからどうした?」

「無礼をすると許さぬぞ!」

「いいから金を出しな!」

常盤は腰の短刀を抜いた。「許さぬと申した!」

「これならどうだい?」

いきなり背後から常盤に斬りかかった。

ズサ!

「常盤さま!」千種は叫んだ!

「常盤さま!常盤さま!・・・貴様ら!よくも!」

「喧しい!このクソ女」

千種は数人になますの様に斬り刻まれた。

「よし。金銭を取れ!服も高価そうだ。奪え」

そしてそのまま立ち去った。

その後、哀れと思った里人たちにより五輪塔が建てられた。


常盤の伝承は各地に残っている。

○常盤の墓が群馬県前橋市、鹿児島県郡山町(現鹿児島市)、埼玉県飯能市と各所にある。

○東京都青梅市成木常盤には常盤が人目を避けて一時隠れ住んだと云う伝承があり、地名は常盤御前に因んでいる。


須佐武角と舞が京に着いたのはその頃である。常盤はすでに居なかった。

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