第十三話 馬引き
平清盛は、京都六波羅の屋敷で眠りについていた。
異様な気配を感じて起きた。すると障子越しに1人の男が立っていた。
「何奴!」側の刀に手を伸ばした。が、手が動かない。「ぐう?!」
「曲者だ!出会え!!!!」と大声を出そうとしたが声が出ない。
「六波羅殿、私は敵ではない」其の男が呟いた。
「な、何者だ?!」小さな声しか出せない。身体も硬直して動けない。
「術をかけ申した。騒ぎにされたくないので・・・」
「術?き、貴様、何者だ?!」
「須佐武角と申します」
「何?!」
「ご存知ですか?」
「あの出雲の須佐か?」
「そうです」
「ワシを殺しに来たのか?」
「まさか。あなたを敵に回す根拠などあり申さぬ」
「何をしに来た?大体、どうやって音もなく重警備の屋敷に潜り込んだのだ?」
「潜り込むなど、造作も無い事でござる」
「な、何という大胆な奴・・・」
「強いては聞きたいことがあってやってきました」
「わしに聞きたいこと?」
「常盤のことです」
「常盤とはもう縁を切った」
「常盤と共の時、何か変わったことはございませんでしたか?」
「・・・何の話しだ?」
「異常な体験です」
「・・・あったよ。それでわしはあの女が恐ろしくなって・・・一条長成にくれてやったのだ」
「如何なことですか?」
「幾つもある。1つだけ話そう。わしと常盤が籠で御所に向かう途中時だった。列に分け入って何処からか野生の猪が突進してきたのだ。従者たちは刀を抜いて防ごうとしたが、それを逃げ切って常盤の籠を襲おうとした。時遅し、彼女は襲われる!そう思った時・・・」
「どうなったんです?」
「・・・猪が籠の前で急に倒れたんだ。駆け寄ると・・・死んでいたよ。わしは見たんだ。籠の窓から彼女が掌を猪に翳すのを・・・すると倒れたんだ」
「常盤が何か法力を使ったと、お思いですか?」
「そうだ。手も触れず猪を殺したんだ」
「・・・・・・・六波羅殿、あなたは彼女の出生をご存知か?」
「近衛天皇の中宮・九条院(藤原呈子)の雑仕女をしていたと聞いたが、調べたらそんな形跡はなかった・・・」
「・・・・かたじけない。これで失礼します」
「まて!武角!なぜ、そんなことを聞く?貴様、牛若と通じているそうだな。知っているぞ!源氏に加担する気か?!」
「人世のことは私の領分ではござらぬ」
「では、何故、牛若を、源氏を庇護する?」
「源氏などどうでも善い。牛若には気になる事があります」
「常盤と牛若・・・何がじゃ?!」
「・・・・・・」そう云うと武角は障子越しに去った。清盛は消えたと同時に体の自由が戻った。
起き上がって、すぐさま追った。
「まて!武角!答えぬか!武角ーーーーーーー!!」
障子を開けるとすでに姿は無かった。
「い、居ない・・・奴は霞か?」
清盛の叫びを聞き、侍たちがドタバタとやってきた。
「六波羅様!如何されましたか?!」
「・・・・いや、何でもない。下がって善いぞ・・・」
侍たちは顔を見遣って傾げた。
「須佐武角か・・・・」清盛は夜空を仰いだ。
一方、富士川の戦いに勝利した頼朝は九郎一行を連れて鎌倉に戻った。
「佐(頼朝の京都時の官職。警察官のようなもの)殿の異母兄弟だそうだ」
「源氏の棟梁が二人になったってことか?」
「ややこしいな・・・どちらにつくか?」
「そりゃ佐殿だろう。藤原なんちゃらなど知るか!」
周りは口々に噂した。
九郎は人に好かれる性格であったようだ。
皆に慕われた。
「私は鞍馬にいる時、天狗に剣を教わったんだ」
「九郎殿、ご冗談を(笑)」
しかし、阪東武士と藤原武士は反りが合わなかった。
そんな日々、1181年(養和元年)7月20日、鶴岡八幡宮社殿の上棟式が行なわれた。大工たちに褒美の馬が与える事になった。
「九郎、馬を引け」頼朝は命じた。
「え?私がですか?」
「何いーーーー?!わしの云うことに背くのか?!」と怒鳴った。御家人たちの面前でである。
九郎は恐怖を感じ、馬を引いた。
周りから感嘆が漏れた。
「見ろ。九郎殿が馬を引いている・・・」
馬を引くのは身分の低い者がやることである。この時、棟梁は誰か?皆、確信した。頼朝の策だ。
「九郎殿・・・」藤原武士達は九郎を労った。
「善い。まだ、何も武勲を立てていない私だ。仕方ない・・・・」
そしてその後、頼朝の命により郷御前と婚姻した。
「今に見ていろ・・・」
そんな日々の後、九郎に命が来た。
「京の木曽義仲を討つ?」




