第十二話 那須与一
少し時間を戻す。
平泉である。
秀衡は、裏目を無しに九郎を息子のように可愛がった。
九郎も始めは疑っていたが、秀衡を父のように慕うようになっていた。
その九郎が鎌倉に出向くと云う。
「此処まで育てて貰った恩義があるのに・・・秀衡様、申し訳御座いません」
「九郎・・・」
「兄者が決起したと聞いては、黙って要られません」
「仕方ない・・・やはりお前は源氏だ」
次男・泰衡が傍らに居た。父、秀衡は九郎を後継に・・・と考えているようで気が気ではない。妬みである。
「九郎め。戦さに出て死んでしまえ」
秀衡は、暫く、黙って考えていたが、
「あい、わかった。止めても無駄だろう。行きなさい。お付きに佐藤継信、忠信兄弟を連れておいき」
奥州藤原家直参、ナンバー1、2の武士を義経につけたのである。
秀衡の義経への愛情がわかろうと云うものである。
「佐藤兄弟を呼べ」
暫くして2人がやって来た。
「と、云うことだ。どうだ?」
「九郎殿に従えるとは、願っても無いことで御座います」
「お前たちにとっては未知の土地、未知の人物・頼朝と出会う。先は何も見えないが、それで善いか?」
「武士として誉でございます」
他、およそ数十騎を同行させた。
数日して義経一行は平泉を発った。いかなる未来が待っているのか?
「此処に来た時と今は違う」
さて、一行は南下している。途中、庄屋などで宿を借りた。藤原と源氏の名を出せば、「へへーー」とばかりである。「娘に源氏の血を」などと思い、生娘を差し出す家もあった。もしかしたらこの道中で義経の子を宿した娘も居たのではないか?
藤原と源氏の一行の噂は忽ち届いた。
栃木県那須辺りに来た時、「九郎殿、ここら辺りは那須氏の領地です」
那須岳が見えた。「美しい土地だな。あそこに神社がある。必勝祈願でもするか」
見ると少年が弓の稽古をしていた。「ほう!筋が善いな」
こちらに気づくと礼をした。「出来た子だ。坊!名を何と申す」
「那須与一と申します」
これが初対面の2人だった。
「那須氏の者か。宿を求めたい。どこか知らぬか?」
「あなた方は?」
「奥州藤原武士と源氏の一派だ」
子はびっくりして「で、では父に伺います」
居城「神田城」に案内された。
与一の父・那須資隆と接見した。
「奥州から?何をしに?」
「鎌倉に向かっています。兄に会いに」
「兄・・・まさか?」
「源頼朝でございます」
資隆は引っ繰り返りそうになった。
「決起ですな」
「左様です」
「此奴を共にしてくださらんか?」
「与一殿を?」
「もう一人、兄がおります。十郎為隆と云います。2人従軍させてもらえますまいか?」
「先ほど、与一殿の弓の腕を見ました。まだ歳行かぬのに優れた技を持っている」
「兄も同様ですぞ。如何かな?」
「構いません」
「おお!ありがたき幸せ!与一!どうだ?」
「鎌倉ですか?行きたいです」
「決まりだ。兄も文句は云うまい。後を追って、鎌倉に従軍させます」
義経一行は一晩厄介になり神田城を発った。
「九郎殿、近くに中村氏がおります。よって行きませんか?」
「中村?」
○中村氏
氏族。郡や荘園の中心や地域の中心村落が中村と呼ばれ、そこを領し、住した人々が中村を号した。源平藤橘の出自から出自不詳まで幅広く存在している。
ここに登場するのは常陸国の中村である。後、伊達家となり、仙台に移る。
「藤原北家と云いまして、藤原と親戚関係にあります。ま、悪いようにはしないと思います。源氏の武士なら、また良きにしてくれるかと」
「中村と云えば清和源氏の流れを組む者もいたな」
「はい、九郎殿と同様です」
「那須氏に泊まったばかりだ。あまり気が進まぬ。先に行きたい」
「左様ですか・・・」
「遮那王丸様ではないですか?」
何やらの行商人らしきに呼び止められた。
「お前は金売吉次!」
「お久しゅうございます」
「奇遇だな。何をしている?」
「商いでゲスよ」
「どうせ、汚い商売だろう?」
「あなた様に直接お会いしてませんでしたが、逐一、武角様にはあなたのことを報告しているのですよ」
「気味の悪い奴だな。こそこそ隠れて私の諜報か?」
「いえ、わっしゃあ、連絡網を張り巡らしております。私だけじゃないんですよ」
「そんなに何処で観察しているんだ?」
「それは秘密です」
「武角殿はどうしてる?」
「わしも会っていないんですよ。報告は梟が伝書で行います」
「ふーーーん」
奇妙な連れが増え、鎌倉に向かっていた。
「鶴岡八幡宮を一度見て見たくて、そこでお別れです」
「武角殿が・・・」
しかし、頼朝は戦いの真っ最中。「富士川の戦い」である。
その戦さに勝利した頼朝と黄瀬川の陣(静岡県駿東郡清水町)で対面するのである。
吉次は思った。「わっしゃあ、歴史的なものを見たのではなかろうか?後世、語られるに違いない」
吉次とはそこで別れた。
「あの遮那王丸が・・・その内、歴史の表舞台に出て来るぞ」




