第十九話 巻き返す平家
寿永2年(1183年)5月、「倶利伽羅峠の戦い」で源義仲に敗れた平氏は兵力の大半を失い、7月、安徳天皇と三種の神器を奉じて都落ちし、九州大宰府へと逃れた。その後、「水島の戦い」にて平家は義仲に勝利する。
義仲の兵力は脱落者が続出し、激減してしまい、寿永3年(1184年)1月20日、鎌倉政権軍に攻められて義仲は滅んだ。
源氏同士の抗争の間に勢力を立て直した平家は、同年1月には、かつて平清盛が都を計画した福原(現神戸市)まで戻した。そして瀬戸内海を制圧、中国、四国、九州を支配し、数万騎の兵力へと回復していた。平宗盛は屋島に内裏を建設して新たな本拠地とした。これにより東の屋島、西の彦島を押さえて瀬戸内海の制海権を掌握し、勢力回復に成功する。しかし、頼朝軍と対峙することになった宗盛は同年2月には京奪回の軍を起こす計画である。
福原への進出時、ある戦さの計画が立つ。
「出雲の須佐を撃つ?」宗盛の某側近たちの提案である。
「須佐と云う郎党が源氏に加担していると云う噂でございます」
「お前たちは須佐が何者か知っているのか?」
「存じ上げませぬが、所詮、田舎の郎党でございましょう」
「わしは亡き父上から聞いている・・・」
「どんな連中で?」
「父上からは手を出すな・・と遺言された。恐ろしい連中だと」
「そんな!天下の平氏が、弱音を?」
「父は生前、族長に会っているんだ」
「ほう・・・」
「源氏に加担していると云う噂を聞いていたので、聞いてみたと云う」
「なんと答えたのですか?」
「人世のことに興味は無いと・・・つまり敵にはなり得ないと」
「し、しかし、加担しているのは事実ですぞ!」
「いいか?須佐とは御前の古代からの軍隊ぞ」
「平氏もそうではないですか」
「我々とは異なる・・・奴らは自然の驚異と戦う者だ」
「自然の驚異?とは?」
「語ったところで、お前らは信じぬ」
「兵を3000、お貸しください。壊滅させて見せましょうぞ。今の士気なら兵も勢いがあります」
「ならん!鎌倉軍でさえ何時?此処に攻めてくるか?そんな時期に兵を分散させてはならない!」
「しかし、前と後ろから攻められたら、如何致します?!」
「須佐は出てこない!」
某側近たちは納得せぬまま、退席した。
「何をビビっている?我々の支配圏に源氏の仲間が居ると云うに」
某側近たちは平忠度に相談した。
「それは誠か?!」
「はい、かなりの強者だと云うことです」
「うーむ・・・近々、宗盛殿は福原に陣営を置いて防御陣を作る予定でな」
「ほう」
「生田口、一ノ谷、鵯越口と云うところだ。わしは一ノ谷を任される予定だ」
その後、忠度の云う通り、東の生田口に知盛、西の一ノ谷口に忠度、山の手の鵯越口に平盛俊を配備して、強固な防御陣を構築した。
福原は北に山、崖である。南に海と云う天然の要害で、東西の守備を固めれば難攻不落と思われた。
忠度は「田舎の郎党」と軽んじた。
「わしがお屋敷様に話そう」
忠度は幾度も宗盛と話し合った。
「いかん!忠度。須佐のことは捨ておけ!」
「しかし、此の戦国の世、勢いのある鎌倉に加勢するのは目に見えていますぞ!」
「須佐は出てこない!」
「その保証は?!」
「・・・・・」宗盛は答えに窮した。
「屋島と彦島から兵を出しましょう」
「好きにせい!」
忠度は行動に出た。
「兵を出すぞ。早急に行う。なあに、田舎武士など敵ではないわ。場所は分かっているのか?」
「はい、何でも山麓を鳥居で囲んで結界を作っているそうです。その中腹に部落があると・・・」
3000の兵を集め、出雲に向かった。
兵たちは意気揚々である。「なあに、軽いもんだな。大将の首で恩賞はもらえるかな?」
出雲に着いた頃、雪である。冬の出雲は寒い。兵は近隣の農民を集めた。村長は誰か聞いた。
「我らは平氏だ。此処を拠点とする。須佐部落は何処か知っているか?」
「この平家の武士たちは須佐部落を襲う気だ・・・」皆、そう確信した。
村長が前に出て述べた。
「しかし、平家のお侍さんたち、須佐様は神に近い方々。おやめになった方が・・・」
「やかましい!農民の分際が偉そうに!殺されたいか!」
農民は怯えながら述べた。
「須佐様を怒らせては・・・いけませぬ・・・・」
「まだ云うか、これならどうだ?」いきなりその村長の首を刎ねた。
「そ、村長!」
「まだ云うか?!須佐部落は何処だ?!」
1人の気丈夫な若者が述べた。
「須佐部落はあの大山の中腹でございます。しかし、部落は消えたりもします」
「何だと?」
「あなた方を見れば、姿を表すでしょう」
「どういうことだ?」
若者はニヤッと微笑んだ。
「将軍、こんな奴らは相手にしなくて善いでしょう?」と側近が述べた。
「まあ、善い・・・」
「此処らの土地の者は須佐を畏怖を持って高貴に見ている・・・巫山戯おって」
「将軍、攻撃は?」
「夜半に円陣を組み、奇襲だ。それまで休め」
彼らは須佐に悟られないよう配置を決め、山麓に隠れ、夜を待った。
雪が地面を覆っていた。
カア、カア、カア、カア
「鴉がうるさいな。まるで我々を伺っているように見えるが・・・」
カア、カア、カア、カア
「凄い数だ」
1人の兵が鴉を矢で射った。
カアーーーーーー!
鴉に矢があたり目の前に落ちた。
「おい、無駄なことをするな」
「はっは、ちょいとしたお遊びよ。ん?」
矢を射った兵がその鴉を見てひっくり返った。
「み、見ろ!この鴉!足が3本だ!」
「バカを云え。3本足の鴉じゃあ、まるで八咫烏じゃねえか」
「八咫烏?なんじゃ、そりゃ?」
「古事記に出て来る奴よ」
「巫山戯るな!何が古事記だ。生まれ傷だろう?」
見ると周りに農民たちがやってきて座り込んだ。
「あの百姓どもは何をしている?」
農民たちは全員、山を囲み、ひれ伏した。
「な、なんだ?こいつら」
雲が淀み始め、月さえ見えない闇夜になった。闇夜に積雪・・・条件は最悪だ。
「須佐の連中だって、まさかこんな夜に襲ってくるとは思うまい」
「伝令!攻撃!奇襲だ」通常であれば鬨を鳴らすが、手で合図のみである。
「いよいよだ。腕がなるぞ」
先ずは様子見だ。山中に大勢の兵は混乱する。
「300、出せ」
兵たちは鳥居を超え、山に踏み入った。




