立ち込める霧
アルフ・フォルン・アレクは王城前で、傷だらけの兵士達の治療などの指揮を取っている。
「銃弾が残っている状態では、傷は塞がりません。まずは弾丸を体内から抜き取ってから、回復魔法を。瀕死の者は、回復魔法を並行して使用して下さい」
アルフの指示が、響く。
自身も治療に参加して、動く。
「アルフ、ご苦労様です」
リリーア・ニルス・ミーティアラもまた、治療に加わる。
「姫、ご無事で、何よりです。ザイアン様は?」
「流石は『剣聖』、……なのかしらね。何個もの鉄球を受けたと言うのに、今ではピンピンしています」
「まるほど、流石ですね……」
アルフは苦笑いをリリーアへ向けると、リリーアは弱々しい笑顔を向けるだけだった。
治療行為を行っているリリーアの目が霞む。
戦闘中に巻き起こった土埃や、瓦礫の粉塵なのだろうと思い、最初は気にも止めなかった。だが、次第にそれは強く成っていった。
ふと顔を上げて、全体を見渡す。
眼前に広がる光景からは、死を表す『色』で覆われている。
そして、それが次第に大きくなっていく様に見えた。
(瀕死の者達が皆死んでいっている……)
リリーアは目をこすり、目下の兵士達の治療に専念する。
この時、リリーアはおろか都市に居る全ての者達が、今起きようとしている異変に気が付かないでいた。
一陣の風と共に、上空に立ち込めていた雲がゆっくりと地上に降りてくる。
ゆっくりと、そして着実に、都市を霧が包み込んで行くのだった。
アレクシア帝国残存兵の一人が、未だ逃亡している。
路地から路地を渡り、人目に付かないように慎重に移動する。
物陰で息を潜めて、周囲を窺い、休憩をとる。
建物と建物の隙間の日の当たらない場所は、闇で覆われている。
ガタッ
そんな闇の奥から物音が聞こえた。
驚いた兵士は、持っていた魔導銃を向ける。
「だ、誰か居るのか……?」
返事はない。
兵士は、一人二人くらいなら戦闘になっても大丈夫と考えて、闇の中へ入っていく。
ゆっくり歩みを進めると、一体の獣人がうつ伏せに倒れている。よく見ると、背中に何発もの銃弾を受けていた。
「生きてるのか? コレ」
兵士が魔導銃で突く。
動かないのを確認して、足で体をひっくり返した。
呼吸をしている様子は無く、完全に死んでいると解り、安堵の息を吐いた。
「脅かすんじゃねぇよ……」
そう言って、兵士が獣人の体を蹴りつける。そして、背を向けて歩き出した。
「さて、どうしたら良いのやら……。まさか、置いてきぼりを食らうなんて……」
途方に暮れて、兵士の足取りは重い。
ウゥゥ……
背後に気配を感じて振り向くと、先程の獣人が立っている。
「お前、死んでたはずじゃ!?」
銃を向けるが獣人は近づくのを止めない。
そして、この世の者とは思えない呻き声を上げていた。
「アンデット!?」
兵士は、躊躇する事無く銃を放つ。
だが、獣人は痛みを感じた様子が一切なく、兵士に向かってくる。
「くそっ、来るな!」
スライダーを引いて、次弾を装填して撃つを繰り返す。
迫る獣人に、後ずさりながら銃を撃つ。すると、急に足を取られた。
「なんだ!?」
足元に目を遣ると、人間の手があった。
その手の主もまた、アンデットだと解る。
数発の銃声の後、悲鳴が闇の中から響いた。
そして、静寂が訪れる。




