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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
二大国家戦争
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指揮官の帰還

 西の山脈に太陽が落ちていく。


 王都ウンディエネの道を荷台を引いた馬が歩く。

 ホロも付けていない荷台には、人の山が築かれていた。


 シンジは、魂の抜けた落ちた様に立つ。目の前に来た馬車から二人の男が降り、周囲に転がる死体を拾い上げる。

 拾い上げた死体は、荷台に投げ入れられる。それは獣人を含む亜人だけではない。人間もまた同様だった。

 その光景をシンジは見つめていた。

 人種など死んでしまえば関係無い。ただの『死体』としての認識なのだと思った。


 都市の街灯が光りだす。

 それは、一定の時刻、または一定の光量で発行するように魔法術式が組み込まれた魔石だ。支柱のいち部分には、発光に必要なマナを昼は貯蔵し、夜は放出する人口精霊石が取り付けられていた。

 立ち込める霧が、周囲をぼんやりと光りで包み込む。


 一人の男が、シンジの目前に横たわる獣人の少年だった死体を、おもむろに掴んだ。

 そして、体を引きずり、馬車の荷台に投げ入れる。

 少年は軽かったのだろう、馬車の荷台よりも高々と宙を舞う。


 体がピクリと動いた。


 急激に体を痙攣させると、身を翻して、荷台の死体の山の頂点に四足で着地した。


「ペロロ……?」


 シンジが弱々しい声で、少年の名を口にする。


 ウォォォォォ!


 ペロロが吠える。

 ソレはまるで、遠吠えに似ている。

 ペロロの遠吠えに似た咆哮により、足元の死体が呼応する様にしてピクピクと動き出した。


 死体を片付けに来た男達、そして、それを手伝う都市の人々と王都の兵士達の視線がペロロに注がれる。


「アンデット化か!?」


 誰かが、叫んだ。

 シンジは、ありえないと思い、ペロロを見る。

 だが、ペロロの瞳に生気を感じられない。


「ペロロ?」


 シンジはペロロへと、近付こうとした。

 ペロロは、シンジを見ない。いや、見る気すら無いのだ。

 シンジは足を止める。


「ペロロ……」


 もう一度だけ、その名を呼ぶ。

 威嚇するような返事が返ってきた。


 またもシンジから、気が抜けたようになり、グッタリと体から力が抜け落ちる。


「シンジ様!」


 聞き慣れた一人の少女の声と共に、背後で何かを切りつけた音が聞こえ、背後に目を向ける。

 人間のアンデットが一体、一人の少女の斬撃により倒される。


「しっかりするのです!」


 もう一人の声に顔を向けると、荷馬車の男の一人に襲いかかろうとしたアンデットが吹き飛ぶ。

 そして、やはり見知った少女の姿が目に映る。


「イツキ、サツキか……」

「マスターに言われて、周囲を警戒してました。シンジ様、しっかりして下さい! マスターは貴方の指示を待っています」


 イツキの言葉にシンジは、弱々しく笑う。


「無理だよ……、俺は無力だ……」


 シンジは打ちひしがれていた。

 自分を守れなかっただけでは無く、自分を守ろうとした少年すら為す術無く『見殺し』にしたからだ。


「マスターからの伝言です。『誰もお前の戦闘力に期待してねぇ』だそうです。そう言えば解ると、おっしゃっていました」


 イツキはショートソードを構えて、かつてペロロと呼ばれた犬の獣人である少年を睨みつける。


 シンジ胸の奥にチクリとした痛みが走った。


「だれも、戦闘力に、期待してない? ……言うよなぁ、ああ、そうだよ、俺はどうせ後方支援だよ……」


 シンジはかつてのゲームをしていた時代を思い出す。

 それは、古い記憶だ。

 結婚などする前。まだ、『妻』が『彼女』だった時代にまで遡る。


 まだゲームを始めて間もなかった時に、シンジは二人のキャラに助けられた。

 一人は、魔法使いでありながら先頭に立って戦う男。

 一人は、そんな魔法使いの背後を守り、リキャストタイム時には入れ替わり(スイッチ)して、戦闘に立つ男。

 勿論、ゲームだ。死んだって、少しのペナルティーが有るだけだ。だが、二人は懸命に戦って、シンジを助けた。

「大丈夫か?」と手を差し伸べたのは、魔法使い。後に、最高の友人とすら呼んでしまうかけがえの無い存在だ。

 もう一人は、少し離れた所で魔法使いを見ている。

 後に、『ギルドマスター』と呼ばれる存在になる人物であった。

 そんな二人に導かれるまま、また、魔法使いの男に引かれるまま、シンジはゲームにのめり込む。

 男二人の、かねてよりの仲間と引き合わされ、シンジは一つのギルドに所属する事になったのだった。


 シンジは笑う。

 かつては、誰よりも頼りにされていた筈だと思っていたのに、自分を引き入れた人物から『期待していない』の言葉を受けて、改めて自分のすべき事を実感する。


(くそぅ、俺にも出来ると思っていたんだけどなぁ……。悔しいが、そうだよな……)


