日が沈む前1
時は少し遡る。
周囲にうっすらと霧が立ち込め、傾きつつある陽の光が全体を紅く染める。
雲の薄い部分から、日の光りが線を引いたかの様に光り、ミーティアラ王国の王城を照らす。
幻想的な光景に包まれながら、タクローは瓦礫の山の上で兜を外し、タバコを吸う。薬草を乾燥させたモノだからだろうか、強い苦味が口の中を支配する。
フィルターなど無い、只の紙巻き。
煙を一気に肺へと送り込み、吐き出した。吐き出して、舌打ちをする。
視線の先には、無気力にへたり込むシンジの姿が映る。
「仕方ないよ、目の前でどうする間もなく殺されたんだ、俺も助けられなかった……」
ミーナはタクローの横に座り、同じ光景を見ていた。
「ロジカル思考な奴ほど、打たれ弱いって本当だったんすね……」
「君ほど直感に素直な人間は居ないさ……」
「ですかね……? いや……まぁ、ですよね……」
タクローはミーナの言葉に複雑な表情を浮かべたが、ミーナはソレに気が付かない。
(直感……か。それで、俺は一体何人殺したんだろう……)
タクローが周囲を見れば、アレクシア帝国兵の死体が多々転がる。
急激な胸の苦しみと、込み上げる吐き気を堪え、胃から上がってくる内容物を、再度飲み込む。
タクローの兜の中で、ノイズが聞こえる。
名残惜しそうに、最後の一吸いをしてから、肺に溜まった煙を一気に吐き出して、兜を被る。
「こちら、タクロー……」
「ザ……ザザ……、……ク……さん……、タク……さん……。き……え……る? ……タクローさん、聞こえる?」
タクローは立ち上がり、頭を巡らせる。
「こちら、タクロー。聞こえるぞ」
「……状況を」
「東地区一帯は、駄目だ。帝国に食い散らかされてる……」
声の主がヒカルだと解る。
「戦車を数台行動不能にした。そっちは?」
「こっちは、西門からそっちに向かってるよ。西門の見張りの連中、中々開けてくれなかったよ……。セルヴィナさんが、上手く取り持ってくれたから、なんとか入れた……。ってか、戦車って何?」
「王城を目指せば解るさ……」
兜の中で、タクローが苦笑いを浮かべる。
「ミーナさん、これを」
タクローはアイテムボックスから、イヤホンタイプの魔導通信機を取り出した。
その形状は、片耳タイプのブルートゥースイヤホンに似ている。
「術式、完成したんだね!」
ミーナは満面の笑みでソレを受け取ると、左耳に差し込む。
「ヒカルちゃん、聞こえる?」
「ミーナさん?」
「いやはや、すごいね。コイツを完成しちゃうんなんて」
「いや……、タクローさんのおかげですよ。あの人、機械関係に強いっては知ってたけど、電子部品関係に精通してるなんて知りませんでした……」
「あれ? タクロー君の職業知らないの?」
「リアルの?」
「うん」
「電子機器メーカーの工場作業員としか……」
「ソレだよ。電子機器製造なら、メカからパーツに精通してるってもんさ」
二人の会話はタクローにも筒抜けだ。
間の抜けた表情で、ミーナを見つめるが、兜に覆われている為、ミーナにその表情は伝わらない。
だが、視線には気がついたミーナが咳払いをする。
「と、とにかく、合流しよう」
「そうですね」
ミーナはタクローと話し合い、王城前の広場を指定した。ヒカルから了承を得て、タクロー達は移動する。
動けぬシンジは、置き去りの形になったのだった。
王城前広場では、兵士達が忙しなく動いている。
指揮を取るのは、アルフ・フォルン・アレクだった。瓦礫の撤去から、人命救出作業を一手に指揮している。
彼がまずはじめに取り掛かったのは、酷く傷ついた男の手当だった。
『剣聖』と呼ばれた男は、一人の女性を救う盾となっていた。
女性に抱きつき、背中に銃弾を浴び続けた。
幸いにも、防具と魔法のマントのおかげで大事には至っていないが、それでも何発かは確実に体内に食い込んでいる。
慎重にマグネイトの魔法で弾丸を摘出すると、側に控えさせていた兵士の一人に回復魔法を指示する。
すると、何故か効かなかったはずの回復魔法が、本来の効力を発揮したのだ。
この功績と、アルフ本来の能力が相まって彼に現場の指揮を任される事になったのだった。




