日が沈む前2
王都ウンディエネにある王城、その玉座では国王サナビルド・ニルス・ミーティアラが頭を抱えていた。
「トーマス……、状況は?」
王国宰相トーマス・ロッツ・アクリバルは難しい表情で、首を横に振る。
「よくありません……、いえ、最悪と言って良いかと……」
「とりあえず、大体の話は聞いているが……」
サナビルドは大きな溜息を吐く。
「して、今後の云々よりもまず、お前の見解を聞きたい」
「はい、我々は大きな過ちを2つ犯しました。一つは帝国に対する警戒です。ラジラに続きウラジスへの進行に目を向けすぎました。進行が早かったのが、我々の選択肢を大きく狭めた要因であると考えます。その前、イースタル要塞陥落の知らせが無かったせいで、警戒心など微塵もありませんでしたから……」
「敵は相当頭の回ると考えるか?」
「ええ、悪魔的と言えるかもしれません……。アレク卿と同等、もしかすると……」
「お前に勝ち目は?」
トーマスは少し考え、首を横に振る。
「申し訳ありません、私では難しいと思います。現にこうして強襲を許しているのですから……」
サナビルドが困った顔を見せる。
「お前のその正直な所、私は好きだ。だが、正直過ぎるぞ……。もう少し、ふてぶてしさも欲しい物だな」
「申し訳ありません。ですが、事実ですので……」
「アレクの奴なら……、いや、今居ない奴の話は後だな。では、今後の――――」
「お待ち下さい。過ちのもう一つもお話させて下さい」
「ああ、済まない。聞こうか」
「もう一つの過ちは、やはり『軍縮』です」
サナビルドの胃がキリリと痛む。
自身の肝いりで進めた『軍縮』。軍事費用を都市や政治運営に当てる為、兵器製造予算の削減と兵士の雇用削減していた。
王都の民のみならず、王国全体で歓迎された政策が今ここに来て、全てを瓦解させて行く。
戦う相手はモンスターだけと、高を括っていたしっぺ返しが来たのだ。
何故なら、宣戦布告をうたっている帝国は未だ健在なのだから。
「よほど強大な力でも保有していないと、攻撃された時に簡単に崩されます。そう、正に今が……」
トーマスは途中で話を止めて、考え込む。
「どうした? トーマス……」
サナビルドの問に、右手を差し出して制する。
暫しの静寂が玉座の間を支配する。
「……だから、姫は……。それに、アルフ……。くそぅ!! 何とした事か!」
トーマスが険しい表情で大きな声を上げた。
サナビルドは驚いて、背もたれに身を押し付ける。
「ど、どうしたのだ!?」
「姫も、アルフも知っていたんです! 今、ここに『力』がある事を!」
サナビルドが困惑の表情でトーマスを見つめる。
「良いですか、陛下。姫は四人の者を連れてきたのを覚えてますか?」
「あの、得体の知れない連中か? ……一人の奴など、婿にしたいとか言った……」
「はい、彼等です。兵の報告では、空の彼方から降り立った銀色の全身鎧がたった一人で、帝国の軍と戦闘し、コレを退けたと聞きました」
「待て待て待て! 私は、そんな報告は受けてないぞ!? 私が聞いたのは、甚大な被害と、帝国兵が去ったという話だけだ」
トーマスの言葉に、驚愕の表情になるサナビルドが玉座から身を乗り出す。
「も、申し訳ございません。どうやら、報告に不手際が生じたようですね……」
「……では、お前から聞くとしよう」
「はっ」
トーマスは、語る。
帝国が攻め入ってから、時間にして一時間強の時が流れ、完全に劣勢となったミーティアラ王国軍。遂には、城門前の広場にまで敵の一部の進行を許してしまう。
戦闘は苛烈さを極め、遂にはミーティアラ王国軍兵士達が保有するマジックアクティベーターのマナ切れにより、一気に劣勢に追い込まれる。
王城には、上流階級から貴族階級の者達と、少数の一般市民の避難が出来て居た為、トーマスは王城内に待避する勧告を出そうとした時だった。
空から一体の全身鎧が降りてきたのは。
土埃を上げて、大地に立ったソレは全身の殆どが銀色だった。
トーマス自身もその姿を王城から見ていた。
ミスリル製と思われる鎧は、魔法で覆われている様で、まるで血管の如く幾筋もの光が全身を行き来している。
最初に放った魔法に、トーマスは驚愕を覚えた。
『マルチ』の特性付与魔法は知っていたが、規模が段違いだ。あれ程の規模は、まず見た事は無いと断言できる程だった。
目に映る全てを標的と定め、放たれた氷の槍は、狙った者へと飛来する。それは、逃げる者にすら容赦なく突き刺さる様から、『ホーミング』の特性付与魔法も掛かっていると考えられる。
続いて全身鎧が放った魔法は、雷系の魔法だと解った。だが、形状が解らなかった為、何らかの特性付与が成されたモノだとしか言えない。
放たれた魔法は、帝国の魔導車と残った瀕死の兵達を包む。
だが、その光景は『連結』していると言った光景だった。雷は兵と兵、兵と魔導車を繋ぐかの様に、トーマスの目に映ったのだ。
こうして、3台の魔導車と数百以上の兵士が動きを完全に止める事になった。
後方から更に一台の魔導車が、家々を破壊して広場に躍り出た。
全身鎧はそれを見ると、何らかの魔法で素早く移動すると、魔導車の懐と呼べる部分に潜り込む。次の瞬間、魔導車は吹き飛んだ。
来た道を追い返される様に、魔導車は地面を滑り、崩壊しかけた住宅の一つに突っ込んだ。
「――――ここからは兵士の話しですが、何でも千単位での兵士と戦ったそうです。その時間はおおよそ十数分の出来事だったそうです……」
サナビルドは口を大きく開け、閉じようとはしない。いや、閉じるのを忘れているのだ。
「ま、まま、真か!?」
「私が王城の窓から見た光景です。それに、下で戦って居た兵達が全て証人になってくれますよ……」
サナビルドはもはや、玉座から転げ落ちそうなまでに身を乗り出していた。
「其の者は一体!?」
「件の彼等の一人です。……そう、姫の一番のお気に入の……」
「なにぃ!? 何故……、何故だ……リリーア……お前は一体……」
「これは私の推測ですが、姫は彼の力を欲したのでは無いでしょうか? 近年、王国は『軍縮』で力を削られた状態です。彼ならいや、彼等かもしれませんね……。剣聖親衛隊達の報告では、それぞれが特出した能力を持っているようですし……」
トーマスが険しい表情で考え込む。
一方のサナビルドは、驚愕の事実を突きつけられ、放心状態だ。
「報告します!!」
玉座の間に、一人の兵士が飛び込んでくる。
トーマスが見ると、必死の形相を浮かべている。
「どうしました!?」
「アンデットです! 次々と湧いて来てます!」
放心状態のサナビルドを置いて、トーマスは兵を連れ立って玉座の間を後にするのだった。




