第十六話 夜半の斬り合い
九郎たちは潜伏先の琵琶湖畔に弁慶を連れて戻ろうとにした。その時、
「待たれよ」
十数人の武士に声をかけられた。「義仲 (よしなか)の見廻隊だな・・・」
「お主ら、どこに武士だ?」
「源義仲の武士」
「何処の隊だ?」
「・・・・・・」
「応えぬのか?怪しい奴らだ」そう云うと全員、刀を抜いた。シャラ!
「名を名乗れ!」
すると九郎が前に出て口上した。
「源九郎義経とその重臣!」
「な、なんだと?!」
九郎達もすかさず刀を抜いた。
「応援を呼べ!鎌倉だぞ!」義仲の武士が笛を拭こうとした瞬間!佐藤継信がすかさずそいつを斬った!
「ぐわあ!」
「や、野郎!やっちまえ!」
斬り合いが始まった。
キャリーーン!バサ!
「ぐわあ!」「うお!」
義仲の平武士では相手にならない。
十数人は、あっと云う間に全員斬られた。
「応援がくる。逃げよう」全員走り出した。
馬を郊外に付けている。
弁慶が云った。「私はどうすれば?」
「馬番がいる。そいつは誰かと2人乗りだ。弁解はそいつの馬に乗れ!」
「御意!」
そして逃げ去った。
「これで我らが近くに居ることがバレた・・・」佐藤兄弟が心配そうに、うな垂れた。
馬に乗りながら弁慶は高笑いだ。
「弁慶、何を笑っている?」
「いや、愉快愉快。九郎殿。わしゃあ、あなたが気に入りましたわい」
「弁慶!何を云うか!九郎殿のやることは、いつも冷や汗ものなんだぞ」佐藤兄弟は怒りをあらわにしている。
「まるで盗賊のやり口だ」弁慶は笑う。
「此処まで来れば大丈夫だ」馬の速度を緩めた。
「九郎殿、義仲は布和の関(岐阜県不破郡関ケ原町)に我らが達した時、気づいていた。琵琶湖も危のうございますぞ」
「範頼の軍と落ちあえば、戦さの始まりだ」
「まだ、落ち合ってもいないのに・・・大体、九郎殿が自ら諜報など・・・部下にさせれば善いものを・・・」
「わかったよ、継信。だがなあ、この目で見ないと気が収まらんのだ」
「あなたは大事なお方なのですぞ」
弁慶は大将らしい九郎が、家臣にズケズケと云われているのが、何か可笑しかった。
「九郎殿、鎌倉殿の弟と云われましたが・・・」弁慶は事情をよく知らない。
「異母兄弟だ。私は10歳で鞍馬寺に幽閉された。その後、奥州・藤原を頼って逃走したんだよ。彼らはそこの武士だよ」
「鞍馬に源氏の子が幽閉されていた話は知っています。あなたなのですか?」
「そう、幼名・牛若、鞍馬の僧たちは遮那王丸と私を呼んだ」
「遮那王丸・・・・毘盧遮那・・・」
「びるしゃな?なんだ?それは弁慶?」
「仏教に云う、毘盧遮那仏のことです。世界を広く照らす者、仏の徳が全世界に及ぶと云うことです」
「仏の徳など私には無いぞ」
「光明遍照と云う言葉もございます。同じような意味です。阿弥陀仏の身からでる慈悲の光は,十方世界を遍く照らし,念仏する衆生を救い取って見捨てることがないのだと」
「私はそんな、ご立派な人間では無いぞ。ただの親の仇をしているだけだ」
「いや、鞍馬の僧たちはあなたに何か光を見たのでしょう」
「買いかぶり過ぎじゃ」
義仲には見廻隊が殺されたことがすぐ知らされた。
「な、何だと!誰にやられた?!」
「そんな奴は鎌倉軍の者しか考えられませぬ・・・」
「既に京に潜伏していると云うのか?!戦さの用意をしろ!」
義仲は恐れおののいていた。
「鎌倉軍が、もうそこに・・・・・居る・・・・・」




