第弐話 平氏にあらずんば、人にあらず
其の後、武角は僧正坊の頼みもあって京に踏み入った。
舞を連れての視察だ。薬屋の風体に化けて居た。
武角:「見ろ。舞」
辻脇に浮浪者が大勢、屯している。物乞いをしていた。まるで餓鬼の集団だ。
「春よ春」の平家の時代。邪魔な源氏も絶え、平家はこの世の春を謳歌していた。
平氏にあらずんば、人にあらず
春や春
善い気なものだ。庶民との此の格差は酷すぎる。
舞:「武角さま、御前に直接談判しに行きましょう」
天皇も宮廷も平家に骨抜きにされていた。将門の乱の後遺症は今でも続いている。武士への恐怖だ。其の後、平清盛と云う天才が現れ、天皇は平家を、清盛を出世させ、其れが今も続いているのである。源氏が反乱を起こすのは目に見えていた。
武角:「飢饉でも起きてみろ。百年以上前の様に人肉を喰らい始めるぞ」
病気の蔓延は魔物の仕業だと魑魅魍魎を恐れ、陰陽師に託したりしていた。
武角:「魔に隙を与えているだけだ」
須佐は人世のことには踏み入らない。踏み入ってはならないと思っている。
しかし、見るに絶えられない状況だった。
必ず、報いが来る…
武角はそう読んだ。奇しくも20年後、平氏は源氏に滅ぼされる。源氏も其の後、3代で滅びてしまうが…。
道中、2人は通行人から声をかけられた。
「武角さまではありませんか?」
武角:「お前は…金売吉次」
○金売吉次
商人。「平治物語」「平家物語」「義経記」「源平盛衰記」などに登場する伝説的人物。奥州で取れるる金を京にて売っていたとされ、後、源義経が奥州藤原氏を頼って平泉に下るのを手助けしたとされる人物。吉次は闇ルートに詳しく、須佐の情報屋をもしていた。こう云う須佐に協力する平民が全国に多々居た。無償で行う者、小遣い銭のためにやる者、千差万別だ。
武角:「まだ、阿漕な商売をしているのか?」
吉次:「へっへ。そりゃ、言い過ぎですよ。で、京には何をしに?」
武角:「これから鞍馬に行く」
吉次:「鞍馬?…遮那王丸ですか?」
武角:「貴様、知っているのか?!」
吉次:「知っていますとも。わたしゃ裏の人間。鞍馬の山道は秘密裏の商売にはちょうどいいんですよ。で、見かけたんですよ。彼の方は武士になるために生まれて来たような人のようです」
しかし、天武があろうが1人ではどうしようもない。
都で其の才が裏で噂されても居た。
…危険だな。平家は知っているのか?…武角は思った。
鞍馬寺に幽閉したのは平家だ。僧侶とするためである。もし、危険思想を持つのであれば、遮那王丸は殺されるであろう。
吉次:「平家は気付いちゃおりませんよ。監視役は付けて居ますが、てんでやる気のない奴でね。読経の毎日を装ってます。なに、確かにいつかはバレまさあ。そん時は奥州に」
武角:「藤原秀衡か?」
吉次:「ええ、藤原さまが、源氏の末裔なら是非、養子に欲しいって云ってるんでさ」
藤原まで絡んで居る…此れは将来波乱がある。
吉次:「武角さま、もう1人、源氏が居るのをご存知で?」
武角:「平治の乱の生き残りだろう?」
舞:「武角さま、頼朝と云います?」
頼朝は伊豆に幽閉されて既に10年。20歳は超えて居るはずだ。伊豆の覇者・北条家や阪東(源氏の領地・関東)の武士たちが目をつけていた。
北条は主権を、阪東の武士たちは平家の横暴な取り立てに腹を立てていた。
吉次:「阪東の武士たちは頼朝を奪還すべく、時を測っております」
平家に対抗出来る者。其れは「源氏」だと皆が思っていた。
しかし、2人にはまだ力も何もない。
奥州の藤原、北条家や阪東(源氏の領地・関東)の武士たちが、いつか此の2人を立てて平家に挑むに違いない。
しかし、平家の力は大きい。
藤原も北条家も表立って平家にバレたら潰されるのは目に見えて居る。
難儀だな…武角は思った。
武角は吉次に案内を頼み、3人は徒歩で鞍馬寺に向かった。
鞍馬寺は昼間でも陽が入らない鬱蒼とした場所だ。鞍馬山は裏街道である。其処で天狗に剣を教わり、吉次に都の情報を聞き、修験者や蝦夷なども横行して居ると云う。そんな者たちと交流を持って居るとすれば…更に須佐の血を引き、其れが覚醒したら…。
武角は色々な思いを想像しながら歩いた。