 シンジはタクローが戦う『理由』を理解している。

 だが、それはタクローにしか出来ないことだとも理解していた。


(甘かった……、俺はかなり舞い上がってたんだな……。ミーナさんもそうなんだろう……。きっと、アイツだけだ。現実を見てたのは……)


 シンジの瞳に活力が戻っていく。

 周囲を見れば、タクローが救った少女二人が、周辺に居た人間と共闘してアンデットと戦闘を行っている。


 パチンッ


 シンジは両手で、頬を叩く。

 足元に転がる魔導銃リボルバータイプと、コンパウンドボウを拾い上げると、魔導銃を腰のホルスターにしまい、アイテムボックスから矢を一本取り出す。


「ペロロ、聞こえているか?」


 未だ動かない獣人の少年に呼びかけるが、唸る様な声を上げるのみだった。


「そうか、なら、今楽にしてやるからな……。ゴメンな、俺のせいで……。ゴメンな……」


 弓の弦を一気に引き絞る。滑車を回し、力強い張力を感じながら、シンジは限界まで弦を引く。

 そして、矢を放った。


 キャイン


 矢を受けてペロロの上げた声は、犬そのものだった。


 矢はペロロの眉間を貫いた。ペロロの体が宙を舞う。

 シンジは残心よろしく、射った標的を見つめていた。


 荷馬車からペロロが落ちるのを確認して、シンジは再び、周囲を見回す。

 アンデットが次から次に湧き出ているように見える。だが、それもこれも、先程まで戦っていたり、被害を受けて死んだ者達だ。


 数体のアンデットがシンジに襲いかかる。

 シンジは直ぐに、武器を変更する。コンパウンドボウを手早く折りたたむと、腰の魔導銃リボルバータイプを抜き、残弾五発を一気に射った。

 ダブルアクションで作られた、ソレはハンマーをイチイチ起す事無く、次々と弾丸を発射させた。

 シンジの命中力は、限界を超えている。

 ここだと思うと、そこへ銃弾が吸い込まれていく。それは、全てアンデットの眉間へ。

 シリンダーをだすと、爆莢ばっきょうを排莢する。アイテムボックスから銃弾付きのスピードローダーを出すと、六発一気に装填して、シリンダーを銃身に戻す。

 周囲には、未だ無数のアンデットと化した者達が起き上がる。


「キリがない……。イツキにサツキ、状況は?」


 シンジの力の籠もった声を聞いた二人が、キョトンと顔を見合わせた後、ニコリと笑う。


「マスターは、一番アンデットが多い区画、東門付近を担当されています」

「セルヴィナ様と、トリス様は二手に解れて遊撃してますのです!」

「ヒカルちゃんと他は!?」

「ミーナ様は、工房に戻られました。銃と弾丸の生産ラインを立ち上げるそうです」

「今の今でか!?」


 シンジは、一瞬ミーナの行動が信じられなかった。だが、今、自分が手に持っている物を見れば、その意味を理解できた。

 シンジが射ったアンデット達は、立ち上がる事無く、その場から動かない。


(タクローめ……)


 それは他でもない、タクローの指示なのだろうと考えて、シンジは口元を緩めた。


「イツキ、他の戦力は?」

「リリーア様を筆頭に、王族の兵士の方々が戦闘に参加されています。後、アルフ様がなん人かを連れて戦っています」

「なるほど……」

「あ、あの……」

「どうした、サツキ?」

「マスターが、シンジが元気になったら、おうじょーでしきをとれっていってた……の……」


 やや弱々しくなる声に、シンジは苦笑いを浮かべる。

 群がるアンデット達を身軽に躱しながら、サツキの元にたどり着くと、シンジは『よく出来ました』と言わんばかりに、その頭を優しくなでた。

 サツキは嬉しそうな顔で、ソレを受け入れた。


「よし、お前達は戦力として数に入れて良いか?」


 シンジの言葉で、イツキも、サツキも真剣な表情で頷いた。

 その反応を見て、シンジもサツキをなでていた優しい顔から、一気に真剣な表情になる。


「なら、ここは任せた!」


 シンジがその場を去ろうとした時、イツキが待ったを掛ける。


「コレをお持ち下さい」

「これは?」

「限定的な相手と話すことの出来る、魔導通信機です」


 イツキとサツキが耳元を見せると、そこには小型無線機に似たイヤホンタイプの通信機が付けられている。

 それはかつて、センターで使用していた物と似ていたが、やや形状や外観が違って見えた。


(また、ミーナさんの発明かな?)


 苦笑いで、耳にソレを差し込む。


「タクロー、聞こえるか?」

「ああ? シンジか?」

「わりぃ、待たせたな……」

「そう思ってんなら、さっさと役割ロールをこなせ!」

「あいよ!」


 シンジは、イツキ達に別れを告げると走り出す。

 目指すは高い場所である、王城の屋根の上の一角だ。

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